114 / 188
人形師編
「ドリームランド」VS見えない狙撃手4
しおりを挟む
廃遊園地の大観覧車。そのゴンドラの中で、彼…いや彼女は報告の連絡をしていた。
「…こちら“鷹”。応答願う。」
『こちら“運び屋”。どうした?』
「先程報告したボスの仲間と思しき男二人のうち、一人の狙撃に成功した。」
『……殺ったのか?』
「いや。肩を撃ち抜いただけで致命傷にはならなかった。その後、ボスと男二人は後退。ライフルの射程距離から外れたため、追撃はしていない。」
『了解した。引き続き警戒を頼む。くれぐれもボスの眼は傷つけるな。穴取からの命令だ。』
「…わかっている。他二人は?」
『障害であれば排除しろ。以上だ。』
「…了解。」
そうして“運び屋”と名乗る男は通信を切った。
「はあ…。」
ため息を吐く“鷹”。正直なところ、彼女は今回の任務にあまり気乗りがしていなかった。スナイパーである彼女は普段、要人の護衛や暗殺を主な任務としてきた。だが今回は、中年の殺人鬼のコレクションを増やす、ただそれだけの目的で呼び出されたのだ。任務にケチをつけるわけではないが、今までの任務と比べてしまうとやる気は上がらない。
…とは言えターゲットが油断できない相手というのも事実だ。闇クラブの元ボスといえば、各クラブを単独ですでに3つ潰した程の男。気は緩められない。
「さて…。」
彼女は再び仕事に取り掛かることにした。銃を覗く瞳が、猛禽の如く段々と細くなっていく…。
ヒカルの予想はおおよそ当たっていた。彼女は眼を強化されたスナイパーであった。特殊な手術により、目の構造を鷹とおなじモノにしたのだ。その視力は一般人のおよそ8倍。視界も広くなり、色覚もほかの人より多くの種類を認識することができ、遠くのものもくっきりと目で捉えることができる。しかしだからといって、望遠スコープのように対象をズームアップして見ることができるわけではない。スコープ無しで狙撃を可能にしているのは、ひとえに彼女の経験と勘である。
先程は外してしまった。だが今度は外さない。
彼女の”鷹の目“は、獲物が物陰からでてくるのを今か今かとじっと見つめていた。
「む…っ!?」
突然、猊下の広場に白い煙が沸き起こった。煙は見る見るうちに園内のアトラクションゾーンを飲み込んで行く。
「煙幕か…。」
だが彼女は動じない。
例え煙幕を張ろうと同じことだ。煙が持続する時間はせいぜい一分程度。煙幕が晴れた後、狙撃を再開すればいい。
現時点で最も警戒すべきは、ターゲットの「撤退」の可能性。煙幕を張って逃げられ、装備を整えて来られると厄介極まりない。だが入り口周辺に人影は見えない。その可能性は無いようだ。
(…ボスは抜け目のない方と聞く。一体なぜ煙幕を…?)
…彼女が思案する内に、煙が晴れてきた。
その一瞬、彼女の眼が何かの光を捉えた。
(…双眼鏡!?)
反射的に彼女は引鉄を引く。弾丸は見事に目標を撃ち抜いた。
(…これがボスの狙い…?煙幕で隠れた後、双眼鏡で覗くだけだなんて…。正直、拍子抜けだわ。)
…煙が晴れた。
彼女の撃ち抜いた先には、粉々になった双眼鏡だけが地面に転がっていた。
(!?いない!?双眼鏡はダミーか!?)
驚愕する彼女を嘲笑うように、またも別の場所で双眼鏡の反射光がチカチカと彼女の視界をチラつかせていた。
彼女はその反射光目掛けて、再度引鉄を引く。目標に見事命中したが、やはり肝心の持ち主がいない。
(…くそっ!どこだ!ボスはどこに…!)
