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離愁編
赤髪の男
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夫人の声のした方へ駆ける俺とアカリ。…とはいえ金持ちの家は流石に広い。入ったはいいものの、すっかり迷ってしまった。
「くそっ…!あのオバはんは一体何処だ⁉︎」
…気の焦りで呼び方にも注意がいかなくなってくる。
「ちょっと…!あなた一体何よ…!私を…、どうするつもり…⁉︎」
……!夫人の声だ!
「あっちだ!急ぐぞ!」
俺とアカリは再び声のする方へ向かった。
しばらく走っていると、一階のL字になっている角の先にあの夫人の姿が見えた。目線は俺たちの死角にいる誰かに向けられ、一歩ずつ後ずさりしていた。夫人が話しているのが何者か知らないが招かれざる客であることは確かだ。
「私に乱暴してみなさい!すぐにでも警察を呼ぶわよ!あんたみたいな奴、死刑にしてやるわ!死刑よ!死刑!」
夫人が俺たちと話したような調子で喚き立てている。この期に及んで大した度胸だが、それでは相手を一層焚きつけてしまう。
「奥さん!危険だ!早くこっちへ!」
「…え?」
夫人がこちらを振りむいたその時だった。
一発の銃声が屋敷内に響いた。側頭部を撃ち抜かれた夫人は、カッと目を見開いたまま、横向きに倒れた。
「お…奥さん…!」
あんなにやかましかった夫人は俺の声にもピクリとも反応しない。代わりに夫人の死を示すかのように、流血の血だまりがその場に広がっていくのだった。
「い…いやあぁぁ…!!」
たまらずアカリが悲鳴をあげる。反感を持っていたとはいえ、先程まで喋っていた人間が殺されたのだ。無理もない。
……だが問題は、今の悲鳴で間違いなく夫人を殺した人物にこちらの存在が気づかれたことだ。残念ながらここにはただの調査のつもりで来たので、護身用の銃を持ってきていない。見つかったら間違いなく殺される……!
「……何だぁ?誰かいんのかぁ?」
思った通り、向こうの角に何者かの人影が差し込む。
「…まずい…!アカリ!逃げるぞ!」
まだ動揺しているアカリの手を引き、俺は急いでその場を移動した。
手近な物陰に身を潜め、息を殺す…。
少し身を乗り出して覗いてみると、どうやら相手は様子を見に、俺たちがいたところを見回しているようだ。
相手の背は俺と同じくらい。黒の革靴に黒服姿で痩せ型の男だ。顔はひょろ長く細目で、例えるなら狐のような顔だ。そして何より特徴的なのがその赤い髪だ。まるで血のように紅い赤髪は、遠くからでもはっきり見える。耳や唇にもピアスを付けているところから、かなり危険な雰囲気を感じさせる…。
……うん?あの男、どこかで見覚えが…。
……そうだ!前回、穴取の刺客、女スナイパーの記憶に映っていた男だ!前回は結局姿を現さなかった奴が何故ここに……?
「…ちっ。逃げられたかな。まあいいや。とっとと仕事を片しちまうか。」
そう言って、赤髪の男はまた元来た道に戻っていった。
…やれやれ。どうにかやり過ごしたか。
「…大丈夫か?アカリ。」
「う…うん…。」
アカリはまだガタガタと震えていた。
そういえば、アカリは幼い頃に両親を目の前で殺された、と以前聞いたことがある。夫人の死の瞬間を目撃してその時のことを思い出してしまったのか。
……いずれにせよ、ここには長居できそうにない。今まで出会ってきた「ルシフェル」の連中はいずれも化け物ばかりだった。そんな奴が相手じゃ、俺にはどう転んだって勝ち目はない。
「……よし。逃げるぞ。アカリ。立てるか?」
「……うん。でも先生、聞き込みはどうするの……?」
「大丈夫だ。心配すんな。さ、行こう。」
まだ足元のおぼつかないアカリを抱え上げ、俺は成龍氏の邸宅を後にした。
裏口から逃げたことで赤髪の男と鉢合わせすることなく、無事に脱出に成功。…やれやれである。
「…何とか抜け出せたな。」
「うん…。でも陳さんの息子さんの奥さんも殺されちゃったし、あの男の人が来るかもしれないからこの家にまた立ち寄るのも危ないし……。また手がかりが無くなっちゃったよ?」
「いや…そうでもないさ。あの赤髪の男が屋敷にいたってことは、成龍氏は恐らくあの闇クラブと繋がってるってことは分かったんだ。あとはその筋に聞いてみるだけだ。」
「その筋って…。先生、なんか心当たりあんの?」
「まあな。だから俺に任せておけ。」
……闇クラブについてなら、誰よりも詳しい奴を俺は知っている。アカリには訳あって合わせられないが……。闇クラブ元ボス、「ヒカル」なら何か手がかりを知っているかもしれない。ただ問題なのは、奴がいつもの所に現れるかどうかだが……。
「ま、なんとかなるさ。」
考えても仕方ない。考えるよりも足を動かす、というのが俺の性分なんだから。
そういうわけで、俺とアカリはひとまず事務所へと帰還するのであった。
「くそっ…!あのオバはんは一体何処だ⁉︎」
…気の焦りで呼び方にも注意がいかなくなってくる。
「ちょっと…!あなた一体何よ…!私を…、どうするつもり…⁉︎」
……!夫人の声だ!
