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花園編
散りゆく花達
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「蘭…!蘭っ…!!」
…動かない。
さっきまで自分の身の上を語っていた蘭。彼女は後頭部にナイフを刺され、絶命していた。傷口から脳漿が溢れ、血だまりが辺りに拡がっていく。
追手の黒服達は確実に迫ってきていた。
「…ヤバイよ!どうしよう…!」
慌てふためくぼたん。間近の人間が殺されて明らかに動揺している。
「…私が操ってる黒服に戦わせてみる。その間にみんな逃げて。」
「あ、アカリちゃん。でもそれじゃ、あなたが…!
「大丈夫。何とかなるから…!さあ、行って。」
「バカ言わないで!」
一喝したのはすみれだった。
アカリもぼたんも、突然叫ばれた事にキョトンとしている。
「アカリ…。あなたの黒服の先導がなかったら、どうやって私達脱出するの?この建物の構造も知らないのに。」
「それは…。」
「加えて、こっちは戦力がこの黒服1人。あちらは3人。1対3よ。やられるのは目に見えてる。先導役を死なせたら、もう私達に脱出の希望はない。」
「でも、他にどうすれば?このままじゃみんなやられちゃう…!」
「…方法ならあるわ。誰かを囮にしてその隙にみんな逃げるの。」
「囮に、って…。そんな役誰が?」
「…もちろん言い出しっぺの私よ。」
すみれが黒服達の方へと前へ出た。
「そ、そんな!無茶だよ!」
「…言ったでしょ?私は皆が生き残る方を優先するって。今はこれが一番皆が生き残る可能性が高い…。」
「ダメだよ!そんな!皆が生き残んなきゃ…!」
「現実を見て。このままじゃ、犠牲なしに脱出するのは無理。少しでも生存率を上げないと…。」
「だけど…!」
「…ぼたん。アカリをお願い。」
ぼたんは一瞬ためらったが、うなづき暴れるアカリを抑えて先導する黒服の後を追った。
「…嫌だよ!離して!すみれ…!」
…アカリの叫びが段々と遠ざかっていく。
「アカリ。ぼたん。いじめたりして、ごめんね。それでも私を仲間として扱ってくれて、嬉かった。…これで私がした事、許してくれるかな…?」
すみれは黒服たちの方へむきなおり、睨みつけた。
「さあ、ここは通さないわ!かかってきなさい!」
声を張り上げて威嚇するすみれ。一方の黒服は何やら話し合っていた。
「…全く軽率な。ボスの妹がいるかもしれんというのに。」
「申し訳ございません。」
「一人残った様ですが、どうしますか?」
「あの女は違うだろう。催眠状態にして出口に向かうには、魔眼の力が不可欠だ。恐らくは囮か…。」
「…殺りますか?」
「ボスの妹以外は殺せとの命令だ。致し方ないだろう。」
「…分かりました。」
言うが早いか、黒服はすみれに瞬時に近づき、彼女の喉元を切り裂いた。
鮮血と共に、すみれの体は崩れ落ちるように倒れていった。
ぼたんと共に脱出を図るアカリは未だに泣きじゃくっていた。
「すみれ…!蘭…!みんな…みんな死んじゃう…!私のせいだ…!私のせいでこんな…!」
自分を責めるアカリをぼたんが慰める。
「アカリちゃん…。そんなこと言わないで。あなたがいなきゃ、私達…全員助からなかったかもしれないのよ…。みんなは、ここの『悪意』に気づかなかった。私ではみんなを説得することもできなかった。…あなたはみんなを救うための行動をしたの。正しいことをしたのよ。胸を張って。そうじゃないと、すみれのしてくれたことも無駄になっちゃう…。」
「…ぼたん…。」
平静に戻ったアカリ。だが、程なくして後方から先程の黒服3人がやってきた。
「!! しまった!もう来ちゃったの!?」
「すみれは…やられちゃったの…!?」
困惑するアカリ達に構わず、黒服達は迫ってくる。
とっさに、ぼたんが前に出た。
「!! ぼたん!ダメだよ!」
「行って!アカリちゃん!あなただけでも生き残って!」
…いやだよ…。
「何してるの!早く逃げて!」
もう…独りぼっちは…いやだよ…。
「アカリちゃん!」
「…いやだよ!みんな死んじゃうなんていやだ!」
アカリの眼が再び金色へと変わり、その視線は追手の黒服達を捉えた。
3人は追跡の歩みを止め、自分たちの得物を首筋に当て、そのまま自らの首を掻き切った。夥しい血を流しながら、3人の追手は息絶えて行った。
「あ…アカリちゃん…。」
「いやだよ…。みんないなくなっちゃうのはもういや…!」
アカリは両目を真っ赤に腫らして泣きじゃくっていた。その涙には血も混じっていた。
「! アカリちゃん!その目、どうしたの!」
「…大丈夫。ちょっとの間、目が見えなくなるだけだから…。ぼたん。そこにいるんだね?よかった…。」
「もしかして…『魔眼』を何度も使ったから?」
アカリは静かにうなづいた。
「…もう私だけじゃ、ここから出られないや…。ぼたん。連れてってくれる?」
儚げな顔で尋ねるアカリに、ぼたんもまた涙を流して答えた。
「もちろんよ…!アカリちゃん…!」
そうしてぼたんはアカリを強く抱きしめた。
「ごめんなさい…!もう。あなただけ生きてなんて、言わないから…!」
そうしてしばらく、その廊下では二人の少女の泣く声が聞こえてくるのだった。
…動かない。
さっきまで自分の身の上を語っていた蘭。彼女は後頭部にナイフを刺され、絶命していた。傷口から脳漿が溢れ、血だまりが辺りに拡がっていく。
追手の黒服達は確実に迫ってきていた。
「…ヤバイよ!どうしよう…!」
慌てふためくぼたん。間近の人間が殺されて明らかに動揺している。
「…私が操ってる黒服に戦わせてみる。その間にみんな逃げて。」
「あ、アカリちゃん。でもそれじゃ、あなたが…!
