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花園編
明かされるアカリの生い立ち
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黒服の男を先導に脱出を図るアカリたち。
だが、先程から鳴り響く警報音に一行は焦りを感じていた。
「この警報音…。私達が出たのがバレたみたいね。」
「どうしよう…。茜を置いてきちゃった…。」
アカリは脱出の際に1人部屋に残ったままの茜をしきりに気にしていた。そんなアカリをすみれは一喝する。
「いつまで気にしてるの!あいつが私達に何したか忘れたの!?スタッフを呼びつけて私達を裏切り者として差し出そうとしたのよ!」
「でも…、やっぱり置いてけないよ。」
引き返そうとするアカリを、すみれは無理やり引き戻した。
「ちょっと!いい加減にして!警報も鳴ってる今、いつ私達が見つかるか分かんないのよ!ここで引き返したら私達全滅よ!」
「でも…!」
「今は生き残ることを優先して!」
真剣な眼差しで諭すすみれをアカリは睨み返したが、やがて諦めたのか俯いてしまった。
「…わかった。」
そうして、また黒服の先導に続いた。
「…私のこと、冷たい女って思ったでしょ?」
しばらく歩いた後に、不意にすみれが呟いた。
「…すみれ?」
「私は一時あの茜と一緒にあなたたちをいじめてた…。なのに、ここから逃げ出そうというこの時にあっさり見捨てちゃうなんて…。」
「そんなこと…。」
「いいの。私はここで嫌われたって。私は皆が生き残る方を優先する。少しでも危険なことする様だったら引っ叩いてでもこっちに引き戻すわ。…それがせめてもの償い。お願い。今だけは自分の命を優先して。」
「すみれ…。わかったよ。…ごめんなさい。」
謝るアカリに、すみれは何も言わず、涙目のままにっこりと微笑んだ。
「それにしても驚いたわ。こんな超能力みたいなことができるなんて。」
「本当は人前でやっちゃいけないって言われてたんだけどね…。強い意識を飛ばした相手を意のままに操れるの。」
「魔眼…ね。本とかで見たことあるわ。見つめられると鬱状態になって自ら死んでしまうとか…。」
言いかけたぼたんは、あ…と口を抑えた。
「…御免なさい。気を悪くした…?」
謝るぼたんにアカリは優しく微笑みかけた。
「…ううん。大丈夫。慣れてるから…。」
寂しげな笑みを浮かべるアカリに、すみれは恐る恐る尋ねた。
「その…魔眼…っていうの?それであの黒服を操ったのね?」
「ええ。」
「あなたは一体…何者なの?よかったら教えてくれない?」
「そうだね…。言ってもいいかな。もう魔眼のこと知られちゃったし。」
そうしてアカリはゆっくりと語り始めた。
「私はね。生まれつきこの魔眼を持った一族の元に生まれたの。私の両親も魔眼持ちだし、お隣さんも魔眼持ち。そんなところで私は育った…。」
「そんな一族がいたなんて…。知らなかったわ。」
「山の奥の地図にも載ってないとこだからね。知らなくて当然だわ。」
「でもそんな危ない力を持つ一族なら掟とか厳しいんじゃないの?あくまで想像だけど。」
「そうね。さっきも言った通り、人前でみだりに魔眼を使わないこと。これが第一の掟だった。」
「…大丈夫だったの?掟、破っちゃったんじゃないの?」
「大丈夫。その村はもう無いから。」
「…へ?」
唐突なアカリの発言にしばし沈黙が続いた。
またしばらく歩いて蘭が口を開いた。
「え、え~とさっきの話なんだけどさ。村がもう無いって、どうして…。」
「ちょっと蘭!」
すみれがとがめたが、蘭は譲らない。
「だ、だって気になるんだもの!ね、ね、教えて!」
「うん。いいよ。別に私はもう気にしてないから…。」
そうしてまたアカリは語り始めた。
「私の村ね。そんな大きい村じゃなかった。せいぜい20人くらいかな。人数も少ないから皆家族みたいな感じだった。厳しい掟はあったけど、皆さほど気にせず暮らしてたわ。あの時までは…。」
「あの時?」
「…ある日の夜遅くだった。母さんに起こされて私は目が覚めたの。どうしたの?って聞いたら、大変なことになった。あなたは裏口から逃げなさい、としか言わない。母さんの必死の形相に、子供心に異常事態だ、って思った。私は怖くなって言われるままに裏口から逃げた。…本当に怖かった。その夜は村中から叫び声と狂ったような笑い声が聞こえてきたんだから。私は、一心不乱に村から逃げ出した。でもやっぱり気になったから夜が明けた後にもう一度村に戻ってみた。…何もかも無くなってたわ。村長さんの家もお隣さんも、もちろん私の家も…。村の人はみんな死んでた…。」
「そんなことが…あったの…。」
「…ごめんなさい。嫌なことを思い出させちゃって。」
謝る蘭に、アカリはまたニコリと微笑みながら首を横に振った。
