記憶探偵の面倒な事件簿

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離愁編

血戦!マモン 探偵チーム、鬼と合流す

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「な、なんだ?こりゃ……。」 
高松、秋山と共に、成龍氏を探して「ブラックバンク」内を進んでいた俺たちの目に飛びこんできたのは、異様な光景だった。
そこには無数の黒服達の死体と、床、天井、壁一面に飛び散る血しぶき。そして屍と屍の間をなぞるように、点々と血痕が残っていた。まるで猛獣が通った後のようだ。
「……どうやら俺たちより先にここでやりあった奴がいるらしいな。高松、あんたの部下が生き残っていたのか?」
高松は死体を吟味し、首を横に振った。
「いや、多分違うな。黒服こいつらは全員首やあばらを折られてくたばってる。こりゃ銃で受けた傷じゃねえ。何かとんでもない力で殴られたみたいだな。」そう言って高松はゆっくりと立ち上がり、血痕の続く先を見据えていた。
「俺の部下にこんな芸当ができる奴はいねえ。いるとしたら……アイツだけだ。」
「アイツ?アイツって誰のことだ?」
「そりゃあ……。」
高松がそこまで言いかけた時、遠くの方で物音がした。丁度、血の跡の続く道の先だ。ゴンゴンと鳴り続けるその音は、まるで寺の鐘の音のような鈍い金属の共鳴音に似ていた。
「……なんだ?この音は?」
「行ってみよう。」
かくして、俺たちはその音のする方へと向かった。


歩みを進める毎に、次第にその音は大きくなっていく。時折、その音に混じって男の呻き声も聞こえてきた。……間違いない。誰かが何者かと戦っている。

その音に導かれるままに歩みを進めると、一つの部屋にたどり着いた。この扉の向こうから、激しくぶつかり合う音が聞こえる。
「……よし、入るぞ。」
意を決して入ろうとする高松。その手を俺は慌てて引き止めた。
「お、おい。まてよ。この中にいる奴が何者か、あんたわかってんのか?さっき言っていたアイツって誰のことなんだよ?」
「見当はついてる。あんな芸当ができる奴は、同業者じゃ俺はひとりしか知らねえ。……住吉だ。アイツに違いねえ。」

……住吉。
あの診療所にいたコワモテで無口なヤクザだ。

「しかしあの男、どうやってここまで?まさか一人でやったのか?」
「そのまさかだ。」笑いながら話す高松は何故かどことなく誇らしげだった。「アイツはそんなことをやってのける男だよ。」

……そうして轟音の鳴り響く扉を俺たちは恐る恐る開けた。開けた先で俺たちの目に飛び込んできたのは……。


「す……住吉っ!!」


スキンヘッドの大男と、血だるまになって床に這いつくばる住吉の姿だった。

高松はすかさず傷だらけの住吉の元へ駆け寄る。
「おめえ、大丈夫か⁉︎」
「……高松か。チッ……。みっともねえ姿、見せちまったな……。」
あのスキンヘッドの男に散々打ちのめされたのだろう。住吉はいたるところから出血し、片目は潰れ、殴り続けていたであろう右手は皮膚が剥がれ骨が剥き出しになっていた。
「お前がこんなになるだなんて……。」
住吉を気遣う高松に、スキンヘッドの男がにじり寄る。
「どうやら、お仲間が来てしまったようだな。山田組若頭、高松。それと刑事、秋山、私立探偵、西馬……。」
「‼︎俺たちの事を知っているのか⁉︎」
「知らないとでも思っていたのか?特に西馬と秋山。お前たちは闇クラブ殲滅に何度もボスと同行しているのが確認されているんだ。」そう言ってスキンヘッドはかけているサングラスをくいと上げる。「気にしない方がどうかしている。」
そうしてスキンヘッドがまた距離をつめる。

「野郎……!」

高松が反射的にそのスキンヘッドに向けて発砲した。至近距離だったこともあり、数発放たれた弾丸は全てそいつに当たった。スキンヘッドが大きく仰け反る。しかし……、それだけだった。
「⁉︎」
驚くべきことに、そいつは倒れるどころか怯みもせずにまた元の体勢に戻った。銃弾を受けたところには血も出ておらず、灰色の痣のような模様が浮かんでいるだけ。しばらくするとその痣も消えてしまった。

動揺する高松に住吉が語る。
「……無駄だ。その岩田ってやつには一切の攻撃が効かねえ。なんでも、衝撃に反応して身体を守るように細胞を改造されてるんだとよ。しかも奴は痛みも感じねえらしい。」
「マジかよ。そりゃあ……。そんなのありかよ。」

……ターミネーター。
俺の頭に、咄嗟にそんな言葉が連想された。
それは昔見た映画で、ターミネーターと呼ばれる人型のロボットが襲ってくるものだ。どんなに銃で撃っても、爆撃を受けてもビクともせず、無表情でターゲットをどこまでも追い続ける……。
その岩田という男には、そのイメージがぴったりだった。

岩田は傷だらけの住吉を見下ろして言う。
「住吉とやら、もう諦めたらどうだ。こんな仲間がどれだけ来たところで事態は好転しない。成龍もその内俺の部下が見つけ出すだろう。」
「……冗談じゃねえ。」

……!成龍!
ここに成龍氏がいたのか!
見れば向かいの壁に大穴が空いている。どうやらあそこの穴から成龍氏を逃したようだ。しかし状況から察するに、事態はあまり芳しくない。

「強がりはよせ。お前の両腕も限界だろう。それでどうやって俺を倒すつもりだ。」
「……黙れ。」
歯ぎしりしながら岩田を睨めあげる住吉。こんな血まみれの姿だというのに、その形相からはいまだに闘志がみなぎっている。そうして雄叫びを上げながら、住吉は立ち上がる姿はまさに、鬼神、阿修羅であった。そんな猛々しい姿に俺が見惚れていると……。
「……おい。探偵。ちょっとつら貸せ。」
「……え。は⁉︎お、俺⁉︎」
突然、その鬼に呼ばれる俺なのだった。
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