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人形師編
「ドリームランド」 VS暗闇の盲獣・決着
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見事穴取の刺客であるミイラ男を撃退した俺たち。先に二階へと上がったヒカルの後を追う。
「…無事だろうな。ヒカルの奴…!」
「あの野郎には魔眼がある。心配ないだろ。」
「……そうだといいけど。」
…嫌な予感がする。あのスナイパー、ミイラ男、共に魔眼が通用しない相手だった。穴取は明らかにヒカルを意識した罠を張っている。もし、この先にも罠を張っているとしたら…。
「…なあ。西馬。」
秋山が急に話しかけてきた。
「…なんだよ。」
「…後ろを見てくれ。」
言われた通り振り返ると…。
…ミイラ男がいない!
「あ…れ…?確かさっき化け物をあそこでジャーマンでぶっ飛ばしたはずだよな?」
「…ああ。そいつはあそこでのびてたはずだ。それがいないってことは……!」
……急に、周囲の空気が冷たく感じ始めた。至る所から殺気を感じる…。
ミイラ男はとうに目覚めて、どこかに息を潜めて俺たちに反撃の機会をうかがっている。だが俺たち二人は奴の居所が掴めない。
この状況。どうやら攻守が逆転しちまったらしい。
「まずい…!奴はどこだ!」
「今探してる!落ち着け!」
…暗闇を松明で照らして奴を探す。
……前……いない……。
……右……いない……。
……左……いない……。
……上……
「GHUUAAH!!」
「!!」
天井から奴が大口を開けて、俺に襲いかかってきた。
奴は俺に覆い被さり、喉元に噛み付く。
「うぐっ…!」
…痛え…。
首筋が灼けるように痛い。しかも奴の臭え鼻息も間近で匂ってきやがる。
……なんだろう?…痛みとともに、奴の記憶が流れ込んでくる…。
……ここは…病院だろうか?……
真っ白な天井が見える……と同時に、そこら中から呻き声や叫び声が聞こえてくる…。
『ここは…どこだ!?俺は一体!?』
……この声は…あのミイラ男の声だろうか?…
……しばらくすると、妙に痩せこけた気味の悪い男がこちらを覗き込んできた……。
『やあ。おめざめかな?』
『しゅ、首領。これは一体…?』
……首領?……この男がルシフェルの首領か……
『喜べ。君は私の新しい強化プロジェクトの実験体に選ばれた。成功すればお前は今よりももっと強くなれる。』
『い、一体何を…?』
『お前の視神経を抜き取るのさ。』
『な……!』
『視力を失った人間が超人的な力を身につける、なんてよく聞く話だろう?それを人為的にやってみようというのが今回の試みだ。』
『そんな…!狂ってる…!やめてくれ…!』
『お前に拒否権はない。お前は黙って私の手術を受ければいいんだ。』
『嫌だ…!やめろ…!やめてくれ…!』
……首領と呼ばれた男がニタニタと笑う……その手に握られたメスが段々とこちらに近づいてくる……
『嫌だ…!嫌だ…!』
…必死に首を振っているらしい……視点が左右に大きく揺れる……
……と、視界に人影が見えた。…そして理解した…さっきから聞こえる呻き声たちの正体が……
『うううう……。うああぁぁ…。』
…隣の部屋に、目を潰された人間が何人も蠢いていた。ある者は同じところをグルグルと徘徊し、ある者は自分の頭を壁になんでも打ち付け、またある者は自分の目を掻きむしって…。そんな彼らが皆一様に、部屋の中で悲しい呻き声を上げていたのだった。
『う、うああぁぁ!』
『おや。気づいてしまったかい?彼らは実験に適応できなかった失敗作さ。事後経過を見るために放置しているんだが…大抵はあのまま死んでしまう。君はああならないように願うよ。』
…首領の歪んだ笑い顔が視界に入る。
『この…悪魔め……!』
『失礼な。君たちは私の駒であり、モルモットだよ?どうしようと、私の勝手だ。』
『よくも仲間を…!許さん…!絶対に、絶対に貴様は殺してやる……!』
『おお。怖い怖い。さ、おしゃべりはこの辺にして、そろそろ始めようか……。』
ドンっ!!
