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人形師編
穴取の行方を追って
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『ヴィーナス』での聞き取りから3日が経った。
俺は依然として、奴の所在を掴めていない。情報提供者、ゆりあの証言から「ドリームランド」というところが怪しいと見たんだが…、そんな建物はどこにもなかった。どうやらこれは建物の名前でも団体名でもないようだ。一種の比喩か、あるいは奴が、潜伏しているところを勝手にそう呼んでいるのか、いずれかである。しかし、それがなんなのかはやはり手がかりがないと掴めそうもない…。
「お疲れ様です。西馬さん。」
「先生。調子どう?」
須田とアカリがぞろぞろとやってきた。穴取についての定期報告だ。
「…ダメだ。やはり『ドリームランド』という名前だけじゃ、場所を特定できそうにない。情報提供してくれた女性も分からなかったようだし…。」
「ああ。例の風俗のお姉さんでしたね。」
う…。須田の言葉にどこかトゲを感じる…。
あの日、俺が聞き込みのために風俗に行く、とアカリに言ったのがどうやら須田にも伝わったらしく、以降女性陣から冷たい眼差しを向けられるようになった。3日が経ったところで誤解は解けた(と思いたい)のだが、やはりどこかで根に持ってるように感じてならない。…もっとも、それは俺がどこかで、風俗店に行ったことへの後ろめたさを感じているからかもしれないが。
「…ところで、そっちはどうなんだ?なんか分かったか?」
仕返しとばかりに、アカリと須田に成果を聞く。
今回この二人には、穴取の殺人について調べてもらっていた。関連すると思われる事件の詳細は、須田の元警官のコネを活かして手に入ることもできるし、ネット関係の情報についてはアカリが強い。こういう情報の収集については、悔しいがこの二人の方が上のようだ。
「それがですね。西馬さん。今回の穴取の一連の殺人に、ある特徴が見えてきたんです。」
「ほ、ほう…?」
…どうやら俺の仕返しは失敗したらしい。
「で、その特徴ってのは?」
「はい。その特徴ですが、以前の殺人と違う特徴が3点あります。まずこれを見てください。」
そう言うと須田はテーブルの上に地図を広げた。この付近一帯の地図だ。地図には赤い点が5つマーキングされている。
「この赤い点は?」
「今回の穴取に殺された女性の発見された場所です。遺体は今までと同じくまったくバラバラの場所で発見されてはいるんですが、今回はその場所に規則性かあるんです。」
「規則性?」
「はい。この殺された場所を点にしてなぞってみると…。」
須田はマーキングした点を赤ペンでなぞり始めた。地図の上を滑る赤線は点をなぞる毎に形を帯び始め、やがてそれは一つの円となった。
「…これは。」
「そうです。今回は遺体が地図上で円になるような場所で発見されているんです。それに以前の穴取の犯行だと遺体は廃ビルのなかなどの屋内で見つかっていますが、今回はその全てが屋外で見つかっています。しかも見つかりやすい場所で。」
「…たしかに今までと違う傾向だな。」
……どういうことだろうか?遺体を屋内に隠すのではなく、わざわざ人目の多いところに晒すなんて。まるで見つけて下さい、と言っているようなものだ。
「次に凶器についても違う特徴があります。穴取の犯行の手口は、まずターゲットを眠らせてから殺害に及ぶ、という方法を取ってます。今回の件も同様の手口で行われていると思われるのですが、その眠らせる方法が一致しないんです。」
「というと?」
「まず最初の被害者の遺体からは、『ケタミン』と呼ばれる物質が検出されました。」
「『ケタミン』?」
「麻酔銃などで使われている麻薬物質です。しかも、被害者の遺体から7.62x54mmR弾も摘出されています。これは狙撃銃に用いられる弾薬です。つまり、一番目の被害者は麻酔銃で撃たれて眠らされたと思われます。」
「…麻酔銃だって!?」
奴が銃を扱えるなんて初耳だ。実際、5年前の奴の事件では銃を用いた殺害は一切なかった。
「しかし、他方で二人目の被害者からは『クロロホルム』が検出されています。」
「『クロロホルム』…。さっきと違う麻酔薬だな。」
「ええ。しかもこの被害者からは弾丸は検出されていません。恐らく違う人物によって眠らされたものと思われます。」
「どういうこった…?」
…複数犯か?そういえば、「ナポレオン」でヒカルのやつは言っていた。穴取はルシフェルのとっておきを連れ出した、と。奴がもしそのとっておきとやらに犯行の手助けをさせているとしたら、一体何が狙いだ?
