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人形師編
逡巡する秋山
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…結局、その日は奴に関する資料が見つからず、「コレクター」についての具体的な対策も立たないまま解散することになった。…くそっ。西馬の奴め。
……落ち着かない。
何かに当たらずにはいられない。じっとしているのがもどかしい。奴を捕まえられないで苛立っているのが自分でもわかる。
5年もの間、追い続けた奴がもう目の前まで来ている。なのに俺は何も手出しができないなんて……!
「くそっ!」
俺は思い切り電柱を殴りつけた。
拳からは血が流れ、激痛が走ったが今は気にもならない。
早く、早く奴を見つけないと…!
……そうして俺は自宅に帰ってきた。
あの日から、色を無くした家…。
俺は上着を脱ぎ、仏壇の妻へ今日あったことの報告をする。
「ただいま。…今、やっとお前を殺した奴が現れたよ。お前の仇を、やっと討つことができる。あと少し、辛抱してくれ……。」
遺影の中の妻は、10年前のあの日のまま、俺に無言で笑いかけた。……いつからか、これが日課になってしまった。毎日の仕事の合間、奴を追い、なんの成果もなかったことを遺影の妻へ語る。そんな虚しい日々が何年も続いた。
だが、それももう間も無く終わるんだ……。俺を「恨み」という名の呪縛で縛り続けた奴がやっと現れた。必ず、必ず妻の報いを受けさせてやる……!
「……ん?」
気のせいか、遺影の妻が泣いているように見えた。嬉し涙ではない。なんだか俺を憐れむような、悲しそうな顔で……。
……いや。錯覚だ。そんなはずなんてない。
「……そうさ。お前が悲しむ理由なんてない。そうだろう?」
俺は遺影の妻へ話しかける。妻は、いつもの笑顔のまま、何も答えない。
俺は一人きりの家の中で独り言を言う自分の滑稽さに苦笑いした。
「……何をしてるんだ。俺は。こうしちゃおれん。こうなったら俺だけでも奴を探さんと…。」
仏壇の妻への報告を終えて俺は立ち上がる。その時…。
ぱたん。
仏壇の横に飾ってあった一枚の絵が、倒れて床に落ちた。
拾い上げて見てみる。そこには「とうちゃんだいすき」という文字と共に、画用紙一杯に、一人の似顔絵が描かれていた。
……りえちゃんが描いた、俺の似顔絵だ。
似顔絵の中の俺は、溢れんばかりの笑顔をしていた。…そうだ。この家はずっと無色だった訳ではなかった。少しの間だったが、ほんの少し、「幸せな色」があった。りえちゃんという「幸せな色」が……。
「…りえちゃん…。」
今の俺は……この似顔絵のように笑っているだろうか?もし奴を殺したら、いつものように、りえちゃんに笑ってあげられるんだろうか?
「……だけど、だけどよ……!」
憎い。俺は奴が憎い。
だが、奴を殺せば俺は「人殺し」になる。もう、今までの日常には戻れない。
…どうしようもない葛藤が涙となって、俺の目から零れ落ちる。くしゃくしゃになってしまった俺の笑顔の似顔絵の上に、一滴、また一滴と零れ落ちる…。
……落ち着かない。
何かに当たらずにはいられない。じっとしているのがもどかしい。奴を捕まえられないで苛立っているのが自分でもわかる。
5年もの間、追い続けた奴がもう目の前まで来ている。なのに俺は何も手出しができないなんて……!
「くそっ!」
俺は思い切り電柱を殴りつけた。
拳からは血が流れ、激痛が走ったが今は気にもならない。
早く、早く奴を見つけないと…!
……そうして俺は自宅に帰ってきた。
あの日から、色を無くした家…。
俺は上着を脱ぎ、仏壇の妻へ今日あったことの報告をする。
「ただいま。…今、やっとお前を殺した奴が現れたよ。お前の仇を、やっと討つことができる。あと少し、辛抱してくれ……。」
遺影の中の妻は、10年前のあの日のまま、俺に無言で笑いかけた。……いつからか、これが日課になってしまった。毎日の仕事の合間、奴を追い、なんの成果もなかったことを遺影の妻へ語る。そんな虚しい日々が何年も続いた。
だが、それももう間も無く終わるんだ……。俺を「恨み」という名の呪縛で縛り続けた奴がやっと現れた。必ず、必ず妻の報いを受けさせてやる……!
「……ん?」
気のせいか、遺影の妻が泣いているように見えた。嬉し涙ではない。なんだか俺を憐れむような、悲しそうな顔で……。
……いや。錯覚だ。そんなはずなんてない。
「……そうさ。お前が悲しむ理由なんてない。そうだろう?」
俺は遺影の妻へ話しかける。妻は、いつもの笑顔のまま、何も答えない。
俺は一人きりの家の中で独り言を言う自分の滑稽さに苦笑いした。
「……何をしてるんだ。俺は。こうしちゃおれん。こうなったら俺だけでも奴を探さんと…。」
仏壇の妻への報告を終えて俺は立ち上がる。その時…。
ぱたん。
仏壇の横に飾ってあった一枚の絵が、倒れて床に落ちた。
拾い上げて見てみる。そこには「とうちゃんだいすき」という文字と共に、画用紙一杯に、一人の似顔絵が描かれていた。
……りえちゃんが描いた、俺の似顔絵だ。
似顔絵の中の俺は、溢れんばかりの笑顔をしていた。…そうだ。この家はずっと無色だった訳ではなかった。少しの間だったが、ほんの少し、「幸せな色」があった。りえちゃんという「幸せな色」が……。
「…りえちゃん…。」
今の俺は……この似顔絵のように笑っているだろうか?もし奴を殺したら、いつものように、りえちゃんに笑ってあげられるんだろうか?
「……だけど、だけどよ……!」
憎い。俺は奴が憎い。
だが、奴を殺せば俺は「人殺し」になる。もう、今までの日常には戻れない。
…どうしようもない葛藤が涙となって、俺の目から零れ落ちる。くしゃくしゃになってしまった俺の笑顔の似顔絵の上に、一滴、また一滴と零れ落ちる…。
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