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終幕編
岩田襲来 住吉、リベンジ
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「ああ…!あわわわ……!」
虻川はその場にへたり込み、ただただ恐れおののいていた。
突如現れたたったひとりの男に部下の大半が目の前で次々と殺されたのだ。男はまるで鋼鉄で出来ているかのように頑丈で、銃弾は効かない、ドスを刺しても逆に折れてしまう始末。残る部下も自分を残して逃げてしまった。たった一人で、もはや虻川自身に勝ち目はないのは明らかであった。
「な、なんなんじゃ…!この化けもんは…!」
絶望と恐怖で、彼の戦意は既に失われていた。次は自分が殺される。死を予感させるあまりの緊張で、彼は失禁までしていた。
みすぼらしい虻川を見下ろして、岩田はゆっくりと語りかける。
「……障害となる者は全て殺す。まだ抵抗を続けるか?」
岩田の問いに、虻川は必死で顔を横に振る。
そんな彼を岩田は鼻で笑うと、
「行け!」
そう言って尻を蹴り上げた。
「あ、アヒィ~~!」
これ以上ない情けない悲鳴を上げて、虻川は表通りに向かって逃げ出した。
虻川が立ち去ったのを確認すると、岩田はもう一人、その場に残った男に告げる。
「お前もだ。障害となるなら、俺はお前を殺す。」
彼の視線の先、そこには仁王立ちで岩田を睨みつける住吉の姿があった。
先程の惨劇を見せつけられてもなお、彼の瞳は煌々と燃えていた。威嚇する獅子のような眼差しで睨む住吉からは、頑として揺るがない強い闘志が感じ取れた。
「……生きていたとは意外だった。お前はあの時に死んでいたものと思っていた。」
「あいにく、俺はしぶといんでな。」
「せっかく拾った命だ。生き延びようとは思わないのか?……今度はもう手加減はできん。今やれば、お前は確実に死ぬ。」
「やってみなきゃ、分からんだろ。」
「そのなりで何ができる。」
岩田は住吉の右腕を指差した。そのギプスで固められた右腕は先の戦いで、既に骨がボロボロになっていた。
「ただでさえ俺に敵わなかったお前が、利き腕が使えない状態で勝てる訳がない。俺はプロだ。戦うというなら今度はお前を殺さなきゃならん。逃げるなら今のうちに……。」
なだめようとする岩田。だがそんなことにはお構いなく、住吉は左拳を振りかぶり、岩田に向かって殴りかかる。その拳は岩田の胸部に当たった。
「……どうしても、やるというのか?」
「ウダウダうるせえ!俺はやると言ってるんだ!いくぞオラ!」
「……わかった。」
岩田が応えてもなお、住吉は殴り続ける。
左拳を当てては振りかぶり、また当てては振りかぶる。その繰り返しだった。
対する岩田は全く動じず。住吉の拳を避けるでもなく、防ぐでもない。ただ無防備に受け続けていた。
一向に反撃を仕掛けてこない岩田に、住吉は次第に苛立ちを見せる。
「どうした!何故かかってこない!」
「……。」
岩田はため息混じりに住吉に告げる。
「……以前に比べて、パンチの威力が失せている。片腕が使えない分、打ち終わりにバランスも崩している。どう考えてもお前に勝ち目はない。」
「だったら、どうした!」
岩田の声をかき消すように、住吉はまた振りかぶって拳を放つ。だが岩田はひらりとその一撃をかわした。バランスを崩した住吉はそのまま倒れるもすぐに立ち上がり岩田を睨みつけながらなおも構えるのだった。
「……解らん。いったい何がお前を支えている?陳成龍を守る為か?」
「……へっ。」
住吉は顔を拭いながら答えた。
「俺はただ、この前の喧嘩のケリをつけたいだけだ。」
「勝ち目が無くともか?」
「関係ねえ。」
住吉は地面に右腕を叩きつけ、そのギプスを叩き割った。中からはまだ折れ曲がってボロボロの腕が剥き出しになる。
「ほれ。これで片腕じゃなくなったぞ。」
「……イかれてる。」
「今更気づいたか。俺はヤクザの喧嘩屋、住吉。半端な神経でやってねえ。今、この時、この喧嘩に全力でぶつかるだけだ。だから腕が折れようと、己がくたばろうと関係ねえのよ。」
岩田は住吉の言葉を黙って聞いていた。
やがて彼はそのサングラスを外し、黒服のジャケットも脱ぎ、そして住吉に向けてゆっくりと構えを取った。
「……すまなかった。今までの非礼を詫びよう。そして俺も全力で応えよう。……やろうじゃないか。存分に、喧嘩を。」
「ああ。」
向き直った岩田に向かって、住吉はまた走り出した。
その顔は怒りでもない。悲観でも、諦観でもない。
どこか喜んでいるような、楽しげな笑みを浮かべていた。
虻川はその場にへたり込み、ただただ恐れおののいていた。
突如現れたたったひとりの男に部下の大半が目の前で次々と殺されたのだ。男はまるで鋼鉄で出来ているかのように頑丈で、銃弾は効かない、ドスを刺しても逆に折れてしまう始末。残る部下も自分を残して逃げてしまった。たった一人で、もはや虻川自身に勝ち目はないのは明らかであった。
「な、なんなんじゃ…!この化けもんは…!」
絶望と恐怖で、彼の戦意は既に失われていた。次は自分が殺される。死を予感させるあまりの緊張で、彼は失禁までしていた。
みすぼらしい虻川を見下ろして、岩田はゆっくりと語りかける。
「……障害となる者は全て殺す。まだ抵抗を続けるか?」
岩田の問いに、虻川は必死で顔を横に振る。
そんな彼を岩田は鼻で笑うと、
「行け!」
そう言って尻を蹴り上げた。
「あ、アヒィ~~!」
これ以上ない情けない悲鳴を上げて、虻川は表通りに向かって逃げ出した。
虻川が立ち去ったのを確認すると、岩田はもう一人、その場に残った男に告げる。
「お前もだ。障害となるなら、俺はお前を殺す。」
彼の視線の先、そこには仁王立ちで岩田を睨みつける住吉の姿があった。
先程の惨劇を見せつけられてもなお、彼の瞳は煌々と燃えていた。威嚇する獅子のような眼差しで睨む住吉からは、頑として揺るがない強い闘志が感じ取れた。
「……生きていたとは意外だった。お前はあの時に死んでいたものと思っていた。」
「あいにく、俺はしぶといんでな。」
「せっかく拾った命だ。生き延びようとは思わないのか?……今度はもう手加減はできん。今やれば、お前は確実に死ぬ。」
「やってみなきゃ、分からんだろ。」
「そのなりで何ができる。」
岩田は住吉の右腕を指差した。そのギプスで固められた右腕は先の戦いで、既に骨がボロボロになっていた。
「ただでさえ俺に敵わなかったお前が、利き腕が使えない状態で勝てる訳がない。俺はプロだ。戦うというなら今度はお前を殺さなきゃならん。逃げるなら今のうちに……。」
なだめようとする岩田。だがそんなことにはお構いなく、住吉は左拳を振りかぶり、岩田に向かって殴りかかる。その拳は岩田の胸部に当たった。
「……どうしても、やるというのか?」
「ウダウダうるせえ!俺はやると言ってるんだ!いくぞオラ!」
「……わかった。」
岩田が応えてもなお、住吉は殴り続ける。
左拳を当てては振りかぶり、また当てては振りかぶる。その繰り返しだった。
対する岩田は全く動じず。住吉の拳を避けるでもなく、防ぐでもない。ただ無防備に受け続けていた。
一向に反撃を仕掛けてこない岩田に、住吉は次第に苛立ちを見せる。
「どうした!何故かかってこない!」
「……。」
岩田はため息混じりに住吉に告げる。
「……以前に比べて、パンチの威力が失せている。片腕が使えない分、打ち終わりにバランスも崩している。どう考えてもお前に勝ち目はない。」
「だったら、どうした!」
岩田の声をかき消すように、住吉はまた振りかぶって拳を放つ。だが岩田はひらりとその一撃をかわした。バランスを崩した住吉はそのまま倒れるもすぐに立ち上がり岩田を睨みつけながらなおも構えるのだった。
「……解らん。いったい何がお前を支えている?陳成龍を守る為か?」
「……へっ。」
住吉は顔を拭いながら答えた。
「俺はただ、この前の喧嘩のケリをつけたいだけだ。」
「勝ち目が無くともか?」
「関係ねえ。」
住吉は地面に右腕を叩きつけ、そのギプスを叩き割った。中からはまだ折れ曲がってボロボロの腕が剥き出しになる。
「ほれ。これで片腕じゃなくなったぞ。」
「……イかれてる。」
「今更気づいたか。俺はヤクザの喧嘩屋、住吉。半端な神経でやってねえ。今、この時、この喧嘩に全力でぶつかるだけだ。だから腕が折れようと、己がくたばろうと関係ねえのよ。」
岩田は住吉の言葉を黙って聞いていた。
やがて彼はそのサングラスを外し、黒服のジャケットも脱ぎ、そして住吉に向けてゆっくりと構えを取った。
「……すまなかった。今までの非礼を詫びよう。そして俺も全力で応えよう。……やろうじゃないか。存分に、喧嘩を。」
「ああ。」
向き直った岩田に向かって、住吉はまた走り出した。
その顔は怒りでもない。悲観でも、諦観でもない。
どこか喜んでいるような、楽しげな笑みを浮かべていた。
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