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離愁編
赤髪の報告
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「あ~。こちら零野。聞こえるか?岩田のとっつぁん。」
…陳成龍氏の邸宅にて一人残った赤髪が、任務の完了を報告する為に仲間と連絡を取っていた。
『こちらは良好だ。首尾はどうだ?』
「依頼されていた探し物は見つかった。ただ陳の妻に見つかっちまってな。ぎゃあぎゃあ騒ぐから殺しちまった。」
『おいおい…。依頼人の家内だろう。まずいんじゃないか?』
「ま、適当にごまかして報告しといてくれ。抵抗したから殺した、とかなんとかさ。」
『……依頼人に伝えるのは俺だぞ。全く…。』
電話越の男の愚痴などどこ吹く風で、赤髪の男、零野は今回の任務で回収したものを懐から取り出し、まじまじと見つめた。
それはブリキ作りのオルゴールだった。かなり年季が入っていて、あちこちにサビついているのが見える。正直キチンと動くかどうかも怪しい代物だ。
「しっかし…一体どういうつもりかね?わざわざ俺たちを使ってまでこんなガラクタを回収させるなんてよ。」
『そうボヤくな。そのオルゴールがもしかすると重要な鍵になっているかもしれん。あの男…成龍氏が今半ば囚われの状態で依頼したものだぞ。大した理由もなくそんな物の回収を頼んだとは思えん。』
「ふ…ん。こんな壊れかけのおもちゃがねえ…。でもよ、もし本当に大した理由じゃなかったらどうする?」
『その時は彼を処刑するまでだ。』
「おお。こわいこわい。」
零野はおどけた感じで身を震わせる。…が、そのあと目の色を変えて辺りを見回して岩田という男に尋ねた。
「ところで…岩田のとっつぁんよ。こっからが重要な報告なんだが…。外線はオフにしてくんないか?」
『……!他の奴に聞かれたくない内容、という訳か。わかった。』電話越しにカチリと周波数を切り替える音がする。『外線を切った。これで無線の内容を傍受されることはない。』
「あんがとよ。…あのよ。以前『レヴィアタン』に現れたっていうボスの妹の話、覚えてるか?」
『ああ。ボスと同様に魔眼の力を持っていると思われる少女だったな。現在組織を挙げて捜索中のはずだが…。』
「そいつをこの邸宅内で発見した。」
『なんだと…!それは本当か⁉︎』
「ああ、恐らく間違いない。監視カメラが捉えた映像の外見とほぼ一致する。さらにボスのお仲間も一緒というおまけ付きだ。」
『ボスの…お仲間?』
「ほれ。この前、穴取の奴が遊園地でボスを迎え撃ったろ?あの時ボスと一緒にいた奴の一人がここにいたんだよ。」
『そいつの目的はなんだ?…奴らがもしボスとつながっているとしたら…。』
「おそらく、このオルゴールだろうな。だがそれは俺の手の中だし、あいつらは俺の姿を見るなり裏口から逃げていったよ。」
『みすみす見逃したのか?』
「人聞きの悪いこと言うなよ。まだ時期尚早と思ったまでさ。あの二人は俺たちの計画にとって重要なカードだ。使い所を誤れば自分の首を締めることになる。それに曲がりなりにも、あの穴取の刺客を打ち破ったほどの奴だ。こっちも無事で済まないかもしんないだろ。…なに。焦るこたない。いずれまた会う事になるさ。」
『そうだといいがな…。……で、この事は上に連絡上げとくか?』
「んな訳ねえだろ。俺たち二人だけの秘密にしとくんだよ。組織内の人間はまだあの二人の存在を知らない。知ってるのは俺たちだけなんだ。例の計画を進める上でこれはかなり俺たちに有利な状況だ。そうだろ?」
息を巻きながら話す零野。
『……あまりいい気になるなよ。人間、浮足だった時が一番危ない。』
「へいへい。気をつけますよ。ほんじゃ、後で。」
そうして零野は回線を切った。
零野が裏口を見やると、少女の肩を担ぎながら屋敷から離れていく男の後ろ姿が映った。恐らく自分の存在を恐れて屋敷から逃げ出したのだろう、と思うと、零野には必死になって逃げる二人の後ろ姿が滑稽で仕方なかった。
「クク……。まんまと逃げおおせたつもりなんだろうが、所詮あんたらは俺の掌の上で踊る駒だ。例の計画のXデーまで、せいぜい生き延びといてくれよ…?」
