69 / 188
花園編
一方の秋山 決着と再会
しおりを挟む
「ぐうぉっ…!?」
血反吐を吐きながら、秋山はまたしても激しく壁に叩きつけられた。葉月の「弾幕蹴り」(秋山が勝手に命名)に未だ攻略の糸口が見えないのだ。しかし、秋山にはただひたすら葉月に突っ込んでいく、という稚拙な策しか思い浮かばなかった。
「くそっ…たれがぁっ!」
もうこれで何度目の突進になるのか、秋山はまた葉月に向かっていった。葉月はまた秋山の全身に無数の蹴りを浴びせ、難なくまた弾き飛ばした。
「…全く、あなたの頑丈さと単純さには呆れましたねえ。もう少し楽しめるかと思ったのですが、ただただ捨て身の突撃するしか能がないとは…。」
半ばうんざりといった表情で葉月はため息をつき、腕時計を見やった。
「羽鳥様の明日のスケジュールもつかえている。悪いがお相手できるのはここまでです。」
「…なんだと?」
「そろそろ始末させていただきます。」
そうして葉月は長い脚で踏み込み、秋山の間合いにまで一気に近づいてきた。
「終わりです…。」
葉月は再び「弾幕蹴り」をゼロ距離で仕掛けて来た。
「この至近距離では竹田の時のような投げ技は出来ん!後方は壁!逃げ場もない!覚悟!」
無数の蹴りが秋山に襲いかかる…!
「…ありがたい…!まさかそっちから近づいて来てくれるとはな…!」
秋山はすかさず葉月の胸ぐらを掴み、自分の近くに引き寄せた。そのまま左足を前方に踏み出し、右足を大きく前に振り上げた後、葉月の軸足である右足を刈った。
いわゆる「大外刈り」の形である。
「うっ!?」
たまらず後頭部から倒れる葉月。その隙を見逃さず、秋山は倒れた葉月の首筋を腕で抱え込んだ。
「…き…さま…!まだそんな…力…が…!」
「このまま…落ちろ…!」
葉月はしばらく抵抗したが甲斐無く、やがてグッタリとしてしまった。気を失ったようである。
「ブハァッ!!どうだ!勝ったぞ!畜生め!」
息も絶え絶えに勝鬨を叫ぶ秋山。しかしすぐさまその場にへたれこんでしまった。
「…さすがに…。ハア…ハア…。しんどい…!ハア…ハア…。しばらく…動くのは…無理そうだ…!」
しばしの休息を図る秋山。しかしそれも虚しく、廊下の奥から黒服の男が近づいて来ているのが見えた。
(…畜生…!もうまともに動けねえ…!ここまでか…!)
近づいてくる男の奥にも二人ばかり人影が見える。最早ここまでと覚悟を決めた秋山…だったのだが。
「ひっ…!く、熊!?」
場違いな怯えた声に肩をすくめられてしまった。
ぼたんは未だ催眠状態にある黒服を先導に、一時的に盲目となってしまったアカリの手を連れて引き続き脱出口へと向かっていた。幸い、あれ以降追っ手が来ることはない。
「大丈夫…?アカリちゃん…?」
「うん…。大丈夫。ありがとう。」
盲目となったアカリは、ぼたんが始めにあった時のようなハツラツとした覇気がまるで失せてしまっていた。弱々しく、儚げな1人の少女である。
(私が…しっかりしなきゃ…!私が…!)
ぼたんは人知れず自分を鼓舞し続けていた。
しばらく歩いた後に、曲がり角を曲がる。すると、その先に2つの傷ついた大柄な「何か」が見えた。
「ひっ…!く、熊!?」
第一印象はそれだった。人のそれとは思えぬ(少なくともぼたんの中では、だが。)大柄な体。全身から流れる血の跡は、まるで争いの終わった獣に見えたのだ。
「…なんだ…?お前らは。奴らじゃないのか?」
「ギイャアアア!シャベッタアアア!!」
思わぬ反応に驚き、ぼたんは泣きながら叫んだ。
「アカリちゃん!熊!しゃべる熊がアアア!」
「お、おいおい…。」
ゆっくり近づいてくる「熊」を、ぼたんは思いっきり引っかいた。もう気が気ではない。
「イタタタ…!!やめろ!こら!」
「アカリちゃんは私が守る!アカリちゃんは私が守る!ウワアアアア!」
…ひとしきり暴れた後。ぼたんはひたすら謝り倒していた。
「本当にごめんなさい!私てっきり熊かと…!」
「…もういい。こんな場所で女だけで脱走しようとしてたんだ。無理もないさ。(危うくとどめをさされるとこだったが。)まあ、そんなことより…。」
秋山は両目をつぶったままのアカリを覗き込んだ。
「アカリちゃん…。一体どうしたんだ。その目は…。」
「あ…秋山さん。その…私…。」
口ごもるアカリに代わって、ぼたんが答えた。
「アカリちゃんは…私や一緒にいた仲間を逃がすために、不思議な力を使ったんです。でも私を助けるためにその力を使いすぎて…。」
「不思議な力…?」
秋山はおもむろに側に立つ黒服を見た。
アカリたちを先導していた黒服の目は虚ろで焦点は合わず、上の空といった表情である。秋山が呼びかけても反応しない。
(りえちゃんがかけられた催眠術のようなものか…?)
