記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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楽園編

一方の… 別離

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「ちょっとやめて!痛い、痛い!痛いってば!」

ニャン太郎の股間を蹴り上げた後、アカリと須田はすぐに連行される事になった。例の「VIPルーム」とやらに。
須田は赤髪の男に、アカリはスキンヘッドの男に担がれていた。
「いい加減に離せー!このハゲーー!」 
喚きながら、アカリはスキンヘッドの頭をペチペチ叩く。
「……。」
が、スキンヘッドの男はまったく動じていなかった。

見かねた須田がアカリを注意する。
「アカリちゃん。人様の頭をそんなポンポン叩くもんじゃないわよ。」
「はーい。…でも凛さんも、顔殴ったり、股間蹴り上げたりしたじゃないですか。」
「あれは…仕方なくよ。うん。」
言葉を濁す須田に、アカリはクスッと笑った。
「何?なんかおかしい?」
「ううん。なんか始めのイメージから変わったな、って思って。私、凛さんてもっと大人の女性で近寄りがたいかな、って思ってました。」
「あら。じゃあ私は子供っぽいってことかしら?」
「あ!いやいや、そうじゃなくてなんていうか…、そう。クールなんだけど熱い人って感じ、かな。」
「何それ?変なの。」

ははは…と笑い合う2人。

「…印象が変わったのは、私もそうよ。アカリちゃん。あなたのこと、もっと頼りない女の子だと思ってた。でも一緒に捜査を進めるうちに、絶対にへこたれない強い子なんだって分かったわ。それを見て私も頑張らなきゃ、って思えたの。」
「そ、そんなあ。照れちゃうな…!」
「ま、色々振り回されたりもしたけどね。あれはあれで楽しかった。」
「う…。」

須田は真っ暗な廊下の先を遠い目線で眺めた。
「ようやく…。ようやくあの時の心残りに決着をつけられる。あなたには感謝してるわ。アカリちゃん…。」
「凛さん…。まだ礼を言うのは早いですよ!勝負はこれからなんですから!」
「ええ…。」
須田はまぶたにこみ上げていた涙を拭いて、暗闇に向き直った。
「そうね!」


…どれだけの距離を運ばれたのだろう。この暗闇がまるで永遠に続くかのように感じられた。
「まだかなー…。私もうくたびれた…。」
「…我慢しろ。あと少しの辛抱だ。」
「うおっ!しゃべった!このハゲ!」
「…。」
一言しゃべったきり、スキンヘッドの男はまた口を閉ざした。

やがて、十字路が見えてきた。
先を走っていたスキンヘッドが左に曲がる。
が、須田を抱える赤髪はまっすぐ進んでいった。
「!!  あの、ちょっと!はぐれちゃったわよ!」
「いいんだよ。あんたはこっちの安藤さんの方であってる。あいつはまた違う方の担当だ。」
「冗談じゃないわ!下ろして!あの子と一緒じゃないと…!」
喚く須田の腕に、赤髪は何かの注射を打った。ジタバタしていた須田もしばらくしてグッタリと気を失ってしまった。
「ぎゃーぎゃーうるさいんだよ。クソアマ。俺たちをなめんな。」


「あれ!?須田さんが来てない!」
先行していたアカリも須田が来てないことに気づいた。
「ねえ、ちょっとハゲ!ストップ、ストップ!後ろが来てないよ!」
「…ハゲじゃない。岩田だ。」
ペチペチ頭を叩かれながらも、岩田は走り続けた。
「お前はあの女とは違う所に連れて行かれる。」
「え!?嘘!?」
「本当だ。もっとも、そこがなんというところかは俺も知らん。」 
「ちょっと、もう下ろしてよ!凛さんに合流しなきゃ!」
「ダメだ。俺は任務でここに来ている。お前を逃せば俺が殺される。逃すわけにはいかない。」
「えー!」
「それにここで無理に下りて合流を目指したところで、ここで迷って死ぬだけだ。おとなしく連れられた方が安全だ。」
「ど、どうしよう…。先生に何も伝言してないよ…。帰りが遅くなるって…。」
「…呑気なものだな。帰れると思っているのか?」

岩田の問いにアカリは強い口調で答えた。
「帰れる!先生なら絶対私を見捨てないもん!先生が絶対私を帰してくれる!」
はあ…とため息をつき、岩田はアカリに注射を打った。さっきまで元気だったアカリも須田同様、気を失ってしまった。

「希望を持つのは結構だが、この先下手な希望は持たない方がいい。世の中は不条理なことの方が多いもんだ…。」
そう言って、岩田は目的地に向かってまた走り出した。
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