「さて、あともう一つ。これはあまり有効な情報ではないかもしれませんが…。」
須田はそう言って自分のファイルから何枚かの写真を取り出した。
「よく見て下さい。被害者の側に、全て何らかの動物の挿絵が置かれているんです。」
確かに、被害者の遺体の横に小さな動物のイラストが置かれている。
「…これも以前の奴の犯行には無かったな。蛇に牛、狐、蝿、そしてコウモリか。何だろう?」
「分かりません。わざわざこんなものを残して、一体何がしたいんでしょう?」
うーむ…。蛇、牛、狐、蝿、コウモリ…。こいつらに共通することは一体なんだろう?
「…以上が穴取についてわかったことです。」
「了解した。お疲れさん。分からんこともまだ多いが、おかげでとりあえず奴の居場所は割り出せそうだ。」
「先生、それホント?」
「ああ。」
俺はさっき須田がテーブルに広げた地図を指した。
「今回の被害者の遺体が発見された場所、そこを辿ると円の形が出来上がるのはわかった。これは明らかに意図的に施されたもんだ。恐らくその円の中に奴の隠れ家があるんだろう。」
「しかし…ただ円の中ってだけではまだ絞り込めないでしょう。この円、半径5㎞くらいはありますよ。その中の建物全て調べるんですか?」
「慌てんなよ。そこで『ドリームランド』が出てくるわけさ。ドリームランド…。日本語にするとどうなる?」
「えーと…夢の国?」
「夢の国といえば…?」
アカリと須田がしばらく考え込む。しばらく思案した後、アカリが声を上げる。
「わかった!お菓子の家!」
「…違う。」
「お菓子バイキング!」
「違う。」
「じゃあお菓子の…。」
「いい加減お菓子から離れろ!」
…まったく。こいつの夢はお菓子しかないのか。
「…遊園地…でしょうか?」
少し遅れて須田が答えた。
「そう。遊園地だ。お菓子の家でもお菓子バイキングでもなくな。」
「でもこの円の中に遊園地なんか…。」
「いや。一つだけある。それは…。」
と、俺が言いかけた瞬間だった。突然、玄関のドアが開いた。
振り向くと、秋山がこちらを睨みながら立っている。
「秋山…。どうしたんだ?一体。」
「西馬。」
秋山はおもむろに俺に近づき、俺の両手に手錠をかけた。
「!?お、おい!」
「西馬。お前を殺人の容疑で逮捕する。署まで一緒に来てもらおう。」
俺は依然として、奴の所在を掴めていない。情報提供者、ゆりあの証言から「ドリームランド」というところが怪しいと見たんだが…、そんな建物はどこにもなかった。どうやらこれは建物の名前でも団体名でもないようだ。一種の比喩か、あるいは奴が、潜伏しているところを勝手にそう呼んでいるのか、いずれかである。しかし、それがなんなのかはやはり手がかりがないと掴めそうもない…。
「お疲れ様です。西馬さん。」
「先生。調子どう?」
須田とアカリがぞろぞろとやってきた。穴取についての定期報告だ。
「…ダメだ。やはり『ドリームランド』という名前だけじゃ、場所を特定できそうにない。情報提供してくれた女性も分からなかったようだし…。」
「ああ。例の風俗のお姉さんでしたね。」
う…。須田の言葉にどこかトゲを感じる…。
あの日、俺が聞き込みのために風俗に行く、とアカリに言ったのがどうやら須田にも伝わったらしく、以降女性陣から冷たい眼差しを向けられるようになった。3日が経ったところで誤解は解けた(と思いたい)のだが、やはりどこかで根に持ってるように感じてならない。…もっとも、それは俺がどこかで、風俗店に行ったことへの後ろめたさを感じているからかもしれないが。
「…ところで、そっちはどうなんだ?なんか分かったか?」
仕返しとばかりに、アカリと須田に成果を聞く。
今回この二人には、穴取の殺人について調べてもらっていた。関連すると思われる事件の詳細は、須田の元警官のコネを活かして手に入ることもできるし、ネット関係の情報についてはアカリが強い。こういう情報の収集については、悔しいがこの二人の方が上のようだ。
「それがですね。西馬さん。今回の穴取の一連の殺人に、ある特徴が見えてきたんです。」
「ほ、ほう…?」
…どうやら俺の仕返しは失敗したらしい。
「で、その特徴ってのは?」
「はい。その特徴ですが、以前の殺人と違う特徴が3点あります。まずこれを見てください。」
そう言うと須田はテーブルの上に地図を広げた。この付近一帯の地図だ。地図には赤い点が5つマーキングされている。
「この赤い点は?」