衝撃と共に、記憶の映像が途切れた。と同時に、首筋の痛みも離れる。どうやら、秋山がどうにかしてミイラ男を引き剥がしたらしい。
「大丈夫か!?西馬!」
「あ、ああ…。」
…俺は首筋に手を当てた。血は出てるが…傷は浅い。
次いで吹き飛ばされた奴を見た。奴は吹き飛ばされた状態のままなかなか起き上がってこない。……弱っているんだ。
ミイラ男がヨロヨロと四つん這いで立ち上がり、なおもこちらに身構える。怒ったように歯を食いしばらせ、唸り声を上げながら…。
「……コロシテヤル……コロシテヤル……!」
声を上げて、奴がまたこちらに真正面から飛びついてきた。そんな奴に向けて、秋山は拳銃を撃ち込んだ。今まで散々銃弾を躱してきた奴だったが、もはや避ける体力もなかったのか、奴はまともに食らった。
悲しげに叫び声をあげ、奴は床に崩れ落ちる。
「……今度こそやったか!?」
「……ああ。多分な。」
うつ伏せになったミイラ男の体から血が溢れ出てくる。致命傷だ。もう助かるまい。
その体はもうピクリとも動かない。
…弱りながらも、戦い続けた彼。その胸中に、一体どれ程の怒りを抱えていたのだろうか。
俺は、ミイラ男の死体へと駆け寄った。
「お、おい。あぶねえぞ。何する気だ。」
「……せめて、弔いの花を。」
……俺は近くで咲いていた野花を摘み、ミイラ男に添えてやった。
「……噛み付かれた時、こいつの記憶が見えた。こいつは自分の目を組織に無理やり奪われ、その事を深く恨んでいた。目が見えなくなる寸前まで、首領に対して殺してやる、となんども言っていたよ。」
「目を奪われて…そうか。」銃を下ろし、秋山もこちらに近づいてきた。
「こいつも……俺と同じか。穴取を殺すことしか考えていなかったあの時の俺と…。」
「秋山…。」
秋山も花の代わりにタバコをミイラ男に添えた。
「…線香代わりだ。化け物なんて言ってすまなかった。せめて、安らかに眠ってくれ…。」
俺と秋山はしばし、彼に黙祷を捧げた。怒りと憎しみだけで生きてきた哀れな戦士に。心なしか、包帯でがんじがらめにされた彼の目から、一筋涙が流れたように見えた…。
「西馬…。」
「…うん?」
黙祷を終えて、秋山が話しかけてきた。
「お前がいなかったら…、俺もこの男と同じ結末になっていたのかもな…。恨みをぶちまけるために何も見えなくなって、大事なもんも全部捨てて…。」
「秋山…。」
秋山は一息深呼吸すると、すくっと立ち上がった。
「……礼を言うのは…早いよな!奴を…穴取をぶっ飛ばすまでは。」
「ああ…!行こう。ヒカルが待っている。」
強敵の亡骸を背に、俺たちはヒカルの下へと走った。
「…無事だろうな。ヒカルの奴…!」
「あの野郎には魔眼がある。心配ないだろ。」
「……そうだといいけど。」
…嫌な予感がする。あのスナイパー、ミイラ男、共に魔眼が通用しない相手だった。穴取は明らかにヒカルを意識した罠を張っている。もし、この先にも罠を張っているとしたら…。
「…なあ。西馬。」
秋山が急に話しかけてきた。
「…なんだよ。」
「…後ろを見てくれ。」
言われた通り振り返ると…。
…ミイラ男がいない!
「あ…れ…?確かさっき化け物をあそこでジャーマンでぶっ飛ばしたはずだよな?」
「…ああ。そいつはあそこでのびてたはずだ。それがいないってことは……!」
……急に、周囲の空気が冷たく感じ始めた。至る所から殺気を感じる…。
ミイラ男はとうに目覚めて、どこかに息を潜めて俺たちに反撃の機会をうかがっている。だが俺たち二人は奴の居所が掴めない。
この状況。どうやら攻守が逆転しちまったらしい。
「まずい…!奴はどこだ!」
「今探してる!落ち着け!」
…暗闇を松明で照らして奴を探す。
……前……いない……。
……右……いない……。
……左……いない……。
……上……
「GHUUAAH!!」
「!!」
天井から奴が大口を開けて、俺に襲いかかってきた。
奴は俺に覆い被さり、喉元に噛み付く。
「うぐっ…!」
…痛え…。
首筋が灼けるように痛い。しかも奴の臭え鼻息も間近で匂ってきやがる。
……なんだろう?…痛みとともに、奴の記憶が流れ込んでくる…。
……ここは…病院だろうか?……
真っ白な天井が見える……と同時に、そこら中から呻き声や叫び声が聞こえてくる…。
『ここは…どこだ!?俺は一体!?』
……この声は…あのミイラ男の声だろうか?…
……しばらくすると、妙に痩せこけた気味の悪い男がこちらを覗き込んできた……。
『やあ。おめざめかな?』
『しゅ、首領。これは一体…?』
