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仮面編
新しい依頼
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――翌朝。
「…う~む。よく寝た。」
ぐっと伸びをした後は朝食の準備だ。ハムエッグと一枚のトースト、そして一杯のコーヒーが俺の毎日の朝食だ。
…あれから、例の依頼人は陳さんに預けられることになった。記憶喪失のため、帰る場所もわからかったからだ。それを聞いた陳さんが、
「だったらウチに泊まっていけ。治療がてら、面倒見てやるわい。」
と言ってくれた。実際のところは男手が欲しかっただけかもしれないが。
今の所は予定はなし。ゆっくりとこのブルマンコーヒーを堪能しよう…。
「西馬――!いるかーー!」
ああ…、また騒がしいのが来た。
けたたましい声。そして勢いよく開くドア。昨日と同じ展開だ…。
「秋山…。今食事中なんだが。」
「ガッハッハ。悪い悪い。実はまた依頼したいことがあって来たんだ。」
…それは分かってる。俺が言いたいのは食事くらいゆっくりさせてくれということだ…。
「どうだ?儲かってるか?」
「昨日の今日でそんなに変わるか。それで?今度はどんな依頼だ?」
「ああ、今回は人探しだ。」
そう言って、秋山は一枚の写真を取り出した。
「この男だ。名前は飯田聡。26歳、会社員だ。」
「なんでまたこんな男を…。何かの事件に必要なのか?」
「まあな…。少し奇妙な話なんだが。」
「?」
「半年前、W大付属病院で殺しがあった。犠牲者は二人の看護婦だ。メスのような鋭利な刃物で滅多刺しにされた挙句、犯人と思われる体液も見つかった。」
「胸糞悪い事件だな…。殺した上でレイプか。それで?」
「防犯カメラの映像から、犯人が特定された。それがこの飯田だ。」
「ふうん…。で、そいつを探せと。だがそれだけならそっちの専門分野だろう。」
「ところが話はそう単純じゃない。…例の連続猟奇殺人事件、この前話したよな?」
「被害者の顔の皮を剥がして殺し回ってる事件か?」
「そう、それだ。実はこの飯田、その看護婦の殺害事件の二ヶ月前にすでに殺されているんだ。」
「なんだって。」
…それは確かに奇妙だ。既に死んでいるはずの人間が人を殺しているなんて。
「防犯カメラの故障とかじゃないのか。」
「いや、間違いない。犯人の顔も被害者の顔もはっきり写ってるんだ。」
「馬鹿な…。」
…そんなことがあるはずがない。死んだはずの男が勝手に動き出し、人を殺すなんて…。
「…で?そいつを探すのが今回の依頼なのか?」
「ああ、正確にはこいつの顔をした男を探すのが今回の依頼だ。」
…あ、そうか。死体は見つかってるんだっけ。容疑者が既に死んでいるんなら、反抗を行なったのは別人と考えるのが自然だ。
「しかしどういうことかね?死んだ奴の顔に化けるなんて。」
「さあなあ…。だが得なことは多いんじゃないか?そいつの身分証も持ってりゃ、誰もそいつだと疑わない。」
「殺してやりたい奴にも、容易に接近できる…。」
「指名手配をした頃には、もう顔は変わっている。まさにやりたい放題だ。」
…成る程な。連続猟奇殺人で、何故顔と身分証が持ち去られているのかわかった気がする。
「いや、しかし待て。ということは、要するにこの事件の犯人を探してくれって言ってるようなもんじゃないか。」
「ご名答。さすが探偵さん。察しがいいな。」
「冗談じゃないぞ。ただでさえ、今面倒な仕事を受けてるってのに。」
「面倒な仕事?」
「ああ。記憶喪失の男の身元調査だよ。今、陳さんに診てもらってるところだ。」
「陳さん?…ああ、闇医者の陳さんか。」
「そうだ。だから今は手一杯…。」
…あ、いややっぱり待て。
「なあ、事件の犯人探しってなると、やっぱり報酬は多め?」
「まあ、いつもよりは弾むつもりだ。」
「どのくらい?」
秋山はブイの字を見せた。
「えー…。20万?」
「200万だ。」
…200万!
