記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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花園編

思い出した眠り姫と戸惑う花たち

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「そうだ…!私…!」
VIPルームにて、楓が部屋を去った後、アカリが叫んだ。
「ど、どうしたの?アカリちゃん?」
「思い出したの!私、こうしてる場合じゃない!」
「ど、どういうこと?」
「私、殺人鬼を追って来たのよ!安藤っていう殺人鬼!そしたらここに連れてこられた!ここは危険よ!早く逃げないと!」
「殺人鬼…?」
アカリの言葉を受けてポカンとする茜たち。次いで、突拍子もない発言に茜は笑い始めた。
「あはは…!冗談キツイわよ。何でこんなトコに殺人鬼がいるのよ。殺人鬼がいるんならとっくに私達を殺しに来てるんじゃない?もう1日以上ここにいるのよ!」
「ホントなんだって!あの楽園はその殺人鬼が作ったとこなんだから!」
「へ~。わざわざ殺人鬼が?楽園みたいに私達に快適な所を作ったって?バカバカしい。何だってそんなまどろっこしいことするわけ?」
問い詰める茜にアカリは反論出来なかった。よく考えたら、なぜ安藤という男があんな楽園を作ったのか?その理由が分からないままここに来てしまったのだ。しかも事情を知る須田とは離れ離れになってしまった。もしかしたらここは、安藤の元とはまた違う場所なのかも知れない。
「と、とにかく!ここは危ないんだよ!みんなで脱出しないと!」
「いい加減にして。ここに来るために私達は長い間努力して来たの。はい、そうですかと簡単に信じられるもんですか。」
ピシャリと敵意を剥き出しに言い放つ茜。
「行こう。もうあの子はほっとこう。相手にしちゃダメよ。」
そう言って茜はアカリとは部屋の反対側にみんなを集めてアカリを除け者にした。


(どうしよう…。何とか逃げないといけないのに、これじゃあ…。)
ハブられながら悩むアカリ。
と、そのアカリの元へ一人の少女が近づいて来た。初めから何かに怯えていた少女、ぼたんである。
「あの…アカリちゃん。わたし…あなたの言ってること、信じるわ。」
「え!?ほんと!?」
そう言ってぼたんはアカリの隣に座った。部屋の反対側では茜たちがこちらを見ながら何やらひそひそと話をしている。
「でも…どうして?」
「わたし…実は聞いてしまったの。」
「聞いたって…何を?」
「…叫び声。女の子の…。」
「叫び声?」
コクリと頷いてぼたんは続けた。その時のことを思い出したのか、また肩をカタカタと震わせていた。
「一昨日、私はあそこの茜たちとこの部屋に初めて来た。その時は椿ってもう一人女の子がいたわ。この部屋に来た時は私とても嬉しかった。だって念願のVIPルームに来れたんですもの。私も皆と同じように目を輝かせていた。椿って子もも同じで、一緒に凄くはしゃいでいたのを覚えてる…。その日はお互いに自己紹介をし合ったり、夢を語ったりして時間があっという間に過ぎていった。そうして、さっきの黒服がやって来たの。さっきみたいに。」
黒服…。先ほど楓を連れ出した奴のことだ。アカリは妙に無口で不気味な印象を受けたのを思い出していた。
「その時に連れて行かれたのはその椿って女の子だった。茜は一番に行きたかった!なんて悔しがってたっけ。私も顔には出さなかったけど、内心羨ましかったわ。でもまたチャンスが来る。それまで待ってようって思ってそこの壁にもたれて本を読んでたの。そしたら…。」
「そしたら?」
「…壁越しに聞こえてきたのよ。椿の叫び声が。『痛い!』『助けて!』って…。すぐに皆に知らせたけど、誰も信用してくれなかった。さっきのあなたみたいにね。」
「そんなことが…。」
ぼたんは部屋の扉を見やった。
「…あの扉の向こうでロクでもないことがされているのは間違いない。それが何なのか分からないけど…。」
「じゃあ、何とかして皆を納得させて脱出しないと…。」
アカリの提案に、ぼたんは首を振った。
「無駄よ。皆のVIPルームに対する執念は尋常じゃない。どんなに説得しても聞き入れてくれないでしょう。」
「そんな…。」


一方の茜たちは、話し合うぼたんとアカリの様子を眺めていた。
「見てよ。あの二人。コソコソ二人で何話してんのかしら。」
「さあ…?そういえばぼたんも昨日、ここは危ないかも、って言ってたわね。もしかして、本当にここは危険なんじゃ…。」
戸惑うすみれに茜が反論した。
「何言ってんの!危険なら、昨日の時点で私達は全滅してたわよ!」
「…そうよね。私達を生かしておく理由がわからない…。」
「私は幸せになる為にセミナーに通って、楽園で健康管理も人並み以上にやってようやくここにたどり着いたの!あと一歩なのよ!」
「茜…。」
「あの二人…きっと私達を出し抜く算段をしてるのよ。」
「そう…なのかな…?」
「きっとそうだって!」
必死に訴える茜。だがそれはすみれに対してというより、自分を納得させるために言っているようにも見えた…。

「ね。アカリちゃん。こうなったら私達だけで脱出しない?」
ぼたんは茜たちに聞こえない声でアカリに囁いた。 
「そ、そんな…!そんなの駄目だよ!」
「なにをいっているの!このままじゃ、確実に殺されちゃう。茜たちを納得させるのに苦労してたら、私達だって巻き添え喰らっちゃう。一刻も早く出ないと!」
「ダメなものはダメだよ!皆で脱出する方法を考えないと!」

(それに茜さんたちを見捨てて地上に戻っても、先生はきっと許してくれない…。)
アカリは今も必死に自分を探しているだろう西馬のことを想った。

食い下がるアカリに狼狽するぼたんは、腕を組んでアカリに尋ねた。
「じゃあ…どうするの?」
「何か茜さんたちを納得させられる材料をこの部屋で探してみよう!ここに来たのは私達だけじゃない。過去にも何人かが来ているはずだよ。そのうちの誰かが、きっと私達と同じように扉の向こうのことに気づいた人がいるはず…。」
「…分かった。私だけじゃ到底脱出できそうにないしね。あなたに従うわ…。」
「…ありがとう。ぼたんさん。」

…という訳で、アカリとぼたんは前の住人の痕跡を求めて部屋の中を探索することにした。果たして、茜たちを唸らせる材料が見つかるかどうか…?
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