記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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人形師編

「ドリームランド」VS見えない狙撃手4

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廃遊園地の大観覧車。そのゴンドラの中で、彼…いや彼女は報告の連絡をしていた。
「…こちら“鷹”。応答願う。」
『こちら“運び屋”。どうした?』 
「先程報告したボスの仲間と思しき男二人のうち、一人の狙撃に成功した。」 
『……ったのか?』
「いや。肩を撃ち抜いただけで致命傷にはならなかった。その後、ボスと男二人は後退。ライフルの射程距離から外れたため、追撃はしていない。」
『了解した。引き続き警戒を頼む。くれぐれもボスの眼は傷つけるな。穴取からの命令だ。』
「…わかっている。他二人は?」
『障害であれば排除しろ。以上だ。』
「…了解。」
そうして“運び屋”と名乗る男は通信を切った。

「はあ…。」
ため息を吐く“鷹”。正直なところ、彼女は今回の任務にあまり気乗りがしていなかった。スナイパーである彼女は普段、要人の護衛や暗殺を主な任務としてきた。だが今回は、中年の殺人鬼のコレクションを増やす、ただそれだけの目的で呼び出されたのだ。任務にケチをつけるわけではないが、今までの任務と比べてしまうとやる気は上がらない。
…とは言えターゲットが油断できない相手というのも事実だ。闇クラブの元ボスといえば、各クラブを単独ですでに3つ潰した程の男。気は緩められない。

「さて…。」
彼女は再びに取り掛かることにした。銃を覗く瞳が、猛禽の如く段々と細くなっていく…。
ヒカルの予想はおおよそ当たっていた。彼女は眼を強化されたスナイパーであった。特殊な手術により、目の構造を鷹とおなじモノにしたのだ。その視力は一般人のおよそ8倍。視界も広くなり、色覚もほかの人より多くの種類を認識することができ、遠くのものもくっきりと目で捉えることができる。しかしだからといって、望遠スコープのように対象をズームアップして見ることができるわけではない。スコープ無しで狙撃を可能にしているのは、ひとえに彼女の経験と勘である。

先程は外してしまった。だが今度は外さない。

彼女の”鷹の目“は、獲物が物陰からでてくるのを今か今かとじっと見つめていた。
「む…っ!?」
突然、猊下の広場に白い煙が沸き起こった。煙は見る見るうちに園内のアトラクションゾーンを飲み込んで行く。
「煙幕か…。」
だが彼女は動じない。
例え煙幕を張ろうと同じことだ。煙が持続する時間はせいぜい一分程度。煙幕が晴れた後、狙撃を再開すればいい。
現時点で最も警戒すべきは、ターゲットの「撤退」の可能性。煙幕を張って逃げられ、装備を整えて来られると厄介極まりない。だが入り口周辺に人影は見えない。その可能性は無いようだ。
(…ボスは抜け目のない方と聞く。一体なぜ煙幕を…?)

…彼女が思案する内に、煙が晴れてきた。
その一瞬、彼女の眼が何かの光を捉えた。
(…双眼鏡!?)
反射的に彼女は引鉄ひきがねを引く。弾丸は見事に目標を撃ち抜いた。
(…これがボスの狙い…?煙幕で隠れた後、双眼鏡で覗くだけだなんて…。正直、拍子抜けだわ。)

…煙が晴れた。
彼女の撃ち抜いた先には、粉々になった双眼鏡が地面に転がっていた。
(!?いない!?双眼鏡はダミーか!?)
驚愕する彼女を嘲笑うように、またも別の場所で双眼鏡の反射光がチカチカと彼女の視界をチラつかせていた。
彼女はその反射光目掛けて、再度引鉄を引く。目標に見事命中したが、やはり肝心のがいない。
(…くそっ!どこだ!ボスはどこに…!)
…“鷹”の脳裏に、任務前に、ルシフェル首領、東郷に言われた言葉がよぎる…。



一ヶ月前、“鷹”は東郷に呼び出されていた。
「重要な任務…ですか?」
「そうだ…。闇クラブにとっても、重要な任務だ。」
薄気味の悪い笑みを浮かべながら東郷は続ける。
「アスモデウスのオーナー、穴取からの依頼だよ。ボスの魔眼をコレクションに入れたいらしい。そこで“対魔眼戦闘員”として強化したお前に白羽の矢が立ったわけだ。我々の技術がボスに通用するかを試す絶好の機会だ。存分に腕を振るえ。」
「……はっ。」
内心気が進まなかったが、依頼がきた以上断れないというのがこのルシフェルの掟だ。彼女は否応ながらも受けることにした。
任務に向かおうとする彼女に、背中越しに東郷が話しかける。
「ボスと対峙した時は絶対にボスの視界に入るな。魔眼は眼が合ったときに術中にはまる。ボスの視界に入らない遠距離からの狙撃を心がけるんだ。」
「…わかっております。」
「まあ、スナイパーのお前なら万が一の心配もないだろうがな…。ヒョヒョヒョ…!」
東郷はそう言って、いつもの不気味な笑い声を上げていた…。



「もし…ボスが私の位置に気づいていたとしたら…!この状況はまずい…!」
彼女は既に二発の発砲をしている。狙撃位置を知らせるには十分だ。一刻も早くボスを狙撃しなければ…!そんな思いが彼女をより一層焦らせた。

…と、再び反射光が見えた。
またも双眼鏡。そして今度は…それを構えている男がいる!
「…見えた!」
彼女は引鉄に指をかけ、ターゲットを撃ち抜かんと銃を構えた。狙いを定め、目を凝らして…。
「…あっ…。」
“鷹”は見てしまった。
こちらを向いて双眼鏡を片目だけ覗くボスを。そして黄金に妖しく光る、もう片方のボスの眼を…。
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