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死神編
囮作戦
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田口洋子のつぶやきから「死神」を名乗る人物にぶち当たった俺たちは、そいつの身元を調べる策を考えていた。
「この二人のやりとりから身元を調べられないか?」
「ダメです。始めの挨拶から何度かやりとりした後のつぶやきが公開されていません。恐らく、具体的な待ち合わせ場所などの話は非公開で連絡を取り合ってると思われます。」
「こいつのアカウントの住所とかは?」
「個人情報は本人以外では確認できないようです。調べられません。」
「むぅ…。」
…何か手は無いのか?早くしないと洋子さんの命が危ない…!
「…ねえ。この人、自殺したいって言ってる人に寄ってきてるんだよね?」
アカリが何か思いついたのか、不意に声を上げた。
「私たちの誰かが、自殺したい人に成りすます…ってのはどう?」
「つまり…囮か。」
コクリとアカリはうなづいた。
「こっちが追うより向こうが来てくれた方が早い…そうでしょ?」
…まあ、一理あるが…。
「…とはいえ、その囮役は誰がやるんだ?」
「はーい!私がやりまーす!」
…やっぱりか。
「ダーメーだ!お前のパソコンから身元が割れるかもしんないんだぞ!絶対ダメ!」
「えー!ヤダヤダ!囮やりたい!やりたい!」
「ダメと言ったらダメ!」
…全く子供なんだから…。
「…しかし、囮作戦そのものはいいですね。上手くいけば確実にこの死神に近づける。」
「…まあな。問題は誰が囮役をやるかだが…。」
「だからわたしが…。」
「却下。」
にべもなく断った俺を、アカリは頰をプクーッとふくらませて睨みつけている。
「…分かりました。わたしがやります。」
「お!須田、やってくれるのか?」
「私なら闇クラブの奴らにもマークされてないはず。囮をしても問題ありません。西馬さんはパソコンも携帯も持ってませんしね。それに、そもそも私にさせるつもりだったんでしょう?」
ちっ…ばれたか。
かくして我らが西馬探偵チームの「囮作戦」が決行された。
と言っても内容は、主に須田が件のSNSを用いて「死にたい」とつぶやき続けるといういたってシンプルな作戦だ。須田は毎日のようにこの書き込みを続け、「死神」が食いついてくるのを待つ。しかし、相手はなかなか慎重なようだ。1日や2日じゃ、なかなか尻尾を出さない。
「まあ、捜査は忍耐です。こちらは任せてください。」
須田のやつはなかなか結果の出ない作戦にもめげず、いつになく頼もしいセリフを吐いていた。
もちろんその間俺とアカリが暇してる訳じゃない。俺とアカリは「死神」の動向について調べていた。
奴は須田の情報通り、自殺したいとつぶやく人間にやたらとコンタクトを取っているようだ。
『自殺は首吊りが一番楽な方法です。でも中途半端なやり方だと苦しむだけです。やり方を知りたい方はご連絡ください。』
『死にたいと思っている人のお役にたちたい。』
…奴のつぶやく内容は、どれも薄ら寒くなるものだった。
奴は自殺を推奨し、自殺したい者を探し回っている。洋子さん以外の人間にも同様に接触し、自殺をするという話がまとまった後は個人でやり取りしている。そこから先はどのような連絡を取り合っているのかわからないが、この死神は恐らくどこかで待ち合わせて、その人間の願いを叶えているんだろう。
だが一方で、冷やかしや中途半端な意思の者には諭す場面もあった。一見、人格者と思わせるこの行動も、よくよく考えると狡猾な一面を窺わせる。この自殺の手助けというのは、刑法202条「自殺関与及び同意殺人罪」の中の自殺幇助罪にあたり、公にされればその時点で逮捕されてしまう。奴のこの言動はこういったトラブルを避けるためのもの、と取ることもできる。そうだとすればつくづくしたたかな奴だ。
作戦開始から一週間。
須田からようやく朗報がやって来た。
「西馬さん。お待たせしました。『死神』が、かかりましたよ。」
「この二人のやりとりから身元を調べられないか?」
「ダメです。始めの挨拶から何度かやりとりした後のつぶやきが公開されていません。恐らく、具体的な待ち合わせ場所などの話は非公開で連絡を取り合ってると思われます。」
「こいつのアカウントの住所とかは?」
「個人情報は本人以外では確認できないようです。調べられません。」
「むぅ…。」
…何か手は無いのか?早くしないと洋子さんの命が危ない…!
