記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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楽園編

一方の二人 楽園を知る男

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須田とアカリは、ニャン太郎と名乗る男を自宅に連れて話を聞くことにした。情報はどんなものにせよ欲しい。そしてもしこの男に乱暴を働いても、自宅内ならばスタッフにバレないだろうという計算だ。
ニャン太郎は相変わらずニヤニヤ笑っている。
「…じゃあ、ニャン太郎さん、だったかしら?情報について教えてもらえる?」
「ええ。いいですよ。」
(ニャン太郎…。うーん。どっかで聞いたような…。)
思案に暮れるアカリをよそに、ニャン太郎は語り始めた。

「まず結論からいいます。この『楽園』はとても危険だ。何も知らずに暮らしていると殺されかねない。生き続けるためにはうまく立ち回らないといけない。」

「…危険ね。やっぱり何かしらのリスクがあったのね。」
「あれ?驚かないんですか?」
「私たちは安藤という男を探してここまで来た。そいつは平然と人を喰うような猟奇殺人鬼。そいつが絡んだこの『楽園』。あのセミナー通りの場所とは思ってないわ。」
「安藤さんのことを御存知なんですね。なら話が早い。この『楽園』はその安藤さんの経営するレストランと繋がってるんです。」
「安藤がレストランを経営している?」
「そう。そしてそのレストランでは人肉を取り扱っている…。そこで使われているのが、この『楽園』に住む人間なんです。」
「…やっぱりね。でも、なんでこんな『楽園』なんて回りくどいことするのかしら?」
「ちらっと聞いた話だと、肉質を高める為だそうです。ストレスなく、健康的な肉は至上の味だとか…。」
「美味いものを食べたいがためにこんなものを作ったの!?大した趣味ね…。」
須田は感嘆のため息をついた。

「じゃあ、定期的に行なう健康チェックっていうのは…。」
「当然肉質のチェックです。健康的か。肉付きは良いか。悪ければ指導をし、さらに良くなるように誘導する。そして健康優良であれば、『VIPルーム』に移動させる…。」
「その『VIPルーム』っていうのは、一体なんなの?」
「スタッフたちは公にはしませんが、いわゆる『屠殺場』です。『VIPルーム』に連れられたが最期。そこでバラバラに解体され、レストランで美味しく調理される…。」
「笑えない話ね。さらに良い生活を夢見て努力をして、成し遂げたと思ったら食い物にされる…。」
「まさに悪魔の所業ですよ。」

情報を語るニャン太郎を見ながら、アカリは1人思案に暮れていた。
(うーん。ニャン太郎って、どっかで聞いたような…。)

「でもそんな情報、どうやって調べたの?普通、都合の悪い情報は漏れないようになってると思うけど…。」
「単純ですよ。ここのマザーコンピュータにハッキングしたんです。VIPルームってのがどんなのか気になってね。そうしたら出るわ出るわ…。奴らの俺たちの肉質の評価、VIPルームでの解体の様子も全部見れましたよ。」
歪んだ笑顔を見せながら、興奮して話すニャン太郎。
「それからはどうやって『VIPルーム』行きを逃れるかばかり考えました。健康チェックでのアドバイスを無視し、なるべく不健康に振舞ってね。おかげで初期メンバーで生き残ってるのは私だけになりましたよ。」
「…それは良かったわね。ところで安藤にはどうすれば会えるか、わかる?」
「安藤さんに?うーん。…あの人に会うには、『VIPルーム』に行くしかないですよ。あの人が、解体を担当してますから。」
「じゃ、とっとと健康になるしかないないですね!凛さん!」
「そうね。」

意気込み始めた2人を、ニャン太郎は制した。
「ちょ、ちょっと、待って下さいよ!あそこに行こうなんて、死にに行くようなもんです!それよりここで生き延びる良い方法があるんですよ!聞いて下さい!」
「…生き延びるって、じゃあ何すんの?」
興味なさげにアカリが尋ねた。

