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《体験談》猫の呪い
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皆さんは猫又というものをご存知だろうか。
長年生きた猫が変化し、尾っぽが二股に分かれて、人間などに化けて猫に対して非道な行いを為した者に災いをもたらす。もしくは、世話になった主人に恩を返す、といった妖怪だ。
日本では鎌倉時代の明月記という古典に描かれており、こちらでは人を喰らう大型の猫の化物として描かれているようだ。
とまあ、どうしてまたこんな古い妖怪を挙げたのかというと、自身の人生を振り返った時に、これって猫の呪いじゃないか、ということが思い当たったからである。
まあ、たまたまそうなった、といえばそうだし、気のせいであってほしい、というのが正直なところなんだが、不思議と言えば不思議なので一応紹介させていただく。
私が小さな頃、我が家では一匹の猫を飼っていた。
名前は「チーコ」。三毛猫のメスだった。
チーコは放し飼いで基本的に家にはいなかった。何をしていたのかはわからないが、多分その辺を奔放に走り回っていたんだろう。
それでも夕方近くになると、決まって我が家のリビングの窓の外から「にゃあ」と鳴き出す。私がそれに気づいて窓を開けると、ぴょんと家の中に飛び込んでくる。
私はチーコが大好きだった。
餌やりは毎日私が行い、家で一人でいることが多かった私には、これ以上ない遊び友達だった。
とにかくひたすら撫でまくり、こたつでくるまっていたら一緒にこたつにはいり、挙げ句の果てには一緒の布団で寝たりもした。
ところが祖母はこのチーコが嫌いだった。
入ってきてはそこら中で爪を研ぐ。
用意していた夕飯に手をつけようとするなど、悪さをよく働いていたからだ。
子供の頃はそんなチーコもかわいいと思っていたが、大人になると祖母の気持ちもわかる気がする。
ある日のことだった。
チーコがしばらく来なくなったのだ。
どうしたんだろう。
車に轢かれてしまったのだろうか。
それともケンカで大怪我でも負ってしまったのだろうか。
そんな風にチーコを心配する日が何日か続いた。
だがチーコはまた突然帰ってきた。
いつもの餌場に行くと、チーコが横たわり、その腹に、何か小さな毛玉がモゾモゾと蠢いていた。
「あっ……。これって……。」
そう。始めは何か分からなかったが、それは子猫だった。四、五匹の子猫がチーコの乳を飲んでいたのだ。
「そうか。チーコ、お前それで帰って来んかったんか。」
安心した私の顔を、チーコはキョトンとした顔で見上げる。人の心配などお構いなし、って感じだ。だが、チーコは子猫を育てる場としてこの家に帰って来てくれた。
私はそれが嬉しかった。
だが祖母はこれを良しとしなかった。
猫が増えれば厄介ごとも増えるし、餌代だってかさむ。このままにはしておけない。
そこで祖母がとった行動は、「捨てる」だった。
しかもただ捨てるのではない。
産まれたての子猫をビニール袋に入れて川まで運び、流れの急なところに投げ捨てるのだ。
子猫を投げ捨てる役は、私だった。
祖母の命令は絶対。断る権利などなかった。
川に投げ捨てた瞬間、子猫たちはこちらを見上げて必死に叫ぶ。
どうして!?
助けて!!
そう訴えかけるように。
それからチーコは学んだのか、人目につかないような場所で子を産むようになった。
押入れの奥。
縁側の下。
私はいち早くそれに気づき、祖母に見つからないように必死に隠そうとした。
しかし、祖母はどこからかその子猫を見つけ出してしまい、その度に私は子猫を川に投げ捨てる羽目になった。
三度目に産んだ子猫が捨てられた後、チーコはそれから家に来なくなった。
中学二年になったころ。雨の多い六月の昼下がりだ。
激しい雨が降り止んだ後日に庭に出てみると、そこにチーコの死体があった。
おそらく雨に打たれて動けなくなったのだろう。その全身はずぶ濡れになって横たわっていた。そしてその顔は、苦痛に耐えるような、泣き叫んでいるような壮絶な形相をしていた。
チーコの変わり果てた姿に、私はしばし呆然としていたが、家族に知らせて埋葬することになった。
それから程なくしてからだろうか。
祖母が自転車で倒れて怪我を負い、それから見る見るうちに衰弱してしまい、亡くなってしまった。チーコの死体が見つかってから一年も経たないうちだった。
祖母の死とチーコの死。
この二つの事柄にあの頃は何も関連はないと思っていた。
しかし今人生を振り返ってみて、チーコの死に何か不自然な感じがしてならないのだ。
まず、チーコが雨に打たれてそれで衰弱して死んだのだとしよう。ならば、なぜ雨宿りをしなかったのか。すぐそこには雨がしのげる軒下があるというのに、チーコはずぶ濡れだったのだ。
さらにその死体はすぐには見つからなかったのも不思議だ。見つかった場所は庭のど真ん中という目立つ場所だったというのに。そう、まるで突然現れたかのようにチーコの死体は見つかったのだ。
こうして考えると、チーコが祖母に呪いをかける為にあえて雨に打たれて死んだような気がしてならない。私は呪いといった超自然的なものは信じないタチだが、あの死に顔をみると、何かしらの執念を感じてしまうのだ。
余談だが、祖母の死後私の実家の周りに三匹ほどの野良猫がうろつくようになった。
まさかとは思うが、あの時川に捨てた猫が生き残っていたのだろうか。
