182 / 188
終幕編
岩田襲来 奴が、来る
しおりを挟む
陳診療所にて、西馬たちがヒカルから「サタン」について聞き出す一方で二人の男が同じ病室で寝転んでいた。ヤクザの高松と住吉である。
二人は先の陳成龍奪還作戦にて負傷し、暫く入院する事になったのだった。
「しっかし……敵対する組の若頭が同じ病室で仲良く寝っ転がってるとは、またシュールな絵面だな。」
「何を今更。この診療所では珍しい光景じゃないだろう。」
「カカカ……!まあな。」
そう笑って答えた後、高松は住吉の腕に目をやった。
腕……と言っても、彼の右腕は既に無かった。先の岩田との戦いで複雑骨折となり、治療は不可能と判断されたため、本人の意向で切断したのだった。
「……お互い、エライ目にあったなあ。しかしお前、片腕のままでいさせてほしいって言ったのは本当か?義手なりなんなり着けりゃいいじゃねえか。」
「……義手は生身じゃねえ。俺からすりゃ立派な武器だ。俺はあくまで素手で喧嘩がしたいんだ。」
「……呆れた。お前、そんななりでまだ喧嘩しようってのかい。」
「当たり前だ。」
住吉は片手を強く握りしめながら答えた。
「少なくとも、あと一回。」
「あと一回?」
「あの岩田とかいうハゲ野郎をぶちのめす。」
岩田、という名を聞いて高松は目の色を変える。
「その体であのバケモンともう1度やるってのか。五体満足の状態でボコボコにされたんだぞ。」
「やられっぱなしは性に合わん。」
「呆れたな……。大した奴だよ。ホント。」
「お前はどうなんだ。」
「え?」
「奴らに部下を殺されたんだろう。直接の恨みは無いとしても、それでもお前は黙っていられるのか?」
「うーむ……。」
住吉の問いに少し考えこんで、若松は答える。
「俺もあいつらもヤクザもんだ。あの日、死ぬのは覚悟の上で殴りこんだ。殺されたって文句は言えねえや。」
「ふん……。じゃ、そのメモはなんだ?」
「へ?」
若松のベッドの机の上には、一枚の紙が置かれていた。そこには岩田への対策がびっしりと書かれているのだった。
若松はバツが悪そうに頭をポリポリと掻きながら
「覗き見とは趣味が悪いや。」
と返事を返したのだった。
その時だった。
窓の外から誰かが言い争う声が聞こえてくるではないか。それも一人や二人ではない。
「なんだ……?喧嘩か……?」
二人が耳を傾けていると、やがて銃声まで聞こえてきた。
「おいおい、穏やかじゃねえな。あいつら何やってんだ!」
「……様子を見に行くか。」
二人はベッドから起き上がり、騒ぎの元へと向かった。
二人が現場に着くと、既にそこは戦場と化していた。銃声が激しく飛び交い、ヤクザ同士のいきり立つ声、苦痛に叫ぶ声があちらこちらから聞こえてきた。
堪らず高松と住吉がその中に割って入る。
「おうおう!何やってやがる!ここはジジイの大事な診療所だぞ!ここでドンパチはヤメろっていつも言ってんだろうが!」
「あ…、兄貴。しかしヤツらが一方的に……。」
「…あんだとぉ!?」
高松、住吉が相手側を見やると、そこには銃を構えたゴロツキが横一列に並んでいた。その中に、一際派手なスーツを着た小柄でやや頭の禿げ上がった中年の男が、こちら側を上目遣いで眺めていた。
「お前は……虻川。」
住吉に虻川と呼ばれたその男は、ハイエナの鳴き声のような薄気味悪い笑い声をあげてゴロツキ一行の前に出た。
「探したでえ、住吉ぃ…。この、組の面汚しめ。」
「あ?面汚し?」
「そうや!面汚しや!面汚しの裏切り者が!ウチらが戦争しとる組の若頭とつるみやがって!許されるとでも思うたんか!?ああ!?」
まくし立てる虻川。対する住吉はピクリとも表情を変えずに虻川の罵声を聞き流していた。
一方的に喚き散らす虻川をよそに、高松はおずおずと住吉に耳打ちする。
「おい。誰なんだよ。このオッさん。」
「あ?ああ。俺の組にいる虻川ってチンピラだ。コソコソ他人のおこぼれをかっさらって自分の手柄だとか抜かす小物だよ。一応組の中では年長者ではあるが……。」
「あまり尊敬できる先輩じゃなさそうだな。」
二人の会話を聞いてか聞かずか、虻川が顔を真っ赤にしてまたわめき始めた。
「何をコソコソ喋っとるんじゃ、ボケェ!!撃ち殺すぞお前ら!」
「……うるせえな。あんたこそウダウダ言ってないでとっととかかってくりゃいいだろ。」
「何やと……!」
「それとも、俺が怖いのか?片腕が折れて使えない、手負いの死に損ないがそんなに怖いか?あ?まともに喧嘩をふっかけられないビビリが、いきがってんじゃねえ。」
「こ……この……!」
虻川は赤い顔をさらに紅潮させた。ピクピクと青筋を立てて、銃を持つ手はワナワナと震わせていた。
「上等じゃあ!クソガキ!ブチ殺したらぁ!」
虻川がいきり立って銃口を住吉に向けた、その時だった。虻川たちの後方からチンピラの男が一人、バタバタとあわてた様子で現れた。
「た、大変っス!虻川さん!」
「な、何じゃあ?そんな慌てて…。」
「化け物が……!化け物が出たんス!」
「化け物……?アホ抜かせ!こんな時に!大の男が何オバケにビビっとるんや!」
「嘘じゃないんすよ!本当に化け物みたいな男が出たんです!そいつがいきなりやって来て仲間を次々と殺して……!」
「な、何やと……!」
「本当にヤバイっすよ!そいつ、ピストルでいくら撃ってもビクともしない。何十発も食らったはずなのに……!」
チンピラの話に住吉、高松は反応し、顔を見合わせた。
二人には心当たりがあった。拳銃をいくら食らってもビクともしない一人の男に。
「……で、そいつは今どこにおるんや。」
「向こうの路地裏の入り口から、こっちに真っ直ぐ向かってきてます!もうすぐそこまで……。」
言いかけてチンピラは振り向いた途端、「ひっ…」と小さな悲鳴をあげた。
「き…来てる……!奴が…奴がそこまで……!」
「奴?」
虻川はチンピラの目線の先を追ったが見当たらない。だが一方の高松と住吉には分かった。そして戦慄した。
つい先日、自分たちを瀕死の重傷に追い込んだ奴が、今またすぐそこまで近づいて来ている。遠くからでもわかる巨体とそれを包む黒服、真っ黒なサングラスに特徴的なスキンヘッド。
……そう。ルシフェル最強の「運び屋」の一人、岩田が再び現れたのだ。
二人は先の陳成龍奪還作戦にて負傷し、暫く入院する事になったのだった。
「しっかし……敵対する組の若頭が同じ病室で仲良く寝っ転がってるとは、またシュールな絵面だな。」
「何を今更。この診療所では珍しい光景じゃないだろう。」
「カカカ……!まあな。」
そう笑って答えた後、高松は住吉の腕に目をやった。
腕……と言っても、彼の右腕は既に無かった。先の岩田との戦いで複雑骨折となり、治療は不可能と判断されたため、本人の意向で切断したのだった。
「……お互い、エライ目にあったなあ。しかしお前、片腕のままでいさせてほしいって言ったのは本当か?義手なりなんなり着けりゃいいじゃねえか。」
「……義手は生身じゃねえ。俺からすりゃ立派な武器だ。俺はあくまで素手で喧嘩がしたいんだ。」
「……呆れた。お前、そんななりでまだ喧嘩しようってのかい。」
「当たり前だ。」
住吉は片手を強く握りしめながら答えた。
「少なくとも、あと一回。」
「あと一回?」
「あの岩田とかいうハゲ野郎をぶちのめす。」
岩田、という名を聞いて高松は目の色を変える。
「その体であのバケモンともう1度やるってのか。五体満足の状態でボコボコにされたんだぞ。」
「やられっぱなしは性に合わん。」
「呆れたな……。大した奴だよ。ホント。」
「お前はどうなんだ。」
「え?」
「奴らに部下を殺されたんだろう。直接の恨みは無いとしても、それでもお前は黙っていられるのか?」
「うーむ……。」
住吉の問いに少し考えこんで、若松は答える。
「俺もあいつらもヤクザもんだ。あの日、死ぬのは覚悟の上で殴りこんだ。殺されたって文句は言えねえや。」
「ふん……。じゃ、そのメモはなんだ?」
「へ?」
若松のベッドの机の上には、一枚の紙が置かれていた。そこには岩田への対策がびっしりと書かれているのだった。
若松はバツが悪そうに頭をポリポリと掻きながら
「覗き見とは趣味が悪いや。」
と返事を返したのだった。
その時だった。
窓の外から誰かが言い争う声が聞こえてくるではないか。それも一人や二人ではない。
「なんだ……?喧嘩か……?」
