記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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終幕編

岩田襲来 戸惑うヤクザたち

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「アイツは…!間違いない。あの時の……!」
虻川の肩越しの遠く向こうから、それはゆっくりとこちらに向かっていた。高松と住吉を瀕死の状態まで追い詰めた男、岩田である。
彼の予期せぬ襲撃に、高松と住吉は動揺する。
「なんだってアイツがここに!何の目的で!」
「……わからん。くそッ。こんなに早くもう一度やり合うことになるたぁな……。」
「ど、どうする……?」

慌てふためく二人を、虻川は不思議そうに首をかしげる。
「おめえら、何を怯えとるんじゃ?たかが男一人やろうが。」
「……おい。虻川。悪いことは言わねえ。部下連れて逃げろ。」
「はあ?」
「アイツはただの男じゃない。そのチンピラだって言ってただろ。お前らが束になってかかってもアイツは殺せねえ。」
「そ、そうっすよ!虻川さん!逃げやしょう!早く!」
忠告する住吉と必死に訴えるチンピラ。しかし虻川はカラカラと笑ってそんな二人をこき下ろす。
「何が逃げろや。馬鹿馬鹿しい。どうせ上手いこと言うてこの場からワシらを引かせよう、ちゅう魂胆やろ。その手にゃ乗らんぞ。」
虻川は振り返ると連れてきた部下たちに号令をかける。
「お前ら!奴はあの住吉の仲間じゃ!容赦はいらん。ぶち殺したれ!」
虻川の号令と共に、各々が銃を構え岩田に向けて一斉に引き金を引いた。

けたたましい轟音。
鼻をつく硝煙の匂い。
あちらこちらで光る発砲の火花。

先程の銃撃戦を彷彿とさせる激しい弾幕の中、彼方に見える岩田は悠然と歩き続けていた。 
さしものヤクザたちもこの異常にたじろぐ。
「な、なんじゃ!?こいつ!?」
「当たっとらんのか!?」
「そんな訳あるか!これだけ撃ちまくっとるんやぞ!」


戸惑う虻川一向を尻目に、高松と住吉は話し合っていた。
「どうする!?どう考えても目的はこの先にいる成龍だ!」
「だろうな…。」
「俺らだけでアイツをどうこうできるのか…!?」
「いや、ムリだな。」
「ムリだな、ってお前…!」
食ってかかりそうな高松に、住吉は向き直る。
「今のままじゃ、ムリだ。お前は診療所まで戻ってジジイと倅を連れて逃げてくれ。」
「は!?」
「このままじゃ俺とお前、二人ともアイツに殺されて終わりだ。だがお前がアイツが来たことを知らせてジジイたちを避難させりゃ、まだ望みはある。」
「しかし……!」
説得しようとする高松を、住吉はドンと小突いて突き返す。
「行け。アイツはまだここまで来てねえ。逃げるなら今しかねえ。」
「……くっ!」
止むを得ず、高松は診療所に向かって駆け出した。
「おい!住吉!言っとくが、俺はお前が大嫌いだ!絶対助けになんか来ねえからな!」
「……おう。」
「俺は臆病者だ!お前のことなんて放っておいてとっとと逃げ出すからな!」
「……おう。」
「……!この、馬鹿野郎!」
悪態をついて、高松は診療所に向かって一直線に走っていった。
「五体満足でも勝てなかった奴に、片腕が使えないでどうやって持ちこたえるってんだ!あの馬鹿野郎!」


小さくなっていく高松の後ろ姿を見送り、住吉は岩田の方へ向き直った。
岩田はすでに目前まで迫っていた。
応戦していたヤクザたちが、一人、また一人となぎ倒されていく。
彼らをけしかけた虻川はその場にへたりこんで、部下が殺されていく様を呆然と眺めていた。

「……さて。」
  住吉は動かない右腕で胸元からタバコを取り出し、火を点ける。
「……ジジイ、あんたの、俺たちの大切な場所は、絶対に荒らさせねえからな。」
ヤクザ界きっての喧嘩屋の両眼の眼光は、自身の魂の故郷に近づかんとする岩田をしっかりと見据えていた。
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