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離愁編
血戦!マモン ひとまずの決着
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「く……そ……!……この……化け物が……!」
炎の燃え盛る「ブラックバンク」。その炎の中、二つの影があった。
闇クラブ「ルシフェル」の「運び屋」岩田。そしてその男に首を掴まれ、苦しみもがく高松。
岩田は先程爆発を食らったにもかかわらず、相変わらず無表情のまま、掴み上げた高松を見据えていた。
「化け物……か。たしかにそうかもな。俺はとうに人間である事を捨てた。」
そう言うと岩田は、高松を乱暴に投げ捨てた。床で転げ回った高松は首元を抑えながらゲホゲホと咳き込む。そんな彼を見下ろしながら、岩田は尚も続けた。
「先程の粉塵爆発、見事だった。あのゴロツキとの共闘での立ち回りといい、なかなかのキレ者だな。お前は。」
「……そりゃどうも。」
「しかし……だ。」
岩田はポケットから、爆発でぼろぼろになったサングラスを掛けた。ひび割れたレンズは岩田の眼差しを隠す。
「……お前たちがいくら足掻いたところで、より大きな力には敵わない。今のように、な。命が惜しければ、もう今後我々とは関わらん事だ。」
「……ああ?」
その言葉を聞いて、高松はふらつきながらもゆっくりと立ち上がり、眼前の岩田を睨みつける。
「……なんだよ。そりゃ。可哀想だからこの場は見逃してやろう、ってか。」
「そうだ。ひさびさにいい戦いができた。せめてもの礼だ。」
「……ふざけんな!」
高松は岩田に向けて何度も引き金を引いた。だがその弾丸は金属音を響かせながら、彼の銀色の皮膚に弾かれるだけだった。
「……解せんな。見逃してやると言っているんだ。そこの住吉とやらを連れて逃げるのが目的なら、悪い話じゃないだろう。」
「……気が変わったんだよ。覚悟の上とはいえ、てめえらのせいで何人も部下が死んだんだからな。せめて一泡吹かせてやらなきゃ、死んでいったあいつらに顔向けできねえ。」
「顔向けできない……か。下らんな。」
「黙れ!」
弾倉を替えて、再び岩田に向けて発砲する高松。やはり弾丸は岩田の身体を貫けない。
無駄と分かっている抵抗を続ける彼を、岩田はレンズ越しに見下ろす。必死の形相で攻撃する高松をさも滑稽かと言わんばかりに。
……何度かの銃声が響いた後、高松の銃は弾を発しなくなった。カチカチと引鉄を引く音が虚しく響く。
「くそっ……!」
「……もう、満足か?」
「…まだまだぁ!」
再び弾倉を取り替える高松。岩田はため息をつき、そんな高松に背を向けた。
「待て!どこ行きやがる!」
「付き合ってられん。俺はこれから任務の失敗の報告をせねばならん。いつまでもお前に構ってられん。」
「なんだと……!」
「お前も手遅れにならんうちにここから出て行くんだな。もう大分火の手が回っている。」
「ふ……ざけんなぁ!逃げんのか!ボケェ!」
「フ…。じゃあな。」
そう言うと岩田は、燃え盛る炎の中へと歩を進めていった。消えていきそうなその背中に向けて、高松はありったけの銃弾をぶちまけた。だがやはりその弾は弾かれてしまう。
「ふざけんな…!ふざけんな!ふざけんなぁ!」
……パシュッ……
「⁉︎」
高松は一瞬、自身の目を疑った。
彼がぶちまけていた銃弾の一発が、岩田の脚に刺さりそこから血が噴き出したのだ。
痛みを感じない岩田は気づかなかったのか、動じない様子でそのまま炎の中へと姿を消してしまった。
「俺の目の錯覚か……?いや、確かに見た。どんなに撃っても殴っても通用しなかった奴の体が、どういう訳か今になって脚だけ弾を弾けなかった。一体何故……?」
しばらく思案したのち、自嘲気味に笑いながら高松はその場にへたり込んだ。