「…ねえ。この人、自殺したいって言ってる人に寄ってきてるんだよね?」
アカリが何か思いついたのか、不意に声を上げた。
「私たちの誰かが、自殺したい人に成りすます…ってのはどう?」
「つまり…囮か。」
コクリとアカリはうなづいた。
「こっちが追うより向こうが来てくれた方が早い…そうでしょ?」
…まあ、一理あるが…。
「…とはいえ、その囮役は誰がやるんだ?」
「はーい!私がやりまーす!」
…やっぱりか。
「ダーメーだ!お前のパソコンから身元が割れるかもしんないんだぞ!絶対ダメ!」
「えー!ヤダヤダ!囮やりたい!やりたい!」
「ダメと言ったらダメ!」
…全く子供なんだから…。
「…しかし、囮作戦そのものはいいですね。上手くいけば確実にこの死神に近づける。」
「…まあな。問題は誰が囮役をやるかだが…。」
「だからわたしが…。」
「却下。」
にべもなく断った俺を、アカリは頰をプクーッとふくらませて睨みつけている。
「…分かりました。わたしがやります。」
「お!須田、やってくれるのか?」
「私なら闇クラブの奴らにもマークされてないはず。囮をしても問題ありません。西馬さんはパソコンも携帯も持ってませんしね。それに、そもそも私にさせるつもりだったんでしょう?」
ちっ…ばれたか。
かくして我らが西馬探偵チームの「囮作戦」が決行された。
と言っても内容は、主に須田が件のSNSを用いて「死にたい」とつぶやき続けるといういたってシンプルな作戦だ。須田は毎日のようにこの書き込みを続け、「死神」が食いついてくるのを待つ。しかし、相手はなかなか慎重なようだ。1日や2日じゃ、なかなか尻尾を出さない。
「まあ、捜査は忍耐です。こちらは任せてください。」
須田のやつはなかなか結果の出ない作戦にもめげず、いつになく頼もしいセリフを吐いていた。
もちろんその間俺とアカリが暇してる訳じゃない。俺とアカリは「死神」の動向について調べていた。
奴は須田の情報通り、自殺したいとつぶやく人間にやたらとコンタクトを取っているようだ。
『自殺は首吊りが一番楽な方法です。でも中途半端なやり方だと苦しむだけです。やり方を知りたい方はご連絡ください。』
『死にたいと思っている人のお役にたちたい。』
…奴のつぶやく内容は、どれも薄ら寒くなるものだった。
奴は自殺を推奨し、自殺したい者を探し回っている。洋子さん以外の人間にも同様に接触し、自殺をするという話がまとまった後は個人でやり取りしている。そこから先はどのような連絡を取り合っているのかわからないが、この死神は恐らくどこかで待ち合わせて、その人間の願いを叶えているんだろう。
だが一方で、冷やかしや中途半端な意思の者には諭す場面もあった。一見、人格者と思わせるこの行動も、よくよく考えると狡猾な一面を窺わせる。この自殺の手助けというのは、刑法202条「自殺関与及び同意殺人罪」の中の自殺幇助罪にあたり、公にされればその時点で逮捕されてしまう。奴のこの言動はこういったトラブルを避けるためのもの、と取ることもできる。そうだとすればつくづくしたたかな奴だ。
作戦開始から一週間。
須田からようやく朗報がやって来た。
「西馬さん。お待たせしました。『死神』が、かかりましたよ。」
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