「もう、過ぎたことだから。いくら悔やんだって過去は変えられない。これからどうするかを考えなくちゃ。」
「アカリ…。あなたって強い子なんだね。」
「いやあ、そんなことないよ。あはは…。」
照れ隠しに笑うアカリ。だが、その笑顔にはどこか翳りがあった。
「…ところで…さ。」
またしばらく沈黙が続いた中、アカリが口火を切った。
「ん?何?」
「ここから出られたら、みんなどうしたい?」
「…うーん。あまり考えたくないなぁ。もうあっちには戻らないつもりだったから。」すみれは困り顔で答える。「…ま、今は脱出優先ね。」
「私は…家に帰って何かアルバイト、やってみようかな…。」と話すのはぼたん。
「アルバイトって…、別に特別なことじゃないじゃない。」
「みんなは…そうなんだろうね…。でも、あたし人見知りで、アルバイトなんてやったことなくて…。でも、ここから出られるくらいの勇気があったら、アルバイトくらい、挑戦してみようかな、って…。」たどたどしく答えるぼたん。話す時の緊張のせいか、その顔はカーッと赤面していた。
「私は…結婚、かな。」と話すのは蘭。
「け、結婚!?あなたその歳で結婚すんの!?」
驚くすみれの問いに、蘭はうなづいた。
「許嫁がね…いるの。小さい頃から決められててね。それだけじゃない。通う学校も、就職先も親に決められてた。でも私は自分の将来が何もかも決められてるっていうのが嫌だった。だからここに逃げてきたの。自分の意志で生きていきたいって思ったから…。でも私がバカだったわ。ここに来たところで何一つ自分の意志なんて示せなかった。あの部屋でだってそう。始めは茜の意見に同調して、今度はあなたの意見に同調…。」
「そんなこと…。」
慰めようとするアカリに、笑顔を向ける蘭。
「…いいの。気を遣わなくて。あなたは私達を救ってくれたんだから。」
「蘭さん…。ありがとう。」
「さ、とにかくこんなところから抜け出しましょう。早くいかないと追っ手が…。」
ドスッ。
…何か、鈍い音がした。蘭は時間が止まったようにピクリとも動かない。
「…蘭?」
蘭は呼びかけても答えない。やがて彼女の体はゆっくりと力なく崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。彼女の後頭部には、ナイフが刺さっていた。
「…!そんな!蘭!蘭っ!」
倒れた蘭の向こう側には、黒服を着た男が数人立っていた。
「マズイ!追っ手だわ!」
「…そんな…!蘭が…。蘭が…。」
戸惑うアカリたちを他所に、黒服たちは各々の武器を構え、彼女たちに迫ろうとしていた…。
だが、先程から鳴り響く警報音に一行は焦りを感じていた。
「この警報音…。私達が出たのがバレたみたいね。」
「どうしよう…。茜を置いてきちゃった…。」
アカリは脱出の際に1人部屋に残ったままの茜をしきりに気にしていた。そんなアカリをすみれは一喝する。
「いつまで気にしてるの!あいつが私達に何したか忘れたの!?スタッフを呼びつけて私達を裏切り者として差し出そうとしたのよ!」
「でも…、やっぱり置いてけないよ。」
引き返そうとするアカリを、すみれは無理やり引き戻した。
「ちょっと!いい加減にして!警報も鳴ってる今、いつ私達が見つかるか分かんないのよ!ここで引き返したら私達全滅よ!」
「でも…!」
「今は生き残ることを優先して!」
真剣な眼差しで諭すすみれをアカリは睨み返したが、やがて諦めたのか俯いてしまった。
「…わかった。」
そうして、また黒服の先導に続いた。
「…私のこと、冷たい女って思ったでしょ?」
しばらく歩いた後に、不意にすみれが呟いた。
「…すみれ?」
「私は一時あの茜と一緒にあなたたちをいじめてた…。なのに、ここから逃げ出そうというこの時にあっさり見捨てちゃうなんて…。」
「そんなこと…。」
「いいの。私はここで嫌われたって。私は皆が生き残る方を優先する。少しでも危険なことする様だったら引っ叩いてでもこっちに引き戻すわ。…それがせめてもの償い。お願い。今だけは自分の命を優先して。」
「すみれ…。わかったよ。…ごめんなさい。」
謝るアカリに、すみれは何も言わず、涙目のままにっこりと微笑んだ。
「それにしても驚いたわ。こんな超能力みたいなことができるなんて。」
「本当は人前でやっちゃいけないって言われてたんだけどね…。強い意識を飛ばした相手を意のままに操れるの。」
「魔眼…ね。本とかで見たことあるわ。見つめられると鬱状態になって自ら死んでしまうとか…。」
言いかけたぼたんは、あ…と口を抑えた。
「…御免なさい。気を悪くした…?」
謝るぼたんにアカリは優しく微笑みかけた。
「…ううん。大丈夫。慣れてるから…。」
寂しげな笑みを浮かべるアカリに、すみれは恐る恐る尋ねた。
「その…魔眼…っていうの?それであの黒服を操ったのね?」
「ええ。」
