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死神編
死神
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H大学を後にした俺たちは、依頼人の洋一さんに聞いた洋子さんの自宅に来ていた。
「あー、この子?最近見ないわねぇ。」
「そうですか…。」
学生寮の大家さんに写真を見せて行方を聞いたが、やはり知らないとの事だった。
「この子がどうかしたの?」
「はい。この子のお父さんが行方を捜しているんです。何か、心当たりとかないですか?」
「そんなこといわれてもねぇ…。この子とはあんまり話さないもんだから。」
俺は大家さんから写真を受け取った。その際、写真を持つ手に触れて大家さんの記憶を探ってみた。
瞬きをする一瞬、記憶の映像がまぶたの裏に映る…。
…そこには俯いたまま目の前を通り過ぎる田口洋子さんの姿があった。
「なんなら隣の部屋の人に聞いてみたらどうだい?」
「はあ…。どうもありがとうございます。」
「この子?あー、隣の。…さあね。最近帰ってないみたいだけど…。」
「そうですか…。この子の行きそうなとことか、ご存知ないですか?」
「知らないよ。話したこともないんだから分かるわけないだろ。」
俺は先ほどと同様、写真を持つ手に触れて記憶を探ってみた。
…田口洋子さんだ。やはりこちらを避けるように顔を背け、急ぎ足で通り過ぎる様子が見える…。
「わかりました。…どうもすみません。」
隣の部屋の住人もよく知らないらしい。…これは参ったな。
「どうなってんだろ?こんなに人が居るのに洋子さんのこと、誰一人よく知る人がいないなんて。」
「…彼らの記憶を探ってみたよ。洋子さんはどうも人付き合いが苦手だったようだ。」
「どういうこと?」
「さっきの大学の時もそうだったが、洋子さんの周りの人の記憶に彼女がこちらに顔を向けて話す映像が映っていない。大抵、人の記憶を思い出す時はその人の最も印象的なシーンを思い浮かべるもんだ。彼女が近くにいる記憶がない、ということは恐らく彼女はほとんど誰とも喋らなかったんだろう。」
「そんな…。洋子さん、この街でずっと一人ぼっちだったってこと?」
「ああ…。」
…知り合いもいない街。誰とも話すこともできず、悩みを打ち明けることもできず、分かり合えることもできず、ただただ孤独に耐える日々。彼女にとってどれほどの苦痛だったのか。想像に難くない。
「…とにかく、これでこちらの手がかりは尽きた。あとは自宅を調べるって手もあるが、警察の令状でもない限り勝手には調べられんしな…。今日のところはこんなものか。後日、依頼人の洋一さんに頼んで、洋子さんの部屋に入れさせて貰おう…。」
『お前を蝋人形にしてやろうか!?』
「っ!?」
突然、ブラウン管で聞き覚えのある声がどこからともなく聞こえてきた。その声はやがて懐かしい曲へと変わっていき…。
「あ、先生ごめん。須田さんから電話きた。」
…お前の着メロか。趣味悪いな。
「もしもし?須田さん?…うん。…うん。」
しばらくアカリは須田と話し続けた後、俺に電話を渡してきた。
「先生。須田さんが洋子さんのことで緊急で伝えたいことがあるって。」
「何かわかったのか。」
俺はアカリと電話を代わった。
「もしもし。俺だ。」
「西馬さんですね?私です。須田です。洋子さんのSNSでの書き込みを調べてたんですが…急がないとまずいかもしれません。」
「まずい?どういうこった?」
「結論から言います。洋子さんは自殺しようとしてるかもしれないんです。」
「なんだって!?」
「詳しい説明はあとで。一度事務所で落ち合いましょう。」
「…わかった。」
そう言って俺は電話を切った。
「須田さんは何て?」
「…洋子さんが自殺するかもしれんらしい。」
「え!?」
「とにかく事務所に戻ろう。作戦の練り直しだ。急ぐぞ。」
…と言う訳で事務所に戻ってきた俺たち。須田はすでに事務所の中で俺たちを待っていた。
「遅かったですね。」
「悪いな。電車でちょいと事故があったんだ。それで洋子さんが自殺するかもしれないというのは?」
「これを見てください。」
須田は自分の携帯を俺たちに差し出した。画面にはSNSのサイトらしきページが映っている。
「これは?」
「田口洋子さんが利用していたとみられるSNSです。ここで毎日のように書き込みをしているのが確認できます。」
ページはその田口洋子さんのものらしい。なるほど。たしかに毎日のように「つぶやき」を書き込んでいる。内容は、~を買ったとか、~をした、のようなたわいない内容だ。だが最近の書き込みには…。
『死にたい』
ただこれだけが延々と書き込まれていた。
「これは…たしかに緊急事態だな。何とかして行方を探さんと…。」
「その行方についてなんですが…、この洋子さんの書き込みにコンタクトしてきた人物がいるんです。」
「なに?」
須田はページを変えてまた画面を俺に見せてきた。ページには次のように書かれていた。
田口洋子『死にたい。』
死神『どんな風に死にたいの?』
田口洋子『あなたは?』
死神『私はあなたのような人に楽な死に方を紹介している者です。良ければお教えしますよ。』
「…なんだ?この死神ってやつは。」
「アカウント元を調べたんですが、どうやらSNSを通して、自殺志願者を募ったり、自殺の方法を教授している人物のようなんです。その後、洋子さんはこの死神と連絡を取り合い、以降の書き込みは途絶えています。」
「つまり…この死神に殺された?」
「あるいは軟禁されている可能性もあります。とにかく急いでこの男の身元を調べないと、取り返しのつかないことになるかもしれません。」
「…わかった。急ごう。」
…世間に馴染めず自殺を求める者。
…その自殺を教唆する者。