秋山は以前自宅で少女りえに襲われた時のことを思い出していた。
ある「キーワード」をきっかけに催眠状態に陥り、自分を殺そうとしたりえ。その時もちょうどこの様に虚ろな表情で、正気に戻るまで何にも反応を示さなかった。
(りえちゃんに催眠をかけたボスとやらには妹がいるという話だ。まさかアカリちゃんが…?いや、まさか…。)
秋山はしげしげとアカリを眺めていたが、やがてかぶりを振った。
(…やめよう。たとえボスの妹だろうと、アカリちゃんはアカリちゃんだ。俺たちの大事な仲間だ。)
「…ねえ。秋山さん。先生も…来てるの?」
不意にアカリが尋ねてきた。
「ん?…ああ。俺より先にここに潜入してる。最も先に俺が出会っちまったようだがな。」
「…そっか。やっぱり、来てくれたんだね…。嬉しいな…。」
閉じた瞼から涙を流して喜ぶアカリ。
その様子を見て、たとえアカリが何者だろうと、変わらず守ってやろうと、秋山は密かに決心するのだった。
血反吐を吐きながら、秋山はまたしても激しく壁に叩きつけられた。葉月の「弾幕蹴り」(秋山が勝手に命名)に未だ攻略の糸口が見えないのだ。しかし、秋山にはただひたすら葉月に突っ込んでいく、という稚拙な策しか思い浮かばなかった。
「くそっ…たれがぁっ!」
もうこれで何度目の突進になるのか、秋山はまた葉月に向かっていった。葉月はまた秋山の全身に無数の蹴りを浴びせ、難なくまた弾き飛ばした。
「…全く、あなたの頑丈さと単純さには呆れましたねえ。もう少し楽しめるかと思ったのですが、ただただ捨て身の突撃するしか能がないとは…。」
半ばうんざりといった表情で葉月はため息をつき、腕時計を見やった。
「羽鳥様の明日のスケジュールもつかえている。悪いがお相手できるのはここまでです。」
「…なんだと?」
「そろそろ始末させていただきます。」
そうして葉月は長い脚で踏み込み、秋山の間合いにまで一気に近づいてきた。
「終わりです…。」
葉月は再び「弾幕蹴り」をゼロ距離で仕掛けて来た。
「この至近距離では竹田の時のような投げ技は出来ん!後方は壁!逃げ場もない!覚悟!」
無数の蹴りが秋山に襲いかかる…!
「…ありがたい…!まさかそっちから近づいて来てくれるとはな…!」
秋山はすかさず葉月の胸ぐらを掴み、自分の近くに引き寄せた。そのまま左足を前方に踏み出し、右足を大きく前に振り上げた後、葉月の軸足である右足を刈った。
いわゆる「大外刈り」の形である。
「うっ!?」
たまらず後頭部から倒れる葉月。その隙を見逃さず、秋山は倒れた葉月の首筋を腕で抱え込んだ。
「…き…さま…!まだそんな…力…が…!」
「このまま…落ちろ…!」
葉月はしばらく抵抗したが甲斐無く、やがてグッタリとしてしまった。気を失ったようである。
「ブハァッ!!どうだ!勝ったぞ!畜生め!」
息も絶え絶えに勝鬨を叫ぶ秋山。しかしすぐさまその場にへたれこんでしまった。
「…さすがに…。ハア…ハア…。しんどい…!ハア…ハア…。しばらく…動くのは…無理そうだ…!」
しばしの休息を図る秋山。しかしそれも虚しく、廊下の奥から黒服の男が近づいて来ているのが見えた。
(…畜生…!もうまともに動けねえ…!ここまでか…!)
