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人形師編
西馬探偵、初の風俗に行く3
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「…さ。聞きたいことがあるんでしょう?とっとと終わらしましょ。」
まりあは無愛想にそう言って、俺の対面に座るやいなや、一服やり始めた。
「わかった。…しかしえらく態度が変わったな。」
「変わった、って何が?」
「い、いや。初めは愛想のいい子だと思ったんだが、『アスモデウス』の名前だした途端に、なんというか雑になったというか…。」
「当たり前だよ。誰だって答えたくない、忘れたい過去ってのがあんだろ?それをあんたが、あたいからほじくり出して聞こうってんだから。不機嫌にもなるさね。」
そう言ってまりあは、話の節目にチョンチョンと灰皿にタバコの灰を落とす。
「あんたには無いの?そういう過去。」
「過去か…。悪いけど無いな。…というより、思い出せない。」
「あんた、記憶がないの?」
「どうやらそうらしい。だから話してくれと言われても話しようがない。…面目無い。」
「…なんで謝んのさ?」
「あんたに嫌な思い出を語らせるのに、俺は何もあんたに話せない。それが申し訳なくて…な。」
ゆりあはしばしポカンとしていたが、やがてケラケラと笑いだした。
「アッハハ…!やっぱりあんた変わってるよ!」
「そ、そうかな?」
「うん。変わってる。変わってるけど…でもいい人だ。」
そう言ってゆりあは、初めに対面した時の優しい表情で微笑んでいた。
「さて、じゃあまず何から聞きたい?」
「あー…質問を始める前に一ついいかい?」
「何?」
「俺が質問をしてる間、俺の手を握ってて欲しい。」
「あら。あんたそういう趣味なの?」
「ち、違う。違う。そうじゃなくて、これには訳があんだよ。話すとややこしいんだが…。」
俺は自分の能力について説明することにした。俺は人体に触れている間、その人の頭に思い浮かんだ記憶の映像が見ることができる。だが、逆を言えば触れていなければ何も見えない。だから聞き込みをする時はいつもその人の手を握って記憶を探る。そういう説明をつらつらとまりあに言って聞かせた。
「…ふうん。なかなか便利な力だねぇ。」
「そうでもない。見たくもないものを見ることだってあるからな。それで若手時代は苦労したもんさ。」
「へぇ…。そういうもんかな。」
さて、説明も終えたところで、俺はゆりあに穴取について尋ねることにした。
「じゃあまず、あんたは穴取を見たことがあるか?」
「穴取…って誰?」
「知らないのか?『アスモデウス』のオーナーの名前だよ。」
「ああ…。それなら…知ってる…よ。忘れるもんか……!」
ゆりあの声が途端に震え始めた。それと同時に俺の視界にも、穴取が映り始める。
……穴取……5年前、俺たちが追っていた時と顔つきはあまり変わらない……そいつがクラブの一室で、全裸でしきりに何かに向けて腰を振っている……どうやら女とお楽しみの最中らしい……両目をかっと見開き、口元は歪な笑みを浮かべて……心なしか、穴取の全身が赤く濡れているように見えた……その穴取の相手の女性は……女性の顔は……
「っ!?」
……その女性には、首が無かった。
穴取は、女性の死体に向かって性行為をしていたのだ。
「ううっ…!」
俺は思わずゆりあの手を振りほどいてしまった。
「…見たんだね?」
「あ、あいつは…一体何を…!」
「何って、あんたが見たとおりさ。あそこのオーナーは客としてあのクラブを利用することもあった。そいつの趣味は…あんたが見ての通りさ。」
「…死体愛好家…。」
「…そうだよ。あいつはあたいたちの客の中でも最低の部類だった。指名された女の子は例外なく殺されてから犯される。あたいたちには抵抗する術はなかった。」
「…よくそんな事がよくまかり通ったな。」
「あそこではそれが通ってしまうのよ。女の子は客のどんな要望にも抵抗してはいけない。…それがどんなに凄惨なプレイでもね。このルールを作ったのは、他ならぬそのオーナー自身よ。」
「…なるほど。納得。」
なぜ穴取の奴がこの5年間鳴りを潜めていたか気になってはいたが、これで合点がいった。奴は闇クラブで秘密裏に殺人を繰り返して自分の欲求を満たしていたんだ。闇クラブならば殺人は公にされず、犯罪とされない。だから好きなだけ自分の趣味を全うできた訳だ。
「…手を払っちまってすまなかった。」
「あら?また謝るの?」
「…ああ。」
「あらあら。こりゃ、帰るまでに何度謝ることになるやらね。」