…“鷹”の脳裏に、任務前に、ルシフェル首領、東郷に言われた言葉がよぎる…。
一ヶ月前、“鷹”は東郷に呼び出されていた。
「重要な任務…ですか?」
「そうだ…。闇クラブにとっても、我々にとっても重要な任務だ。」
薄気味の悪い笑みを浮かべながら東郷は続ける。
「アスモデウスのオーナー、穴取からの依頼だよ。ボスの魔眼をコレクションに入れたいらしい。そこで“対魔眼戦闘員”として強化したお前に白羽の矢が立ったわけだ。我々の技術がボスに通用するかを試す絶好の機会だ。存分に腕を振るえ。」
「……はっ。」
内心気が進まなかったが、依頼がきた以上断れないというのがこのルシフェルの掟だ。彼女は否応ながらも受けることにした。
任務に向かおうとする彼女に、背中越しに東郷が話しかける。
「ボスと対峙した時は絶対にボスの視界に入るな。魔眼は眼が合ったときに術中にはまる。ボスの視界に入らない遠距離からの狙撃を心がけるんだ。」
「…わかっております。」
「まあ、スナイパーのお前なら万が一の心配もないだろうがな…。ヒョヒョヒョ…!」
東郷はそう言って、いつもの不気味な笑い声を上げていた…。
「もし…ボスが私の位置に気づいていたとしたら…!この状況はまずい…!」
彼女は既に二発の発砲をしている。狙撃位置を知らせるには十分だ。一刻も早くボスを狙撃しなければ…!そんな思いが彼女をより一層焦らせた。
…と、再び反射光が見えた。
またも双眼鏡。そして今度は…それを構えている男がいる!
「…見えた!」
彼女は引鉄に指をかけ、ターゲットを撃ち抜かんと銃を構えた。狙いを定め、目を凝らして…。
「…あっ…。」
“鷹”は見てしまった。
こちらを向いて双眼鏡を片目だけ覗くボスを。そして黄金に妖しく光る、もう片方のボスの眼を…。
「…こちら“鷹”。応答願う。」
『こちら“運び屋”。どうした?』
「先程報告したボスの仲間と思しき男二人のうち、一人の狙撃に成功した。」
『……殺ったのか?』
「いや。肩を撃ち抜いただけで致命傷にはならなかった。その後、ボスと男二人は後退。ライフルの射程距離から外れたため、追撃はしていない。」
『了解した。引き続き警戒を頼む。くれぐれもボスの眼は傷つけるな。穴取からの命令だ。』
「…わかっている。他二人は?」
『障害であれば排除しろ。以上だ。』
「…了解。」
そうして“運び屋”と名乗る男は通信を切った。
「はあ…。」
ため息を吐く“鷹”。正直なところ、彼女は今回の任務にあまり気乗りがしていなかった。スナイパーである彼女は普段、要人の護衛や暗殺を主な任務としてきた。だが今回は、中年の殺人鬼のコレクションを増やす、ただそれだけの目的で呼び出されたのだ。任務にケチをつけるわけではないが、今までの任務と比べてしまうとやる気は上がらない。
…とは言えターゲットが油断できない相手というのも事実だ。闇クラブの元ボスといえば、各クラブを単独ですでに3つ潰した程の男。気は緩められない。
「さて…。」
彼女は再び仕事に取り掛かることにした。銃を覗く瞳が、猛禽の如く段々と細くなっていく…。
ヒカルの予想はおおよそ当たっていた。彼女は眼を強化されたスナイパーであった。特殊な手術により、目の構造を鷹とおなじモノにしたのだ。その視力は一般人のおよそ8倍。視界も広くなり、色覚もほかの人より多くの種類を認識することができ、遠くのものもくっきりと目で捉えることができる。しかしだからといって、望遠スコープのように対象をズームアップして見ることができるわけではない。スコープ無しで狙撃を可能にしているのは、ひとえに彼女の経験と勘である。
先程は外してしまった。だが今度は外さない。
彼女の”鷹の目“は、獲物が物陰からでてくるのを今か今かとじっと見つめていた。
「む…っ!?」
突然、猊下の広場に白い煙が沸き起こった。煙は見る見るうちに園内のアトラクションゾーンを飲み込んで行く。
「煙幕か…。」
だが彼女は動じない。
例え煙幕を張ろうと同じことだ。煙が持続する時間はせいぜい一分程度。煙幕が晴れた後、狙撃を再開すればいい。
現時点で最も警戒すべきは、ターゲットの「撤退」の可能性。煙幕を張って逃げられ、装備を整えて来られると厄介極まりない。だが入り口周辺に人影は見えない。その可能性は無いようだ。
(…ボスは抜け目のない方と聞く。一体なぜ煙幕を…?)
