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離愁編
陳さんの息子さんのお家
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『…てな訳で、じいさんがまた働き始めたよ。…すまねえ。俺にはとても止められなかった。』
「…そうか。分かった。まああのじいさんの性分じゃ、いずれそうなるかと思ってたよ。気にすんな。じゃあな。」
そうして俺は電話を切った。
「秋山さん…、なんて?」
電話の内容が気になったのか、アカリが尋ねてきた。
「ああ。陳のじいさんがまた診療所を開けた、ってさ。」
「え⁉︎陳さん病気治ったの⁉︎やった!」
飛び跳ねるほど喜びそうなアカリを、俺はピシャリと引き止めた。
「…違うよ。陳さんの病気は治ってない。病気のままで働き始めたんだ。」
「え…。そんな。ダメじゃん!休ませなきゃ!」
「やめろ、って言っても聞かねえよ。あのじいさんは。良くも悪くも頑固者だからなぁ。」
「そんな…。」
今度は泣きそうな顔をするアカリの頭を、俺はポンとなでる。
「ま、それはあの爺さんが選んだ事だ。俺たちがとやかく言える事じゃない。俺たちは俺たちができる事をやろう。あの爺さんの為に、俺たちができる事を…な。」
「……うん!」
ずずっ、と鼻を拭き、アカリは力強く頷いた。
…というわけで、俺とアカリは看護婦の保田さんから教えてもらった、陳さんの息子、成龍さんの自宅に来ていた。保田さんの話では半年前に失踪届を出したのは成龍さんの奥さんらしい。その奥さんからなら、成龍さんの行方につながる情報が聞けるのではないか、と踏んだのだ。
成龍さんの自宅は、さすがは病院の院長の自宅だけあって、かなりの豪邸であった。家の前には格子状の門が取り付けられ、門の隙間からこれまた見事な庭が覗けた。邸宅はその庭の向こう側に見上げるようにそびえており、まさに「これぞ金持ち」といった風の豪邸であった。
「す…凄い家だねえ。先生…!見て。ほら、あそこにいくつも車並んでるよ。あれもこの家の人のなのかな?」
「あ…ああ。多分な…。」
見慣れない金持ちの家に、ただただ圧倒されてポカンと口を開ける俺とアカリ。これで辺りをウロウロしていたら完璧に不審者だな…。
「え…と、な、何で呼び出したらいいのかな?やっぱチャイムかな?」
「ば…馬鹿。それしかないだろ。門のとこのインターホンで呼び出すんだよ。アカリ、早いとこ押しなよ。」
「えー…。やだよ。先生押してよ。」
「…探偵助手だろ?アカリくん。命令だ。押しなさい。」
「…そういう時だけ上司面する…。」
ぶつくさ言いながら、インターホンへと向かうアカリ。彼女はしばらくためらっていたが、意を決してインターホンを押した。さすがは探偵助手。肝が据わっている。
「……あれ?」
変だ。インターホンを押したのに音が鳴らない。金持ちの家は普通のインターホンと違うんだろうか?
「…なんか鳴らないんだけど…もう一回押してみる?」
「あ…いや、やめとけ。もしかしたらこっちだけチャイムが鳴らないのかも…。」
そう思ってしばらく待ったが一向に反応がない。…やっぱり鳴ってないのか?
「…仕方ない。もう一回鳴らしてみるか。」
今度は俺がインターホンを鳴らしてみた…が、スイッチがカチカチいうだけでまるで手応えがない。どうした事だ。これは…。
「…ねえ。先生。あの車さ。なんか紙みたいなの貼ってない?」
戸惑う俺をよそに、アカリが何か気づいたらしい。先程の車をよく見てみると、なるほど、たしかに赤い紙が貼り付けられている。あれは…。
「えーと…『差押』って書いてあるな…。」
「それって…どういう意味?」
「借金とかの肩代わりに、その人が持ってる物を強制的に売っぱらっちまうんだよ。車だの家だの…。金にならないようなもんは別だけど…。」
よくよく見てみると、あっちこっちにその差押の張り紙が貼り付けられている。細かく見れば庭にも手入れは施されていない。どうやらしばらく誰も出入りしていないらしい。
「えっと…つまり陳さんの息子さんは借金ができたからいなくなっちゃったってこと?」
「いや、それはまだわからない。とはいえ、いずれにせよ事情の分かる人を見つけないと無駄足だな…。」
「あんたたち!!ここで何してんの!!」
突然、耳をつんざくような女の声が後ろから響いてきた。振り返ると、40くらいのケバいおばさんがこちらを睨みつけている。
「借金取りなら破産の申告は済んだはずよ!それとも物盗り⁉︎」
「い…いや。俺たちはそんなもんじゃ
…。」
「じゃあなんなの⁉︎」
…いちいち耳に障る声の上に話を聞いてくれそうにない。厄介なオバはんだな。
「あの…おたくは一体どこのどなたですか?」
「しらばっくれて…!陳の妻よ!分かり切ってるでしょう⁉︎」
相も変わらずキイキイとがなり立てるオバはんだ…。いや、ちょっと待て。
「…陳の奥さん?あなた陳成龍さんの奥さんなんですか⁉︎」
「そうよ!何回言わせんのよ!」
