記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

文字の大きさ
上 下
162 / 188
離愁編

血戦!マモン ひとまずの決着

しおりを挟む
「く……そ……!……この……化け物が……!」
炎の燃え盛る「ブラックバンク」。その炎の中、二つの影があった。
闇クラブ「ルシフェル」の「運び屋」岩田。そしてその男に首を掴まれ、苦しみもがく高松。
岩田は先程爆発を食らったにもかかわらず、相変わらず無表情のまま、掴み上げた高松を見据えていた。
「化け物……か。たしかにそうかもな。俺はとうに人間である事を捨てた。」
そう言うと岩田は、高松を乱暴に投げ捨てた。床で転げ回った高松は首元を抑えながらゲホゲホと咳き込む。そんな彼を見下ろしながら、岩田は尚も続けた。
「先程の粉塵爆発、見事だった。あのゴロツキとの共闘での立ち回りといい、なかなかのキレ者だな。お前は。」
「……そりゃどうも。」
「しかし……だ。」
岩田はポケットから、爆発でぼろぼろになったサングラスを掛けた。ひび割れたレンズは岩田の眼差しを隠す。
「……お前たちがいくら足掻いたところで、より大きな力には敵わない。今のように、な。命が惜しければ、もう今後我々とは関わらん事だ。」
「……ああ?」
その言葉を聞いて、高松はふらつきながらもゆっくりと立ち上がり、眼前の岩田を睨みつける。
「……なんだよ。そりゃ。可哀想だからこの場は見逃してやろう、ってか。」
「そうだ。ひさびさにいい戦いができた。せめてもの礼だ。」
「……ふざけんな!」
高松は岩田に向けて何度も引き金を引いた。だがその弾丸は金属音を響かせながら、彼の銀色の皮膚に弾かれるだけだった。
「……解せんな。見逃してやると言っているんだ。そこの住吉とやらを連れて逃げるのが目的なら、悪い話じゃないだろう。」
「……気が変わったんだよ。覚悟の上とはいえ、てめえらのせいで何人も部下が死んだんだからな。せめて一泡吹かせてやらなきゃ、死んでいったあいつらに顔向けできねえ。」
「顔向けできない……か。下らんな。」
「黙れ!」
弾倉を替えて、再び岩田に向けて発砲する高松。やはり弾丸は岩田の身体を貫けない。
無駄と分かっている抵抗を続ける彼を、岩田はレンズ越しに見下ろす。必死の形相で攻撃する高松をさも滑稽かと言わんばかりに。
……何度かの銃声が響いた後、高松の銃は弾を発しなくなった。カチカチと引鉄を引く音が虚しく響く。
「くそっ……!」
「……もう、満足か?」
「…まだまだぁ!」
再び弾倉を取り替える高松。岩田はため息をつき、そんな高松に背を向けた。
「待て!どこ行きやがる!」
「付き合ってられん。俺はこれから任務の失敗の報告をせねばならん。いつまでもお前に構ってられん。」
「なんだと……!」
「お前も手遅れにならんうちにここから出て行くんだな。もう大分火の手が回っている。」
「ふ……ざけんなぁ!逃げんのか!ボケェ!」
「フ…。じゃあな。」
そう言うと岩田は、燃え盛る炎の中へと歩を進めていった。消えていきそうなその背中に向けて、高松はありったけの銃弾をぶちまけた。だがやはりその弾は弾かれてしまう。
「ふざけんな…!ふざけんな!ふざけんなぁ!」


……パシュッ……


「⁉︎」
高松は一瞬、自身の目を疑った。
彼がぶちまけていた銃弾の一発が、岩田の脚に刺さりそこから血が噴き出したのだ。
痛みを感じない岩田は気づかなかったのか、動じない様子でそのまま炎の中へと姿を消してしまった。
「俺の目の錯覚か……?いや、確かに見た。どんなに撃っても殴っても通用しなかった奴の体が、どういう訳か。一体何故……?」
しばらく思案したのち、自嘲気味に笑いながら高松はその場にへたり込んだ。
「……考え込んでも無駄か。目がぼやけてきやがった。大分煙を吸っちまったらしい。……ざまあねえ。テメエが仕掛けた策でテメエがくたばっちまうなんて……。」
高松は側で気を失っている住吉に目を向ける。
「やれやれ……。最後がお前と一緒なんてよ。なんとも色気のねえ最後だな、おい……。」
そこまで言って、高松は口をつぐんだ。……炎の向こうからだれか来る。
ゆらゆらと揺れてるいた幽鬼のような影はやがて人の形を成し、高松の目の前にひざまついた。
全身を黒いコートで包んだ……男だろうか?女だろうか?若いのか?老いているのか?顔がぼやけていまいち正体がつかめない。ただこの施設にいた衛兵たちが皆黒スーツだったことから、この人物が彼らと何かしらの関係がある事は、高松には容易に想像できた。
「君……。気分が悪そうだが、大丈夫かい?」
声からして、どうやら若い男のようだ。高松は警戒しながら答えた。
「……大丈夫だ。ちょいとボーッとするだけだ。…あんたは?何モンだ?」
「僕かい?僕はここのオーナーにちょっと用があってね。この様子じゃ、無事じゃなさそうだが……。君、何か知らないかい?」
「さあ……。」
高松がとぼけようとした瞬間、気のせいか、コートのフードの中がキラリと光ったように見えた。
「オーナーの陳成龍は一足先にここから出て行った。西馬たちが護衛についてる……。」
あまりに自然に言葉を漏らす口を、高松は思わず押さえた。 
(何をベラベラ喋ってんだ。俺は……。こんな得体の知れない奴相手に……。)
恐々とする高松。だが目の前の男は変わらぬ様子で話しかけてくる。
「なんだ。君は西馬くんの知り合いか。じゃあ危害を加える訳にはいかないな。優しい西馬くんはきっと怒るだろうからねえ。」
どうやらあちらも「西馬」の事を知っているらしい。味方なのだろうか?
「じゃあ君には少し道案内をお願いしようかな。そちらの連れも一緒に、ね。」
「……ああ。わか……った…。」
前後不覚のまま生返事する高松。そして確かに見た。黒いコートの中から覗く金色の瞳を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ルナール古書店の秘密