「ズバリ、お二人とも僕と結婚しませんか?」
「は?」
「は?」

「い、いや面食らうのも無理ないですけどね。これが生き延びる可能性がたかいんですよ。結婚するとこの『楽園』で『ブリーダー』って資格がもらえて、健康チェックが免除されるんです。その代わり、子供ができたら向こうに提供することになりますけど…。」
「却下ね。ありえない。」
即答する須田。

「自分の子供を捧げてまで生き延びたいの?あなた、一体何のために生きてるの?」
「何のためって…。そりゃ自分の為ですよ。自分が生きてさえいれば、友人だろうが、子供だろうが、何だって差し出せばいい。」
「…呆れたわね。あのチュー太郎といい、今の世の中ろくな男はいないのかしら?」
「…え?なんでチュー太郎のことを知ってるんですか?」
チュー太郎の名前を聞いて、アカリがポンとてをたたいた。
「思い出した!あなた、チュー太郎をここに誘ったっていう学校の友達でしょ!」
「ええ、そうです。…そうか。あいつに会ったんですね。俺のこと、なんか言ってました?」
「特に何も。ネットで広めるネタができたって喜んでた。」
「はは…。あいつらしいや。」

「…ねえ。ここから出て、チュー太郎に会いたいって思わないの?ここに一年以上いるあなたなら、抜け道とか知ってるんじゃないの?」 
アカリの質問に、ニャン太郎は頭をふった。
「ここから出ようとは思いませんね。ここなら働かなくとも毎日うまい飯も食えて遊んで暮らせるんだ。戻ったところでこんな贅沢暮らしできるかい?貧乏くじは他人に引かせて、俺は死ぬまでここに居座るんだ。」
「あらそう。なら残念ね。私たちはここから出るつもりだから。」
「ここから出るなんて無理ですよ!それよりここで俺と生き延びた方が…。」
「手っ取り早く『VIPルーム』に行ける方法を教えなさい。」
「いや、それは…。」
「あなたなら知ってるでしょう?『VIPルーム』に連れて行かれないように気を使ってるんだから、当然連れて行かれる条件を知ってるはずだわ。知らないとは言わせないわよ。」
詰め寄る須田に、やむなくニャン太郎は口を開いた。
「…方法は二つです。
まず健康優良と認められること。健康チェックは月に一度のペースで行われます。ここでクリアすれば『VIPルーム』に向かえます。
もう一つは、ここでの『タブー』を犯すこと。」
「『タブー』?」
「はじめに言われませんでしたか?他人に迷惑をかける行為をしてはいけないと。それがここでの『タブー』なんです。もし『タブー』行為を行えば、強制的に『VIPルーム』行きです。」
「ふうん。それが手っ取り早そうね。」
「でも、なんでそれで即『VIPルーム』行きなんだろ?健康優良とは認められてないんだよね?」
「はい。しかし、健康優良でないと認められたものにはちがう用途があるみたいです。あるものは死体を長期間吊るしてハムにしたり、あるものは骨髄から出汁を取るために使われたり…。」
「食材は余すことなく使われるのね。無駄がないわ。」
「ええ。さらに彼らは我々のストレスに非常に敏感なんです。肉の味の劣化につながるとかなんとか…。だからストレス要因になる者は即排除しなければならないんでしょう。」
「なるほど。」


「ありがとう。よくわかったわ。帰って良いわよ。」
「ちょっと待って下さいよ!ここまで情報を出したんだ!何か見返りがあってもいいんじゃないですか!?」
ニャン太郎がわめき出した。
「欲張りね…。そもそも結婚はしないって言ったでしょう?」
「じゃ、じゃあ一発ヤラセてくれるだけでいいですから…!」

ぐしゃ。

須田の前蹴りが的確にニャン太郎の股の間の柔らかい臓器に命中した。
「10年早いわよ。クソガキが。」

アッーーーー!!

閑静な「楽園」に、その日男の絶叫が響き渡ったという…。
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