奇談

《体験談》幽霊探知機

最近大阪から東京に転勤となった。

初めての関東。楽しみなところもあったが、正直不安なところが大きかった。ずっと関西人でいた自分は東京にあまりいいイメージがなかったのだ。東京に住む人は、冷たく、人情味がなく、怖い、などと今考えると馬鹿げた偏見を持っていた。
しかし実際に住んでみると、文化の差は多少あっても、そこまで冷めた人間はいなかった。難儀に感じたのはせいぜい、関西弁が通じにくいくらいか。



さて、東京に住み始めた当初、私はある事に悩まされていた。夜になると、どうも電波が繋がりにくいのだ。仕事が終わったら、いつも動画サイトを見ながら酒を煽るのが1日のルーティンとなっていたのだが、そのせいでルーティンが回らず、やや不満を抱えながら1日を終える、なんて事が数日続いた。

ある日、私はふと思った。
「これは部屋の中に幽霊か何がいるんじゃないか。」
どうしてそんな結論に至ったのかは思い出せないが、その時は幽霊のせいにでもしないとやってられないくらいにイライラが募っていた。

よし、じゃあ調べてやろうじゃないか、と私はアプリサイトで幽霊を探すアプリを検索してみた。すると、なんともはや、見つかったのだ（今のご時世、無いものは無いというくらい何でもあるものだ）。「GHOSTDETECTOR」なるそれは、どうやら実際の幽霊探知機を模して、何らかの電波をキャッチし、幽霊が居るかどうかを探知するもののようだった。真ん中にメーターのような物があり、幽霊との距離が近ければ近いほど針が左から右へ振れるらしい。
インストールした後、アプリを起動してみると……おお！針が動く、動く！潜水艦のソナー音のように（例えが適切か分からないが）ピッ、ピッ、と鳴りながら、針がメーターの真ん中までふれた。これは面白い、とその日は部屋中そのアプリを開きながら歩き回った。反応に差はあったが、どうも風呂場とベッドのあたりが反応が強いらしい事がわかった。

なるほど、幽霊はその辺にいるんだな、と思いつつ、一つの疑問が浮かぶ。
「これほど針が動くのはアプリの仕様なのでは？」
実際、インストールしてみて、幽霊探知機のスイッチを入れても、うんともすんとも言わなければ、そんなアプリはつまらないだろう。だから何もなくともある程度動くように始めから設定されているんじゃないか？

そう思った私は、次の日仕事の休憩中にそのアプリを起動してみた。私の考えている仕様であるならば、どこで起動しようが同じ動きであるはずだ。
ところが今度は起動してもアプリ内の針は全く反応しない。幽霊がいない事を示す左にふれたままだ。どうやら私の部屋で起こっている事は普通では無いらしい。

とはいえ、電波が繋がりにくい以外に実害は無かったので、その後も私は仕事おわりに動画を見つつ、繋がりが悪くなったら「お？出たな？」とそのアプリを起動して存在を確かめる、なんて事をやっていた。
そんなある日、真夜中ふと目が覚めた時だ。なんとなく寝付け無かったので、真っ暗の中何気なくそのアプリを起動してみた。特に理由はない。その頃にはそれをなんとなく開くのが癖になっていた。探知機が起動する音が鳴り、針が動き始める。ピッ、ピッ、と一定の間隔で音を鳴らしながら……。

しかしその日は何か反応が違った。
探知機のソナー音は、間隔の短い激しい音がなり、針は一番右に振り切った。これはつまり幽霊が直ぐそばまでいる、という事を意味する。
私は怖くなり、すぐにアプリを落とし、部屋の電気を慌てて点けた。

その後日も反応が強くなる日が度々あったが、電波が繋がりにくい以外の霊障の類は特になく、その現象もいつからか無くなってしまったので私もそのうち忘れてしまっていた。


それからさらに数ヶ月。
私は久々にアプリを部屋の中で開いてみた。
しかし、探知機の針はあの時とは打って変わって全く反応しなくなってしまった。
「ああ、いなくなっちゃったんだな。」
と、私はかつていたかも知れない、見えない同居人に思いを巡らせるのだった。