記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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楽園編

安藤の行方

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「…さて、秋山さんよ。早速安藤を探すわけだが、奴についてなんか手がかりみたいなの、ないか?」
「さてな…。何せ、奴はここのところ全く音沙汰なしだからな。」
俺と秋山は、未だに探偵事務所からスタートできずにいた。食人鬼探しを請け負ったものの、手がかりなしでは行く先真っ暗だ。小さな手がかりでもつかみたいものだが…。
「最後に奴が殺人を犯したのは?」
「最後に分かっているのは、一年以上も前だ。奴の家宅捜査が行われる直前だな。」
「一年以上も殺人が行われてないのか?何十人も喰い殺し続けてた奴が?」
「そうだ。最も、警察で確認が取れている範囲では、だが。」
…少し考えにくい事実だ。奴…安藤にとって殺人は食事と同じだ(あくまで俺の想像だが)。そんな奴がパッタリと殺人をやめたという事は…。
「警察に恐れをなして、真人間に戻った?」
「いや、ありえないだろ。」
…だよな。
「…となると、死んだのか?」
「そう考えるのが自然だな。」
…まあ、そうだろな。
「しかし、俺はもう一つの可能性がある気がする。」
「もう一つの可能性?」
「奴が殺人をやめたのが警察の家宅捜査が行われた直後。どうもタイミングが良すぎないか?」
「確かに…。」
「もし奴がまだ生きているとしたら…?俺にはそっちの方が厄介に思えるな。」
…奴がまだ生きているとしたら。それは今まで通り殺人を犯していながら、それが世間の明るみに出ていないということか。人を喰い殺しても罪に問われない。奴にとって最高の状況だ。
「確かに、えらい事だな。こりゃ。」
「早急に奴の生死を確かめる必要がある。問題はその情報が見つからない事だ。」
「頼みの綱の警察さんも駄目だろうしな。」
「裏の情報に詳しい人間が要るな。表には出ない、裏の世界の情報を。」
「裏の世界の情報といえば、やっぱりあの人しかいないなぁ。」
 

「…で、わしのところに来たわけか…。」
「そういう事だ。陳さん。」
俺たちは探偵事務所の近くで診療所を営む陳さんのところにやって来ていた。この陳さんはヤクザなどの裏社会の情報に詳しい。前回の迷子の件でも情報提供に一役買ってもらった。
「しかし、西馬よ。最近はうちに聞き込みにばかり来るのう。わしは本業は医者なんじゃが…?」
「あ、いや悪い。陳さん。今度また腹でも壊したら診てもらうよ。」
「…次は情報料も貰おうかの。」
陳さんはややうんざり顔だ。無理もないか。
「相変わらず忙しいのか?陳さん。」
「…わしが元気そうに見えるか?しんどくてしゃあないわい。」
…ヤクザ間の勢力争いは依然として続いているらしい。陳さんはそういうヤクザ者も悪人問わずに治療している。
「すまんな。陳さん。どうしても聞きたい情報があるんだ。」
「秋山か…。例の娘さんの容態はどうじゃ?」
「りえちゃんのことか?あんたに処方してもらった薬を飲んで少し落ち着いたよ。まだ、言葉は話せないがな。」
りえちゃん…。以前秋山が保護した迷子の女の子だ。「催眠男」に襲われてからショックで失語症を発症したと聞いたが…。
「秋山…。お前、陳さんとこに通院してたのか!?」
「ああ。表の医療機関じゃ、あの『催眠男』に嗅ぎ付かれるおそれがあるからな。ここならその心配はない。」
「仕事とりえちゃんの面会をしながら通院まで…。あんたも大変だな。」
「娘のためなら、なんてこたないさ。」
…まったく頭が下がる。子供ができたら、俺もこうなるんかね?
「まあ、それはともかくじゃ。西馬。安藤とやらの噂なら、知っとる奴がおるぞ。都市伝説のような信じられん話でいいなら紹介するが?」
「いや助かるよ。今はどんな手がかりでも欲しいんだ。」
「…安藤といえば、もう随分前の殺人犯じゃろ?今更なぜ奴を探す?」
「死んだところを誰も見てないからだ。生きているところも。はっきりしないまま過ごすのは、寝覚め悪いだろ?」
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