記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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花園編

怪しい男の怪しい証言

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T市郊外の山の麓…。
俺と須田は秋山の言う情報提供者を探して、車でこんな辺鄙な所まで来ていた。ちなみに車は秋山の車だ。(俺は免許持って無いので…。)
市内と違って、この辺はのどかで空気も澄んでいる。
「…なあ。秋山。本当にこんなトコに人が住んでんのか?」
このT市、市内はかなり賑やかなのだが、郊外になると途端に人口が減る。加えて今探している山の麓付近は、人家どころか街灯も見当たらない。過疎化の進んでいる田舎って感じだ。
「ああ。間違いない。その男が住んでると言われているのはこの辺だ。」
「ホントかよ…。」
「今まで俺の情報が間違っていたことがあったか?」
「いや、ないけどさ…。」
…今度ばかりは大はずれなんじゃないか?などと俺はうすうす感じていた。


「秋山さん。その情報提供の男は、どんな男なんですか?」
後部座席から須田が聞いてきた。
「とにかく変わり者で有名らしい。自称『UFO研究家』だの『オカルト専門家』だの触れ回ってるそうだ。」
「うわあ…。なかなか痛そうな奴だな。」
「この辺で住んでるのも研究の一環らしい。もっとも、その男が論文らしきものを出した功績は誰も知らないみたいだが。」
「…要するにただのオカルトマニアの変人ってことか。」
「ま、そんなとこだろう。」
「オタク…って奴ですよね。やだなあ…。私、つい最近オタクを二人ぶっ飛ばしてるんですよ。」
「へ、へえ…。」
…この娘、なかなか過激な一面もあるんだな。


…それから車でもう30分は走り回ったか。未だにそれらしき人家が見当たらない。
「おかしいな。確かにこの辺りのはずなんだが…。」
「やっぱり、住所が間違ってたんじゃないのか?」
「…そうかも知れん。ああクソ!こんなことなら本人を直接連れてくるんだった…。」
運転に疲れたのか、イラつきを隠せない秋山。
と、その時須田が窓をじっと見つめていた。
「あ、あのぅ…。秋山さん。西馬さん。もしかしてなんですけど…。」
須田は窓の外を指差した。指差した先には、乗り捨てられた車の残骸がある。
「…もしかして、あの車がその住所じゃないですか?」
「あの車が?まさか…。」
「でも、少なくとも誰か中にいるようですよ。」
言われてみれば、車の後部座席に人影が見えるような…。しかもよくよく見てみると、わずかに車が揺れている。
「…行ってみるか。他にそれらしい建物はないし。」
「そうだな。でもなあ、もし違ってたらどうする?」
「?   そん時は謝ればいいだろ?」
「…あの車ん中で、カップルがヤリあってる最中に割り込んだら気まずいことこの上ないぜ。」
「西馬さん!」
須田が声を上げてこちらを睨んだ。
「下品な発言はやめて下さい!訴えますよ!」
「す、すまん…。」
俺は普通に推論を述べただけなんだけどな…。


…とにかく、俺たちはその車を調べることにした。
車種は白のハイエース。成る程、後部座席のシートを取り除けば、住めないこともなさそうだ。
俺たちは恐る恐る車に近づいて…。
「…えーと、車に入る場合どうすんだろ?お邪魔しまーす、ってノックすんのかな。」
「それしかないだろ。」
「早くしてください。西馬さん。」
…うっ。なんか俺が開ける流れになってる…。
「…でも中に居るのが凶悪犯とかだったらどうする?あるいは人間じゃなくて熊だったりしたら…。」
「そん時は俺と須田がフォローする。大丈夫だ。」
「早くしてください。西馬さん。」
…くそっ。やっぱり俺が開けるしかないの?
…ええい。腹をくくれ!俺はあの安藤を倒した男だ!…お情けでだけど。
「よ、よーし。開けるぞ。いち、にいの…。」

ノックしようとした瞬間、ハイエースの扉が勢いよく開いた!

