記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

文字の大きさ
上 下
184 / 188
終幕編

岩田襲来 住吉、リベンジ

しおりを挟む
「ああ…!あわわわ……!」
虻川はその場にへたり込み、ただただ恐れおののいていた。
突如現れたたったひとりの男に部下の大半が目の前で次々と殺されたのだ。男はまるで鋼鉄で出来ているかのように頑丈で、銃弾は効かない、ドスを刺しても逆に折れてしまう始末。残る部下も自分を残して逃げてしまった。たった一人で、もはや虻川自身に勝ち目はないのは明らかであった。
「な、なんなんじゃ…!この化けもんは…!」
絶望と恐怖で、彼の戦意は既に失われていた。。死を予感させるあまりの緊張で、彼は失禁までしていた。
みすぼらしい虻川を見下ろして、岩田はゆっくりと語りかける。
「……障害となる者は全て殺す。まだ抵抗を続けるか?」
岩田の問いに、虻川は必死で顔を横に振る。
そんな彼を岩田は鼻で笑うと、
「行け!」
そう言って尻を蹴り上げた。
「あ、アヒィ~~!」
これ以上ない情けない悲鳴を上げて、虻川は表通りに向かって逃げ出した。


虻川が立ち去ったのを確認すると、岩田はもう一人、その場に残った男に告げる。
「お前もだ。障害となるなら、俺はお前を殺す。」
彼の視線の先、そこには仁王立ちで岩田を睨みつける住吉の姿があった。
先程の惨劇を見せつけられてもなお、彼の瞳は煌々と燃えていた。威嚇する獅子のような眼差しで睨む住吉からは、頑として揺るがない強い闘志が感じ取れた。
「……生きていたとは意外だった。お前はあの時に死んでいたものと思っていた。」
「あいにく、俺はしぶといんでな。」
「せっかく拾った命だ。生き延びようとは思わないのか?……今度はもう手加減はできん。今やれば、お前は確実に死ぬ。」
「やってみなきゃ、分からんだろ。」
「そので何ができる。」
岩田は住吉の右腕を指差した。そのギプスで固められた右腕は先の戦いで、既に骨がボロボロになっていた。
「ただでさえ俺に敵わなかったお前が、利き腕が使えない状態で勝てる訳がない。俺はプロだ。戦うというなら今度はお前を殺さなきゃならん。逃げるなら今のうちに……。」
なだめようとする岩田。だがそんなことにはお構いなく、住吉は左拳を振りかぶり、岩田に向かって殴りかかる。その拳は岩田の胸部に当たった。
「……どうしても、やるというのか?」
「ウダウダうるせえ!俺はやると言ってるんだ!いくぞオラ!」
「……わかった。」
岩田が応えてもなお、住吉は殴り続ける。
左拳を当てては振りかぶり、また当てては振りかぶる。その繰り返しだった。
対する岩田は全く動じず。住吉の拳を避けるでもなく、防ぐでもない。ただ無防備に受け続けていた。
一向に反撃を仕掛けてこない岩田に、住吉は次第に苛立ちを見せる。
「どうした!何故かかってこない!」
「……。」
岩田はため息混じりに住吉に告げる。
「……以前に比べて、パンチの威力が失せている。片腕が使えない分、打ち終わりにバランスも崩している。どう考えてもお前に勝ち目はない。」
「だったら、どうした!」
岩田の声をかき消すように、住吉はまた振りかぶって拳を放つ。だが岩田はひらりとその一撃をかわした。バランスを崩した住吉はそのまま倒れるもすぐに立ち上がり岩田を睨みつけながらなおも構えるのだった。
「……解らん。いったい何がお前を支えている?陳成龍を守る為か?」
「……へっ。」
住吉は顔を拭いながら答えた。
「俺はただ、この前の喧嘩のケリをつけたいだけだ。」
「勝ち目が無くともか?」
「関係ねえ。」
住吉は地面に右腕を叩きつけ、そのギプスを叩き割った。中からはまだ折れ曲がってボロボロの腕が剥き出しになる。
「ほれ。これで片腕じゃなくなったぞ。」
「……イかれてる。」
「今更気づいたか。俺はヤクザの喧嘩屋、住吉。半端な神経でやってねえ。今、この時、この喧嘩に全力でぶつかるだけだ。だから腕が折れようと、己がくたばろうと関係ねえのよ。」

岩田は住吉の言葉を黙って聞いていた。
やがて彼はそのサングラスを外し、黒服のジャケットも脱ぎ、そして住吉に向けてゆっくりと構えを取った。
「……すまなかった。今までの非礼を詫びよう。そして俺も全力で応えよう。……やろうじゃないか。存分に、喧嘩を。」
「ああ。」
向き直った岩田に向かって、住吉はまた走り出した。
その顔は怒りでもない。悲観でも、諦観でもない。
どこか喜んでいるような、楽しげな笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...