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人形師編
呑んだくれ探偵3 ヒカルの依頼を受ける
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「さて…で、僕の依頼は受けてくれるのかな?西馬君。」
ヒカルの奴は、コレクターこと穴取の捜索依頼を受けるよう催促してきた。
酒も進み、最早三杯目。そろそろ話も切り上げたいところだ。
…とは言ったものの、こいつの依頼をすんなり受けてしまってよいものか。俺はまだ決めかねていた。
「まだ悩んでるのかい?相棒を裏切ることがそんなに嫌かい?」
「いや、そうじゃない。……だけど、迷ってるのは確かだ。あんたを本当に信用していいのか……。」
「おいおい。こうやって一緒に酒を飲む仲じゃないか。」
「それとこれは別だ。」
俺のつれない返事に、ため息をつくヒカル。だが事が事なだけに、俺は慎重に進めたかった。
「……秋山を傷つけたくない。俺の相棒が手を汚す前に、できれば俺が始末をつけたい。だがいい加減な情報で振り回されるのはごめんだ。」
「……ごもっとも。でも彼について今一番詳しいのは僕だ。君は僕の持つ情報が喉から手が出るほど欲しい。そうだろう?」
……お見通し、か。
「ああ。そうだ。それは認めるよ。だがその真偽を確かめる方法がない。」
「君には記憶を読む能力があるだろう?」
「あんたもな。ヒカル。あんたには魔眼の力がある。俺が見る記憶にまやかしを入れられるかもしれん。」
「バカな。だいたい僕の魔眼は君の持っている魔除けが無効化するだろう?」
「それを証明する方法は?」
「それは……。」
ヒカルは必死に弁護を試みようとしたようだが言葉にはならず、やがて諦めたのか両手を上げた。
「……無いね。いくら僕が君に魔眼が効かないと言っても、君は否定するだろうし、魔眼自体、非科学的なものだから証明する術もない。……いや参ったね。君はどうすれば納得してくれるんだい?」
「俺は確固たる情報が欲しい。ただそれだけだ。あんた以外に穴取のことを知る人間を紹介してくれ。その情報が確かなら、あんたを信用して依頼を受けよう。」
はあ、とまたしてもヒカルはためいきをつき、空のグラスを前に置いた。
「…もう一杯。」
「俺もだ。」
負けじと俺もおかわりを頼む。これは相棒のための、俺の戦いでもある。奴に何一つとして譲ってたまるか。
「……わかった。できれば君と一緒に捜査したかったんだが仕方ないな。奴のことを知ってる人物を紹介するよ。…これでいいかな?」
…!よし、かかった!
「ああ。そいつの居場所と名前は?」
「本名はわからない。場所も…特定は出来ないな。」
「おいおい。それでどうやってそいつを見つけるんだよ。それともからかってるのか?」
「はは…!いや悪い。言い方が悪かった。彼女の本名はわからないということさ。だが今の源氏名はわかる。」
「源氏名?なんだそりゃ?」
「おや?わからない?ある職業の人が名乗るあだ名みたいなもんだよ。」
「ある職業って?」
「風俗嬢だよ。」
ふうぞ…え…?
「ふうぞくじょう?」
「そう。風俗嬢。君らが追っている穴取はクラブ『アスモデウス』のオーナーだった。アスモデウスは七つの大罪のうち、色欲を司る悪魔…。すなわち、『アスモデウス』は淫売の闇クラブだ。つまり奴について詳しいのは風俗嬢ということで…。」
「そ、そんなことはどうでもいい!それより他に詳しい人物は居ないのか?」
「…?僕が知ってるのは彼女だけだ。それに情報の方は確かだよ。彼女は『アスモデウス』で働いて居た風俗嬢で唯一の生存者だ。あそこの内部事情にも詳しい。」
「あ、いや。おれが言いたいのはそういうことじゃなくてだな…!」
「聞き込みの方法はまず彼女の客として店に入り、彼女に直接聞くといい。えおと名前は…。」
「だ、だから問題はそこじゃなくて…。」
「?金なら僕が負担するよ?風俗の一回や二回、奢るくらいは持ってる。」
「マジでか。…あ、いや、でもやっぱりそれはそのまずいっていうか…。」
「??西馬君、さっきからやけに消極的だな。…待てよ。君、もしかして…。」
…ヤバイ。あれがバレる!バレる…!