……首領?……この男がルシフェルの首領か……
『喜べ。君は私の新しい強化プロジェクトの実験体に選ばれた。成功すればお前は今よりももっと強くなれる。』
『い、一体何を…?』
『お前の視神経を抜き取るのさ。』
『な……!』
『視力を失った人間が超人的な力を身につける、なんてよく聞く話だろう?それを人為的にやってみようというのが今回の試みだ。』
『そんな…!狂ってる…!やめてくれ…!』
『お前に拒否権はない。お前は黙って私の手術を受ければいいんだ。』
『嫌だ…!やめろ…!やめてくれ…!』
……首領と呼ばれた男がニタニタと笑う……その手に握られたメスが段々とこちらに近づいてくる……
『嫌だ…!嫌だ…!』
…必死に首を振っているらしい……視点が左右に大きく揺れる……
……と、視界に人影が見えた。…そして理解した…さっきから聞こえる呻き声たちの正体が……
『うううう……。うああぁぁ…。』
…隣の部屋に、目を潰された人間が何人も蠢いていた。ある者は同じところをグルグルと徘徊し、ある者は自分の頭を壁になんでも打ち付け、またある者は自分の目を掻きむしって…。そんな彼らが皆一様に、部屋の中で悲しい呻き声を上げていたのだった。
『う、うああぁぁ!』
『おや。気づいてしまったかい?彼らは実験に適応できなかった失敗作さ。事後経過を見るために放置しているんだが…大抵はあのまま死んでしまう。君はああならないように願うよ。』
…首領の歪んだ笑い顔が視界に入る。
『この…悪魔め……!』
『失礼な。君たちは私の駒であり、モルモットだよ?どうしようと、私の勝手だ。』
『よくも仲間を…!許さん…!絶対に、絶対に貴様は殺してやる……!』
『おお。怖い怖い。さ、おしゃべりはこの辺にして、そろそろ始めようか……。』
ドンっ!!
衝撃と共に、記憶の映像が途切れた。と同時に、首筋の痛みも離れる。どうやら、秋山がどうにかしてミイラ男を引き剥がしたらしい。
「大丈夫か!?西馬!」
「あ、ああ…。」
…俺は首筋に手を当てた。血は出てるが…傷は浅い。
次いで吹き飛ばされた奴を見た。奴は吹き飛ばされた状態のままなかなか起き上がってこない。……弱っているんだ。
ミイラ男がヨロヨロと四つん這いで立ち上がり、なおもこちらに身構える。怒ったように歯を食いしばらせ、唸り声を上げながら…。
「……コロシテヤル……コロシテヤル……!」
声を上げて、奴がまたこちらに真正面から飛びついてきた。そんな奴に向けて、秋山は拳銃を撃ち込んだ。今まで散々銃弾を躱してきた奴だったが、もはや避ける体力もなかったのか、奴はまともに食らった。
悲しげに叫び声をあげ、奴は床に崩れ落ちる。
「……今度こそやったか!?」
「……ああ。多分な。」
うつ伏せになったミイラ男の体から血が溢れ出てくる。致命傷だ。もう助かるまい。
その体はもうピクリとも動かない。
…弱りながらも、戦い続けた彼。その胸中に、一体どれ程の怒りを抱えていたのだろうか。
俺は、ミイラ男の死体へと駆け寄った。
「お、おい。あぶねえぞ。何する気だ。」
「……せめて、弔いの花を。」
……俺は近くで咲いていた野花を摘み、ミイラ男に添えてやった。
「……噛み付かれた時、こいつの記憶が見えた。こいつは自分の目を組織に無理やり奪われ、その事を深く恨んでいた。目が見えなくなる寸前まで、首領に対して殺してやる、となんども言っていたよ。」
「目を奪われて…そうか。」銃を下ろし、秋山もこちらに近づいてきた。
「こいつも……俺と同じか。穴取を殺すことしか考えていなかったあの時の俺と…。」
「秋山…。」
秋山も花の代わりにタバコをミイラ男に添えた。
「…線香代わりだ。化け物なんて言ってすまなかった。せめて、安らかに眠ってくれ…。」
俺と秋山はしばし、彼に黙祷を捧げた。怒りと憎しみだけで生きてきた哀れな戦士に。心なしか、包帯でがんじがらめにされた彼の目から、一筋涙が流れたように見えた…。
「西馬…。」
「…うん?」
黙祷を終えて、秋山が話しかけてきた。
「お前がいなかったら…、俺もこの男と同じ結末になっていたのかもな…。恨みをぶちまけるために何も見えなくなって、大事なもんも全部捨てて…。」
「秋山…。」
秋山は一息深呼吸すると、すくっと立ち上がった。
「……礼を言うのは…早いよな!奴を…穴取をぶっ飛ばすまでは。」
「ああ…!行こう。ヒカルが待っている。」
強敵の亡骸を背に、俺たちはヒカルの下へと走った。
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