そう呟いて零野は笑う。
無人となった邸宅に、不気味な男の笑い声が響き渡るのだった。
…陳成龍氏の邸宅にて一人残った赤髪が、任務の完了を報告する為に仲間と連絡を取っていた。
『こちらは良好だ。首尾はどうだ?』
「依頼されていた探し物は見つかった。ただ陳の妻に見つかっちまってな。ぎゃあぎゃあ騒ぐから殺しちまった。」
『おいおい…。依頼人の家内だろう。まずいんじゃないか?』
「ま、適当にごまかして報告しといてくれ。抵抗したから殺した、とかなんとかさ。」
『……依頼人に伝えるのは俺だぞ。全く…。』
電話越の男の愚痴などどこ吹く風で、赤髪の男、零野は今回の任務で回収したものを懐から取り出し、まじまじと見つめた。
それはブリキ作りのオルゴールだった。かなり年季が入っていて、あちこちにサビついているのが見える。正直キチンと動くかどうかも怪しい代物だ。
「しっかし…一体どういうつもりかね?わざわざ俺たちを使ってまでこんなガラクタを回収させるなんてよ。」
『そうボヤくな。そのオルゴールがもしかすると重要な鍵になっているかもしれん。あの男…成龍氏が今半ば囚われの状態で依頼したものだぞ。大した理由もなくそんな物の回収を頼んだとは思えん。』
「ふ…ん。こんな壊れかけのおもちゃがねえ…。でもよ、もし本当に大した理由じゃなかったらどうする?」
『その時は彼を処刑するまでだ。』
「おお。こわいこわい。」
零野はおどけた感じで身を震わせる。…が、そのあと目の色を変えて辺りを見回して岩田という男に尋ねた。
「ところで…岩田のとっつぁんよ。こっからが重要な報告なんだが…。外線はオフにしてくんないか?」
『……!他の奴に聞かれたくない内容、という訳か。わかった。』電話越しにカチリと周波数を切り替える音がする。『外線を切った。これで無線の内容を傍受されることはない。』
「あんがとよ。…あのよ。以前『レヴィアタン』に現れたっていうボスの妹の話、覚えてるか?」
『ああ。ボスと同様に魔眼の力を持っていると思われる少女だったな。現在組織を挙げて捜索中のはずだが…。』
「そいつをこの邸宅内で発見した。」
『なんだと…!それは本当か⁉︎』
「ああ、恐らく間違いない。監視カメラが捉えた映像の外見とほぼ一致する。さらにボスのお仲間も一緒というおまけ付きだ。」
『ボスの…お仲間?』
「ほれ。この前、穴取の奴が遊園地でボスを迎え撃ったろ?あの時ボスと一緒にいた奴の一人がここにいたんだよ。」
『そいつの目的はなんだ?…奴らがもしボスとつながっているとしたら…。』
「おそらく、このオルゴールだろうな。だがそれは俺の手の中だし、あいつらは俺の姿を見るなり裏口から逃げていったよ。」
『みすみす見逃したのか?』
「人聞きの悪いこと言うなよ。まだ時期尚早と思ったまでさ。あの二人は俺たちの計画にとって重要なカードだ。使い所を誤れば自分の首を締めることになる。それに曲がりなりにも、あの穴取の刺客を打ち破ったほどの奴だ。こっちも無事で済まないかもしんないだろ。…なに。焦るこたない。いずれまた会う事になるさ。」
『そうだといいがな…。……で、この事は上に連絡上げとくか?』
「んな訳ねえだろ。俺たち二人だけの秘密にしとくんだよ。組織内の人間はまだあの二人の存在を知らない。知ってるのは俺たちだけなんだ。例の計画を進める上でこれはかなり俺たちに有利な状況だ。そうだろ?」
息を巻きながら話す零野。
『……あまりいい気になるなよ。人間、浮足だった時が一番危ない。』
「へいへい。気をつけますよ。ほんじゃ、後で。」
そうして零野は回線を切った。
零野が裏口を見やると、少女の肩を担ぎながら屋敷から離れていく男の後ろ姿が映った。恐らく自分の存在を恐れて屋敷から逃げ出したのだろう、と思うと、零野には必死になって逃げる二人の後ろ姿が滑稽で仕方なかった。
「クク……。まんまと逃げおおせたつもりなんだろうが、所詮あんたらは俺の掌の上で踊る駒だ。例の計画のXデーまで、せいぜい生き延びといてくれよ…?」
そう呟いて零野は笑う。
無人となった邸宅に、不気味な男の笑い声が響き渡るのだった。
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