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花園編
羽鳥の噂
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俺は疲れていた…。
ただひたすらに…。
あれから、件の羽鳥の行方を探すため、助手の須田には事務所に確認。俺はマネージャーを探す手はずとなった。
そこまではよかったんだが…、そのマネージャーが一向に見つからない。
冷静に考えてみれば、芸能人の行方を探すよりもマネージャーの行方を探す方がよっぽど難しい。例えばよく「有名人の集う店」だとか、「〇〇さん御用達!」などのうたい文句はよく聞くが、「〇〇のマネージャーが集う店」などと言ったところでなんの宣伝効果もないだろう。
…という訳で、マネージャーの行方については全く手がかりなし。方々を探し回ったが成果はゼロ。今の俺には事務所でおとなしくキリマンジャロを啜るしかやることがなかった…。
「…って、何をサボってるんですかっ!」
耳をつんざく須田の怒鳴り声で、俺は我に帰った。
「お、おう。帰ってたのか。」
「『帰ってたのか。』じゃないですよ!マネージャー探しはどうなったんですか!」
「いや、それが全く手がかりなしで…。」
「だからってサボっていい訳じゃないでしょう!全くもう…!」
うう…。我ながら情けない…。
「と、ところでそっちは何か収穫はあったのか…な?」
俺は怒る助手を刺激しないよう、ちょっとやんわりと尋ねて見た。
「…まあ、収穫はありましたよ。誰かさんと違って。」
…こ、この野郎。
「まず羽鳥は現在特定の事務所には所属していないようです。様々な芸能事務所野を調べて見ましたが在籍名簿に羽鳥の名前はありませんでした。」
「つまり、今はフリーのタレント、ということか。」
須田はうなづいて、報告を続けた。
「ええ。続いて、それならばと出版社に彼女の出版物の出版元を教えてもらいました。」
「出版元の住所を?そんな個人情報、よく教えてもらえたな。」
「警察手帳をチラつかせたら、一発でしたよ。」
「…警察って、君もうやめたんじゃ…?」
「手帳だけはまだ持ってるんです。こういう時の為に。利用できるものは最大限に利用すべきでしょう?」
…さすが元秋山の部下。末恐ろしい娘だ。
「ところが困ったことが分かったんです。」
「困ったこと?」
「彼女の本の出版元の住所が、全てバラバラなんですよ。」
「ふむ…。」
羽鳥は確か過去に美容についての本を5冊程出していた。その全てで毎度出版元の住所をバラバラに書いていたとなると…。
「…恐らく書いてあるのは架空の住所、だな。信用できる情報じゃなさそうだ。」
「しかし、本を出版する上でそんなデタラメが通るもんでしょうか?」
「通るさ。相手は警察や裏の業界にも顔がきく闇クラブのオーナーだぞ。脅迫なりなんなりすれば、多少の無茶は通るだろう。」
…さて、頼みの綱の須田の情報も駄目と来た。これはいよいよ手詰まりになってきたな…。また新しい策を考えないと…。
「おーい!西馬ぁ!いるかぁ!」
…この声は…!
「秋山!」「秋山さん!」
「おお!西馬…と須田!お前ここに来てたのか!」
お得意先兼相棒の秋山が、のしのしと事務所に入ってきた。
「一体なんだ?こっちは忙しいから依頼は無理だぞ…。」
「…辛気臭い顔してるな。あれからずっとアカリちゃんを探し回ってんのか?」
「ああ。連れ去られた先の目星はついたんだが、肝心の場所が分からないで困ってる。そこのオーナーか、マネージャーを探し出そうとしてんだけどそれも見つからず仕舞いだ…。」
「ほう。目星ねえ…。今度はなんて奴なんだい?」
「お前も知ってる人物だよ。羽鳥絵梨。あの羽鳥絵梨だ。」
「羽鳥、か…。」秋山は眉をひそめてその名を噛み締めていた。「なるほどねぇ…。」
「驚かないのか?羽鳥と言えばお茶の間でお馴染みの顔と言ってもいいくらいの有名人だぞ。」
「ん?…まあ、そうだな。そうなんだがな…。」
…含みのある言い方だな。なんか知ってるのか?