確認する手立てはないが、あの猫たちの私をみる射抜くような視線が、チーコと無関係ではないような気がしてならない。
長年生きた猫が変化し、尾っぽが二股に分かれて、人間などに化けて猫に対して非道な行いを為した者に災いをもたらす。もしくは、世話になった主人に恩を返す、といった妖怪だ。
日本では鎌倉時代の明月記という古典に描かれており、こちらでは人を喰らう大型の猫の化物として描かれているようだ。
とまあ、どうしてまたこんな古い妖怪を挙げたのかというと、自身の人生を振り返った時に、これって猫の呪いじゃないか、ということが思い当たったからである。
まあ、たまたまそうなった、といえばそうだし、気のせいであってほしい、というのが正直なところなんだが、不思議と言えば不思議なので一応紹介させていただく。
私が小さな頃、我が家では一匹の猫を飼っていた。
名前は「チーコ」。三毛猫のメスだった。
チーコは放し飼いで基本的に家にはいなかった。何をしていたのかはわからないが、多分その辺を奔放に走り回っていたんだろう。
それでも夕方近くになると、決まって我が家のリビングの窓の外から「にゃあ」と鳴き出す。私がそれに気づいて窓を開けると、ぴょんと家の中に飛び込んでくる。
私はチーコが大好きだった。
餌やりは毎日私が行い、家で一人でいることが多かった私には、これ以上ない遊び友達だった。
とにかくひたすら撫でまくり、こたつでくるまっていたら一緒にこたつにはいり、挙げ句の果てには一緒の布団で寝たりもした。
ところが祖母はこのチーコが嫌いだった。
入ってきてはそこら中で爪を研ぐ。
用意していた夕飯に手をつけようとするなど、悪さをよく働いていたからだ。
子供の頃はそんなチーコもかわいいと思っていたが、大人になると祖母の気持ちもわかる気がする。
ある日のことだった。
チーコがしばらく来なくなったのだ。
どうしたんだろう。
車に轢かれてしまったのだろうか。
それともケンカで大怪我でも負ってしまったのだろうか。
そんな風にチーコを心配する日が何日か続いた。
だがチーコはまた突然帰ってきた。
いつもの餌場に行くと、チーコが横たわり、その腹に、何か小さな毛玉がモゾモゾと蠢いていた。
「あっ……。これって……。」
そう。始めは何か分からなかったが、それは子猫だった。四、五匹の子猫がチーコの乳を飲んでいたのだ。
「そうか。チーコ、お前それで帰って来んかったんか。」
安心した私の顔を、チーコはキョトンとした顔で見上げる。人の心配などお構いなし、って感じだ。だが、チーコは子猫を育てる場としてこの家に帰って来てくれた。
私はそれが嬉しかった。
だが祖母はこれを良しとしなかった。
猫が増えれば厄介ごとも増えるし、餌代だってかさむ。このままにはしておけない。
そこで祖母がとった行動は、「捨てる」だった。
しかもただ捨てるのではない。
産まれたての子猫をビニール袋に入れて川まで運び、流れの急なところに投げ捨てるのだ。
子猫を投げ捨てる役は、私だった。
祖母の命令は絶対。断る権利などなかった。
川に投げ捨てた瞬間、子猫たちはこちらを見上げて必死に叫ぶ。
どうして!?
助けて!!
そう訴えかけるように。
それからチーコは学んだのか、人目につかないような場所で子を産むようになった。
押入れの奥。
縁側の下。
私はいち早くそれに気づき、祖母に見つからないように必死に隠そうとした。
しかし、祖母はどこからかその子猫を見つけ出してしまい、その度に私は子猫を川に投げ捨てる羽目になった。
三度目に産んだ子猫が捨てられた後、チーコはそれから家に来なくなった。
中学二年になったころ。雨の多い六月の昼下がりだ。
激しい雨が降り止んだ後日に庭に出てみると、そこにチーコの死体があった。
おそらく雨に打たれて動けなくなったのだろう。その全身はずぶ濡れになって横たわっていた。そしてその顔は、苦痛に耐えるような、泣き叫んでいるような壮絶な形相をしていた。
チーコの変わり果てた姿に、私はしばし呆然としていたが、家族に知らせて埋葬することになった。
それから程なくしてからだろうか。
祖母が自転車で倒れて怪我を負い、それから見る見るうちに衰弱してしまい、亡くなってしまった。チーコの死体が見つかってから一年も経たないうちだった。
祖母の死とチーコの死。
この二つの事柄にあの頃は何も関連はないと思っていた。
しかし今人生を振り返ってみて、チーコの死に何か不自然な感じがしてならないのだ。
まず、チーコが雨に打たれてそれで衰弱して死んだのだとしよう。ならば、なぜ雨宿りをしなかったのか。すぐそこには雨がしのげる軒下があるというのに、チーコはずぶ濡れだったのだ。
さらにその死体はすぐには見つからなかったのも不思議だ。見つかった場所は庭のど真ん中という目立つ場所だったというのに。そう、まるで突然現れたかのようにチーコの死体は見つかったのだ。
こうして考えると、チーコが祖母に呪いをかける為にあえて雨に打たれて死んだような気がしてならない。私は呪いといった超自然的なものは信じないタチだが、あの死に顔をみると、何かしらの執念を感じてしまうのだ。
余談だが、祖母の死後私の実家の周りに三匹ほどの野良猫がうろつくようになった。
まさかとは思うが、あの時川に捨てた猫が生き残っていたのだろうか。
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