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終幕編
診療所にて それぞれの胸中
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「“コキュートス”にて待つ、か……。」
陳さんの診療所にて、俺は今、傷だらけでやってきた須田を成龍のオッさんに診てもらっていた。幸い大事はなかったが、回復には時間がかかるらしい。
須田の証言は衝撃的なものだった。
俺や秋山が成龍のオッさんを助け出す為に「ブラックバンク」に乗り込んでいた隙にアカリを奴等にまんまとさらわれたなんて…。
「くそっ……!」
思わず近くの壁を叩きつけた。
……俺が甘かった。
奴等が常にアカリのことを狙っていたことは分かっていたはずだ。だというのに、平穏無事な日々が続くにつれ、俺は油断し始めていた。もしかしてなんとかなるんじゃないか、もし来たとしても返り討ちに出来るんじゃないか、などと楽観視して。
だが奴等はそれ程甘くはなかった。俺が思っていたよりもずっと手強く、狡猾に、周到に策を用意して待っていたんだ。
「俺が…もっとアイツに気を掛けていたら…!」
一人ただ悔やむ俺。側にいた秋山はそんな俺の肩にポンと手を置いて言うのだった。
「西馬。気持ちは分かるが今は後悔してる時じゃねえ。今は一刻も早くアカリちゃんを助けることを考えなきゃいけない時だ。それに、お前が沈んでると困る奴もいるんだよ。」
「……え?」
秋山の言葉に、俺はハッとした。
気づけば、須田もまた俺の横ですすり泣いていたのだ。
「……須田。」
「西馬さん……。本当に、申し訳、ありません……。私、またアカリちゃんを、守れなかった……。」
……そうだ。アカリがさらわれて、辛い想いをしているのは俺だけじゃないんだ。
目の前でアカリをさらわれてしまった須田もまた俺と同様、いやあるいはそれ以上に悔しい想いをしているはず。
思えば、一度目にアカリがさらわれた時、一番責任を感じていたのもこの須田だった。あの一件以来、
須田が警官を辞めて助手となって俺を支えてくれたわけだが…そんな行動も彼女の責任感や正義感からきたものだったのかもしれない。だとしたら、秋山の言う通り、俺が暗い顔をしていたら須田は尚更に苦しむことになっちまう。
……俺としたことが、情けない。今この時、一番周りを励まさなきゃいけない奴がこんなザマでどうすんだ。
「……須田。すまなかった。お前を余計に不安にさせちまって……。でも、もう大丈夫だ。」
「……西馬さん……。」
そうだ。このまま嘆いていたって仕方ない。秋山の言う通り、今はとにかくアイツを助け出すことを考えねえと。
「待ってろ。必ずアイツを連れて帰るからな。」
泣きじゃくる須田の頭を軽く撫でて、俺は須田の病室を後にした。
病室から出ると、秋山が急に俺の顔をまじまじと見つめてきた。かと思うと、今度はニヤリとイタズラっぽく笑うのだった。
「らしい顔になってきたじゃないか。やっぱ、お前はそうじゃないとな。」
「な…!」
「お前が塞ぎ込んでると俺も調子が狂うんだよ。」
……こいつめ。面と向かって恥ずかしいこと言いやがって。
気恥ずかしくて返答に困っている俺の肩を、秋山はその大きなゴツゴツとした手でポンと置いた。頼もしい相棒の手は、上着越しからも暖かく感じた。
「やってやろうや…!西馬!アイツらと、決着をつけに、よ!」
「……ああ。」
もう面倒などと言ってられない。俺の闇クラブとの最後の勝負が、今より始まろうとしていた。
陳さんの診療所にて、俺は今、傷だらけでやってきた須田を成龍のオッさんに診てもらっていた。幸い大事はなかったが、回復には時間がかかるらしい。
須田の証言は衝撃的なものだった。
俺や秋山が成龍のオッさんを助け出す為に「ブラックバンク」に乗り込んでいた隙にアカリを奴等にまんまとさらわれたなんて…。
「くそっ……!」
思わず近くの壁を叩きつけた。
……俺が甘かった。
奴等が常にアカリのことを狙っていたことは分かっていたはずだ。だというのに、平穏無事な日々が続くにつれ、俺は油断し始めていた。もしかしてなんとかなるんじゃないか、もし来たとしても返り討ちに出来るんじゃないか、などと楽観視して。
だが奴等はそれ程甘くはなかった。俺が思っていたよりもずっと手強く、狡猾に、周到に策を用意して待っていたんだ。
「俺が…もっとアイツに気を掛けていたら…!」
一人ただ悔やむ俺。側にいた秋山はそんな俺の肩にポンと手を置いて言うのだった。
「西馬。気持ちは分かるが今は後悔してる時じゃねえ。今は一刻も早くアカリちゃんを助けることを考えなきゃいけない時だ。それに、お前が沈んでると困る奴もいるんだよ。」
「……え?」
秋山の言葉に、俺はハッとした。
気づけば、須田もまた俺の横ですすり泣いていたのだ。
「……須田。」
「西馬さん……。本当に、申し訳、ありません……。私、またアカリちゃんを、守れなかった……。」
……そうだ。アカリがさらわれて、辛い想いをしているのは俺だけじゃないんだ。
目の前でアカリをさらわれてしまった須田もまた俺と同様、いやあるいはそれ以上に悔しい想いをしているはず。
思えば、一度目にアカリがさらわれた時、一番責任を感じていたのもこの須田だった。あの一件以来、
須田が警官を辞めて助手となって俺を支えてくれたわけだが…そんな行動も彼女の責任感や正義感からきたものだったのかもしれない。だとしたら、秋山の言う通り、俺が暗い顔をしていたら須田は尚更に苦しむことになっちまう。
……俺としたことが、情けない。今この時、一番周りを励まさなきゃいけない奴がこんなザマでどうすんだ。
「……須田。すまなかった。お前を余計に不安にさせちまって……。でも、もう大丈夫だ。」
「……西馬さん……。」
そうだ。このまま嘆いていたって仕方ない。秋山の言う通り、今はとにかくアイツを助け出すことを考えねえと。
「待ってろ。必ずアイツを連れて帰るからな。」
泣きじゃくる須田の頭を軽く撫でて、俺は須田の病室を後にした。
病室から出ると、秋山が急に俺の顔をまじまじと見つめてきた。かと思うと、今度はニヤリとイタズラっぽく笑うのだった。
「らしい顔になってきたじゃないか。やっぱ、お前はそうじゃないとな。」
「な…!」
「お前が塞ぎ込んでると俺も調子が狂うんだよ。」
……こいつめ。面と向かって恥ずかしいこと言いやがって。
気恥ずかしくて返答に困っている俺の肩を、秋山はその大きなゴツゴツとした手でポンと置いた。頼もしい相棒の手は、上着越しからも暖かく感じた。
「やってやろうや…!西馬!アイツらと、決着をつけに、よ!」
「……ああ。」
もう面倒などと言ってられない。俺の闇クラブとの最後の勝負が、今より始まろうとしていた。
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