「君、もしかして童貞?」
「どどど、童貞ちゃうわっ!!」
…思わず、声を荒げてしまった。
俺の怒鳴り声は静かなバーの部屋全体に響き渡ってしまった。見事な自爆である。なんてこった…。
俺の秘密を見抜いたヒカルはというと、隣でさも可笑しそうに腹を抱えて笑っていた。
「あははは…!」
「な…!何がおかしいんだよっ!別にいいだろ!ど、童貞でもっ!」
「はは…!いや。わるいわるい。その歳で童貞と思わなかったからさ。つい…。」
「こ、こんにゃろ…!」
この恨みはらさでおくべきか…!
いきり立つ俺を、ヒカルは手で制した。顔はまだ憎たらしく笑ったままだが。
「まあ、待ちなよ。風俗店は別にそれをしなきゃいけないってわけじゃない。話をするだけでも構わないんだ。今回はただの聞き込み。君がコンプレックスを感じる必要はないんだ。」
「む…。まあ、そう、だけど…。」
……でも、人目とかさ…気になるよ…。やっぱりさ…。
などと言いたいのはやまやまだが、なおさら自分が情けなくなりそうなのでやめた。
「どうだい?引き受けてくれるかい?」
「……わかったよ。とりあえず聞き込みをしてからだからな。」
「よし。成立だ。」
そうして俺とヒカルはがっしりと握手を交わした。とりあえず、穴取に関する情報源が見つかったのだ。よしとしよう。…風俗店に行くことに、まだ不安と抵抗は拭えないが…。
ヒカルの奴は、コレクターこと穴取の捜索依頼を受けるよう催促してきた。
酒も進み、最早三杯目。そろそろ話も切り上げたいところだ。
…とは言ったものの、こいつの依頼をすんなり受けてしまってよいものか。俺はまだ決めかねていた。
「まだ悩んでるのかい?相棒を裏切ることがそんなに嫌かい?」
「いや、そうじゃない。……だけど、迷ってるのは確かだ。あんたを本当に信用していいのか……。」
「おいおい。こうやって一緒に酒を飲む仲じゃないか。」
「それとこれは別だ。」
俺のつれない返事に、ため息をつくヒカル。だが事が事なだけに、俺は慎重に進めたかった。
「……秋山を傷つけたくない。俺の相棒が手を汚す前に、できれば俺が始末をつけたい。だがいい加減な情報で振り回されるのはごめんだ。」
「……ごもっとも。でも彼について今一番詳しいのは僕だ。君は僕の持つ情報が喉から手が出るほど欲しい。そうだろう?」
……お見通し、か。
「ああ。そうだ。それは認めるよ。だがその真偽を確かめる方法がない。」
「君には記憶を読む能力があるだろう?」
「あんたもな。ヒカル。あんたには魔眼の力がある。俺が見る記憶にまやかしを入れられるかもしれん。」
「バカな。だいたい僕の魔眼は君の持っている魔除けが無効化するだろう?」
「それを証明する方法は?」
「それは……。」
ヒカルは必死に弁護を試みようとしたようだが言葉にはならず、やがて諦めたのか両手を上げた。
「……無いね。いくら僕が君に魔眼が効かないと言っても、君は否定するだろうし、魔眼自体、非科学的なものだから証明する術もない。……いや参ったね。君はどうすれば納得してくれるんだい?」
「俺は確固たる情報が欲しい。ただそれだけだ。あんた以外に穴取のことを知る人間を紹介してくれ。その情報が確かなら、あんたを信用して依頼を受けよう。」
はあ、とまたしてもヒカルはためいきをつき、空のグラスを前に置いた。
「…もう一杯。」
「俺もだ。」
負けじと俺もおかわりを頼む。これは相棒のための、俺の戦いでもある。奴に何一つとして譲ってたまるか。
「……わかった。できれば君と一緒に捜査したかったんだが仕方ないな。奴のことを知ってる人物を紹介するよ。…これでいいかな?」
…!よし、かかった!