「うわあああああ!」
「ギャアアアアア!」

驚いた俺は中にいた男とお互い情けない声で絶叫した…。


「あ~びっくりした…。なんなんだい。君たちは?」
中にいたのは20代くらい(?)の痩せ型の男だった。髪はボサボサで伸ばしっぱなし。髭もボウボウで、かけているメガネも半分割れている。着ている服も長らく洗ってないんだろう。汚れまくって異臭もする。…こう言っちゃなんだが、明らかに不審者だ。
ハイエースの中は、予想通り彼の居住空間になっていた。窓には心霊写真やら、UFOの写真やらが貼られまくり、オカルト情報誌も散乱している。あと食べかけのカップ麺やらお菓子の袋やら…掃除は多分してないんだろうな。車内からは独特の匂いがした。
「…突然押しかけて申し訳ない。実は以前この辺りで不審な事件を目撃したと伺ったので、詳しい話を聞こうとこちらにお邪魔しました。」
「おお!やっと僕の話を聞いてくれる気になったんだね!」
飛び跳ねて喜ぶ男。飛び跳ねる度に埃が立ち、匂いがこっちにまでやってきた。思わずむせる俺たち。

「…じゃあ改めて、その時の話を聞かせてもらえますか?」
「分かったよ。えーと…。」
「待った。」
彼の証言の真偽を確かめるためには、やっておかないとならないことがある。
「な、なんだい…?」
「すまない。その証言なんだが、俺の手を握りながら言ってもらえないか?」
「あんたの手を?」
男はしばらく俺をジロジロ見た後、
「あの女の人の手を握りながらなら大賛成だけど…。」などと言いやがった。
「…協力しなければ、ぶっ飛ばしますよ。」須田は青筋を立てながら、手をパキパキ鳴らしていた。
「ヒィ!すいません!分かりましたぁ!」
須田のただならぬオーラに恐れおののき、男は半泣きになっていた。

「じゃあ…手を握るんで一から証言を頼む。」
「分かったよ…。男に手なんか繋いで欲しくないんだけどなあ…。」
…うるせえ。捜査じゃなけりゃ、こっちだって野郎の手なんてお断りだ。
「…あれは確か一ヶ月前くらい。夜中だったかな。僕はいつもの通り、研究の為に山の中を散策してたんだ。」
「散策って…、夜中の山なんか危ないんじゃないか?」
「もう慣れたもんだよ。なにしろ5年くらいここに住んでるからね。」
「5年も…。」
「そうしたら、夜中の山中だってのに人の気配がしたんだ。夜中の2時くらいだよ?そんな時間に普通の人が山の中を歩いているわけない。これはもしかして念願の宇宙人か!はたまた幽霊か!興奮して僕は物音のする方向へ向かったんだ。そしたら…。」

…風景が見える…こいつは夜のの山の中を走っている…周りは暗く、身につけているライトの明かりだけが頼りの真っ暗闇だ…

「…黒い服を着た男…いや女だったかもしれない。そいつが人間の遺体を抱えて持ってたんだ。そいつはその遺体を乱暴に放り投げると、近くに穴を掘ってそこにその遺体を埋めた…。僕は怖くなって逃げ出した!多分、ヤクザかなんかが殺した人間をバレないように埋めたんだ…!」

…こいつの言う通り、黒服の男(?)が人一人を抱えて…穴を掘って埋めた…その後は振り返って…一目散に走ってる…こいつの証言に間違いはない…

「…その後この事を警察に散々言ったんだけど、相手にしてくれなかった。誰も僕の言うことを信じてくれないんだ…。あの黒服の奴はその後も同じ場所、同じ時間に来ては遺体を埋めていったよ。早く何とかして欲しい!あんな恐ろしいことをされてたら、おちおち研究もできやしないよ。」
…男の証言は以上だった。

「西馬…。どうだった?」
「奴は嘘は吐いてない。実際に黒服の奴が遺体を埋めている所を目撃している。まあ、警察がこの事件を取り扱わなかったのは、あの男の風体を見たからかも知れないが…。」
誰だって浮浪者みたいな男が、事件だー!、なんて言っても信用しないだろう。
「…じゃぁ、事件があったのは確実なんだな。だが闇クラブとつながりがあるかどうかは分からずじまいか…。」
「いや。多分これは闇クラブ絡みだ。」
「なぜそう言い切れる?」
「安藤のレストランにいた竹田…。覚えてるか?」
「ああ…。俺が倒した奴だな。」
竹田とは以前、安藤の経営するレストラン「ベルゼブブ」でウェイターを務め、また「ルシフェル」の刺客として秋山と一戦交えた男だ。
「奴がどうかしたのか?」
「あいつの着ていた服にそっくりなんだよ。あの男が見たっていう黒服ヤローが。」
「…だから、確実に闇クラブが絡んでいると?」
「ああ。」

黒服男の遺体遺棄事件。
どうやら調べてみる価値はありそうだ…。
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