奇談

《体験談》旅先の出会い

今の会社に入社してまだ2年目の頃の話。


その頃、異動の関係で私は九州に住んでいた。もっぱら温泉好きなこともあり、休みの日にちょいと車を走らせて一人旅なんて事もその頃はよくやっていた。


そんなある時。
大分県のとある温泉に行った時だ。脱衣室にて
「ご旅行ですか？」
と、気さくに話しかけてきた青年がいた。見ると歳も背も同じくらいの爽やかな青年がこちらに笑顔を向けているではないか。
「ええ。休みを利用して。ちょっと福岡から。」
「福岡！遠くから来たんですねぇ！」
などと、私とその青年はたわいも無い会話をしばらくしていた。
こんな旅先の出会いもまた、一人旅の醍醐味だなぁ、と私はその時しみじみ思ったものだ。


会話もほどほどに、さて目当ての温泉に入ろうかと服を脱いでさっきの男をちらと見たとき、私は背筋が凍りついた。
その男の背中に、首から腰元にかけて、それはもう見事な刺青が彫られていたのだ。
恐ろしくなった私は、その後その男と話すことを避け、その温泉を後にした。



『こんなのホラーじゃないじゃないか！』という方、想像してみて欲しい。
 紋モンのついた男と二人きりで温泉に入るという状況を。
少なくとも、私はそんな状況は二度とゴメンだ。