…彼女が思案する内に、煙が晴れてきた。
その一瞬、彼女の眼が何かの光を捉えた。
(…双眼鏡!?)
反射的に彼女は引鉄を引く。弾丸は見事に目標を撃ち抜いた。
(…これがボスの狙い…?煙幕で隠れた後、双眼鏡で覗くだけだなんて…。正直、拍子抜けだわ。)
…煙が晴れた。
彼女の撃ち抜いた先には、粉々になった双眼鏡だけが地面に転がっていた。
(!?いない!?双眼鏡はダミーか!?)
驚愕する彼女を嘲笑うように、またも別の場所で双眼鏡の反射光がチカチカと彼女の視界をチラつかせていた。
彼女はその反射光目掛けて、再度引鉄を引く。目標に見事命中したが、やはり肝心の持ち主がいない。
(…くそっ!どこだ!ボスはどこに…!)
…“鷹”の脳裏に、任務前に、ルシフェル首領、東郷に言われた言葉がよぎる…。
一ヶ月前、“鷹”は東郷に呼び出されていた。
「重要な任務…ですか?」
「そうだ…。闇クラブにとっても、我々にとっても重要な任務だ。」
薄気味の悪い笑みを浮かべながら東郷は続ける。
「アスモデウスのオーナー、穴取からの依頼だよ。ボスの魔眼をコレクションに入れたいらしい。そこで“対魔眼戦闘員”として強化したお前に白羽の矢が立ったわけだ。我々の技術がボスに通用するかを試す絶好の機会だ。存分に腕を振るえ。」
「……はっ。」
内心気が進まなかったが、依頼がきた以上断れないというのがこのルシフェルの掟だ。彼女は否応ながらも受けることにした。
任務に向かおうとする彼女に、背中越しに東郷が話しかける。
「ボスと対峙した時は絶対にボスの視界に入るな。魔眼は眼が合ったときに術中にはまる。ボスの視界に入らない遠距離からの狙撃を心がけるんだ。」
「…わかっております。」
「まあ、スナイパーのお前なら万が一の心配もないだろうがな…。ヒョヒョヒョ…!」
東郷はそう言って、いつもの不気味な笑い声を上げていた…。
「もし…ボスが私の位置に気づいていたとしたら…!この状況はまずい…!」
彼女は既に二発の発砲をしている。狙撃位置を知らせるには十分だ。一刻も早くボスを狙撃しなければ…!そんな思いが彼女をより一層焦らせた。
…と、再び反射光が見えた。
またも双眼鏡。そして今度は…それを構えている男がいる!
「…見えた!」
彼女は引鉄に指をかけ、ターゲットを撃ち抜かんと銃を構えた。狙いを定め、目を凝らして…。
「…あっ…。」
“鷹”は見てしまった。
こちらを向いて双眼鏡を片目だけ覗くボスを。そして黄金に妖しく光る、もう片方のボスの眼を…。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
あやかし探偵倶楽部、始めました!