「どうしたんだ?羽鳥絵梨になんか引っかかるのか?」
「…まあな。実は彼女には前々から黒い噂が絶えなかったんだよ。あの離婚騒動があった後頃にな。」
「そうだったんですか?初耳です。」
「須田はまだ配属前の話だな。羽鳥は離婚の後、しばらく家に引きこもって表に出てこなかったんだ。それから表舞台に立つまで業界内で様々な憶測がなされたらしい。曰く自殺をしたのでは?とか、曰く妙な新興宗教にはまったのでは?とかな。」
「あの女優にそんな過去が…。だがその後芸能界に復帰するんだろう?」
「ああ。例の美容健康本を引っさげてな。彼女は引きこもってる間、ずっと美容について研究していたらしい。表向きはな。」
「『表向きは』ってことは…、何か裏があるということですか?」
「誰も彼女が美容について研究しているところを見てないんだ。通信教育だのの資料を取り寄せた形跡もない。ネットや本で聞き齧った知識だけで『研究』と呼んでいたのか、あるいは研究なんて始めからやってなくて全く違う活動をしていたのか…。とにかく実態は謎だ。」
…うーむ。メデイアがもてはやしているから、今や美容の専門家って感じだが、実際はそんなもんなのか…。
「加えて、彼女の別れた旦那とその再婚相手が何者かに殺されている。これも羽鳥が芸能界に復帰した頃だな。当初は羽鳥が殺したのでは?と噂が立ったが、確たる証拠が無く、結局犯人は見つからないまま捜査は打ち切り。迷宮入りになっちまった。」
…旦那も殺されたことと芸能界復帰の時期がほぼ同時。関与がないとは思えない。
「なんか…知れば知るほど怪しい奴だな。羽鳥って女は。」
「そうだ。だから、羽鳥の名前を聞いた途端、さもありなんと思ったんだ。」
…なるほどね。って、いやそんなことより。
「…秋山。羽鳥が怪しいってのは分かってるんだよ。問題はそいつの居場所なんだ。何か知ってることはないか?」
…この際どんな小さな情報でもいい。今は少しでもあいつに近づく手がかりが欲しい。
「…うーむ。羽鳥につながるかどうかは分からないがな。」
「! あるのか!?」
「期待はするなよ。…実は闇クラブに繋がりそうな情報を掴んだんだ。」
おおっ!なんかこれは一気に近づける予感!でも…期待するなって?
「何ヶ月か前から警察に女性の遺体を発見した!と通報してきた男がいる。何でも近くの山の草むらで発見したそうだ。だが、警察はこれを事件とは取り扱わず、マスコミも反応しなかった。」
「それは…。」
以前安藤が話していたケースに似ている…のか?闇クラブは会員に警察上層部や政財界の大物がいて、事件そのものをもみ消されるっていう…。
「何だ?その情報はあてになりそうにないのか?」
「…まあな。確かに事件がもみ消されるのは、闇クラブ絡みのような感じがするんだが…実はここに来たのもその情報の真偽を確かめるためなんだ。」
「なるほど、なるほど。まあ、今は闇クラブにつながることならどんな情報でも欲しい。一体その通報した男ってのはどんな奴なんだ?」
「…町で有名な電波野郎さ。」
電…波?
「えーと…電波野郎っていうのは?」
「要するに頭がどっかイカレタ奴ってことだ。どうだ?それでも聴取してくれるか?」
「お…応ともよ。」
…とにかく手がかりが一切ない今、そのイカれ野郎の情報にすがるしかない。俺は秋山の言う、情報提供者の元に向かうことにした…。
ただひたすらに…。
あれから、件の羽鳥の行方を探すため、助手の須田には事務所に確認。俺はマネージャーを探す手はずとなった。
そこまではよかったんだが…、そのマネージャーが一向に見つからない。
冷静に考えてみれば、芸能人の行方を探すよりもマネージャーの行方を探す方がよっぽど難しい。例えばよく「有名人の集う店」だとか、「〇〇さん御用達!」などのうたい文句はよく聞くが、「〇〇のマネージャーが集う店」などと言ったところでなんの宣伝効果もないだろう。
…という訳で、マネージャーの行方については全く手がかりなし。方々を探し回ったが成果はゼロ。今の俺には事務所でおとなしくキリマンジャロを啜るしかやることがなかった…。
「…って、何をサボってるんですかっ!」
耳をつんざく須田の怒鳴り声で、俺は我に帰った。
「お、おう。帰ってたのか。」
「『帰ってたのか。』じゃないですよ!マネージャー探しはどうなったんですか!」
「いや、それが全く手がかりなしで…。」
「だからってサボっていい訳じゃないでしょう!全くもう…!」
うう…。我ながら情けない…。
「と、ところでそっちは何か収穫はあったのか…な?」
俺は怒る助手を刺激しないよう、ちょっとやんわりと尋ねて見た。
「…まあ、収穫はありましたよ。誰かさんと違って。」
…こ、この野郎。
「まず羽鳥は現在特定の事務所には所属していないようです。様々な芸能事務所野を調べて見ましたが在籍名簿に羽鳥の名前はありませんでした。」
「つまり、今はフリーのタレント、ということか。」
須田はうなづいて、報告を続けた。
「ええ。続いて、それならばと出版社に彼女の出版物の出版元を教えてもらいました。」
「出版元の住所を?そんな個人情報、よく教えてもらえたな。」
「警察手帳をチラつかせたら、一発でしたよ。」
「…警察って、君もうやめたんじゃ…?」
「手帳だけはまだ持ってるんです。こういう時の為に。利用できるものは最大限に利用すべきでしょう?」
…さすが元秋山の部下。末恐ろしい娘だ。
「ところが困ったことが分かったんです。」
「困ったこと?」
「彼女の本の出版元の住所が、全てバラバラなんですよ。」
「ふむ…。」
羽鳥は確か過去に美容についての本を5冊程出していた。その全てで毎度出版元の住所をバラバラに書いていたとなると…。
「…恐らく書いてあるのは架空の住所、だな。信用できる情報じゃなさそうだ。」
「しかし、本を出版する上でそんなデタラメが通るもんでしょうか?」
「通るさ。相手は警察や裏の業界にも顔がきく闇クラブのオーナーだぞ。脅迫なりなんなりすれば、多少の無茶は通るだろう。」
…さて、頼みの綱の須田の情報も駄目と来た。これはいよいよ手詰まりになってきたな…。また新しい策を考えないと…。
「おーい!西馬ぁ!いるかぁ!」
…この声は…!
「秋山!」「秋山さん!」
「おお!西馬…と須田!お前ここに来てたのか!」
お得意先兼相棒の秋山が、のしのしと事務所に入ってきた。
「一体なんだ?こっちは忙しいから依頼は無理だぞ…。」
「…辛気臭い顔してるな。あれからずっとアカリちゃんを探し回ってんのか?」
「ああ。連れ去られた先の目星はついたんだが、肝心の場所が分からないで困ってる。そこのオーナーか、マネージャーを探し出そうとしてんだけどそれも見つからず仕舞いだ…。」
「ほう。目星ねえ…。今度はなんて奴なんだい?」
「お前も知ってる人物だよ。羽鳥絵梨。あの羽鳥絵梨だ。」
「羽鳥、か…。」秋山は眉をひそめてその名を噛み締めていた。「なるほどねぇ…。」
「驚かないのか?羽鳥と言えばお茶の間でお馴染みの顔と言ってもいいくらいの有名人だぞ。」
「ん?…まあ、そうだな。そうなんだがな…。」
…含みのある言い方だな。なんか知ってるのか?
「どうしたんだ?羽鳥絵梨になんか引っかかるのか?」
「…まあな。実は彼女には前々から黒い噂が絶えなかったんだよ。あの離婚騒動があった後頃にな。」
「そうだったんですか?初耳です。」
「須田はまだ配属前の話だな。羽鳥は離婚の後、しばらく家に引きこもって表に出てこなかったんだ。それから表舞台に立つまで業界内で様々な憶測がなされたらしい。曰く自殺をしたのでは?とか、曰く妙な新興宗教にはまったのでは?とかな。」
「あの女優にそんな過去が…。だがその後芸能界に復帰するんだろう?」
「ああ。例の美容健康本を引っさげてな。彼女は引きこもってる間、ずっと美容について研究していたらしい。表向きはな。」
「『表向きは』ってことは…、何か裏があるということですか?」
「誰も彼女が美容について研究しているところを見てないんだ。通信教育だのの資料を取り寄せた形跡もない。ネットや本で聞き齧った知識だけで『研究』と呼んでいたのか、あるいは研究なんて始めからやってなくて全く違う活動をしていたのか…。とにかく実態は謎だ。」
…うーむ。メデイアがもてはやしているから、今や美容の専門家って感じだが、実際はそんなもんなのか…。
「加えて、彼女の別れた旦那とその再婚相手が何者かに殺されている。これも羽鳥が芸能界に復帰した頃だな。当初は羽鳥が殺したのでは?と噂が立ったが、確たる証拠が無く、結局犯人は見つからないまま捜査は打ち切り。迷宮入りになっちまった。」
…旦那も殺されたことと芸能界復帰の時期がほぼ同時。関与がないとは思えない。
「なんか…知れば知るほど怪しい奴だな。羽鳥って女は。」
「そうだ。だから、羽鳥の名前を聞いた途端、さもありなんと思ったんだ。」
…なるほどね。って、いやそんなことより。
「…秋山。羽鳥が怪しいってのは分かってるんだよ。問題はそいつの居場所なんだ。何か知ってることはないか?」
…この際どんな小さな情報でもいい。今は少しでもあいつに近づく手がかりが欲しい。
「…うーむ。羽鳥につながるかどうかは分からないがな。」
「! あるのか!?」
「期待はするなよ。…実は闇クラブに繋がりそうな情報を掴んだんだ。」
おおっ!なんかこれは一気に近づける予感!でも…期待するなって?
「何ヶ月か前から警察に女性の遺体を発見した!と通報してきた男がいる。何でも近くの山の草むらで発見したそうだ。だが、警察はこれを事件とは取り扱わず、マスコミも反応しなかった。」
「それは…。」
以前安藤が話していたケースに似ている…のか?闇クラブは会員に警察上層部や政財界の大物がいて、事件そのものをもみ消されるっていう…。
「何だ?その情報はあてになりそうにないのか?」
「…まあな。確かに事件がもみ消されるのは、闇クラブ絡みのような感じがするんだが…実はここに来たのもその情報の真偽を確かめるためなんだ。」
「なるほど、なるほど。まあ、今は闇クラブにつながることならどんな情報でも欲しい。一体その通報した男ってのはどんな奴なんだ?」
「…町で有名な電波野郎さ。」
電…波?
「えーと…電波野郎っていうのは?」
「要するに頭がどっかイカレタ奴ってことだ。どうだ?それでも聴取してくれるか?」
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