記憶探偵の面倒な事件簿

hyui

文字の大きさ
上 下
158 / 188
離愁編

血戦!マモン 鬼の頼み

しおりを挟む
「お、俺にどうしろってんだ?」
自分でも声が震えているのが分かる。それほどに今の住吉には見るものを恐れさせる迫力があった。まさに「鬼気」迫るといった感じだ。
「お前に……一つ俺から依頼したい。」
そう言って、住吉は懐から何かを俺に手渡した。彼の血にまみれたくしゃくしゃの紙幣だった。
「これは……。」
「……依頼料だ。こんな汚ねえ金ですまないが、今はこれしか手元にない。この金で、俺からの依頼を受けてほしい。……頼めるか?」


……住吉が俺の手を握った途端、彼の記憶が流れ込んで来た。

彼の頭の中にあった映像、それは陳さんとの記憶の断片であった。
悪戯っぽく笑う顔、厳しい顔で叱りつける顔、哀しげに涙を流す顔、優しく微笑みかける顔……。
そんな彼の陳さんの無数の記憶の映像が、俺の瞼に映し込まれるのだった。

……それだけで彼がどれだけ陳さんを大事に思っているのか、よく分かる。断る理由はない。
俺はその金を受け取り、何も言わずに頷いた。
「……ありがとよ。」
本当に、嬉しそうに、住吉はその時だけニッコリと笑いかけてくれた。

「俺から依頼したいことはただ一つ。ここから逃した陳の爺さんの息子の護衛だ。あの岩田を俺が食い止めてる間にあそこの抜け穴から後を追いかけてくれ。多分……まだそんな遠くには行ってないはずだ。」
住吉はあくまで成龍氏を陳さんの元に送りたいらしい。実直な彼らしい依頼といえばらしいが、しかし……。
「あの男を食い止めるって……そんな体でどうやって?」
「それは……なんとかする。」
……なるほど。ノープランって訳ね。
困った顔をした住吉を見かねてか、高松が割り込んで来た。
「大丈夫だ。俺もここに残る。俺と一緒なら、無茶はさせねえ。」
「……余計なことを。」
「別にいいだろ?なんやかやで俺たちゃ腐れ縁じゃねえか。カッカッカ……!」
ブスッとした顔の住吉を、いつもの調子で高松が笑う。その様子は抗争中のヤクザというより、まるで古くからの友人同士のやり取りを見ているようだった。

「話はまとまったか?」痺れを切らしたのか、岩田が遠くから横槍を入れてきた。「何をするか知らんが、やるならとっととかかって来い。」
「へっ……。言われずとも……!」
いうや否や、住吉は岩田に向かって突進し、その巨体をぶちかました。咄嗟に反応できなかったのか、岩田はこれをもろに喰らい後方へと吹っ飛んでいく。
「よし…!今だ!行け!」
「お、おう!」
促されるまま、俺と秋山は成龍氏の出ていった穴へと向かった。途中、俺は振り返って高松と住吉へ叫んだ。
「息子さんは俺たちが必ず連れ帰る!あんたたちも死なないでくれよ!」
遠くに見える二人は俺たちに向けて親指を立てて応えた。

……よし、行こう。グズグズはしていられない。
「行くぜ。秋山。」
「ああ。」
陳さんの息子、成龍氏の元まであと一歩。
帰りを待つ陳さんの為にも、道を開いてくれた高松、住吉の為にも、なんとしても彼を無事に連れ帰らなければ……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...