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迷子編
難航する調査
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「さ、じゃまたここに座って。りえちゃん。」
「うん。」
二度目の「カウンセリング」。正直二度も依頼人の記憶を読んだことは、今回が初めてだ。たかが迷子と舐めていた。これは思ったよりやっかいな依頼だ…。
「じゃ、前みたいに俺が質問するから、りえちゃんはそれに答えてくれ。」
「うん。わかった。」
今回はっきりさせたいことは二つ。
孤児院に移ってからりえちゃんを引き取った夫婦のこと。
そして孤児院で直接りえちゃんを引き取った若い男のこと。
うまく聞き出せるといいが…。
「じゃあ、りえちゃん。君はひまわり孤児院に預けられた後、なんていう人が引き取ったのかな?」
「おにいちゃんのこと?それともおじさんたち?」
…おじさんたち?言い方が少し気になるがここは…。
「そうだな…。お兄ちゃんについて教えてくれるかい?」
「うん。わかった。えーと、おにいちゃんのなまえはわかんない。でもいろいろおしえてくれるものしりはかせ。」
……あの若い男だ……孤児院でみたそのままだ…だがやはり何故か顔が黒く塗りつぶされたようになって全く見えない……
「何を教えてくれるの?」
「いろいろだよ。むかしばなしとか、おりょうりとか…。」
……暗い部屋にいる……あの男が……何かを読んでいる…やはり顔は真っ黒に塗りつぶされて見えない…
男についてはこれ以上は無理か…。
「じゃあ、おじさんたちについて教えてくれる?おじさんたちは名前はなんていうのかな?」
「ええっと、くろさわおじさんとたなかおじさん…。」
…始めりえちゃんを見た時に出てきた夫婦だ…両手を広げ、笑顔で
【殺】
こちらを迎えてる…次はリビングで食事を楽しむ風景…本当に
【せ】
幸せそうだ…あれは誕生日ケーキだろうか?…ロウソクがケーキの上に立っている…
【殺】
…ロウソクが消えると、二人は手を叩いて喜び…
【せ】
…映像が変わった…またあの絞殺死体が二つ横たわっている…
【殺】
「…う、ううう……。」
「!!? りえちゃん!?どうしたの?」
「西馬!中断しろ!りえちゃんの様子が変だ!」
秋山とアカリの慌てる声。
な、なんだ…?
目を開けると、りえちゃんが頭を抱えて苦しげな表情をしていた。
「大丈夫か!?りえちゃん!」
「あたまいたい…!あたまいたい…!」
「い、一体何が…?」
「わ、わかんない。先生が最後の質問をした後急に苦しみだして…!」
「と、とにかく休ませよう!西馬!寝室借りるぞ!」
秋山はりえちゃんを抱えて、事務所の奥へ走って行った。俺とアカリも後を追う。
「…落ち着いたか。」
りえちゃんは寝床に就いてしばらくした後、スウスウと寝息を立てている。
「…どうだ?西馬。何か分かったか?」
「いや…ダメだ。この子を引き取ったという若い男の顔もわからなかったし、この子の生活の面倒を見ていた夫婦のことも分からずじまいだ。」
…それに、あの夫婦の記憶を読んでいたとき、何か嫌な感じがした。ストロボ写真のように、記憶の合間合間に何かメッセージが見えたような…。
「…何故急に苦しみだしたんだろう。西馬、今までこんなことあったか?」
「いや、今まで色んな奴を見てきたが、こんなことは初めてだ。」
「そうか…。…引取り手もわからん。この症状も初めての症状。わからんことだらけだな、今回は。」
「む!…それは俺への当てつけか?秋山。」
「あ、いや。何年もお前と色んな事件に関わったが、ここまで手がかりがつかめんのは珍しいと思ってな。」
「…まあ、そうだな。」
俺は落胆と同時に迷っていた。りえちゃんを引き取った夫婦が二組とも殺された事実を秋山に伝えるべきかどうか。この事実を伝えれば、この依頼の解決はぐっと近付くだろう。だが…。
「…とにかく、この子にはこれ以上聞き込みはできんな。俺はこの子を連れて帰る。りえちゃんを休ませてやらんと。」
「いや、ちょっと待て!その子は…!」
「その子は…何だ?」
「あ、いやその…。その子は今日はウチで預かるよ。お前も忙しいだろ?」
秋山はフッと笑うと、
「構わんよ。この子の面倒は俺がみる。お前は解決に集中してくれ。…それに今は娘が出来たみたいで嬉しいんだ。」
「…秋山…。」
そう言ってりえちゃんをおんぶし、秋山は帰っていった。りえちゃんをおんぶする秋山の後姿はまるで本当の親子のようだった…。
「…。くそ…。」
言い出せなかった。あの子は危険だ、なんて、あの幸せそうな顔をした秋山に言えるわけない。
「先生…?」
また心配そうな顔でアカリがこちらを見ている。
「…大丈夫だ。」自分でも無理をしているのは分かっている。いつまでも隠し事はできない。誰かにこの事実を明かさないと、この依頼は進展しない。
「ちょっと出かけてくる。」
