記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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楽園編

変わらぬ日常と来訪者

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『…来週も、見てくれるかな?』
「いいかもー!」
昼下がりの長寿番組「笑っていいかも」。この番組をお昼に見ながらコーヒーをすするのが俺の楽しみの一つでもある。

ここは俺の事務所。そんで俺は私立探偵。町の路地裏の裏の裏。そんなへんぴな場所に俺の事務所がある。
「今日も面白かったね!先生!」
今日は俺の至福の時を邪魔する奴が一名いる。自称探偵助手の大学生、アカリである。
「おいアカリ。学校はどうした?学校は。」
「今は昼休み中。次の授業は夕方からだし、暇なんだ。先生も暇でしょ?」
「し、失敬な!今はその、あれだ。たまたま仕事がないだけだ!」
そう。たまたまだ。たまたまこの二週間仕事がないだけ。うう…。
ここのところ、警察官かつ相棒の秋山は忙しくなったため前よりも仕事を持ち込まなくなってきた。自分の仕事に加え、以前の依頼で少年院に入った少女の面会に毎日行ってるのだ。正直、よくやると思う。立派なことだ。
…だが俺にとっては死活問題だ。何せもともと客なんて少なかったのに、秋山からの依頼も減ったのだ。当然、収入も減る。最近、水光熱費の支払いも怪しくなってきた。このままでは正直ヤバイ。

「心配しなくても、私が依頼探してくるよ!先生!」
「いや、それは全力で拒否する。」
冷たい様だがこいつの持ち込む依頼でろくな目にあった試しがない。しかも依頼料は破格のお値段でだ。前回の迷子の依頼なんか結局10円で引き受けさせられた。前々回では殺人鬼に殺されかけたし…。というわけでこいつからの依頼は断固お断りなのだ。
「なんでよー。仕事ないよりマシでしょー?」
「仕事は仕事でも、報酬の見合わない仕事は嫌なんだよ。」
ぷぅ~、とふくれっ面になるアカリ。そんな顔してもダメなもんはダメだ。

コン  コン

「…今ノックの音しなかった?」
「そうか?気のせいだろ。第一ウチにきちんとノックなんてする奴が来るか?」
「新しいお客さんかもしんないよ?」
「まさか。それこそありえない…。」
自慢じゃないが、ここは知り合いでも居なけりゃ見つからないようなへんぴな場所だ。よほどの用でも無けりゃ…。

コン  コン

「! ほら!やっぱり!」
「き、客か!?」
奇跡か!?偶然か!?いずれにしろ早く向かわないと帰っちまう!
「はいはい!ただいま参りますよっと!」
玄関に向かう足取りも軽く、俺は来客を迎え入れた。扉の向こうに立っていたのは一人の若い女だった。
「どうもこんにちは。あの…こちらに西馬という探偵さんはいらっしゃいますか?」

「初めまして。私、こういうものです。」
そう言って、女性はこちらに手帳を見せた。制服姿の顔写真の横に名前が書いてある。
「須田凛…。あんた警官か?」
「はい。 秋山さんの紹介で参りました。」
「秋山に…。ってことはあんた秋山の部下か?」
「そうです。」
驚いた…。秋山の部下といえば今まで電話越しに秋山を怒鳴りつけてた奴だ。もっときつい顔をしてると思ってたんだが、なかなかどうして美人じゃないか。
小柄ながら、ショートカットの黒髪に整った顔立ち。かけている眼鏡からは知性と品性の高さを感じさせる。プロポーションもまた均整が取れている。スレンダーな眼鏡美人といった感じ。
「…先生。なにやらしい目で見てんの?」
気付けばアカリがジト目でこちらを睨んでいた。
「み、見とらんわ!失礼な!」
…イカンイカン。無意識に相手の女性の体をじっくり観察していた。美人の体の全体を観察してしまうのは男の性って奴だな。
「そんで?一体どんな用件でしょう?」
「…人探しをお願いしたいの。この男よ。」
須田刑事は一枚の男の写真をだした。40から50くらいの男。頭はややハゲ上がってはいるが、その眼光は写真越しからも狂気を感じさせるほどギラギラしていた。
「…この男は?」
「名前は安藤チヒロ。過去に連続猟奇殺人を犯した男。別名『グルメ食人鬼』…。」
…なんだかまた面倒そうな依頼の予感。
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