記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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人形師編

「ドリームランド」 VS暗闇の盲獣3

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「しっかし……とんでもない奴だったな。あの化け物は…。」
「ああ…。全くだ。今のうちに移動しておこう。」
ミイラ男は去っていったものの、未だに奴の襲撃の可能性はある。俺たちは慎重にお化け屋敷の奥へと進んだ。


「しかし…一体何者なんだ。奴は…。」
「…そういえばルシフェルのことで聞いたことがある。人間の視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5つの感覚のいずれかを無くすことで他の感覚を鋭くさせるという実験をやっていたとか。しかし…その実験は失敗したはずだ。」
「失敗って…現にあそこにいるじゃないか。」
「報告では実験参加者は全て発狂して死んだ、適合できなかった、としか聞いていない。だがあの化け物を見る限り、虚偽の報告をしたか、あるいはその後も研究を続けていたかのどちらかだな。あれは明らかに“完成品”だ。」
……人間の5感を無くす…か。今更だが、あまりにも非人道的な連中だ。
あの化け物は視覚を奪われていた。目が見えない代わりに、他の感覚が鋭くなっている、という訳か。
「…にしても並みの感覚じゃねえぞ。ありゃあ。銃撃は躱すし、俺の攻撃も躱された。一体どうやって感知してやがるんだ。」
「分からない。他の感覚が超人的に鋭くなっているとしかいえない。例えば、空気の僅かな揺れや、音の方向、あとは硝煙の匂いとか…。」
「匂い…。」

………匂いか…。

……匂い!?まずい…!


「急ごう!奴はまたすぐ追ってくる!」
「ど、どうした!?西馬!急に!」
「奴が匂いで敵を感知しているなら、俺たちは今、さっきしこたま撃った銃の硝煙の匂いだらけだ!おまけにお前はさっき傷を負っちまった!血の匂いも辿ってくるぞ!」
「…同感だね。急いだ方が良さそうだ。でも急ぐにしても、穴取の居場所の見当はついてるのかい?」
「ああ。推測だが、奴がここにいるとしたら恐らくここから上の階だ。」

…このお化け屋敷は3階建てになっている。他の遊園地に比べて随分と手の込んだ形式だ。
あの化け物は目が見えていない…。つまり敵も味方も見境なく攻撃する恐れがある。となると、同じ階で呑気に待機もしていられまい。
加えて奴の機動力。物音がすれば、すぐさま飛んでいけるほど素早いあのミイラ男なら、一階フロア全体を警備させても問題はない。
なら、自分は安全な二階より上で待機しておくのが良作だろう…。

「だけど、穴取がここにいないかもしれないよ?あの女スナイパーが嘘の情報をつかまされた可能性も…。」
「…とはいえ、ここを調べないことにはいずれにせよ穴取には近づけない。ここまで来て逃げらんねえ!」


ビチャ!ビチャ!ビチャ!



…遠くから激しい水音がする!
どうやら奴がまたこちらに向かって来たようだ!
「急ごう!階段を探すんだ!」

俺たちは走った。
階段を目指してとにかく走った。
だが、奴の追ってくる音はどんどんと近づいてくる。…追いつかれるのも時間の問題だ。

「…なあ。西馬。」
不意に秋山が話しかけてきた。
「…なんだよ。秋山。まさかバテたとかいうんじゃないだろな。」
「ちげぇよ。…奴は血の匂いを辿ってくる。たしかそう言ってたな。」
「ああ…。あくまで俺の推測だが。それがどうかしたか?」
秋山は俺の問いに答えずに、元来た道を戻っていった。
「お、おい!秋山!」
「お前らは先に行け!俺の血の匂いを辿ってくるんなら、ここから先に奴は行かない!奴は俺が食い止める!」
「そんな無茶な!今までの奴らとは訳が違うぞ!」
「大丈夫だ!任しとけ!俺はルシフェルの連中をもう二人んだ。そうやすやすとやられん!」
「しかし…!」
…俺はしばし迷った。
ヒカルをそのまま一人で行かせ、自分は秋山と共闘するか、あるいは秋山を残してヒカルと共に先に進むか、果たしてどちらが良いか…。
躊躇する俺の肩を、ヒカルがポンと叩いた。
「…西馬君。この先には僕一人で行くよ。君は秋山君に手を貸してやってくれ。」
「ヒカル…。それはいいが、あんたの方は大丈夫なのか?」
「平気さ。恐らく穴取は君の推測通りなら、この上の階にいる。あんな化け物が二階にもいたらさすがに無理だけど、あのミイラ男のような化け物は配備していないはず。自分の身が危険になるからね。相手が穴取一人なら僕でもどうにかなりそうだ。」
「…そうか。」

…決心はついた。

「すまない。ヒカル。後から必ず向かう。先に行っててくれ。」
「わかった。先に行って待ってるよ。」
「頼んだぞ!」
そう言って、俺は引き返していった秋山の後を追った。



……仲間の下へと奔走する西馬。
その背中を、ヒカルは見えなくなるまで見送っていた。
「『頼んだぞ』…か。対等な立場で、誰かにそんなことを言われたのはいつぶりかな。」
嬉しそうに、そして少し寂しそうにヒカルはつぶやき、二階への階段へ向かうのだった。
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