「ちょ、先生!どこへ?」
俺は秋山からもらった資料を抱えて、ある所へ向かった…。
「うん。」
二度目の「カウンセリング」。正直二度も依頼人の記憶を読んだことは、今回が初めてだ。たかが迷子と舐めていた。これは思ったよりやっかいな依頼だ…。
「じゃ、前みたいに俺が質問するから、りえちゃんはそれに答えてくれ。」
「うん。わかった。」
今回はっきりさせたいことは二つ。
孤児院に移ってからりえちゃんを引き取った夫婦のこと。
そして孤児院で直接りえちゃんを引き取った若い男のこと。
うまく聞き出せるといいが…。
「じゃあ、りえちゃん。君はひまわり孤児院に預けられた後、なんていう人が引き取ったのかな?」
「おにいちゃんのこと?それともおじさんたち?」
…おじさんたち?言い方が少し気になるがここは…。
「そうだな…。お兄ちゃんについて教えてくれるかい?」
「うん。わかった。えーと、おにいちゃんのなまえはわかんない。でもいろいろおしえてくれるものしりはかせ。」
……あの若い男だ……孤児院でみたそのままだ…だがやはり何故か顔が黒く塗りつぶされたようになって全く見えない……
「何を教えてくれるの?」
「いろいろだよ。むかしばなしとか、おりょうりとか…。」
……暗い部屋にいる……あの男が……何かを読んでいる…やはり顔は真っ黒に塗りつぶされて見えない…
男についてはこれ以上は無理か…。
「じゃあ、おじさんたちについて教えてくれる?おじさんたちは名前はなんていうのかな?」
「ええっと、くろさわおじさんとたなかおじさん…。」
…始めりえちゃんを見た時に出てきた夫婦だ…両手を広げ、笑顔で
【殺】
こちらを迎えてる…次はリビングで食事を楽しむ風景…本当に
【せ】
幸せそうだ…あれは誕生日ケーキだろうか?…ロウソクがケーキの上に立っている…
【殺】
…ロウソクが消えると、二人は手を叩いて喜び…
【せ】
…映像が変わった…またあの絞殺死体が二つ横たわっている…
【殺】
「…う、ううう……。」
「!!? りえちゃん!?どうしたの?」
「西馬!中断しろ!りえちゃんの様子が変だ!」
秋山とアカリの慌てる声。
な、なんだ…?
目を開けると、りえちゃんが頭を抱えて苦しげな表情をしていた。
「大丈夫か!?りえちゃん!」
「あたまいたい…!あたまいたい…!」
「い、一体何が…?」
「わ、わかんない。先生が最後の質問をした後急に苦しみだして…!」
「と、とにかく休ませよう!西馬!寝室借りるぞ!」
秋山はりえちゃんを抱えて、事務所の奥へ走って行った。俺とアカリも後を追う。
「…落ち着いたか。」
りえちゃんは寝床に就いてしばらくした後、スウスウと寝息を立てている。
「…どうだ?西馬。何か分かったか?」
「いや…ダメだ。この子を引き取ったという若い男の顔もわからなかったし、この子の生活の面倒を見ていた夫婦のことも分からずじまいだ。」
…それに、あの夫婦の記憶を読んでいたとき、何か嫌な感じがした。ストロボ写真のように、記憶の合間合間に何かメッセージが見えたような…。
「…何故急に苦しみだしたんだろう。西馬、今までこんなことあったか?」
「いや、今まで色んな奴を見てきたが、こんなことは初めてだ。」
「そうか…。…引取り手もわからん。この症状も初めての症状。わからんことだらけだな、今回は。」
「む!…それは俺への当てつけか?秋山。」
「あ、いや。何年もお前と色んな事件に関わったが、ここまで手がかりがつかめんのは珍しいと思ってな。」
「…まあ、そうだな。」
俺は落胆と同時に迷っていた。りえちゃんを引き取った夫婦が二組とも殺された事実を秋山に伝えるべきかどうか。この事実を伝えれば、この依頼の解決はぐっと近付くだろう。だが…。
「…とにかく、この子にはこれ以上聞き込みはできんな。俺はこの子を連れて帰る。りえちゃんを休ませてやらんと。」
「いや、ちょっと待て!その子は…!」
「その子は…何だ?」
「あ、いやその…。その子は今日はウチで預かるよ。お前も忙しいだろ?」
秋山はフッと笑うと、
「構わんよ。この子の面倒は俺がみる。お前は解決に集中してくれ。…それに今は娘が出来たみたいで嬉しいんだ。」
「…秋山…。」
そう言ってりえちゃんをおんぶし、秋山は帰っていった。りえちゃんをおんぶする秋山の後姿はまるで本当の親子のようだった…。
「…。くそ…。」
言い出せなかった。あの子は危険だ、なんて、あの幸せそうな顔をした秋山に言えるわけない。
「先生…?」
また心配そうな顔でアカリがこちらを見ている。
「…大丈夫だ。」自分でも無理をしているのは分かっている。いつまでも隠し事はできない。誰かにこの事実を明かさないと、この依頼は進展しない。
「ちょっと出かけてくる。」
「ちょ、先生!どこへ?」
俺は秋山からもらった資料を抱えて、ある所へ向かった…。
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