「今回の穴取に殺された女性の発見された場所です。遺体は今までと同じくまったくバラバラの場所で発見されてはいるんですが、今回はその場所に規則性かあるんです。」
「規則性?」
「はい。この殺された場所を点にしてなぞってみると…。」
須田はマーキングした点を赤ペンでなぞり始めた。地図の上を滑る赤線は点をなぞる毎に形を帯び始め、やがてそれは一つの円となった。
「…これは。」
「そうです。今回は遺体が地図上で円になるような場所で発見されているんです。それに以前の穴取の犯行だと遺体は廃ビルのなかなどの屋内で見つかっていますが、今回はその全てが屋外で見つかっています。しかも見つかりやすい場所で。」
「…たしかに今までと違う傾向だな。」
……どういうことだろうか?遺体を屋内に隠すのではなく、わざわざ人目の多いところに晒すなんて。まるで見つけて下さい、と言っているようなものだ。
「次に凶器についても違う特徴があります。穴取の犯行の手口は、まずターゲットを眠らせてから殺害に及ぶ、という方法を取ってます。今回の件も同様の手口で行われていると思われるのですが、その眠らせる方法が一致しないんです。」
「というと?」
「まず最初の被害者の遺体からは、『ケタミン』と呼ばれる物質が検出されました。」
「『ケタミン』?」
「麻酔銃などで使われている麻薬物質です。しかも、被害者の遺体から7.62x54mmR弾も摘出されています。これは狙撃銃に用いられる弾薬です。つまり、一番目の被害者は麻酔銃で撃たれて眠らされたと思われます。」
「…麻酔銃だって!?」
奴が銃を扱えるなんて初耳だ。実際、5年前の奴の事件では銃を用いた殺害は一切なかった。
「しかし、他方で二人目の被害者からは『クロロホルム』が検出されています。」
「『クロロホルム』…。さっきと違う麻酔薬だな。」
「ええ。しかもこの被害者からは弾丸は検出されていません。恐らく違う人物によって眠らされたものと思われます。」
「どういうこった…?」
…複数犯か?そういえば、「ナポレオン」でヒカルのやつは言っていた。穴取はルシフェルのとっておきを連れ出した、と。奴がもしそのとっておきとやらに犯行の手助けをさせているとしたら、一体何が狙いだ?
「さて、あともう一つ。これはあまり有効な情報ではないかもしれませんが…。」
須田はそう言って自分のファイルから何枚かの写真を取り出した。
「よく見て下さい。被害者の側に、全て何らかの動物の挿絵が置かれているんです。」
確かに、被害者の遺体の横に小さな動物のイラストが置かれている。
「…これも以前の奴の犯行には無かったな。蛇に牛、狐、蝿、そしてコウモリか。何だろう?」
「分かりません。わざわざこんなものを残して、一体何がしたいんでしょう?」
うーむ…。蛇、牛、狐、蝿、コウモリ…。こいつらに共通することは一体なんだろう?
「…以上が穴取についてわかったことです。」
「了解した。お疲れさん。分からんこともまだ多いが、おかげでとりあえず奴の居場所は割り出せそうだ。」
「先生、それホント?」
「ああ。」
俺はさっき須田がテーブルに広げた地図を指した。
「今回の被害者の遺体が発見された場所、そこを辿ると円の形が出来上がるのはわかった。これは明らかに意図的に施されたもんだ。恐らくその円の中に奴の隠れ家があるんだろう。」
「しかし…ただ円の中ってだけではまだ絞り込めないでしょう。この円、半径5㎞くらいはありますよ。その中の建物全て調べるんですか?」
「慌てんなよ。そこで『ドリームランド』が出てくるわけさ。ドリームランド…。日本語にするとどうなる?」
「えーと…夢の国?」
「夢の国といえば…?」
アカリと須田がしばらく考え込む。しばらく思案した後、アカリが声を上げる。
「わかった!お菓子の家!」
「…違う。」
「お菓子バイキング!」
「違う。」
「じゃあお菓子の…。」
「いい加減お菓子から離れろ!」
…まったく。こいつの夢はお菓子しかないのか。
「…遊園地…でしょうか?」
少し遅れて須田が答えた。
「そう。遊園地だ。お菓子の家でもお菓子バイキングでもなくな。」
「でもこの円の中に遊園地なんか…。」
「いや。一つだけある。それは…。」
と、俺が言いかけた瞬間だった。突然、玄関のドアが開いた。
振り向くと、秋山がこちらを睨みながら立っている。
「秋山…。どうしたんだ?一体。」
「西馬。」
秋山はおもむろに俺に近づき、俺の両手に手錠をかけた。
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