「あなたは一体…何者なの?よかったら教えてくれない?」
「そうだね…。言ってもいいかな。もう魔眼のこと知られちゃったし。」
そうしてアカリはゆっくりと語り始めた。
「私はね。生まれつきこの魔眼を持った一族の元に生まれたの。私の両親も魔眼持ちだし、お隣さんも魔眼持ち。そんなところで私は育った…。」
「そんな一族がいたなんて…。知らなかったわ。」
「山の奥の地図にも載ってないとこだからね。知らなくて当然だわ。」
「でもそんな危ない力を持つ一族なら掟とか厳しいんじゃないの?あくまで想像だけど。」
「そうね。さっきも言った通り、人前でみだりに魔眼を使わないこと。これが第一の掟だった。」
「…大丈夫だったの?掟、破っちゃったんじゃないの?」
「大丈夫。その村はもう無いから。」
「…へ?」
唐突なアカリの発言にしばし沈黙が続いた。
またしばらく歩いて蘭が口を開いた。
「え、え~とさっきの話なんだけどさ。村がもう無いって、どうして…。」
「ちょっと蘭!」
すみれがとがめたが、蘭は譲らない。
「だ、だって気になるんだもの!ね、ね、教えて!」
「うん。いいよ。別に私はもう気にしてないから…。」
そうしてまたアカリは語り始めた。
「私の村ね。そんな大きい村じゃなかった。せいぜい20人くらいかな。人数も少ないから皆家族みたいな感じだった。厳しい掟はあったけど、皆さほど気にせず暮らしてたわ。あの時までは…。」
「あの時?」
「…ある日の夜遅くだった。母さんに起こされて私は目が覚めたの。どうしたの?って聞いたら、大変なことになった。あなたは裏口から逃げなさい、としか言わない。母さんの必死の形相に、子供心に異常事態だ、って思った。私は怖くなって言われるままに裏口から逃げた。…本当に怖かった。その夜は村中から叫び声と狂ったような笑い声が聞こえてきたんだから。私は、一心不乱に村から逃げ出した。でもやっぱり気になったから夜が明けた後にもう一度村に戻ってみた。…何もかも無くなってたわ。村長さんの家もお隣さんも、もちろん私の家も…。村の人はみんな死んでた…。」
「そんなことが…あったの…。」
「…ごめんなさい。嫌なことを思い出させちゃって。」
謝る蘭に、アカリはまたニコリと微笑みながら首を横に振った。
「もう、過ぎたことだから。いくら悔やんだって過去は変えられない。これからどうするかを考えなくちゃ。」
「アカリ…。あなたって強い子なんだね。」
「いやあ、そんなことないよ。あはは…。」
照れ隠しに笑うアカリ。だが、その笑顔にはどこか翳りがあった。
「…ところで…さ。」
またしばらく沈黙が続いた中、アカリが口火を切った。
「ん?何?」
「ここから出られたら、みんなどうしたい?」
「…うーん。あまり考えたくないなぁ。もうあっちには戻らないつもりだったから。」すみれは困り顔で答える。「…ま、今は脱出優先ね。」
「私は…家に帰って何かアルバイト、やってみようかな…。」と話すのはぼたん。
「アルバイトって…、別に特別なことじゃないじゃない。」
「みんなは…そうなんだろうね…。でも、あたし人見知りで、アルバイトなんてやったことなくて…。でも、ここから出られるくらいの勇気があったら、アルバイトくらい、挑戦してみようかな、って…。」たどたどしく答えるぼたん。話す時の緊張のせいか、その顔はカーッと赤面していた。
「私は…結婚、かな。」と話すのは蘭。
「け、結婚!?あなたその歳で結婚すんの!?」
驚くすみれの問いに、蘭はうなづいた。
「許嫁がね…いるの。小さい頃から決められててね。それだけじゃない。通う学校も、就職先も親に決められてた。でも私は自分の将来が何もかも決められてるっていうのが嫌だった。だからここに逃げてきたの。自分の意志で生きていきたいって思ったから…。でも私がバカだったわ。ここに来たところで何一つ自分の意志なんて示せなかった。あの部屋でだってそう。始めは茜の意見に同調して、今度はあなたの意見に同調…。」
「そんなこと…。」
慰めようとするアカリに、笑顔を向ける蘭。
「…いいの。気を遣わなくて。あなたは私達を救ってくれたんだから。」
「蘭さん…。ありがとう。」
「さ、とにかくこんなところから抜け出しましょう。早くいかないと追っ手が…。」
ドスッ。
…何か、鈍い音がした。蘭は時間が止まったようにピクリとも動かない。
「…蘭?」
蘭は呼びかけても答えない。やがて彼女の体はゆっくりと力なく崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。彼女の後頭部には、ナイフが刺さっていた。
「…!そんな!蘭!蘭っ!」
倒れた蘭の向こう側には、黒服を着た男が数人立っていた。
「マズイ!追っ手だわ!」
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