記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

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離愁編

“運び屋”達の思惑

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轟音と共に、闇クラブ「マモン」の本体である「ブラックバンク」が崩れていく。
崩壊する施設を遠くに眺めながら、岩田は何処かに連絡をとっていた……。

『……あー、もしもし?』
「零野か?俺だ。」
電話口の向こうで、もう一人の“運び屋”、零野が応えた。
『よう。とっつぁんか。どうだい。そっちの方は。』
「…予想以上の抵抗にあって、成龍氏には逃げられてしまった。」
『あら?あんたが手こずるなんて珍しいね。連中、意外とやり手だったんだ。』
「まあな。」
『ふーん……。でも代わりにの奴らはキッチリ殺したんでしょ?』
「いや……。」
言葉を濁す岩田。それに何かを察したのか、零野が電話越しに尋ねてきた。
『……。あんた、まさかあいつらに余計な情でも湧いたんじゃないだろね。』
「なんだと?何がいいたい?」
『いやね。まさかと思うんだけどね。俺は心配なワケよ。あんたがあいつらをんじゃないか、ってね。』
「バカな……!」
眉間に皺を寄せて岩田は強く否定した。
「俺が任務でそんな事をする訳がない。お前も知っているだろう。」
『だからこそ信じられないんだよ。いつものあんたなら、成龍を逃すなんてヘマ、やらかすはずがない。』 
「お前は奴らを舐めているからそんなことが言えるんだ。実際、かなり食い下がられた。あれ程抵抗を受けたのは初めてだ。」
『お?今度は失敗の言い訳かい?ますますあんたらしくないね……。』
訝しがる零野にため息をつく岩田は強引に話題を変えることにした。
「……そっちはどうなんだ。きちんと目的は果たせたんだろうな。」
『おうよ。あんたがを引きつけてだおかげで楽なもんだったよ。今は俺の横でオネンネしてる。』
「……だれか殺してはいないだろうな?」
『心配すんなって。誰も殺しちゃいない。は注文通り怪我だけで終わらしたしな。死んじまったら伝言役メッセンジャーになれないからよ。』
「そうか。それを聞いて安心した。お前は多少やりすぎる節があるからな。」
『お?何?ひがんでんの?自分が失敗したからって、上手くやった俺が気に入らないの?』
「……違う。」
『アッハハ……!いい年して拗ねてやんの!』
「うるさい。拗ねてなんかない。」
『ムキになっちゃってまあ。アハハハ……!』
電話口の向こうで笑う零野の声に、岩田は表情を変えずとも狼狽しているように見えた。
『……ま、ともかく変な気は起こさないこった。今更いい人ぶったってとっつぁんに得なんてないでしょ。』
「…わかっている。」
『なら良かった。じゃ、後でな。』
そうして零野は通信を切った。


「……わかっているさ。もう俺は後戻りできないことはわかっているんだ……。」

「ブラックバンク」を背にして、岩田は本部へと歩き出す。
その背中は、心なしか泣いているようにも見えるのだった…。
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