記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

文字の大きさ
上 下
168 / 188
離愁編

父と子 5

しおりを挟む
……してやられた!
成龍氏を殺すために、ヒカルは二重の囮を張っていたのだ。
一つ目の囮は門番のヤクザと住吉、高松の二人。
もう一つの囮は自分自身。
本命はおそらく予め魔眼の術をかけていた診療所内のヤクザたち全員だ。
迂闊だった。よくよく考えりゃ、俺は魔眼の効かない魔除けチャームを持っていて、あいつもその事は知っていたんだ。一対一の対決になる場合、俺の方に分があるだろうことはあいつにも容易に想定できたはずだ。ならそれに対する策も用意しておくのも至極当然だ。これはその事を考えていなかった俺の失態だ。
「くそったれ…!間に合ってくれ!」
急ぐ俺をよそに、ヒカルの術にかかったヤクザたちが肉の壁となって俺の行く手を塞ぐ。
「くそっ……!邪魔だ!どいてくれ!」
無我夢中で肉の壁を掻き分けて手術室を目指す。
あとほんの少しだけの距離だというのに…!
ヤクザたちの壁のせいで思うように動けない。よく見知った診療所だっていうのに、ほんの数メートルの距離がとてつもなく遠く感じる。
ヤクザたちの壁の合間をかいくぐり、やっと俺はその集団から抜け出した。
しめた!これで一気に手術室へ…!
「あ……れ……?」
……どこだ?ここは。
俺が抜け出した先には、手術室はおろか部屋すらなかった。少し曇った窓ガラスが、俺の間抜け面を写していた……。


「“三重の囮”。まんまとかかったね。西馬君。」
ヤクザたちの人混みに紛れていく西馬を横目に、ヒカルは悠々とその歩を進めていた。
「人が混雑してる状況は得てして迷いやすい。火災などの緊急事態なら、自身のパニック状態と相まって尚更に迷う。だが慣れた場所だと迷う訳が無いという自負があるために迷っていることすら気づかずに前に進んでしまう。着いた先はあべこべの場所だとわかった時はもう手遅れ、というわけさ。これこそ僕が仕掛けた三つ目の囮。」
ヒカルを先導するのは先程まで西馬の後ろをついてきていた若いチンピラ。既にヒカルの術中に落ちていた。
「手術室は……この……先ッス……。」
「ん。ありがとう。悪いね。」
チンピラの案内で、ヒカルはとうとう成龍氏のいる手術室の前まで来ていた。
「西馬君。君には悪いが、やはり彼には僕が直接手を下すことにするよ。それが一番確実だからね……。」
そう呟きながら、ヒカルは手術室の中を覗き込んだ……。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...