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終幕編
診療所にて ヒカル、倒れる
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「ところで西馬よ。奴等の言う“コキュートス”とやらだが、お前場所知っとるのか?」
「ん?いや。しらね。」
「しらね、ってお前…。じゃあどうやって探すんだ。事態は一刻の猶予もないぞ。」
「分かってる。俺は知らないが知ってそうなやつはいる。」
…そう、奴等「闇クラブ」の事を最も知る人物を、俺たちは知っている。そしてそいつは好都合にもこの場にいる。
「なあ、そうだろ?ヒカル。」
須田の病室の外で、ヒカルは壁にもたれて立っていた。いつになく神妙な面持ちで。
「ヒカル…が?何故ヒカルが“コキュートス”とやらの場所を知ってるんだ?」
「…え?ああ…。」
そうか。そういえば秋山は、ヒカルと一度共闘はしたが、彼の素性を知らないのだった。
「ヒカルは俺たちが相手取っていた闇クラブの元ボスだったんだ。奴等のことなら、多分一番詳しいはずだ。」
「闇クラブの…元…ボス…だと。」
「ああ。信じられないかもしれないが、ヒカルは…。」
…と言うが早いか、気づけば秋山はヒカルの胸ぐらを掴み上げ、今にも殴り倒しそうな勢いで拳を握りしめていた。
「…てえことは、リエを操って人殺しさせてた奴じゃねえか!」
…しまった!そうだった!
このヒカルは今秋山が娘として預かっているリエちゃんに催眠をかけて、彼女にクラブの裏切り者を始末させていたんだ。
「それだけじゃねえ!テメエは俺の妻を殺した穴取ともつるんでいた!どうせ今回のアカリちゃんを連れ去ったのたのもテメエの差し金だろう!ええ⁉︎」
「お、落ち着け。秋山。今はそんなことより…。」
「そんなこととはなんだ⁉︎テメエもテメエだ!なんだってこんな奴と仲良くつるんでやがったんだ!」
ダメだ。秋山のやつ、頭に血が上って聞く耳持たない。
「オラ!なんとか言いやがれ!ヒカルよお!」
捲したてる秋山。その一方で、ヒカルは一向に口を開かない。何か様子が変だ。
「…ヒカル?」
「おい……。」
秋山も異常を感じ取ったのか、締め上げていた両手を緩めた。
よく見るとヒカルの顔はまるで死人のように真っ青になっており、額からは脂汗が滲んでいた。彼は苦しそうに息を荒げ、力なくうなだれて秋山に寄りかかる。
「おい…!ヒカル…!ヒカル!」
「まずい!医者だ!あのオッさんのところへ運ぶぞ!」
……というわけで、俺たちは成龍のオッさんの元へヒカルを急いで運んだ。
「医者に転向していきなり急患だらけとは…。全く医者冥利につきますな。」
嫌味なのか、本心なのか、成龍のオッさんはそう一人呟くのだった。まあ確かに、一時間も経たないうちに立て続けに3人以上も急患が来たんだ。ぼやきたくもなるか。
結局のところ、ヒカルは貧血と栄養失調で倒れたとのことで、しばらく点滴を打てば問題ないらしい。
「……なんとも、格好がつかないね。君を殺しにきた僕が君に助けられるなんて。」
「私も、まさかボスを看護する事になるなど夢にも思ってもいませんでした。人生とは、分からぬものですね。」
「全くだね…。」
自嘲気味に笑うヒカルは、心なしか憔悴しているように見えた。いつもコートを羽織っていたから分からなかったが、ヒカルの身体はまるで枯れ木のようにかなり痩せ細っていた。肋も浮き出て骨と皮だけといった具合で、これが単なる栄養失調とは思えなかった。
「でも、少し休んだら問題ないだろう?悪いが妹が人質に取られたとあっちゃ、ゆっくりとしていられない。時間がないんだ。」