近づいてくる男の奥にも二人ばかり人影が見える。最早ここまでと覚悟を決めた秋山…だったのだが。
「ひっ…!く、熊!?」
場違いな怯えた声に肩をすくめられてしまった。
ぼたんは未だ催眠状態にある黒服を先導に、一時的に盲目となってしまったアカリの手を連れて引き続き脱出口へと向かっていた。幸い、あれ以降追っ手が来ることはない。
「大丈夫…?アカリちゃん…?」
「うん…。大丈夫。ありがとう。」
盲目となったアカリは、ぼたんが始めにあった時のようなハツラツとした覇気がまるで失せてしまっていた。弱々しく、儚げな1人の少女である。
(私が…しっかりしなきゃ…!私が…!)
ぼたんは人知れず自分を鼓舞し続けていた。
しばらく歩いた後に、曲がり角を曲がる。すると、その先に2つの傷ついた大柄な「何か」が見えた。
「ひっ…!く、熊!?」
第一印象はそれだった。人のそれとは思えぬ(少なくともぼたんの中では、だが。)大柄な体。全身から流れる血の跡は、まるで争いの終わった獣に見えたのだ。
「…なんだ…?お前らは。奴らじゃないのか?」
「ギイャアアア!シャベッタアアア!!」
思わぬ反応に驚き、ぼたんは泣きながら叫んだ。
「アカリちゃん!熊!しゃべる熊がアアア!」
「お、おいおい…。」
ゆっくり近づいてくる「熊」を、ぼたんは思いっきり引っかいた。もう気が気ではない。
「イタタタ…!!やめろ!こら!」
「アカリちゃんは私が守る!アカリちゃんは私が守る!ウワアアアア!」
…ひとしきり暴れた後。ぼたんはひたすら謝り倒していた。
「本当にごめんなさい!私てっきり熊かと…!」
「…もういい。こんな場所で女だけで脱走しようとしてたんだ。無理もないさ。(危うくとどめをさされるとこだったが。)まあ、そんなことより…。」
秋山は両目をつぶったままのアカリを覗き込んだ。
「アカリちゃん…。一体どうしたんだ。その目は…。」
「あ…秋山さん。その…私…。」
口ごもるアカリに代わって、ぼたんが答えた。
「アカリちゃんは…私や一緒にいた仲間を逃がすために、不思議な力を使ったんです。でも私を助けるためにその力を使いすぎて…。」
「不思議な力…?」
秋山はおもむろに側に立つ黒服を見た。
アカリたちを先導していた黒服の目は虚ろで焦点は合わず、上の空といった表情である。秋山が呼びかけても反応しない。
(りえちゃんがかけられた催眠術のようなものか…?)
秋山は以前自宅で少女りえに襲われた時のことを思い出していた。
ある「キーワード」をきっかけに催眠状態に陥り、自分を殺そうとしたりえ。その時もちょうどこの様に虚ろな表情で、正気に戻るまで何にも反応を示さなかった。
(りえちゃんに催眠をかけたボスとやらには妹がいるという話だ。まさかアカリちゃんが…?いや、まさか…。)
秋山はしげしげとアカリを眺めていたが、やがてかぶりを振った。
(…やめよう。たとえボスの妹だろうと、アカリちゃんはアカリちゃんだ。俺たちの大事な仲間だ。)
「…ねえ。秋山さん。先生も…来てるの?」
不意にアカリが尋ねてきた。
「ん?…ああ。俺より先にここに潜入してる。最も先に俺が出会っちまったようだがな。」
「…そっか。やっぱり、来てくれたんだね…。嬉しいな…。」
閉じた瞼から涙を流して喜ぶアカリ。
その様子を見て、たとえアカリが何者だろうと、変わらず守ってやろうと、秋山は密かに決心するのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
八天閣奇談〜大正時代の異能デスゲーム
Tempp
キャラ文芸
大正8年秋の夜長。
常磐青嵐は気がつけば、高層展望塔八天閣の屋上にいた。突然声が響く。
ここには自らを『唯一人』と認識する者たちが集められ、これから新月のたびに相互に戦い、最後に残った1人が神へと至る。そのための力がそれぞれに与えられる。
翌朝目がさめ、夢かと思ったが、手の甲に奇妙な紋様が刻みつけられていた。
今6章の30話くらいまでできてるんだけど、修正しながらぽちぽちする。
そういえば表紙まだ書いてないな。去年の年賀状がこの話の浜比嘉アルネというキャラだったので、仮においておきます。プロローグに出てくるから丁度いい。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる