記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

文字の大きさ
上 下
55 / 188
花園編

羽鳥の噂

しおりを挟む
俺は疲れていた…。
ただひたすらに…。

あれから、件の羽鳥の行方を探すため、助手の須田には事務所に確認。俺はマネージャーを探す手はずとなった。
そこまではよかったんだが…、そのマネージャーが一向に見つからない。
冷静に考えてみれば、芸能人の行方を探すよりもマネージャーの行方を探す方がよっぽど難しい。例えばよく「有名人の集う店」だとか、「〇〇さん御用達!」などのうたい文句はよく聞くが、「〇〇のマネージャーが集う店」などと言ったところでなんの宣伝効果もないだろう。
…という訳で、マネージャーの行方については全く手がかりなし。方々を探し回ったが成果はゼロ。今の俺には事務所でおとなしくキリマンジャロを啜るしかやることがなかった…。

「…って、何をサボってるんですかっ!」

耳をつんざく須田の怒鳴り声で、俺は我に帰った。
「お、おう。帰ってたのか。」
「『帰ってたのか。』じゃないですよ!マネージャー探しはどうなったんですか!」
「いや、それが全く手がかりなしで…。」
「だからってサボっていい訳じゃないでしょう!全くもう…!」
うう…。我ながら情けない…。
「と、ところでそっちは何か収穫はあったのか…な?」
俺は怒る助手を刺激しないよう、ちょっとやんわりと尋ねて見た。
「…まあ、収穫はありましたよ。誰かさんと違って。」
…こ、この野郎。

「まず羽鳥は現在特定の事務所には所属していないようです。様々な芸能事務所野を調べて見ましたが在籍名簿に羽鳥の名前はありませんでした。」
「つまり、今はフリーのタレント、ということか。」
須田はうなづいて、報告を続けた。
「ええ。続いて、それならばと出版社に彼女の出版物の出版元を教えてもらいました。」
「出版元の住所を?そんな個人情報、よく教えてもらえたな。」
「警察手帳をチラつかせたら、一発でしたよ。」
「…警察って、君もうやめたんじゃ…?」
「手帳だけはまだ持ってるんです。こういう時の為に。利用できるものは最大限に利用すべきでしょう?」
…さすが元秋山の部下。末恐ろしい娘だ。
「ところが困ったことが分かったんです。」
「困ったこと?」
「彼女の本の出版元の住所が、全てバラバラなんですよ。」
「ふむ…。」

羽鳥は確か過去に美容についての本を5冊程出していた。その全てで毎度出版元の住所をバラバラに書いていたとなると…。
「…恐らく書いてあるのは架空の住所、だな。信用できる情報じゃなさそうだ。」
「しかし、本を出版する上でそんなデタラメが通るもんでしょうか?」
「通るさ。相手は警察や裏の業界にも顔がきく闇クラブのオーナーだぞ。脅迫なりなんなりすれば、多少の無茶は通るだろう。」

…さて、頼みの綱の須田の情報も駄目と来た。これはいよいよ手詰まりになってきたな…。また新しい策を考えないと…。

「おーい!西馬ぁ!いるかぁ!」

…この声は…!

「秋山!」「秋山さん!」
「おお!西馬…と須田!お前ここに来てたのか!」
お得意先兼相棒の秋山が、のしのしと事務所に入ってきた。

「一体なんだ?こっちは忙しいから依頼は無理だぞ…。」
「…辛気臭い顔してるな。あれからずっとアカリちゃんを探し回ってんのか?」
「ああ。連れ去られた先の目星はついたんだが、肝心の場所が分からないで困ってる。そこのオーナーか、マネージャーを探し出そうとしてんだけどそれも見つからず仕舞いだ…。」
「ほう。目星ねえ…。今度はなんて奴なんだい?」
「お前も知ってる人物だよ。羽鳥絵梨。あの羽鳥絵梨だ。」
「羽鳥、か…。」秋山は眉をひそめてその名を噛み締めていた。「なるほどねぇ…。」
「驚かないのか?羽鳥と言えばお茶の間でお馴染みの顔と言ってもいいくらいの有名人だぞ。」
「ん?…まあ、そうだな。そうなんだがな…。」
…含みのある言い方だな。なんか知ってるのか?

「どうしたんだ?羽鳥絵梨になんか引っかかるのか?」
「…まあな。実は彼女には前々から黒い噂が絶えなかったんだよ。あの離婚騒動があった後頃にな。」
「そうだったんですか?初耳です。」
「須田はまだ配属前の話だな。羽鳥は離婚の後、しばらく家に引きこもって表に出てこなかったんだ。それから表舞台に立つまで業界内で様々な憶測がなされたらしい。曰く自殺をしたのでは?とか、曰く妙な新興宗教にはまったのでは?とかな。」
「あの女優にそんな過去が…。だがその後芸能界に復帰するんだろう?」
「ああ。例の美容健康本を引っさげてな。彼女は引きこもってる間、ずっと美容について研究していたらしい。表向きはな。」
「『表向きは』ってことは…、何か裏があるということですか?」
「誰も彼女が美容について研究しているところを見てないんだ。通信教育だのの資料を取り寄せた形跡もない。ネットや本で聞き齧った知識だけで『研究』と呼んでいたのか、あるいは研究なんて始めからやってなくて全く違う活動をしていたのか…。とにかく実態は謎だ。」
…うーむ。メデイアがもてはやしているから、今や美容の専門家って感じだが、実際はそんなもんなのか…。

「加えて、彼女の別れた旦那とその再婚相手が何者かに殺されている。これも羽鳥が芸能界に復帰した頃だな。当初は羽鳥が殺したのでは?と噂が立ったが、確たる証拠が無く、結局犯人は見つからないまま捜査は打ち切り。迷宮入りになっちまった。」
…旦那も殺されたことと芸能界復帰の時期がほぼ同時。関与がないとは思えない。
「なんか…知れば知るほど怪しい奴だな。羽鳥って女は。」
「そうだ。だから、羽鳥の名前を聞いた途端、さもありなんと思ったんだ。」

…なるほどね。って、いやそんなことより。
「…秋山。羽鳥が怪しいってのは分かってるんだよ。問題はそいつの居場所なんだ。何か知ってることはないか?」
…この際どんな小さな情報でもいい。今は少しでもあいつに近づく手がかりが欲しい。
「…うーむ。羽鳥につながるかどうかは分からないがな。」
「!   あるのか!?」
「期待はするなよ。…実は闇クラブに繋がりそうな情報を掴んだんだ。」
おおっ!なんかこれは一気に近づける予感!でも…期待するなって?

「何ヶ月か前から警察に女性の遺体を発見した!と通報してきた男がいる。何でも近くの山の草むらで発見したそうだ。だが、警察はこれを事件とは取り扱わず、マスコミも反応しなかった。」
「それは…。」
以前安藤が話していたケースに似ている…のか?闇クラブは会員に警察上層部や政財界の大物がいて、事件そのものをもみ消されるっていう…。
「何だ?その情報はあてになりそうにないのか?」
「…まあな。確かに事件がもみ消されるのは、闇クラブ絡みのような感じがするんだが…実はここに来たのもその情報の真偽を確かめるためなんだ。」
「なるほど、なるほど。まあ、今は闇クラブにつながることならどんな情報でも欲しい。一体その通報した男ってのはどんな奴なんだ?」
「…町で有名な電波野郎さ。」
電…波?
「えーと…電波野郎っていうのは?」
「要するに頭がどっかイカレタ奴ってことだ。どうだ?それでも聴取してくれるか?」
「お…応ともよ。」
…とにかく手がかりが一切ない今、そのイカれ野郎の情報にすがるしかない。俺は秋山の言う、情報提供者の元に向かうことにした…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...