記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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離愁編

血戦!マモン マモンの罠!

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さて、俺たちの眼前には「マモン」の現身であるブラックバンクがそびえ立っていた。建物は二階建てで、正面口以外には入り口は見当たらない。
さっき高松のやつが言っていた計画では左右からも突入する手はずだがどう入るつもりだろうか?
「さあて突入部隊、準備はいいか?」
高松がいずこかへ電話をかけている。どうやら別個に突入部隊とやらがあるらしいが……。
「よし。いけぇ!!」
高松の号令と共に、遠くから轟音が聞こえてきた。音の元を辿ってみると…はるか向こう両脇からこちらに向かって猛スピードでやってくる10tトラックがみえる……。て、おいおいまさか……。

そのまさかだった。
俺たちの両脇から猛スピードで近づいてきた10tトラックは、そのままの勢いでブラックバンクの壁に突っ込んだ。外壁はとてつもない音を立てながら崩れていき、その空いた穴へヤクザたちは次々と乗り込んでいく。随分と強引な突入だ。
「さぁ、もいくゾォ!」
「「雄々おおっ!!」」
怒号と共に、正面で準備していた連中も内部になだれ込んでいく。まさに戦争だ。
ヤクザ連中が突入したのを見計らって、俺と秋山も動く。
「よし。俺たちも後に続くぞ。」
「おう。」
そうして俺たち二人は、の只中へと身を投じていった。




……同時刻。ブラックバンク、コントロールルーム。
陳成龍氏を匿うこの部屋にも、階下の異常はうかがい知れた。静寂であったこの部屋に突如として強烈な振動が襲ったのだ。
不意の衝撃に、成龍は慄く。
「な、なんだ⁉︎一体何が起こったんだ⁉︎」
怯える成龍に答えるように、部屋にアナウンスが流れる。
『成龍様。侵入者のようです。』
「その声は…岩田か⁉︎侵入者だと⁉︎」
『はい。しかしご心配には及びません。全て。』
「そ、想定済みとは……?」
『言葉の通りです。成龍様はその部屋から動かないでください。何かありましたら一大事ですので……。』
そうして岩田からの通信は途切れた。成龍氏は苦い顔をする。
「……。何かあったら一大事、か。取り繕いおって……。金の元が断たれたら困るだけだろう。」
ため息をつきながら、成龍氏は一人、見えもしないコントロールルームの壁の向こうを見つめていた。



「どうした事だ。こいつは……。」
前を行く高松たちが驚嘆の声を上げる。後ろからついてくる俺と秋山も同様に驚いていた。
派手にブラックバンクに突入した俺たち。それと同時にが始まると思っていたのだが……ブラックバンクの内部は予想に反して静まり返っていた。中に誰一人としていないのだ。戦闘員はおろか、職員も誰一人として。
人の気配も感じられず、ただ俺たちの息遣いとエアコンのファンの音が聞こえるだけだった。
ある意味で異常と言える光景に何か察したのか、高松は別働隊に連絡を取り始めた。
「佐助!聞こえるか!こっちは正面から突入した!……が、どういうわけか人っ子ひとりいやしねえ。そっちはどうだ?」
『兄貴の方もでしたか!こっちでおんなじでさあ。』
「祐介はどうだ?」
『こっちも誰もいやせん。なんか拍子抜けですねぇ。』
「……そうか。だが探索は続けてくれ。くれぐれも警戒を怠るなよ。」
そこまで言って高松は通信を切った。
「…どうなってやがる。別の場所にも人っ子ひとりいやしねえ。」
「……まさか、逃げられた?」
俺は以前、闇クラブの元ボスであるヒカルから「マモン」のあったカジノクラブがすでにもぬけの殻だった、という話を聞いていたのを思い出していた。奴らが今回のような襲撃を恐れて本拠地をまた移した、というのは十分に考えられることだ。
だが高松は俺の言葉に首を横に振って答えた。
「ここは昨日の夜まで普通に営業してたんだ。見張りの奴からもそう報告が来ている。第一、俺たちの突入は知られてないはずだ。逃げ出したとしたらタイミングが良すぎる……。」
考え込む高松の下に、チンピラの一人が駆け寄る。
「あ、兄貴!見てください!あれ!」
そう言ってチンピラは前方を指差した。何か見つけたらしい。

チンピラの指差した先はロビーになっていた。来客に待ってもらうよう設けられたものなんだろう。ガラス張りのテーブルとそれを取り囲むように革張りのソファーが置かれている。上方には有名な画家が描いたんだろう人物画がこちらを見下ろすように飾られ、無人の施設内を一層不気味に感じさせる。
だが先程のチンピラが指差していたのはその絵画でもソファーでもない。テーブルの上に置かれているものだった。
「……?」
高松は気になったらしく、そのテーブルに近寄る。かくいう俺も、仕事柄気になるのですぐ後ろからついていった。
テーブルの上に置かれていたのはなんて事はない。自販機とかでよく提供される紙コップだ。コップはコーヒーが半分ほど残った状態で放置されている。高松はコップを手に取った。


「……。」


その直後だった。
けたたましい音がロビー全体を揺るがした。黒い影がいたるところから現れたのだ。
ある者は頭上の絵画の裏から、ある者は足元のソファーの影から、またある者は背後の壁から……。
「しまった…!待ち伏せか⁉︎」
反射的に屈み込み、距離を取る俺たち。その影が「ルシフェル」の黒服たちだとわかった時、俺と秋山、高松を除くヤクザたちは既ににされていた。
「……くそっ!……くそぉっ!」
激昂した高松は両手に拳銃を構えて黒服たちに向けて連射する。だが黒服たちはヒラリヒラリと身軽な動きでこれをかわし、その手に持っていたナイフを投げて応戦する。
「……あっ。」
黒服の反撃に、高松は反応出来ない。呆けたように、目の前から飛んでくるナイフを見つめていた……。
…なんて、それを黙って見ているような俺と秋山じゃない。俺たち二人は棒立ちの高松に体当たりして無理やり床に伏せさせた。
……仲間の凄惨な姿に感情を露わにする高松。万全を期していた筈の作戦で不測の事態が起こったのだ。よほどショックなのだろう。だが……。
「高松さんよ。気持ちは分かるが落ち着け。ここで取り乱したら俺たちもああなるぞ。」
秋山が高松に忠告してくれた。事実その通りだ。ロビーに現れた黒服は俺たちの前も後ろも塞いでいる。……要するに完全に取り囲まれたのだ。その上こちらは三人しかいない一方、あちらは6、7人はいる。圧倒的に不利な状況なことこの上ない。
「……チッ。」
舌打ちしながらも、ようやく息を整えた高松はヨロヨロと立ち上がる。
「……全く情けねえ話だ。天下の山田組の若頭がヘボ探偵や警官に諭されるなんてな。」
「無駄口はここをなんとかしてから叩くんだな。。」
「へいへい……。」


突入早々に敵の罠にはまった俺たち。果たしてこの状況を打破することは出来るのか……。
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