現代社会の抱える闇に、今俺たちは挑もうとしていた。
「あー、この子?最近見ないわねぇ。」
「そうですか…。」
学生寮の大家さんに写真を見せて行方を聞いたが、やはり知らないとの事だった。
「この子がどうかしたの?」
「はい。この子のお父さんが行方を捜しているんです。何か、心当たりとかないですか?」
「そんなこといわれてもねぇ…。この子とはあんまり話さないもんだから。」
俺は大家さんから写真を受け取った。その際、写真を持つ手に触れて大家さんの記憶を探ってみた。
瞬きをする一瞬、記憶の映像がまぶたの裏に映る…。
…そこには俯いたまま目の前を通り過ぎる田口洋子さんの姿があった。
「なんなら隣の部屋の人に聞いてみたらどうだい?」
「はあ…。どうもありがとうございます。」
「この子?あー、隣の。…さあね。最近帰ってないみたいだけど…。」
「そうですか…。この子の行きそうなとことか、ご存知ないですか?」
「知らないよ。話したこともないんだから分かるわけないだろ。」
俺は先ほどと同様、写真を持つ手に触れて記憶を探ってみた。
…田口洋子さんだ。やはりこちらを避けるように顔を背け、急ぎ足で通り過ぎる様子が見える…。
「わかりました。…どうもすみません。」
隣の部屋の住人もよく知らないらしい。…これは参ったな。
「どうなってんだろ?こんなに人が居るのに洋子さんのこと、誰一人よく知る人がいないなんて。」
「…彼らの記憶を探ってみたよ。洋子さんはどうも人付き合いが苦手だったようだ。」
「どういうこと?」
「さっきの大学の時もそうだったが、洋子さんの周りの人の記憶に彼女がこちらに顔を向けて話す映像が映っていない。大抵、人の記憶を思い出す時はその人の最も印象的なシーンを思い浮かべるもんだ。彼女が近くにいる記憶がない、ということは恐らく彼女はほとんど誰とも喋らなかったんだろう。」
「そんな…。洋子さん、この街でずっと一人ぼっちだったってこと?」
「ああ…。」
…知り合いもいない街。誰とも話すこともできず、悩みを打ち明けることもできず、分かり合えることもできず、ただただ孤独に耐える日々。彼女にとってどれほどの苦痛だったのか。想像に難くない。
「…とにかく、これでこちらの手がかりは尽きた。あとは自宅を調べるって手もあるが、警察の令状でもない限り勝手には調べられんしな…。今日のところはこんなものか。後日、依頼人の洋一さんに頼んで、洋子さんの部屋に入れさせて貰おう…。」
『お前を蝋人形にしてやろうか!?』
「っ!?」
突然、ブラウン管で聞き覚えのある声がどこからともなく聞こえてきた。その声はやがて懐かしい曲へと変わっていき…。
「あ、先生ごめん。須田さんから電話きた。」
…お前の着メロか。趣味悪いな。
「もしもし?須田さん?…うん。…うん。」
しばらくアカリは須田と話し続けた後、俺に電話を渡してきた。
「先生。須田さんが洋子さんのことで緊急で伝えたいことがあるって。」
「何かわかったのか。」
俺はアカリと電話を代わった。
「もしもし。俺だ。」
「西馬さんですね?私です。須田です。洋子さんのSNSでの書き込みを調べてたんですが…急がないとまずいかもしれません。」
「まずい?どういうこった?」
「結論から言います。洋子さんは自殺しようとしてるかもしれないんです。」
「なんだって!?」
「詳しい説明はあとで。一度事務所で落ち合いましょう。」
「…わかった。」
そう言って俺は電話を切った。
「須田さんは何て?」
「…洋子さんが自殺するかもしれんらしい。」
「え!?」
「とにかく事務所に戻ろう。作戦の練り直しだ。急ぐぞ。」
…と言う訳で事務所に戻ってきた俺たち。須田はすでに事務所の中で俺たちを待っていた。
「遅かったですね。」
「悪いな。電車でちょいと事故があったんだ。それで洋子さんが自殺するかもしれないというのは?」
「これを見てください。」
須田は自分の携帯を俺たちに差し出した。画面にはSNSのサイトらしきページが映っている。
「これは?」
「田口洋子さんが利用していたとみられるSNSです。ここで毎日のように書き込みをしているのが確認できます。」
ページはその田口洋子さんのものらしい。なるほど。たしかに毎日のように「つぶやき」を書き込んでいる。内容は、~を買ったとか、~をした、のようなたわいない内容だ。だが最近の書き込みには…。
『死にたい』
ただこれだけが延々と書き込まれていた。
「これは…たしかに緊急事態だな。何とかして行方を探さんと…。」
「その行方についてなんですが…、この洋子さんの書き込みにコンタクトしてきた人物がいるんです。」
「なに?」
須田はページを変えてまた画面を俺に見せてきた。ページには次のように書かれていた。
田口洋子『死にたい。』
死神『どんな風に死にたいの?』
田口洋子『あなたは?』
死神『私はあなたのような人に楽な死に方を紹介している者です。良ければお教えしますよ。』
「…なんだ?この死神ってやつは。」
「アカウント元を調べたんですが、どうやらSNSを通して、自殺志願者を募ったり、自殺の方法を教授している人物のようなんです。その後、洋子さんはこの死神と連絡を取り合い、以降の書き込みは途絶えています。」
「つまり…この死神に殺された?」
「あるいは軟禁されている可能性もあります。とにかく急いでこの男の身元を調べないと、取り返しのつかないことになるかもしれません。」
「…わかった。急ごう。」
…世間に馴染めず自殺を求める者。
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現代社会の抱える闇に、今俺たちは挑もうとしていた。
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