志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。  その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。  それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。  そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。  先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。  表紙は写真ACより引用しています

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

あやかし探偵倶楽部、始めました!

えっちゃん
キャラ文芸
文明開化が花開き、明治の年号となり早二十数年。 かつて妖と呼ばれ畏れられていた怪異達は、文明開化という時勢の中、人々の記憶から消えかけていた。 母親を流行り病で亡くした少女鈴(すず)は、母親の実家であり数百年続く名家、高梨家へ引き取られることになった。 高梨家では伯父夫婦から冷遇され従兄弟達から嫌がらせにあい、ある日、いわくつきの物が仕舞われている蔵へ閉じ込められてしまう。 そして偶然にも、隠し扉の奥に封印されていた妖刀の封印を解いてしまうのだった。 多くの人の血肉を啜った妖刀は長い年月を経て付喪神となり、封印を解いた鈴を贄と認識して襲いかかった。その結果、二人は隷属の契約を結ぶことになってしまう。 付喪神の力を借りて高梨家一員として認められて学園に入学した鈴は、学友の勧誘を受けて“あやかし探偵俱楽部”に入るのだが…… 妖達の起こす事件に度々巻き込まれる鈴と、恐くて過保護な付喪神の話。 *素敵な表紙イラストは、奈嘉でぃ子様に依頼しました。 *以前、連載していた話に加筆手直しをしました。のんびり更新していきます。

ガールズバンド“ミッチェリアル”

西野歌夏
キャラ文芸
ガールズバンド“ミッチェリアル”の初のワールドツアーがこれから始まろうとしている。このバンドには秘密があった。ワールドツアー準備合宿で、事件は始まった。アイドルが世界を救う戦いが始まったのだ。 バンドメンバーの16歳のミカナは、ロシア皇帝の隠し財産の相続人となったことから嫌がらせを受ける。ミカナの母国ドイツ本国から試客”くノ一”が送り込まれる。しかし、事態は思わぬ展開へ・・・・・・ 「全世界の動物諸君に告ぐ。爆買いツアーの開催だ!」 武器商人、スパイ、オタクと動物たちが繰り広げるもう一つの戦線。

伊藤さんと善鬼ちゃん~最強の黒少女は何故弟子を取ったのか~

寛村シイ夫
キャラ文芸
実在の剣豪・伊藤一刀斎と弟子の小野善鬼、神子上典膳をモチーフにしたラノベ風小説。 最強の一人と称される黒ずくめの少女・伊藤さんと、その弟子で野生児のような天才拳士・善鬼ちゃん。 テーマは二人の師弟愛と、強さというものの価値観。 お互いがお互いの強さを認め合うからこその愛情と、心のすれ違い。 現実の日本から分岐した異世界日ノ本。剣術ではない拳術を至上の存在とした世界を舞台に、ハードな拳術バトル。そんなシリアスな世界を、コミカルな日常でお送りします。 【普通の文庫本小説1冊分の長さです】

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

逢汲彼方
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

余命三ヶ月の令嬢と男娼と、悪魔

有沢真尋
恋愛
美しく清らかに何も無いまま死ぬなんて嫌なの。私のために男娼を用意して。 人好きのする性格を買われて「男娼」の役目を任された弟アレン。 四角四面な執事の兄レスター。 病弱なお嬢様クララ。 そして、悪魔。 余命宣告された伯爵令嬢クララの最後の望みが「恋にも愛にも時間が足りないとしても、最高の一夜を過ごしたい」というもの。 とはいえ、クララはすでに、起き上がるのも困難な身。 終わりに向かう日々、話し相手になって気晴らしに付き合う心積もりでクララの元へ向かった「男娼」アレンであったが、クララからとんでもない話を持ちかけられる。 「余命宣告が頭にきたから、私、悪魔と契約したの。悪魔を満足させたら長生きできるみたい。そんなわけであなた、私と一緒に大罪に手を染めてくれないかしら?」 ※他サイトにも公開しています。 表紙写真:https://pixabay.com/ja/illustrations/バックグラウンド-美術-要約-2424150/

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...