「あっちだ!急ぐぞ!」
俺とアカリは再び声のする方へ向かった。
しばらく走っていると、一階のL字になっている角の先にあの夫人の姿が見えた。目線は俺たちの死角にいる誰かに向けられ、一歩ずつ後ずさりしていた。夫人が話しているのが何者か知らないが招かれざる客であることは確かだ。
「私に乱暴してみなさい!すぐにでも警察を呼ぶわよ!あんたみたいな奴、死刑にしてやるわ!死刑よ!死刑!」
夫人が俺たちと話したような調子で喚き立てている。この期に及んで大した度胸だが、それでは相手を一層焚きつけてしまう。
「奥さん!危険だ!早くこっちへ!」
「…え?」
夫人がこちらを振りむいたその時だった。
一発の銃声が屋敷内に響いた。側頭部を撃ち抜かれた夫人は、カッと目を見開いたまま、横向きに倒れた。
「お…奥さん…!」
あんなにやかましかった夫人は俺の声にもピクリとも反応しない。代わりに夫人の死を示すかのように、流血の血だまりがその場に広がっていくのだった。
「い…いやあぁぁ…!!」
たまらずアカリが悲鳴をあげる。反感を持っていたとはいえ、先程まで喋っていた人間が殺されたのだ。無理もない。
……だが問題は、今の悲鳴で間違いなく夫人を殺した人物にこちらの存在が気づかれたことだ。残念ながらここにはただの調査のつもりで来たので、護身用の銃を持ってきていない。見つかったら間違いなく殺される……!
「……何だぁ?誰かいんのかぁ?」
思った通り、向こうの角に何者かの人影が差し込む。
「…まずい…!アカリ!逃げるぞ!」
まだ動揺しているアカリの手を引き、俺は急いでその場を移動した。
手近な物陰に身を潜め、息を殺す…。
少し身を乗り出して覗いてみると、どうやら相手は様子を見に、俺たちがいたところを見回しているようだ。
相手の背は俺と同じくらい。黒の革靴に黒服姿で痩せ型の男だ。顔はひょろ長く細目で、例えるなら狐のような顔だ。そして何より特徴的なのがその赤い髪だ。まるで血のように紅い赤髪は、遠くからでもはっきり見える。耳や唇にもピアスを付けているところから、かなり危険な雰囲気を感じさせる…。
……うん?あの男、どこかで見覚えが…。
……そうだ!前回、穴取の刺客、女スナイパーの記憶に映っていた男だ!前回は結局姿を現さなかった奴が何故ここに……?
「…ちっ。逃げられたかな。まあいいや。とっとと仕事を片しちまうか。」
そう言って、赤髪の男はまた元来た道に戻っていった。
…やれやれ。どうにかやり過ごしたか。
「…大丈夫か?アカリ。」
「う…うん…。」
アカリはまだガタガタと震えていた。
そういえば、アカリは幼い頃に両親を目の前で殺された、と以前聞いたことがある。夫人の死の瞬間を目撃してその時のことを思い出してしまったのか。
……いずれにせよ、ここには長居できそうにない。今まで出会ってきた「ルシフェル」の連中はいずれも化け物ばかりだった。そんな奴が相手じゃ、俺にはどう転んだって勝ち目はない。
「……よし。逃げるぞ。アカリ。立てるか?」
「……うん。でも先生、聞き込みはどうするの……?」
「大丈夫だ。心配すんな。さ、行こう。」
まだ足元のおぼつかないアカリを抱え上げ、俺は成龍氏の邸宅を後にした。
裏口から逃げたことで赤髪の男と鉢合わせすることなく、無事に脱出に成功。…やれやれである。
「…何とか抜け出せたな。」
「うん…。でも陳さんの息子さんの奥さんも殺されちゃったし、あの男の人が来るかもしれないからこの家にまた立ち寄るのも危ないし……。また手がかりが無くなっちゃったよ?」
「いや…そうでもないさ。あの赤髪の男が屋敷にいたってことは、成龍氏は恐らくあの闇クラブと繋がってるってことは分かったんだ。あとはその筋に聞いてみるだけだ。」
「その筋って…。先生、なんか心当たりあんの?」
「まあな。だから俺に任せておけ。」
……闇クラブについてなら、誰よりも詳しい奴を俺は知っている。アカリには訳あって合わせられないが……。闇クラブ元ボス、「ヒカル」なら何か手がかりを知っているかもしれない。ただ問題なのは、奴がいつもの所に現れるかどうかだが……。
「ま、なんとかなるさ。」
考えても仕方ない。考えるよりも足を動かす、というのが俺の性分なんだから。
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