「200万!200万だって!」
「ああ。それくらいは出るだろう。なんせ事件が事件だからな。犯人が捕まれば、それなりの報酬になるはずだ。」
…これはおもしろくなってきましたよ。
「…まあ、そこまで言うなら受けてやらんでもないかな~。」
「お、受けてくれるか!?」
「だが条件がある。」
「何だ?」
「実は陳さんへの診察代で昨日かなり使っちまってな。だから、報酬を前借りてきたらありがたいんだけど…。」
「現金なヤツめ。…いいだろう。ほれ。」
…しめしめ。どれどれ…。
「おいおい。5万しかはいってないぜ。」
「贅沢言うな。残りは犯人を見つけてからだ。」
「けち!けち山!」
「誰がけち山だ。誰が。」
俺たちがやいのやいの言っていた矢先、玄関の方で物音がした。
「!!」
咄嗟に二人とも身構える。こんなところに居を構えてる以上、暴漢の襲撃は日常茶飯事なのだ。
俺と秋山はそれぞれ手持ちの銃を構え、警戒を保ちながら玄関に向かった。
ゆっくりと扉を開け…、隣の部屋に滑り込み、玄関に向けて銃を構える。構えた先には…。
「ち、陳さん…。」
血だらけで倒れている陳さんの姿があった。
「…う~む。よく寝た。」
ぐっと伸びをした後は朝食の準備だ。ハムエッグと一枚のトースト、そして一杯のコーヒーが俺の毎日の朝食だ。
…あれから、例の依頼人は陳さんに預けられることになった。記憶喪失のため、帰る場所もわからかったからだ。それを聞いた陳さんが、
「だったらウチに泊まっていけ。治療がてら、面倒見てやるわい。」
と言ってくれた。実際のところは男手が欲しかっただけかもしれないが。
今の所は予定はなし。ゆっくりとこのブルマンコーヒーを堪能しよう…。
「西馬――!いるかーー!」
ああ…、また騒がしいのが来た。
けたたましい声。そして勢いよく開くドア。昨日と同じ展開だ…。
「秋山…。今食事中なんだが。」
「ガッハッハ。悪い悪い。実はまた依頼したいことがあって来たんだ。」
…それは分かってる。俺が言いたいのは食事くらいゆっくりさせてくれということだ…。
「どうだ?儲かってるか?」
「昨日の今日でそんなに変わるか。それで?今度はどんな依頼だ?」
「ああ、今回は人探しだ。」
そう言って、秋山は一枚の写真を取り出した。
「この男だ。名前は飯田聡。26歳、会社員だ。」
「なんでまたこんな男を…。何かの事件に必要なのか?」
「まあな…。少し奇妙な話なんだが。」
「?」
「半年前、W大付属病院で殺しがあった。犠牲者は二人の看護婦だ。メスのような鋭利な刃物で滅多刺しにされた挙句、犯人と思われる体液も見つかった。」
「胸糞悪い事件だな…。殺した上でレイプか。それで?」
「防犯カメラの映像から、犯人が特定された。それがこの飯田だ。」
「ふうん…。で、そいつを探せと。だがそれだけならそっちの専門分野だろう。」
「ところが話はそう単純じゃない。…例の連続猟奇殺人事件、この前話したよな?」
「被害者の顔の皮を剥がして殺し回ってる事件か?」
「そう、それだ。実はこの飯田、その看護婦の殺害事件の二ヶ月前にすでに殺されているんだ。」
「なんだって。」
…それは確かに奇妙だ。既に死んでいるはずの人間が人を殺しているなんて。
「防犯カメラの故障とかじゃないのか。」
「いや、間違いない。犯人の顔も被害者の顔もはっきり写ってるんだ。」
「馬鹿な…。」
…そんなことがあるはずがない。死んだはずの男が勝手に動き出し、人を殺すなんて…。
「…で?そいつを探すのが今回の依頼なのか?」
「ああ、正確にはこいつの顔をした男を探すのが今回の依頼だ。」
…あ、そうか。死体は見つかってるんだっけ。容疑者が既に死んでいるんなら、反抗を行なったのは別人と考えるのが自然だ。
「しかしどういうことかね?死んだ奴の顔に化けるなんて。」
「さあなあ…。だが得なことは多いんじゃないか?そいつの身分証も持ってりゃ、誰もそいつだと疑わない。」
「殺してやりたい奴にも、容易に接近できる…。」
「指名手配をした頃には、もう顔は変わっている。まさにやりたい放題だ。」
…成る程な。連続猟奇殺人で、何故顔と身分証が持ち去られているのかわかった気がする。
「いや、しかし待て。ということは、要するにこの事件の犯人を探してくれって言ってるようなもんじゃないか。」
「ご名答。さすが探偵さん。察しがいいな。」
「冗談じゃないぞ。ただでさえ、今面倒な仕事を受けてるってのに。」
「面倒な仕事?」
「ああ。記憶喪失の男の身元調査だよ。今、陳さんに診てもらってるところだ。」
「陳さん?…ああ、闇医者の陳さんか。」
「そうだ。だから今は手一杯…。」
…あ、いややっぱり待て。
「なあ、事件の犯人探しってなると、やっぱり報酬は多め?」
「まあ、いつもよりは弾むつもりだ。」
「どのくらい?」
秋山はブイの字を見せた。
「えー…。20万?」
「200万だ。」
…200万!
「200万!200万だって!」
「ああ。それくらいは出るだろう。なんせ事件が事件だからな。犯人が捕まれば、それなりの報酬になるはずだ。」
…これはおもしろくなってきましたよ。
「…まあ、そこまで言うなら受けてやらんでもないかな~。」
「お、受けてくれるか!?」
「だが条件がある。」
「何だ?」
「実は陳さんへの診察代で昨日かなり使っちまってな。だから、報酬を前借りてきたらありがたいんだけど…。」
「現金なヤツめ。…いいだろう。ほれ。」
…しめしめ。どれどれ…。
「おいおい。5万しかはいってないぜ。」
「贅沢言うな。残りは犯人を見つけてからだ。」
「けち!けち山!」
「誰がけち山だ。誰が。」
俺たちがやいのやいの言っていた矢先、玄関の方で物音がした。
「!!」
咄嗟に二人とも身構える。こんなところに居を構えてる以上、暴漢の襲撃は日常茶飯事なのだ。
俺と秋山はそれぞれ手持ちの銃を構え、警戒を保ちながら玄関に向かった。
ゆっくりと扉を開け…、隣の部屋に滑り込み、玄関に向けて銃を構える。構えた先には…。
「ち、陳さん…。」
血だらけで倒れている陳さんの姿があった。
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