記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

文字の大きさ
上 下
79 / 188
死神編

囮作戦

しおりを挟む
田口洋子のつぶやきから「死神」を名乗る人物にぶち当たった俺たちは、そいつの身元を調べる策を考えていた。

「この二人のやりとりから身元を調べられないか?」
「ダメです。始めの挨拶から何度かやりとりした後のつぶやきが公開されていません。恐らく、具体的な待ち合わせ場所などの話は非公開で連絡を取り合ってると思われます。」
「こいつのアカウントの住所とかは?」
「個人情報は本人以外では確認できないようです。調べられません。」
「むぅ…。」
…何か手は無いのか?早くしないと洋子さんの命が危ない…!

「…ねえ。この人、自殺したいって言ってる人に寄ってきてるんだよね?」
アカリが何か思いついたのか、不意に声を上げた。
「私たちの誰かが、自殺したい人に成りすます…ってのはどう?」
「つまり…おとりか。」
コクリとアカリはうなづいた。
「こっちが追うより向こうが来てくれた方が早い…そうでしょ?」
…まあ、一理あるが…。
「…とはいえ、その囮役は誰がやるんだ?」
「はーい!私がやりまーす!」
…やっぱりか。
「ダーメーだ!お前のパソコンから身元が割れるかもしんないんだぞ!絶対ダメ!」
「えー!ヤダヤダ!囮やりたい!やりたい!」
「ダメと言ったらダメ!」
…全く子供なんだから…。

「…しかし、囮作戦そのものはいいですね。上手くいけば確実にこの死神に近づける。」
「…まあな。問題は誰が囮役をやるかだが…。」
「だからわたしが…。」
「却下。」
にべもなく断った俺を、アカリは頰をプクーッとふくらませて睨みつけている。
「…分かりました。わたしがやります。」
「お!須田、やってくれるのか?」
「私なら闇クラブの奴らにもマークされてないはず。囮をしても問題ありません。西馬さんはパソコンも携帯も持ってませんしね。それに、そもそも私にさせるつもりだったんでしょう?」
ちっ…ばれたか。


かくして我らが西馬探偵チームの「囮作戦」が決行された。
と言っても内容は、主に須田が件のSNSを用いて「死にたい」とつぶやき続けるといういたってシンプルな作戦だ。須田は毎日のようにこの書き込みを続け、「死神」が食いついてくるのを待つ。しかし、相手はなかなか慎重なようだ。1日や2日じゃ、なかなか尻尾を出さない。
「まあ、捜査は忍耐です。こちらは任せてください。」
須田のやつはなかなか結果の出ない作戦にもめげず、いつになく頼もしいセリフを吐いていた。

もちろんその間俺とアカリが暇してる訳じゃない。俺とアカリは「死神」の動向について調べていた。
奴は須田の情報通り、自殺したいとつぶやく人間にやたらとコンタクトを取っているようだ。

『自殺は首吊りが一番楽な方法です。でも中途半端なやり方だと苦しむだけです。やり方を知りたい方はご連絡ください。』
『死にたいと思っている人のお役にたちたい。』

…奴のつぶやく内容は、どれも薄ら寒くなるものだった。
奴は自殺を推奨し、自殺したい者を探し回っている。洋子さん以外の人間にも同様に接触し、自殺をするという話がまとまった後は個人でやり取りしている。そこから先はどのような連絡を取り合っているのかわからないが、この死神は恐らくどこかで待ち合わせて、その人間のんだろう。
だが一方で、冷やかしや中途半端な意思の者には諭す場面もあった。一見、人格者と思わせるこの行動も、よくよく考えると狡猾な一面を窺わせる。この自殺の手助けというのは、刑法202条「自殺関与及び同意殺人罪」の中の自殺幇助罪にあたり、公にされればその時点で逮捕されてしまう。奴のこの言動はこういったトラブルを避けるためのもの、と取ることもできる。そうだとすればつくづくしたたかな奴だ。


作戦開始から一週間。
須田からようやく朗報がやって来た。
「西馬さん。お待たせしました。『死神』が、かかりましたよ。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...