「大丈夫。何とかなるから…!さあ、行って。」
「バカ言わないで!」
一喝したのはすみれだった。
アカリもぼたんも、突然叫ばれた事にキョトンとしている。
「アカリ…。あなたの黒服の先導がなかったら、どうやって私達脱出するの?この建物の構造も知らないのに。」
「それは…。」
「加えて、こっちは戦力がこの黒服1人。あちらは3人。1対3よ。やられるのは目に見えてる。先導役を死なせたら、もう私達に脱出の希望はない。」
「でも、他にどうすれば?このままじゃみんなやられちゃう…!」
「…方法ならあるわ。誰かを囮にしてその隙にみんな逃げるの。」
「囮に、って…。そんな役誰が?」
「…もちろん言い出しっぺの私よ。」
すみれが黒服達の方へと前へ出た。
「そ、そんな!無茶だよ!」
「…言ったでしょ?私は皆が生き残る方を優先するって。今はこれが一番皆が生き残る可能性が高い…。」
「ダメだよ!そんな!皆が生き残んなきゃ…!」
「現実を見て。このままじゃ、犠牲なしに脱出するのは無理。少しでも生存率を上げないと…。」
「だけど…!」
「…ぼたん。アカリをお願い。」
ぼたんは一瞬ためらったが、うなづき暴れるアカリを抑えて先導する黒服の後を追った。
「…嫌だよ!離して!すみれ…!」
…アカリの叫びが段々と遠ざかっていく。
「アカリ。ぼたん。いじめたりして、ごめんね。それでも私を仲間として扱ってくれて、嬉かった。…これで私がした事、許してくれるかな…?」
すみれは黒服たちの方へむきなおり、睨みつけた。
「さあ、ここは通さないわ!かかってきなさい!」
声を張り上げて威嚇するすみれ。一方の黒服は何やら話し合っていた。
「…全く軽率な。ボスの妹がいるかもしれんというのに。」
「申し訳ございません。」
「一人残った様ですが、どうしますか?」
「あの女は違うだろう。催眠状態にして出口に向かうには、魔眼の力が不可欠だ。恐らくは囮か…。」
「…殺りますか?」
「ボスの妹以外は殺せとの命令だ。致し方ないだろう。」
「…分かりました。」
言うが早いか、黒服はすみれに瞬時に近づき、彼女の喉元を切り裂いた。
鮮血と共に、すみれの体は崩れ落ちるように倒れていった。
ぼたんと共に脱出を図るアカリは未だに泣きじゃくっていた。
「すみれ…!蘭…!みんな…みんな死んじゃう…!私のせいだ…!私のせいでこんな…!」
自分を責めるアカリをぼたんが慰める。
「アカリちゃん…。そんなこと言わないで。あなたがいなきゃ、私達…全員助からなかったかもしれないのよ…。みんなは、ここの『悪意』に気づかなかった。私ではみんなを説得することもできなかった。…あなたはみんなを救うための行動をしたの。正しいことをしたのよ。胸を張って。そうじゃないと、すみれのしてくれたことも無駄になっちゃう…。」
「…ぼたん…。」
平静に戻ったアカリ。だが、程なくして後方から先程の黒服3人がやってきた。
「!! しまった!もう来ちゃったの!?」
「すみれは…やられちゃったの…!?」
困惑するアカリ達に構わず、黒服達は迫ってくる。
とっさに、ぼたんが前に出た。
「!! ぼたん!ダメだよ!」
「行って!アカリちゃん!あなただけでも生き残って!」
…いやだよ…。
「何してるの!早く逃げて!」
もう…独りぼっちは…いやだよ…。
「アカリちゃん!」
「…いやだよ!みんな死んじゃうなんていやだ!」
アカリの眼が再び金色へと変わり、その視線は追手の黒服達を捉えた。
3人は追跡の歩みを止め、自分たちの得物を首筋に当て、そのまま自らの首を掻き切った。夥しい血を流しながら、3人の追手は息絶えて行った。
「あ…アカリちゃん…。」
「いやだよ…。みんないなくなっちゃうのはもういや…!」
アカリは両目を真っ赤に腫らして泣きじゃくっていた。その涙には血も混じっていた。
「! アカリちゃん!その目、どうしたの!」
「…大丈夫。ちょっとの間、目が見えなくなるだけだから…。ぼたん。そこにいるんだね?よかった…。」
「もしかして…『魔眼』を何度も使ったから?」
アカリは静かにうなづいた。
「…もう私だけじゃ、ここから出られないや…。ぼたん。連れてってくれる?」
儚げな顔で尋ねるアカリに、ぼたんもまた涙を流して答えた。
「もちろんよ…!アカリちゃん…!」
そうしてぼたんはアカリを強く抱きしめた。
「ごめんなさい…!もう。あなただけ生きてなんて、言わないから…!」
そうしてしばらく、その廊下では二人の少女の泣く声が聞こえてくるのだった。
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