記憶探偵の面倒な事件簿

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花園編

予期せぬ遭遇

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引き続き給気口の中を進み続ける俺と須田。
「レヴィアタン」の施設内では先程から警報が鳴り響き、黒服の男たちが眼下で慌ただしく駆け回っていた。
「随分大人数が出回っていますね。羽鳥は"事故"と言っていましたが、一体何があったんでしょう?」
「さあな…。ただの事故じゃないのは確かだ。何にせよ、これはチャンスだ。この騒ぎに乗じて、手薄なところから侵入しよう。」
「はい。」

…しばらくの探索の後、俺たちはようやく人気のいない部屋を見つけた。柵を破り、そこに俺たちは降りることにした。
「…やれやれ。やっと臭え給気口を抜けられた。」
「まったくです。早いとこアカリちゃんを見つけてシャワーでも浴びに行きましょう。西馬さん。」
須田の眼は闘志を剥き出しにギラギラしていた。…まったく頼もしい限りだ。
「…ああ。だが、突っ走ってヘマすんなよ。」

部屋の戸口から覗きこんで周囲に人がいないかを窺う。どうやら今は人は居ないようだ。
「よし…。出るぞ。」
須田はうなづき、銃を構えながらついてくる。
「…西馬さんは後ろへ。私が先頭に立ちます。」
「バカ言え。秋山に聞いたぞ。お前さん、ほとんど現場に立ったことないらしいじゃないか。実戦経験もないんだろ?」
「でも…!」
必死に喰ってかかろうとする須田。…やれやれ。
「安全装置が外れていないぞ。」
「あっ…!」
須田は手元の拳銃を見て、安全装置がそのままである事に今気づいた様だ。
よく見れば息も荒い。肩も震えている。粋がってはいたが、やはり緊張しているようだ。
「…さっきも言ったが、突っ走るな。こういう現場はどちらかというと俺の方が慣れてる。」
「でも!」
「ここじゃ、ちょっとの躊躇や失敗が即死に繋がる。アカリを助けたいなら指示を聞いてくれ。俺が先頭に出る。あんたはバックアップを頼む。」
「…わかりました。」
やむなく後ろへ立つ須田。やれやれ。ちょっと気張り過ぎだ。

…警戒を維持しながら、探索を続ける。
この辺りは不気味なくらいに人の気配が無い。
「妙だな。静かすぎる。」
「全員事故の収拾に向かったんでしょうか?」
「いや、流石に事故ごときでそこまで人員は割かないだろう。ここにスタッフが何人いるかは知らんが、少なくとも『ベルゼブブ』では10数人はいた。何人かは警備に残っていても良さそうなもんだ。」
「私達が思っている以上に、事故の規模が大きい?」
「あるいは…事故以外の緊急事態が起きた?」

「誰だ…?君たちは。」
不意に背後で男の声がした。思わず振り返り、銃を構えて後ずさる。
「誰だっ!」
「おいおい…。聞いているのは僕だよ。そちらが先に答えるのが筋ってもんだろ。」
両手を挙げて男は答えたがこちらに怯む様子がない。
彼は全身が黒で統一された格好だ。色からして「ルシフェル」の連中かと思ったが…違う。奴らの制服とは違うデザインだ。
「…あんた、ここのスタッフじゃないのか?」
「まあね…。銃を降ろしてくれないか?質問に答えようにも、そいつがちらついてまともに喋れやしない。」
俺はしばらく迷ったが、銃を降ろす事にした。こいつが俺たちを殺すつもりなら、とっくに背後から殺されていた。つまり、奴には殺意がないと判断したからだ。
「どうも。やれやれ。これでやっとまともな会話ができる。」
「…俺たちはここに知り合いを探しに来た。あんたはここの会員か?」
「ま、そんなところだね。」
「教えてくれ!『楽園』から運ばれた人間を収容する部屋を!そこに知り合いが連れ込まれたかもしれないんだ!」
「ふむ…。」


黒いコートの男は、目の前のいきり立つ男を訝しんでいた。
(「楽園」の事を知っている…?しかも、見た所会員という訳でもなさそうだ。只者ではない。それにこの男どこかで…。)


(西馬さん!西馬さん!)
小声で須田が話しかけて来た。
(何だ!)
(この男、絶対に怪しいですよ。ルシフェルじゃないみたいですけど、銃を見ても変に落ち着いてるし、何よりどうしてこんなところで1人でふらついてるんです!?)
(分かってるよ。十中八九こいつは怪しい。でも俺たちはこの施設の設備のことを知らないんだ。今は少しでも内部の情報が欲しい…。)
「あの~。何か?」
黒コートの男が小首を傾げてこちらの様子を窺っている。
…いかんいかん。この男に怪しまれたらせっかくの情報源がパァだ。

…黒コートの男は考えた。
(…彼らはVIPルームの在り処を知りたがっている。果たして素直に教えていいものか。いっそのこと、この場で殺した方が手っ取り早いか。)
黒コートの男の目の色が段々と変わっていく。黒から赤、そして赤から黄色…。黄色は段々と光沢を帯び、やがて…。


「金色の目…?」
思わず呟いてしまった。黒コートの男の目の色が変化したのだ。どういう仕掛けだろうか?
「あんた…。手品師かなんかか?その目の色は…。」
「っ!?」
…何だ?コートの男が動揺している。何かあったのか?
「…そんな奇術より、今は知り合いの囚われている場所が知りたいんだ!早く教えてくれ!」


…男は動揺していた。
(どういうことだ?魔眼が効かないだと?こんなことは初めてだ。この男一体…。)
「どうした!早く教えてくれ!」
「…この道を真っ直ぐ進んだ先にホールがある。そのホールよりさらに奥に進めば、人が収容されている部屋に着くはずだ。」
「本当か!?ありがとう!助かるよ!」


「本当に恩にきる!ありがとう!」
俺は男に握手の手を差し伸べた。別にこの男と仲良くするためじゃない。…狙いは別にある。
(奴の手を握ることさえできれば奴の素性が何かしら分かるはずだ…。この先の安全の為にも、こいつが何者かはっきりさせた方がいい…。)
俺の差し出した目を訝しげに眺める男。だが、やがてゆっくりと手を伸ばし始めた…。
(そうだ…。握れ…。握れ…!)
あと少し…。
だが、男の伸ばした手はまた引っ込められてしまった。
「…よしましょう。握手なんてするガラじゃないし、今は一時を争うのでしょう?早くその部屋に向かってあげてください。」
「あ、ああ…。」
(握手を避けた…?いや、まさかな…。)


VIPルームへと向かう彼らを見送り、黒コートの男…ボスは思った。
(…ひとまず難は去ったか。魔眼が効かない以上、彼らを敵に回すのは得策ではない。幸い、目的は僕ではないようだし、今回はこれで良しとしよう…。)
VIPルームへと走り去る彼らを見送り、ボスは誰にともなく呟いた。
「…しかし、偶然とは恐ろしい。また君に会えるとは思わなかったよ。西馬君…。」
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