…なんと、渡りに船とはこの事だ。
しかしこの様子で、果たしてこちらの質問に答えてくれるのかどうか…。
「…そうか。分かった。まああのじいさんの性分じゃ、いずれそうなるかと思ってたよ。気にすんな。じゃあな。」
そうして俺は電話を切った。
「秋山さん…、なんて?」
電話の内容が気になったのか、アカリが尋ねてきた。
「ああ。陳のじいさんがまた診療所を開けた、ってさ。」
「え⁉︎陳さん病気治ったの⁉︎やった!」
飛び跳ねるほど喜びそうなアカリを、俺はピシャリと引き止めた。
「…違うよ。陳さんの病気は治ってない。病気のままで働き始めたんだ。」
「え…。そんな。ダメじゃん!休ませなきゃ!」
「やめろ、って言っても聞かねえよ。あのじいさんは。良くも悪くも頑固者だからなぁ。」
「そんな…。」
今度は泣きそうな顔をするアカリの頭を、俺はポンとなでる。
「ま、それはあの爺さんが選んだ事だ。俺たちがとやかく言える事じゃない。俺たちは俺たちができる事をやろう。あの爺さんの為に、俺たちができる事を…な。」
「……うん!」
ずずっ、と鼻を拭き、アカリは力強く頷いた。
…というわけで、俺とアカリは看護婦の保田さんから教えてもらった、陳さんの息子、成龍さんの自宅に来ていた。保田さんの話では半年前に失踪届を出したのは成龍さんの奥さんらしい。その奥さんからなら、成龍さんの行方につながる情報が聞けるのではないか、と踏んだのだ。
成龍さんの自宅は、さすがは病院の院長の自宅だけあって、かなりの豪邸であった。家の前には格子状の門が取り付けられ、門の隙間からこれまた見事な庭が覗けた。邸宅はその庭の向こう側に見上げるようにそびえており、まさに「これぞ金持ち」といった風の豪邸であった。
「す…凄い家だねえ。先生…!見て。ほら、あそこにいくつも車並んでるよ。あれもこの家の人のなのかな?」
「あ…ああ。多分な…。」
見慣れない金持ちの家に、ただただ圧倒されてポカンと口を開ける俺とアカリ。これで辺りをウロウロしていたら完璧に不審者だな…。
「え…と、な、何で呼び出したらいいのかな?やっぱチャイムかな?」
「ば…馬鹿。それしかないだろ。門のとこのインターホンで呼び出すんだよ。アカリ、早いとこ押しなよ。」
「えー…。やだよ。先生押してよ。」
「…探偵助手だろ?アカリくん。命令だ。押しなさい。」
「…そういう時だけ上司面する…。」
ぶつくさ言いながら、インターホンへと向かうアカリ。彼女はしばらくためらっていたが、意を決してインターホンを押した。さすがは探偵助手。肝が据わっている。
「……あれ?」
変だ。インターホンを押したのに音が鳴らない。金持ちの家は普通のインターホンと違うんだろうか?
「…なんか鳴らないんだけど…もう一回押してみる?」
「あ…いや、やめとけ。もしかしたらこっちだけチャイムが鳴らないのかも…。」
そう思ってしばらく待ったが一向に反応がない。…やっぱり鳴ってないのか?
「…仕方ない。もう一回鳴らしてみるか。」
今度は俺がインターホンを鳴らしてみた…が、スイッチがカチカチいうだけでまるで手応えがない。どうした事だ。これは…。
「…ねえ。先生。あの車さ。なんか紙みたいなの貼ってない?」
戸惑う俺をよそに、アカリが何か気づいたらしい。先程の車をよく見てみると、なるほど、たしかに赤い紙が貼り付けられている。あれは…。
「えーと…『差押』って書いてあるな…。」
「それって…どういう意味?」
「借金とかの肩代わりに、その人が持ってる物を強制的に売っぱらっちまうんだよ。車だの家だの…。金にならないようなもんは別だけど…。」
よくよく見てみると、あっちこっちにその差押の張り紙が貼り付けられている。細かく見れば庭にも手入れは施されていない。どうやらしばらく誰も出入りしていないらしい。
「えっと…つまり陳さんの息子さんは借金ができたからいなくなっちゃったってこと?」
「いや、それはまだわからない。とはいえ、いずれにせよ事情の分かる人を見つけないと無駄足だな…。」
「あんたたち!!ここで何してんの!!」
突然、耳をつんざくような女の声が後ろから響いてきた。振り返ると、40くらいのケバいおばさんがこちらを睨みつけている。
「借金取りなら破産の申告は済んだはずよ!それとも物盗り⁉︎」
「い…いや。俺たちはそんなもんじゃ
…。」
「じゃあなんなの⁉︎」
…いちいち耳に障る声の上に話を聞いてくれそうにない。厄介なオバはんだな。
「あの…おたくは一体どこのどなたですか?」
「しらばっくれて…!陳の妻よ!分かり切ってるでしょう⁉︎」
相も変わらずキイキイとがなり立てるオバはんだ…。いや、ちょっと待て。
「…陳の奥さん?あなた陳成龍さんの奥さんなんですか⁉︎」
「そうよ!何回言わせんのよ!」
…なんと、渡りに船とはこの事だ。
しかしこの様子で、果たしてこちらの質問に答えてくれるのかどうか…。
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