記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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離愁編

尋ね人を求めて

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陳さんから息子の捜索を依頼された俺とアカリは須田、秋山と共に事務所にて作戦を練っていた。
陳さんの危篤の話には、秋山と須田もショックを受けていた。
「……あの爺さんがな……。…信じられん。」
「本当に……。私もあまり面識はなかったですが、以前お会いした時はとても元気な方でした。」
「俺もまだ信じられない。だが事実陳さんはガンにかかってしまった。悔やんでいても仕方がない。陳さんのために、俺たちが今できる事をやろう。陳さんの最期の頼み、聞いてやろうじゃないか。」
俺の一声に、秋山と須田も快く頷いた。

「さて…じゃあ改めて、依頼を確認しようか。今回の依頼人は闇医師の陳さん。依頼内容は陳さんの息子の捜索だ。名前は“陳成龍”。T大学病院の院長を務めていた。」
「…務めて?」
「ああ。この情報は、あくまで20年前の陳さんの記憶によるもんだ。20年前に喧嘩別れしてからお互い連絡を取り合ってないらしい。だから今現在、この息子さんがどうしてるのかわからないそうだ。」
「何ともはや…。しかし、病院の院長やってんなら調べはすぐに着きそうだな。」
「いや…問題はそこじゃない。」
「?」
「考えてもみろよ。20年もこじれた親子喧嘩だぞ?赤の他人が会ってくれ、なんて言ってすんなり会ってくれると思うか?」
「じゃあ…どうすんだよ?」
「そこであんたの出番なんじゃないか。とりあえず院長と会うアポを取り付けて、そのあと警察官のあんたがなんやかやで理由をつけて無理やり息子さんを連れ出して……。」
「おいおい…。下手すりゃ始末書もんだぞ。そりゃ。」
「固い事言うなよ。いつもあんたの捜査の手伝い、やってやってるだろ?他ならぬ陳さんの為だ。頼むよ。」
秋山はしばらく渋い顔をしていたが、やがて諦めたのか、はあ、とため息を吐いた。
「……仕方がない。陳のじいさんには世話になったからな。今回限りだぞ。」
「そうこなくっちゃ!」
「…やれやれ。」

…さて、話がまとまったところで俺はT大学病院に連絡を入れた。院長と会う為のアポを取るためだ。
「でも西馬さん。大学病院の院長が、一人の探偵なんかに会ってくれますかね?」
須田が心配そうに尋ねてきた。
「馬鹿。会ってくれる訳ないだろ。そこは上手くごまかすんだよ。アポだけ取れりゃこっちのもんなんだから。」
「うわぁ…。なんですか。それ。そこらのゴロツキみたいなやり方じゃないですか。」
「何とでも言え。今の陳さんには時間がないんだ。手段にこだわっていられるか。」

しばらくの着信音の後、電話がかかった。
『はい~。こちらT大学病院です~。』
「お世話になっております~。私、天照製薬会社営業担当の西馬と申します~。この度、我が社で研究開発した新薬が出来ましたので、つきましてはそちらの陳院長にお会いしたいのですが、ご都合のよろしい日はございますでしょうか?」
『はあ…。少々お待ちください…。』
電話口の女性がそう言うと、保留の音楽が流れ出した。どうやら上手くいったようだ。
(…西馬さん。よくもまああんなにすらすらと嘘がつけるわよね。)
(…もしかして普段から嘘つきまくってるとか?)
……後ろで女二人のヒソヒソ声が聞こえるが、何、構うものか。これも陳さんの為だ。

しばらくして音楽が止み、先程の女性の声が聞こえてきた。
『もしもし。お待たせいたしました。申し訳ございません。先程お客様がおっしゃっていた陳院長なんですが……。』
「はい。何か不都合な点でも?」
『あ、はい。実は陳院長、2年ほど前から行方不明で、現在は別の方が院長をやっておりまして……。』
「…なんですって!?」
『今の院長のスケジュールでしたら確認できますが、いかがされますか?』
「あ…いえ。結構です。どうも失礼しました。」
…そうして、俺は電話を切った。

「どうした?西馬。何かあったのか?」
俺の電話の受け答えを見ていた秋山が怪訝な顔で尋ねてきた。
「……秋山。どうやらこの人探し、一筋縄にはいきそうもなさそうだ。」
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