記憶探偵の面倒な事件簿

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花園編

一方の秋山 決着と再会

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「ぐうぉっ…!?」
血反吐を吐きながら、秋山はまたしても激しく壁に叩きつけられた。葉月の「弾幕蹴り」(秋山が勝手に命名)に未だ攻略の糸口が見えないのだ。しかし、秋山にはただひたすら葉月に突っ込んでいく、という稚拙な策しか思い浮かばなかった。
「くそっ…たれがぁっ!」
もうこれで何度目の突進になるのか、秋山はまた葉月に向かっていった。葉月はまた秋山の全身に無数の蹴りを浴びせ、難なくまた弾き飛ばした。
「…全く、あなたの頑丈さと単純さには呆れましたねえ。もう少し楽しめるかと思ったのですが、ただただ捨て身の突撃するしか能がないとは…。」

半ばうんざりといった表情で葉月はため息をつき、腕時計を見やった。
「羽鳥様の明日のスケジュールもつかえている。悪いがお相手できるのはここまでです。」
「…なんだと?」
「そろそろ始末させていただきます。」
そうして葉月は長い脚で踏み込み、秋山の間合いにまで一気に近づいてきた。
「終わりです…。」
葉月は再び「弾幕蹴り」をゼロ距離で仕掛けて来た。
「この至近距離では竹田の時のような投げ技は出来ん!後方は壁!逃げ場もない!覚悟!」
無数の蹴りが秋山に襲いかかる…!


「…ありがたい…!まさかそっちから近づいて来てくれるとはな…!」


秋山はすかさず葉月の胸ぐらを掴み、自分の近くに引き寄せた。そのまま左足を前方に踏み出し、右足を大きく前に振り上げた後、葉月の軸足である右足を刈った。
いわゆる「大外刈り」の形である。
「うっ!?」
たまらず後頭部から倒れる葉月。その隙を見逃さず、秋山は倒れた葉月の首筋を腕で抱え込んだ。
「…き…さま…!まだそんな…力…が…!」
「このまま…落ちろ…!」
葉月はしばらく抵抗したが甲斐無く、やがてグッタリとしてしまった。気を失ったようである。

「ブハァッ!!どうだ!勝ったぞ!畜生め!」
息も絶え絶えに勝鬨を叫ぶ秋山。しかしすぐさまその場にへたれこんでしまった。
「…さすがに…。ハア…ハア…。しんどい…!ハア…ハア…。しばらく…動くのは…無理そうだ…!」
しばしの休息を図る秋山。しかしそれも虚しく、廊下の奥から黒服の男が近づいて来ているのが見えた。
(…畜生…!もうまともに動けねえ…!ここまでか…!)
近づいてくる男の奥にも二人ばかり人影が見える。最早ここまでと覚悟を決めた秋山…だったのだが。
「ひっ…!く、熊!?」
場違いな怯えた声に肩をすくめられてしまった。




ぼたんは未だ催眠状態にある黒服を先導に、一時的に盲目となってしまったアカリの手を連れて引き続き脱出口へと向かっていた。幸い、あれ以降追っ手が来ることはない。
「大丈夫…?アカリちゃん…?」
「うん…。大丈夫。ありがとう。」
盲目となったアカリは、ぼたんが始めにあった時のようなハツラツとした覇気がまるで失せてしまっていた。弱々しく、儚げな1人の少女である。
(私が…しっかりしなきゃ…!私が…!)
ぼたんは人知れず自分を鼓舞し続けていた。
しばらく歩いた後に、曲がり角を曲がる。すると、その先に2つの傷ついた大柄な「何か」が見えた。
「ひっ…!く、熊!?」
第一印象はそれだった。人のそれとは思えぬ(少なくともぼたんの中では、だが。)大柄な体。全身から流れる血の跡は、まるで争いの終わった獣に見えたのだ。
「…なんだ…?お前らは。奴らじゃないのか?」
「ギイャアアア!シャベッタアアア!!」
思わぬ反応に驚き、ぼたんは泣きながら叫んだ。
「アカリちゃん!熊!しゃべる熊がアアア!」
「お、おいおい…。」
ゆっくり近づいてくる「熊」を、ぼたんは思いっきり引っかいた。もう気が気ではない。
「イタタタ…!!やめろ!こら!」
「アカリちゃんは私が守る!アカリちゃんは私が守る!ウワアアアア!」



…ひとしきり暴れた後。ぼたんはひたすら謝り倒していた。
「本当にごめんなさい!私てっきり熊かと…!」
「…もういい。こんな場所で女だけで脱走しようとしてたんだ。無理もないさ。(危うくとどめをさされるとこだったが。)まあ、そんなことより…。」
秋山は両目をつぶったままのアカリを覗き込んだ。
「アカリちゃん…。一体どうしたんだ。その目は…。」
「あ…秋山さん。その…私…。」
口ごもるアカリに代わって、ぼたんが答えた。
「アカリちゃんは…私や一緒にいた仲間を逃がすために、不思議な力を使ったんです。でも私を助けるためにその力を使いすぎて…。」
「不思議な力…?」
秋山はおもむろに側に立つ黒服を見た。
アカリたちを先導していた黒服の目は虚ろで焦点は合わず、上の空といった表情である。秋山が呼びかけても反応しない。
(りえちゃんがかけられた催眠術のようなものか…?)

秋山は以前自宅で少女りえに襲われた時のことを思い出していた。
ある「キーワード」をきっかけに催眠状態に陥り、自分を殺そうとしたりえ。その時もちょうどこの様に虚ろな表情で、正気に戻るまで何にも反応を示さなかった。
(りえちゃんに催眠をかけたボスとやらには妹がいるという話だ。まさかアカリちゃんが…?いや、まさか…。)
秋山はしげしげとアカリを眺めていたが、やがてかぶりを振った。
(…やめよう。たとえボスの妹だろうと、アカリちゃんはアカリちゃんだ。俺たちの大事な仲間だ。)
「…ねえ。秋山さん。先生も…来てるの?」
不意にアカリが尋ねてきた。
「ん?…ああ。俺より先にここに潜入してる。最も先に俺が出会っちまったようだがな。」
「…そっか。やっぱり、来てくれたんだね…。嬉しいな…。」
閉じた瞼から涙を流して喜ぶアカリ。
その様子を見て、たとえアカリが何者だろうと、変わらず守ってやろうと、秋山は密かに決心するのだった。
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