「ああ。そいつの居場所と名前は?」
「本名はわからない。場所も…特定は出来ないな。」
「おいおい。それでどうやってそいつを見つけるんだよ。それともからかってるのか?」
「はは…!いや悪い。言い方が悪かった。彼女の本名はわからないということさ。だが今の源氏名はわかる。」
「源氏名?なんだそりゃ?」
「おや?わからない?ある職業の人が名乗るあだ名みたいなもんだよ。」
「ある職業って?」
「風俗嬢だよ。」
ふうぞ…え…?
「ふうぞくじょう?」
「そう。風俗嬢。君らが追っている穴取はクラブ『アスモデウス』のオーナーだった。アスモデウスは七つの大罪のうち、色欲を司る悪魔…。すなわち、『アスモデウス』は淫売の闇クラブだ。つまり奴について詳しいのは風俗嬢ということで…。」
「そ、そんなことはどうでもいい!それより他に詳しい人物は居ないのか?」
「…?僕が知ってるのは彼女だけだ。それに情報の方は確かだよ。彼女は『アスモデウス』で働いて居た風俗嬢で唯一の生存者だ。あそこの内部事情にも詳しい。」
「あ、いや。おれが言いたいのはそういうことじゃなくてだな…!」
「聞き込みの方法はまず彼女の客として店に入り、彼女に直接聞くといい。えおと名前は…。」
「だ、だから問題はそこじゃなくて…。」
「?金なら僕が負担するよ?風俗の一回や二回、奢るくらいは持ってる。」
「マジでか。…あ、いや、でもやっぱりそれはそのまずいっていうか…。」
「??西馬君、さっきからやけに消極的だな。…待てよ。君、もしかして…。」
…ヤバイ。あれがバレる!バレる…!
「君、もしかして童貞?」
「どどど、童貞ちゃうわっ!!」
…思わず、声を荒げてしまった。
俺の怒鳴り声は静かなバーの部屋全体に響き渡ってしまった。見事な自爆である。なんてこった…。
俺の秘密を見抜いたヒカルはというと、隣でさも可笑しそうに腹を抱えて笑っていた。
「あははは…!」
「な…!何がおかしいんだよっ!別にいいだろ!ど、童貞でもっ!」
「はは…!いや。わるいわるい。その歳で童貞と思わなかったからさ。つい…。」
「こ、こんにゃろ…!」
この恨みはらさでおくべきか…!
いきり立つ俺を、ヒカルは手で制した。顔はまだ憎たらしく笑ったままだが。
「まあ、待ちなよ。風俗店は別にそれをしなきゃいけないってわけじゃない。話をするだけでも構わないんだ。今回はただの聞き込み。君がコンプレックスを感じる必要はないんだ。」
「む…。まあ、そう、だけど…。」
……でも、人目とかさ…気になるよ…。やっぱりさ…。
などと言いたいのはやまやまだが、なおさら自分が情けなくなりそうなのでやめた。
「どうだい?引き受けてくれるかい?」
「……わかったよ。とりあえず聞き込みをしてからだからな。」
「よし。成立だ。」
そうして俺とヒカルはがっしりと握手を交わした。とりあえず、穴取に関する情報源が見つかったのだ。よしとしよう。…風俗店に行くことに、まだ不安と抵抗は拭えないが…。
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