記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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楽園編

一方の二人 楽園の都市伝説

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某日、午後6時。
アカリは公園で須田を待っていた。
少し遅れて須田が息を切らしながらやって来た。
「ごめん…!待ったかしら…?」
「遅いですよ!凛さん!連絡なしに20分遅刻するなんて!社会人失格ですよ!」
「…仕事で遅くなるってメール、一時間前に送ったはずだけど…。」
「そんなメールなんて来てな…、あ、来てた。」
「…あなたの確認ミスね。ま、遅れたのは悪かったわ。ごめんなさい。」

須田とアカリはあれから例の「楽園」の都市伝説を投稿した人物に接触することにした。投稿主は意外とあっさり見つかり、連絡を送ったらこれもまた簡単に取材にも応じてくれた。
というわけで、後日に取材をするアポを取り今日に至るというわけだ。

「…この都市伝説が安藤に繋がっていればいいんだけど…。」
「きっと繋がってますよ!考えても仕方ない!行動あるのみ!」
溢れんばかりに元気なアカリを見て、須田はクスッと笑った。
「…?私、なんか変なこと言いました?」
「…ううん。元気なあなたを見て、私も負けてらんないな、って思ったの。」
「えへへ…。」
アカリは恥ずかしげに頭を掻いた。

アカリたちが周りを見回すと、夕方、もう日が落ちそうな公園の中央の樹に、影で消えてしまいそうな青年が座っている。
「もしかしてあの人かな…?」
気づいたアカリが近づいて声をかける。
「すいません!あなた、『楽園』のスレ主のチュー太郎さんですか?」
アカリの問いかけに、青年は無言でうなづいて答えた。

「…あなたがチュー太郎?」
「そ、そうです。」
チュー太郎と呼ばれた青年は、20前後の学生のようだった。肌は青白く、何かオドオドとして頼りない印象を受ける。
「早速で悪いけど、『楽園』のことについて教えて欲しいの。その事件について詳しく教えてちょうだい。」
「は、はい。分かりました。」
ガタガタ震えながら、チュー太郎は語り始めた。
「ちょうど一年前の事です。僕の学校友達のニャン太郎から突然誘いのメールが来たんです。『とても素晴らしい場所に行ける。一緒に来ないか?』って。そのメールには、場所についての詳しい日時と場所も書いていました。でも明らかに怪しいと思って、その友達の誘いを断ったんです。そしたら…。」
「そしたら?」
「その後ニャン太郎から返事が来ました。『とても残念だ。仕方ないから僕は一人で楽園に行ってくる』って。ニャン太郎との連絡はそれで最後になりました…。」
「それっきり会えなくなったってこと?」
須田の問いに、また無言でうなづいて答えるチュー太郎。
「…メールも電話も繋がらなくなって、学校でも会わなくなった。怖くなった僕は掲示板サイトでこの話を投稿して、似たような話がないかを聞いて見たんです。そしたら僕以外にも何人も似たようなことが起こっているのが分かりました。」
…ここまでは以前アカリと須田が調べた内容と合致する。
「その送られて来たっていう場所と日時の書かれたメール、まだ残ってる?」
「…あのメールですか?気味悪いから削除しちゃいましたよ。でもデータならゴミ箱に残ってるかも…。」
チュー太郎はスマホのメールボックスから、件のメールを探し出した。
「…あった。多分これです。」
「どれ…。」


『201×/10/12
オッス!チュー太郎!元気?
実は今度、知り合いの人にいいところがあるから来ないか?って声かかってさ~。よかったらチュー太郎も来ない?
金もいらない。働く必要もない。毎日うまい飯を死ぬまで食えるんだってさ!興味あったら連絡くれ!
ちなみに場所はS区の国際センタービル2階
日時は10月16日の…』

「S区の国際センタービル…!」
「何か分かったの?凛さん。」
須田は自前のノートパソコンを開いた。
「アカリちゃんには以前見せたわよね?S区の失踪事件のデータ。」
「うん。」
「A、B、Cの建物周辺で、それぞれ三ヶ月ごとに失踪事件が起こってる、って言ったの覚えてる?」
「うん。覚えてる。一年前の10月から、三ヶ月ごとに場所を変えてものすごい数の失踪事件が起こってるんだよね?」
「そう。そしてその建物の一つ、仮にAと呼んでた建物が、その国際センタービルなの。」
「え!?」
須田の指差した画面上に、確かに国際センタービルの名前が書かれていた。
ビル周辺には無数の赤いポイントが打たれてあり、日付はどれも10月の日付。その中には、ニャン太郎が連絡していた16日の日付もあった。

「凛さん!これは…!」
「どうやら繋がってきたわね…!お手柄よ!アカリちゃん!」
キャッキャと喜ぶ二人に、チュー太郎が尋ねる。
「あの、お二人はこの都市伝説を追ってるんですか?」
「ええ、そうよ。」
「じゃあ、次にどこでその楽園が出てくるか分かるんですね?」
「あ、それは…。」
そう。楽園の都市伝説と失踪事件が繋がったからといって、肝心の次の会場が分からない。二人にはまだ見当もついていないのだった。
「…分かんないんですか?」
「…まあ。」
「なーんだ。使えないなぁ。」
「な…!」
一瞬怒気を見せた須田にチュー太郎はやや怯んだが、また喋り始めた。
「だってそうでしょ?ここまでこの都市伝説のことを知ってるんだからてっきり知ってるって思ったのに、知らないんだもんなあ。これじゃ、ネタにできないよ。」
「…ネタ?」
「そう。今『楽園』の都市伝説ってのかなり有名になってて、それ単体のサイトまでできたんだ。俺がサイト主なんだけどね。それについての最新情報を更新するのが今の俺のトレンドなんだよね。」
「…あなた、その『楽園』で友達をなくしたんじゃないの?」
「まあ、ニャン太郎は気の毒したけどおかげでネットで話題になるようなネタのスレ主になれたし。あいつは自分の意思で行った訳だし。いいんじゃない?お互い得があったってわけで…。」
言い終わる前に須田はチュー太郎をぶん殴っていた。

「…行きましょう。アカリちゃん。こんなクズにこれ以上時間を割く必要ないわ。」
「う、うん。そうだね。」
大の字でノビているチュー太郎を後にして、アカリと須田は次の調査に向かった。
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