えっちゃん
キャラ文芸
文明開化が花開き、明治の年号となり早二十数年。
かつて妖と呼ばれ畏れられていた怪異達は、文明開化という時勢の中、人々の記憶から消えかけていた。
母親を流行り病で亡くした少女鈴(すず)は、母親の実家であり数百年続く名家、高梨家へ引き取られることになった。
高梨家では伯父夫婦から冷遇され従兄弟達から嫌がらせにあい、ある日、いわくつきの物が仕舞われている蔵へ閉じ込められてしまう。
そして偶然にも、隠し扉の奥に封印されていた妖刀の封印を解いてしまうのだった。
多くの人の血肉を啜った妖刀は長い年月を経て付喪神となり、封印を解いた鈴を贄と認識して襲いかかった。その結果、二人は隷属の契約を結ぶことになってしまう。
付喪神の力を借りて高梨家一員として認められて学園に入学した鈴は、学友の勧誘を受けて“あやかし探偵俱楽部”に入るのだが……
妖達の起こす事件に度々巻き込まれる鈴と、恐くて過保護な付喪神の話。
*素敵な表紙イラストは、奈嘉でぃ子様に依頼しました。
*以前、連載していた話に加筆手直しをしました。のんびり更新していきます。
ガールズバンド“ミッチェリアル”
西野歌夏
キャラ文芸
ガールズバンド“ミッチェリアル”の初のワールドツアーがこれから始まろうとしている。このバンドには秘密があった。ワールドツアー準備合宿で、事件は始まった。アイドルが世界を救う戦いが始まったのだ。
バンドメンバーの16歳のミカナは、ロシア皇帝の隠し財産の相続人となったことから嫌がらせを受ける。ミカナの母国ドイツ本国から試客”くノ一”が送り込まれる。しかし、事態は思わぬ展開へ・・・・・・
「全世界の動物諸君に告ぐ。爆買いツアーの開催だ!」
武器商人、スパイ、オタクと動物たちが繰り広げるもう一つの戦線。
伊藤さんと善鬼ちゃん~最強の黒少女は何故弟子を取ったのか~
寛村シイ夫
キャラ文芸
実在の剣豪・伊藤一刀斎と弟子の小野善鬼、神子上典膳をモチーフにしたラノベ風小説。
最強の一人と称される黒ずくめの少女・伊藤さんと、その弟子で野生児のような天才拳士・善鬼ちゃん。
テーマは二人の師弟愛と、強さというものの価値観。
お互いがお互いの強さを認め合うからこその愛情と、心のすれ違い。
現実の日本から分岐した異世界日ノ本。剣術ではない拳術を至上の存在とした世界を舞台に、ハードな拳術バトル。そんなシリアスな世界を、コミカルな日常でお送りします。
【普通の文庫本小説1冊分の長さです】
後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜
逢汲彼方
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】
姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。
だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。
夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。
余命三ヶ月の令嬢と男娼と、悪魔
有沢真尋
恋愛
美しく清らかに何も無いまま死ぬなんて嫌なの。私のために男娼を用意して。
人好きのする性格を買われて「男娼」の役目を任された弟アレン。
四角四面な執事の兄レスター。
病弱なお嬢様クララ。
そして、悪魔。
余命宣告された伯爵令嬢クララの最後の望みが「恋にも愛にも時間が足りないとしても、最高の一夜を過ごしたい」というもの。
とはいえ、クララはすでに、起き上がるのも困難な身。
終わりに向かう日々、話し相手になって気晴らしに付き合う心積もりでクララの元へ向かった「男娼」アレンであったが、クララからとんでもない話を持ちかけられる。
「余命宣告が頭にきたから、私、悪魔と契約したの。悪魔を満足させたら長生きできるみたい。そんなわけであなた、私と一緒に大罪に手を染めてくれないかしら?」
※他サイトにも公開しています。
表紙写真:https://pixabay.com/ja/illustrations/バックグラウンド-美術-要約-2424150/
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる