記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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終幕編

冥府の川の者たち 三島

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闇クラブ統括組織「サタン」。
その本拠地である「コキュートス」の中は暗い暗い闇に包まれていた。そんな中を、一人の男が訪れていた。

コキュートス第一層、「カイーナ」にて……。
「おのれ……。三島の奴め……。」 
『佐野内様。まもなく第二層アンテノーラに到着致します。』
「黙っていろ!このポンコツめ!」
先導するロボットに毒づきながら、佐野内とよばれたその男は苛立ちながらタバコに火をつけた。
『佐野内様。施設内は禁煙……。』
「やかましい!とっとと進め!この!」
口応えするロボットを小突いていると、急にどこからかアナウンスが流れてきた。
『佐野内様、ロボットに八つ当たりとは感心しませんな。』
「……!その声、三島か⁉︎」
『佐野内様、参院選前にわざわざこんなところまでご足労いただき誠に恐縮でございます。本日はどういったご用件で……?』
「ふざけるんじゃない!わしの金を返せ!」
『金……?』
「とぼけるな!わしがおまえのクラブに出した金だ!お前の不備のせいでわしの10億がパァだ!どうにかしろ!」
『ああ……。マモンの件ですか。あれのサーバーダウンはこちらとしても予期せぬ事で、佐野内様以外にも何人か苦情に来られました。しかしいくら文句を言われたところで、我々は保障いたしかねますな。』
「なんだと……!貴様……!」
三島の言葉を受けて、佐野内はさらに声を荒げる。
「誰のおかげでこんなクラブを建てられたと思ってる!政界を追われ、行くところもなくしたたお前を拾ってやったのはこのわしだぞ!わしからの出資が無ければこれほどのクラブは出来なかった。その恩を仇で返しおって!」
『恩……ですか……。』
しばしの沈黙の後、三島から口火を切った。
『……まあ、とにかく今は降りてきて下さい。私は最下層にいますので……。』
「なんだと……!無礼な奴だ!お前が出向いてこんか!」
『では後ほど……。』
 「待て!おいっ……。」
それきり、三島からの通信は途絶えた。


「なんて奴だ!全く腹立たしい奴め!」
三島の態度に佐野内は一層腹を立てて、三島に一言物申さんと引き続きロボットの先導についていくことにした。
それから暫くし、突如前のロボットが立ち止まった。
「……?おい、どうした?」
『佐野内様、アンテノーラに到着致しました。』
「何を言ってる……?早く三島のところに案内しろ!」
『佐野内様、アンテノーラに到着致しました。』
「ふざけるな!三島のところに案内しろと言っているだろうが!」
『佐野内様、アンテノーラに致しました。』
「このポンコツが……!」
掴みかかろうとする佐野内。それに割って入るように、再び三島のアナウンスが聞こえてきた。
『佐野内様。何度も申し上げますがウチの使用人への暴力行為は困りますな。』
「三島!この不良品をどうにかしろ!」
『不良品……?何の事でしょうか?』
「このロボットだよ!こいつ、案内役のくせにちっとも役に立たん!」
『役に立たない…?はて、それはまたどういう事で?』
「さっきから到着した、と言うばかりで動こうとせんのだ!これは故障だ!早く別のやつをこっちに寄越してくれ!」
『何をおっしゃるかと思えば……。それは別に故障などしていませんよ。あなたは既に到着した。そこがあなたのです。』
「なんだと?それはどういう……。」
その時、突然案内をしていたロボットが振り向き、佐野内を羽交い締めにした。
『これより、佐野内氏のを開始します。』
「おいっ……!何をする!離せ……!処分とはどういう事だ!おいっ…!」
佐野内は必死にもがいたが、ロボットはビクともせずに淡々と佐野内をどこかに運び始めた。
「ど…何処へ連れて行く?わしをどうするつもりだ!?え⁉︎」」
『……佐野内、あなたはコキュートスの事はご存知ですかな?』
「……なんの話だ。」
『神話ですよ。かつての詩人ダンテはコキュートスを地獄の最下層に流れる川として描いた。しかしそこにたどり着くまでに地獄には4つの層があった。すなわち、カイーナ、アンテノーラ、トロメア、ジュデッカの4つ。それぞれの層には、それぞれの罪を犯した者が凍りついた川に埋められて……。』 
「だから何の話だと聞いている!」
『これからのあなたの顛末の話です。もっとも氷漬けのような生易しいものではありませんがね……。さ、始めろ。』
三島の言葉と共に、フロアが一斉に明るくなり全体が見え、同時に鼻を刺すようなアンモニア臭が立ち込めてきた。
そこは一面透明なガラス張りの部屋だった。佐野内の立つ両脇は床下が抜けており、下には怪しい何かの液体が満たされていた。
「な、なんだ、これは……。」
『濃硫酸です。じっくりと苦しみ悶えながら、あなたには死んでもらいます。』
「貴様……!恩を仇で返すつもりか……!」
『笑わせないでいただきたい。私はあなたに恩を受けた覚えはありません。国の金にたかる蛆虫風情がおこがましい……。どうせあなたが私に近づいたのも金の匂いにつられての事でしょう。』
「ワシは…!ワシは議員としてお前に眼をかけてやったのに……!」
『己の派閥と財布の事だけを考える人など政治家ではない。貴方には政治家としての信念も国に対する忠義心もない。そんな人間が政治家を気取っている時点で国への裏切り行為だ。そうは思いませんか?』
「おのれ……!貴様……!」
『死ね。』

そうして佐野内は、断末魔の叫びと共に硫酸の海へ放り込まれていった。
暫くの間怨嗟と苦痛の声が響き続けたが、やがてそれも小さくなり、ついには聞こえなくなった。

始終を見届けた三島は、暗い暗い最下層の部屋で一人呟く。
「……私が恩人と慕い、ボスと仰ぐ方は一人しかいない。ヒカル様……。貴方さえ戻ってきてくれれば、私の帝国建立の夢はいつまでも潰えない……。」
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