記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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人形師編

暗闇に潜む者

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「う…、うーん…。」
ヒヤリとした感触で、私は目が覚めた。
辺りは真っ暗でよく見えない。
ここは、どこだろう?なんか椅子に座らされているみたいだけど…。
私は確か仕事から帰る途中だったはず。そう、課長の奴がまた私の尻を触ったからいい加減、上に報告してやる!って愚痴ってたのよね。そしたらいきなり誰かに後ろから羽交い締めにされて、変な薬を嗅がされて…。

…!!
私はだんだん、今の状況を理解してきた。
そうだ。私はここに連れ去られてきたんだ。
何が目的か分からないけど、この薄暗い部屋に連れ込んで、私に何かをするつもりなんだ。こうしちゃいられない。ここから一刻も早く逃げ出さないと…!
立ち上がろうとするけど身動きが取れない。両腕、両足、それに体が縛られている。どうすることも出来ない。

…段々目が慣れてきた。
暗闇に何人かの人影が見える。ジッと身じろぎもしないで突っ立っているみたいだけど…。
「ちょっと!あなたね!私をこんな目に合わせたのは!どういうつもりよ!椅子から離しなさいよ!」
私は人影に向かって文句を言ってやった。私の気の強さは筋金入りだ。強姦目的で縛り付けたんなら、〇〇○噛み切ってやる……!
しかし人影は、私の声になんの反応も示さない。返事どころか、驚く様子も見せない。ジッと黙ったまま、姿勢を崩さずに突っ立っている。
「なんとか言いなさいよ!この変態!こっから出れたら警察に突き出してやる…!」


「おやぁ…?目が覚めたかね?」


不意に、暗闇から男の声が聞こえた。だが声の主は人影のものじゃない。もっと奥からだ。
男の声と共に、こちらへ歩むよってくる足音が聞こえる。ゆっくりと、一歩一歩確実に。
と、足音が止んだ。先ほど見えていた人影の前に、男が立ち止まったのだ。暗くてよく見えないが、男は人影の頭を撫でているように見えた。
「…カトリーヌ…。この女の人に詰られたのかい?怖かったねぇ。でももう大丈夫だよ。私がきたからね。」
男は人影に一方的に語りかけている。だが人影からの返事はない。無言のまま男をジッと見つめている。
見つめて…、いや違う!あれは…!

暗闇の中がだんだんと見えてきて分かった。あの人影は…全て人形だ。人形がずらりと並べられているんだ。人形はそれぞれ違うポーズを取ってはいるものの、どれも女性のものばかりだった。私はそれと気づかずに話しかけていたのか…。

「あ、あんた…誰なの?」
人形と話していた男に、私は勇気を振り絞って話しかけた。私の声に気づいた男はゆっくりとこちらを向く。
「…私かい?私はここの主人だよ。そして彼女らはここの住人だ。」
「住人って…人形でしょう?」
「そうだよ。どれも私が手塩にかけてこしらえた逸品ばかりだ。どれもから始めてね…。」
…この男は何かの職人さんなんだろうか?
「それで、私を縛ってどうするつもり?あんたのお人形の鑑賞でもしろっていうの?」
「…いいパーツがね、見つかったんだ。」
男は私の言葉が聞こえないのか、ブツブツと語り始めた。
「今またインスピレーションが浮かんでね…。一度始めたら私はとことんまでやってしまうんだ。完成するまで。」
そう言って男は目の前の人形の頭をまた愛で始めた。
「このカトリーヌにしてもそうだ。最初のを手に入れてから完成まで、実に2ヶ月はかかった。だが後悔はしていないよ。カトリーヌは今こうして美しいままでいられるんだからね。」
「…ちょっとあんた。私の質問に…。」
「人間は儚い。どんなに美しいものでも、年老いてしまえばそれは醜く変化する。だからそうなる前に、保存しなきゃいけないんだ。例えば…。」
突然、男が私の目の前まで歩み寄ってきた。
「君の鼻や、耳のように!」
男は私の首を片手で締め上げる。もう片方の手には糸のこが握られている。その刃先は赤黒く変色していた。
「……!い、嫌…!」
狂ってる。この男は、私の鼻と耳を削ぎ落としたいがために、私を縛り付けたのだ。
よくよく見ると、並ぶ人形達も何処か異様だ。なんだか、妙に生々しいというか、リアルすぎるというか…。まさかこの人形のパーツって、もしかして…!

「…暴れると、綺麗な鼻と耳が台無しになってしまうよ。いけない子だ…。やっぱり君にはおとなしくなってもらおうか。」
そう言って、男は私の首筋に何か注射を打った。

また意識がだんだん遠くなっていく…。
私の最後の記憶は、真っ暗闇の中に響く男の下卑た笑い声だけだった……。
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