「……考え込んでも無駄か。目がぼやけてきやがった。大分煙を吸っちまったらしい。……ざまあねえ。テメエが仕掛けた策でテメエがくたばっちまうなんて……。」
高松は側で気を失っている住吉に目を向ける。
「やれやれ……。最後がお前と一緒なんてよ。なんとも色気のねえ最後だな、おい……。」
そこまで言って、高松は口を噤んだ。……炎の向こうからだれか来る。
ゆらゆらと揺れてるいた幽鬼のような影はやがて人の形を成し、高松の目の前にひざまついた。
全身を黒いコートで包んだ……男だろうか?女だろうか?若いのか?老いているのか?顔がぼやけていまいち正体がつかめない。ただこの施設にいた衛兵たちが皆黒スーツだったことから、この人物が彼らと何かしらの関係がある事は、高松には容易に想像できた。
「君……。気分が悪そうだが、大丈夫かい?」
声からして、どうやら若い男のようだ。高松は警戒しながら答えた。
「……大丈夫だ。ちょいとボーッとするだけだ。…あんたは?何モンだ?」
「僕かい?僕はここのオーナーにちょっと用があってね。この様子じゃ、無事じゃなさそうだが……。君、何か知らないかい?」
「さあ……。」
高松がとぼけようとした瞬間、気のせいか、コートのフードの中がキラリと光ったように見えた。
「オーナーの陳成龍は一足先にここから出て行った。西馬たちが護衛についてる……。」
あまりに自然に言葉を漏らす口を、高松は思わず押さえた。
(何をベラベラ喋ってんだ。俺は……。こんな得体の知れない奴相手に……。)
恐々とする高松。だが目の前の男は変わらぬ様子で話しかけてくる。
「なんだ。君は西馬くんの知り合いか。じゃあ危害を加える訳にはいかないな。優しい西馬くんはきっと怒るだろうからねえ。」
どうやらあちらも「西馬」の事を知っているらしい。味方なのだろうか?
「じゃあ君には少し道案内をお願いしようかな。そちらの連れも一緒に、ね。」
「……ああ。わか……った…。」
前後不覚のまま生返事する高松。そして確かに見た。黒いコートの中から覗く金色の瞳を。
炎の燃え盛る「ブラックバンク」。その炎の中、二つの影があった。
闇クラブ「ルシフェル」の「運び屋」岩田。そしてその男に首を掴まれ、苦しみもがく高松。
岩田は先程爆発を食らったにもかかわらず、相変わらず無表情のまま、掴み上げた高松を見据えていた。
「化け物……か。たしかにそうかもな。俺はとうに人間である事を捨てた。」
そう言うと岩田は、高松を乱暴に投げ捨てた。床で転げ回った高松は首元を抑えながらゲホゲホと咳き込む。そんな彼を見下ろしながら、岩田は尚も続けた。
「先程の粉塵爆発、見事だった。あのゴロツキとの共闘での立ち回りといい、なかなかのキレ者だな。お前は。」
「……そりゃどうも。」
「しかし……だ。」
岩田はポケットから、爆発でぼろぼろになったサングラスを掛けた。ひび割れたレンズは岩田の眼差しを隠す。
「……お前たちがいくら足掻いたところで、より大きな力には敵わない。今のように、な。命が惜しければ、もう今後我々とは関わらん事だ。」
「……ああ?」
その言葉を聞いて、高松はふらつきながらもゆっくりと立ち上がり、眼前の岩田を睨みつける。
「……なんだよ。そりゃ。可哀想だからこの場は見逃してやろう、ってか。」
「そうだ。ひさびさにいい戦いができた。せめてもの礼だ。」
「……ふざけんな!」
高松は岩田に向けて何度も引き金を引いた。だがその弾丸は金属音を響かせながら、彼の銀色の皮膚に弾かれるだけだった。
「……解せんな。見逃してやると言っているんだ。そこの住吉とやらを連れて逃げるのが目的なら、悪い話じゃないだろう。」
「……気が変わったんだよ。覚悟の上とはいえ、てめえらのせいで何人も部下が死んだんだからな。せめて一泡吹かせてやらなきゃ、死んでいったあいつらに顔向けできねえ。」
「顔向けできない……か。下らんな。」
「黙れ!」
弾倉を替えて、再び岩田に向けて発砲する高松。やはり弾丸は岩田の身体を貫けない。
無駄と分かっている抵抗を続ける彼を、岩田はレンズ越しに見下ろす。必死の形相で攻撃する高松をさも滑稽かと言わんばかりに。
……何度かの銃声が響いた後、高松の銃は弾を発しなくなった。カチカチと引鉄を引く音が虚しく響く。
「くそっ……!」
「……もう、満足か?」
「…まだまだぁ!」
再び弾倉を取り替える高松。岩田はため息をつき、そんな高松に背を向けた。
「待て!どこ行きやがる!」
「付き合ってられん。俺はこれから任務の失敗の報告をせねばならん。いつまでもお前に構ってられん。」
「なんだと……!」
「お前も手遅れにならんうちにここから出て行くんだな。もう大分火の手が回っている。」
「ふ……ざけんなぁ!逃げんのか!ボケェ!」
「フ…。じゃあな。」
そう言うと岩田は、燃え盛る炎の中へと歩を進めていった。消えていきそうなその背中に向けて、高松はありったけの銃弾をぶちまけた。だがやはりその弾は弾かれてしまう。
「ふざけんな…!ふざけんな!ふざけんなぁ!」
……パシュッ……
「⁉︎」
高松は一瞬、自身の目を疑った。
彼がぶちまけていた銃弾の一発が、岩田の脚に刺さりそこから血が噴き出したのだ。
痛みを感じない岩田は気づかなかったのか、動じない様子でそのまま炎の中へと姿を消してしまった。
「俺の目の錯覚か……?いや、確かに見た。どんなに撃っても殴っても通用しなかった奴の体が、どういう訳か今になって脚だけ弾を弾けなかった。一体何故……?」
しばらく思案したのち、自嘲気味に笑いながら高松はその場にへたり込んだ。
「……考え込んでも無駄か。目がぼやけてきやがった。大分煙を吸っちまったらしい。……ざまあねえ。テメエが仕掛けた策でテメエがくたばっちまうなんて……。」
高松は側で気を失っている住吉に目を向ける。
「やれやれ……。最後がお前と一緒なんてよ。なんとも色気のねえ最後だな、おい……。」
そこまで言って、高松は口を噤んだ。……炎の向こうからだれか来る。
ゆらゆらと揺れてるいた幽鬼のような影はやがて人の形を成し、高松の目の前にひざまついた。
全身を黒いコートで包んだ……男だろうか?女だろうか?若いのか?老いているのか?顔がぼやけていまいち正体がつかめない。ただこの施設にいた衛兵たちが皆黒スーツだったことから、この人物が彼らと何かしらの関係がある事は、高松には容易に想像できた。
「君……。気分が悪そうだが、大丈夫かい?」
声からして、どうやら若い男のようだ。高松は警戒しながら答えた。
「……大丈夫だ。ちょいとボーッとするだけだ。…あんたは?何モンだ?」
「僕かい?僕はここのオーナーにちょっと用があってね。この様子じゃ、無事じゃなさそうだが……。君、何か知らないかい?」
「さあ……。」
高松がとぼけようとした瞬間、気のせいか、コートのフードの中がキラリと光ったように見えた。
「オーナーの陳成龍は一足先にここから出て行った。西馬たちが護衛についてる……。」
あまりに自然に言葉を漏らす口を、高松は思わず押さえた。
(何をベラベラ喋ってんだ。俺は……。こんな得体の知れない奴相手に……。)
恐々とする高松。だが目の前の男は変わらぬ様子で話しかけてくる。
「なんだ。君は西馬くんの知り合いか。じゃあ危害を加える訳にはいかないな。優しい西馬くんはきっと怒るだろうからねえ。」
どうやらあちらも「西馬」の事を知っているらしい。味方なのだろうか?
「じゃあ君には少し道案内をお願いしようかな。そちらの連れも一緒に、ね。」
「……ああ。わか……った…。」
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