「何度でも謝るさ。男は女に謝る生き物だからな。」
それを聞いて、ゆりあはまた笑った。
「あんた…やっぱ変わってるよ。」
まりあは無愛想にそう言って、俺の対面に座るやいなや、一服やり始めた。
「わかった。…しかしえらく態度が変わったな。」
「変わった、って何が?」
「い、いや。初めは愛想のいい子だと思ったんだが、『アスモデウス』の名前だした途端に、なんというか雑になったというか…。」
「当たり前だよ。誰だって答えたくない、忘れたい過去ってのがあんだろ?それをあんたが、あたいからほじくり出して聞こうってんだから。不機嫌にもなるさね。」
そう言ってまりあは、話の節目にチョンチョンと灰皿にタバコの灰を落とす。
「あんたには無いの?そういう過去。」
「過去か…。悪いけど無いな。…というより、思い出せない。」
「あんた、記憶がないの?」
「どうやらそうらしい。だから話してくれと言われても話しようがない。…面目無い。」
「…なんで謝んのさ?」
「あんたに嫌な思い出を語らせるのに、俺は何もあんたに話せない。それが申し訳なくて…な。」
ゆりあはしばしポカンとしていたが、やがてケラケラと笑いだした。
「アッハハ…!やっぱりあんた変わってるよ!」
「そ、そうかな?」
「うん。変わってる。変わってるけど…でもいい人だ。」
そう言ってゆりあは、初めに対面した時の優しい表情で微笑んでいた。
「さて、じゃあまず何から聞きたい?」
「あー…質問を始める前に一ついいかい?」
「何?」
「俺が質問をしてる間、俺の手を握ってて欲しい。」
「あら。あんたそういう趣味なの?」
「ち、違う。違う。そうじゃなくて、これには訳があんだよ。話すとややこしいんだが…。」
俺は自分の能力について説明することにした。俺は人体に触れている間、その人の頭に思い浮かんだ記憶の映像が見ることができる。だが、逆を言えば触れていなければ何も見えない。だから聞き込みをする時はいつもその人の手を握って記憶を探る。そういう説明をつらつらとまりあに言って聞かせた。
「…ふうん。なかなか便利な力だねぇ。」
「そうでもない。見たくもないものを見ることだってあるからな。それで若手時代は苦労したもんさ。」
「へぇ…。そういうもんかな。」
さて、説明も終えたところで、俺はゆりあに穴取について尋ねることにした。
「じゃあまず、あんたは穴取を見たことがあるか?」
「穴取…って誰?」
「知らないのか?『アスモデウス』のオーナーの名前だよ。」
「ああ…。それなら…知ってる…よ。忘れるもんか……!」
ゆりあの声が途端に震え始めた。それと同時に俺の視界にも、穴取が映り始める。
……穴取……5年前、俺たちが追っていた時と顔つきはあまり変わらない……そいつがクラブの一室で、全裸でしきりに何かに向けて腰を振っている……どうやら女とお楽しみの最中らしい……両目をかっと見開き、口元は歪な笑みを浮かべて……心なしか、穴取の全身が赤く濡れているように見えた……その穴取の相手の女性は……女性の顔は……
「っ!?」
……その女性には、首が無かった。
穴取は、女性の死体に向かって性行為をしていたのだ。
「ううっ…!」
俺は思わずゆりあの手を振りほどいてしまった。
「…見たんだね?」
「あ、あいつは…一体何を…!」
「何って、あんたが見たとおりさ。あそこのオーナーは客としてあのクラブを利用することもあった。そいつの趣味は…あんたが見ての通りさ。」
「…死体愛好家…。」
「…そうだよ。あいつはあたいたちの客の中でも最低の部類だった。指名された女の子は例外なく殺されてから犯される。あたいたちには抵抗する術はなかった。」
「…よくそんな事がよくまかり通ったな。」
「あそこではそれが通ってしまうのよ。女の子は客のどんな要望にも抵抗してはいけない。…それがどんなに凄惨なプレイでもね。このルールを作ったのは、他ならぬそのオーナー自身よ。」
「…なるほど。納得。」
なぜ穴取の奴がこの5年間鳴りを潜めていたか気になってはいたが、これで合点がいった。奴は闇クラブで秘密裏に殺人を繰り返して自分の欲求を満たしていたんだ。闇クラブならば殺人は公にされず、犯罪とされない。だから好きなだけ自分の趣味を全うできた訳だ。
「…手を払っちまってすまなかった。」
「あら?また謝るの?」
「…ああ。」
「あらあら。こりゃ、帰るまでに何度謝ることになるやらね。」
「何度でも謝るさ。男は女に謝る生き物だからな。」
それを聞いて、ゆりあはまた笑った。
「あんた…やっぱ変わってるよ。」
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