「……ボス。差し出がましいようですが……。」
渋い顔で成龍は言いにくそうに口を開いた。
「魔眼はもう今後一切使ってはいけません。」
「ん?いや。しらね。」
「しらね、ってお前…。じゃあどうやって探すんだ。事態は一刻の猶予もないぞ。」
「分かってる。俺は知らないが知ってそうなやつはいる。」
…そう、奴等「闇クラブ」の事を最も知る人物を、俺たちは知っている。そしてそいつは好都合にもこの場にいる。
「なあ、そうだろ?ヒカル。」
須田の病室の外で、ヒカルは壁にもたれて立っていた。いつになく神妙な面持ちで。
「ヒカル…が?何故ヒカルが“コキュートス”とやらの場所を知ってるんだ?」
「…え?ああ…。」
そうか。そういえば秋山は、ヒカルと一度共闘はしたが、彼の素性を知らないのだった。
「ヒカルは俺たちが相手取っていた闇クラブの元ボスだったんだ。奴等のことなら、多分一番詳しいはずだ。」
「闇クラブの…元…ボス…だと。」
「ああ。信じられないかもしれないが、ヒカルは…。」
…と言うが早いか、気づけば秋山はヒカルの胸ぐらを掴み上げ、今にも殴り倒しそうな勢いで拳を握りしめていた。
「…てえことは、リエを操って人殺しさせてた奴じゃねえか!」
…しまった!そうだった!
このヒカルは今秋山が娘として預かっているリエちゃんに催眠をかけて、彼女にクラブの裏切り者を始末させていたんだ。
「それだけじゃねえ!テメエは俺の妻を殺した穴取ともつるんでいた!どうせ今回のアカリちゃんを連れ去ったのたのもテメエの差し金だろう!ええ⁉︎」
「お、落ち着け。秋山。今はそんなことより…。」
「そんなこととはなんだ⁉︎テメエもテメエだ!なんだってこんな奴と仲良くつるんでやがったんだ!」
ダメだ。秋山のやつ、頭に血が上って聞く耳持たない。
「オラ!なんとか言いやがれ!ヒカルよお!」
捲したてる秋山。その一方で、ヒカルは一向に口を開かない。何か様子が変だ。
「…ヒカル?」
「おい……。」
秋山も異常を感じ取ったのか、締め上げていた両手を緩めた。
よく見るとヒカルの顔はまるで死人のように真っ青になっており、額からは脂汗が滲んでいた。彼は苦しそうに息を荒げ、力なくうなだれて秋山に寄りかかる。
「おい…!ヒカル…!ヒカル!」
「まずい!医者だ!あのオッさんのところへ運ぶぞ!」
……というわけで、俺たちは成龍のオッさんの元へヒカルを急いで運んだ。
「医者に転向していきなり急患だらけとは…。全く医者冥利につきますな。」
嫌味なのか、本心なのか、成龍のオッさんはそう一人呟くのだった。まあ確かに、一時間も経たないうちに立て続けに3人以上も急患が来たんだ。ぼやきたくもなるか。
結局のところ、ヒカルは貧血と栄養失調で倒れたとのことで、しばらく点滴を打てば問題ないらしい。
「……なんとも、格好がつかないね。君を殺しにきた僕が君に助けられるなんて。」
「私も、まさかボスを看護する事になるなど夢にも思ってもいませんでした。人生とは、分からぬものですね。」
「全くだね…。」
自嘲気味に笑うヒカルは、心なしか憔悴しているように見えた。いつもコートを羽織っていたから分からなかったが、ヒカルの身体はまるで枯れ木のようにかなり痩せ細っていた。肋も浮き出て骨と皮だけといった具合で、これが単なる栄養失調とは思えなかった。
「でも、少し休んだら問題ないだろう?悪いが妹が人質に取られたとあっちゃ、ゆっくりとしていられない。時間がないんだ。」
「……ボス。差し出がましいようですが……。」
渋い顔で成龍は言いにくそうに口を開いた。
「魔眼はもう今後一切使ってはいけません。」
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