記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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終幕編

岩田襲来 奴が、来る

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陳診療所にて、西馬たちがヒカルから「サタン」について聞き出す一方で二人の男が同じ病室で寝転んでいた。ヤクザの高松と住吉である。
二人は先の陳成龍奪還作戦にて負傷し、暫く入院する事になったのだった。
「しっかし……敵対する組の若頭が同じ病室で仲良く寝っ転がってるとは、またシュールな絵面だな。」
「何を今更。この診療所では珍しい光景じゃないだろう。」
「カカカ……!まあな。」
そう笑って答えた後、高松は住吉の腕に目をやった。
腕……と言っても、彼の右腕は既に無かった。先の岩田との戦いで複雑骨折となり、治療は不可能と判断されたため、本人の意向で切断したのだった。
「……お互い、エライ目にあったなあ。しかしお前、片腕のままでいさせてほしいって言ったのは本当か?義手なりなんなり着けりゃいいじゃねえか。」
「……義手は生身じゃねえ。俺からすりゃ立派な武器だ。俺はあくまで素手で喧嘩がしたいんだ。」
「……呆れた。お前、そんななりでまだ喧嘩しようってのかい。」
「当たり前だ。」
住吉は片手を強く握りしめながら答えた。
「少なくとも、あと一回。」
「あと一回?」
「あの岩田とかいうハゲ野郎をぶちのめす。」
岩田、という名を聞いて高松は目の色を変える。
「その体であのバケモンともう1度やるってのか。五体満足の状態でボコボコにされたんだぞ。」
「やられっぱなしは性に合わん。」
「呆れたな……。大した奴だよ。ホント。」
「お前はどうなんだ。」
「え?」
「奴らに部下を殺されたんだろう。直接の恨みは無いとしても、それでもお前は黙っていられるのか?」
「うーむ……。」
住吉の問いに少し考えこんで、若松は答える。
「俺もあいつらもヤクザもんだ。あの日、死ぬのは覚悟の上で殴りこんだ。殺されたって文句は言えねえや。」
「ふん……。じゃ、そのメモはなんだ?」
「へ?」
若松のベッドの机の上には、一枚の紙が置かれていた。そこには岩田への対策がびっしりと書かれているのだった。
若松はバツが悪そうに頭をポリポリと掻きながら
「覗き見とは趣味が悪いや。」
と返事を返したのだった。

その時だった。
窓の外から誰かが言い争う声が聞こえてくるではないか。それも一人や二人ではない。
「なんだ……?喧嘩か……?」
二人が耳を傾けていると、やがて銃声まで聞こえてきた。
「おいおい、穏やかじゃねえな。あいつら何やってんだ!」
「……様子を見に行くか。」
二人はベッドから起き上がり、騒ぎの元へと向かった。



二人が現場に着くと、既にそこは戦場と化していた。銃声が激しく飛び交い、ヤクザ同士のいきり立つ声、苦痛に叫ぶ声があちらこちらから聞こえてきた。
堪らず高松と住吉がその中に割って入る。
「おうおう!何やってやがる!ここはジジイの大事な診療所だぞ!ここでドンパチはヤメろっていつも言ってんだろうが!」
「あ…、兄貴。しかしヤツらが一方的に……。」
「…あんだとぉ!?」
高松、住吉が相手側を見やると、そこには銃を構えたゴロツキが横一列に並んでいた。その中に、一際派手なスーツを着た小柄でやや頭の禿げ上がった中年の男が、こちら側を上目遣いで眺めていた。
「お前は……虻川あぶかわ。」
住吉に虻川と呼ばれたその男は、ハイエナの鳴き声のような薄気味悪い笑い声をあげてゴロツキ一行の前に出た。
「探したでえ、住吉ぃ…。この、組の面汚しめ。」
「あ?面汚し?」
「そうや!面汚しや!面汚しの裏切り者が!ウチらが戦争しとる組の若頭とつるみやがって!許されるとでも思うたんか!?ああ!?」
まくし立てる虻川。対する住吉はピクリとも表情を変えずに虻川の罵声を聞き流していた。
一方的に喚き散らす虻川をよそに、高松はおずおずと住吉に耳打ちする。
「おい。誰なんだよ。このオッさん。」
「あ?ああ。俺の組にいる虻川ってチンピラだ。コソコソ他人のおこぼれをかっさらって自分の手柄だとか抜かす小物だよ。一応組の中では年長者ではあるが……。」
「あまり尊敬できる先輩じゃなさそうだな。」
二人の会話を聞いてか聞かずか、虻川が顔を真っ赤にしてまたわめき始めた。
「何をコソコソ喋っとるんじゃ、ボケェ!!撃ち殺すぞお前ら!」
「……うるせえな。あんたこそウダウダ言ってないでとっととかかってくりゃいいだろ。」
「何やと……!」
「それとも、俺が怖いのか?片腕が折れて使えない、手負いの死に損ないがそんなに怖いか?あ?まともに喧嘩をふっかけられないビビリが、いきがってんじゃねえ。」
「こ……この……!」
虻川は赤い顔をさらに紅潮させた。ピクピクと青筋を立てて、銃を持つ手はワナワナと震わせていた。
「上等じゃあ!クソガキ!ブチ殺したらぁ!」
虻川がいきり立って銃口を住吉に向けた、その時だった。虻川たちの後方からチンピラの男が一人、バタバタとあわてた様子で現れた。
「た、大変っス!虻川さん!」
「な、何じゃあ?そんな慌てて…。」
「化け物が……!化け物が出たんス!」
「化け物……?アホ抜かせ!こんな時に!大の男が何オバケにビビっとるんや!」
「嘘じゃないんすよ!本当に化け物みたいな男が出たんです!そいつがいきなりやって来て仲間を次々と殺して……!」
「な、何やと……!」
「本当にヤバイっすよ!そいつ、ピストルでいくら撃ってもビクともしない。何十発も食らったはずなのに……!」
チンピラの話に住吉、高松は反応し、顔を見合わせた。
二人には心当たりがあった。拳銃をいくら食らってもビクともしない一人の男に。
「……で、そいつは今どこにおるんや。」
「向こうの路地裏の入り口から、こっちに真っ直ぐ向かってきてます!もうすぐそこまで……。」
言いかけてチンピラは振り向いた途端、「ひっ…」と小さな悲鳴をあげた。
「き…来てる……!奴が…奴がそこまで……!」
「奴?」
虻川はチンピラの目線の先を追ったが見当たらない。だが一方の高松と住吉には分かった。そして戦慄した。
つい先日、自分たちを瀕死の重傷に追い込んだ奴が、今またすぐそこまで近づいて来ている。遠くからでもわかる巨体とそれを包む黒服、真っ黒なサングラスに特徴的なスキンヘッド。

……そう。ルシフェル最強の「運び屋」の一人、岩田が再び現れたのだ。
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