二人が耳を傾けていると、やがて銃声まで聞こえてきた。
「おいおい、穏やかじゃねえな。あいつら何やってんだ!」
「……様子を見に行くか。」
二人はベッドから起き上がり、騒ぎの元へと向かった。
二人が現場に着くと、既にそこは戦場と化していた。銃声が激しく飛び交い、ヤクザ同士のいきり立つ声、苦痛に叫ぶ声があちらこちらから聞こえてきた。
堪らず高松と住吉がその中に割って入る。
「おうおう!何やってやがる!ここはジジイの大事な診療所だぞ!ここでドンパチはヤメろっていつも言ってんだろうが!」
「あ…、兄貴。しかしヤツらが一方的に……。」
「…あんだとぉ!?」
高松、住吉が相手側を見やると、そこには銃を構えたゴロツキが横一列に並んでいた。その中に、一際派手なスーツを着た小柄でやや頭の禿げ上がった中年の男が、こちら側を上目遣いで眺めていた。
「お前は……虻川。」
住吉に虻川と呼ばれたその男は、ハイエナの鳴き声のような薄気味悪い笑い声をあげてゴロツキ一行の前に出た。
「探したでえ、住吉ぃ…。この、組の面汚しめ。」
「あ?面汚し?」
「そうや!面汚しや!面汚しの裏切り者が!ウチらが戦争しとる組の若頭とつるみやがって!許されるとでも思うたんか!?ああ!?」
まくし立てる虻川。対する住吉はピクリとも表情を変えずに虻川の罵声を聞き流していた。
一方的に喚き散らす虻川をよそに、高松はおずおずと住吉に耳打ちする。
「おい。誰なんだよ。このオッさん。」
「あ?ああ。俺の組にいる虻川ってチンピラだ。コソコソ他人のおこぼれをかっさらって自分の手柄だとか抜かす小物だよ。一応組の中では年長者ではあるが……。」
「あまり尊敬できる先輩じゃなさそうだな。」
二人の会話を聞いてか聞かずか、虻川が顔を真っ赤にしてまたわめき始めた。
「何をコソコソ喋っとるんじゃ、ボケェ!!撃ち殺すぞお前ら!」
「……うるせえな。あんたこそウダウダ言ってないでとっととかかってくりゃいいだろ。」
「何やと……!」
「それとも、俺が怖いのか?片腕が折れて使えない、手負いの死に損ないがそんなに怖いか?あ?まともに喧嘩をふっかけられないビビリが、いきがってんじゃねえ。」
「こ……この……!」
虻川は赤い顔をさらに紅潮させた。ピクピクと青筋を立てて、銃を持つ手はワナワナと震わせていた。
「上等じゃあ!クソガキ!ブチ殺したらぁ!」
虻川がいきり立って銃口を住吉に向けた、その時だった。虻川たちの後方からチンピラの男が一人、バタバタとあわてた様子で現れた。
「た、大変っス!虻川さん!」
「な、何じゃあ?そんな慌てて…。」
「化け物が……!化け物が出たんス!」
「化け物……?アホ抜かせ!こんな時に!大の男が何オバケにビビっとるんや!」
「嘘じゃないんすよ!本当に化け物みたいな男が出たんです!そいつがいきなりやって来て仲間を次々と殺して……!」
「な、何やと……!」
「本当にヤバイっすよ!そいつ、ピストルでいくら撃ってもビクともしない。何十発も食らったはずなのに……!」
チンピラの話に住吉、高松は反応し、顔を見合わせた。
二人には心当たりがあった。拳銃をいくら食らってもビクともしない一人の男に。
「……で、そいつは今どこにおるんや。」
「向こうの路地裏の入り口から、こっちに真っ直ぐ向かってきてます!もうすぐそこまで……。」
言いかけてチンピラは振り向いた途端、「ひっ…」と小さな悲鳴をあげた。
「き…来てる……!奴が…奴がそこまで……!」
「奴?」
虻川はチンピラの目線の先を追ったが見当たらない。だが一方の高松と住吉には分かった。そして戦慄した。
つい先日、自分たちを瀕死の重傷に追い込んだ奴が、今またすぐそこまで近づいて来ている。遠くからでもわかる巨体とそれを包む黒服、真っ黒なサングラスに特徴的なスキンヘッド。
……そう。ルシフェル最強の「運び屋」の一人、岩田が再び現れたのだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい
凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる