記憶探偵の面倒な事件簿

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離愁編

血戦!マモン 高松の策

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俺、秋山、高松の三人は只今絶賛大ピンチだった。
ブラックバンクに正面から突入した仲間は俺たち三人を除き全滅。生き残った俺たちも、周囲をルシフェルの黒服に取り囲まれた上、進路も退路も塞がれている。まさに絶対絶命である。
しかし先程高松が銃を乱射した甲斐あってか、奴らはこちらの出方を伺い、すぐにかかってこなかった。
「さあて……、この窮地、どう切り抜けるか。」
……それでも正直、切り抜けられる自信がない。今までだって、一対一のような対等か有利な状況でやりあったから勝てたところがあるからだ。こんな大勢に囲まれた状態でどのように立ち回るかを必死に考えても考えがまとまらない。そんな焦りが余計に俺の頭の中をごちゃごちゃにする……。
「おい。探偵さん。大丈夫かよ。」
高松が心配そうに声をかけてきた。
「し、心配すんな!こんな状況には慣れてるって言ったろ!」
精一杯強がって見せたが、声が上ずってるのが自分でもわかる。そんな俺の様子を見て高松は真剣な顔で続けた。
「……こんな状況だ。あんたを心配するつもりもコケにするつもりもないさ。敵に囲まれてる絶対絶命の状況でパニック起こさないだけ大したもんだ。だが実際のところ、このクソッタレの状況を打開できる案が浮かばない……。あんたの頭ん中はさしずめそんなとこじゃないか?」
「……う。」
やっぱり見透かされていたらしい。
「そこで、だ。あんたらにちょいと聞きたいんだが、あんたらあの黒服野郎を今まで何人ってきた?」
「……?なんだって今そんなこと聞くんだ?」
「いいから!何人ったんだよ!」
鬼気迫る様子で聞く高松。やむなく俺と秋山は答えた。
「俺は……0…かな。」
「うーむ。殺しちゃいないが、倒した人数なら俺は10人くらいか。」
おずおずと答える俺に対して、秋山はさらっと答える。実際、対ルシフェル戦で戦果をあげてるのは専ら秋山の方だ。俺も秋山の仇である穴取とやり合った時や、「レヴィアタン」へアカリを奪還に向かった時にルシフェルとの戦闘経験はあるが、仕留めたことはない。実力の差は明らかだった。
しかし高松はさほど気に留めた様子もなく質問を続ける。
「殴り合いは得意か?」
「は?」
「殴り合いだよ。どうなんだ。」
これまた質問の意図がわからない。俺と秋山は顔を見合わせたが、とりあえずまた答えることにした。
「一応、ボクシングの経験ならある。」
「警察の訓練で空手と柔道は扱える。あと趣味でプロレス技も少々。」
俺たちの答えを、高松はこめかみに人差し指をトントンと当てながら聞いていた。こいつの癖なのだろうか。

やがてその指が止まると、高松は顔を上げた。
「……よし。作戦がまとまった。おい、ちょいと耳を貸せ。」
そういって、半ば強引に高松は俺たちにその作戦とやらを耳打ちする。
……その内容は、果たして実行可能なのか、にわかには信じがたいものだった。

「以上だ。わかったか?」
「…あんた、本気かよ?」
「本気も本気だ。即席の策だが無策でやるよりマシだろ。」
「しかし……。」
「俺はいいぜ。その作戦、気に入った。」
高松の策に難を示す俺、一方の秋山はノリノリである。
「……まあ、他にこれという案もないか。OK。あんたの策に協力しよう。」
「どうも。…さあ、奴らもそろそろ痺れを切らしてきてるぜ。」

見回してみると高松の言葉通りルシフェルの黒服がジリジリと近づいてきていた。
「いいか。俺が合図したと同時に作戦開始だ。いいな。」
「……お、おう。」
「了解だ。」
俺たちは三人、背中合わせの状態で頷いた。
「いくぞ。せーの……。」
周りの黒服はそれぞれ懐に手を入れ始めた。拳銃を取り出す気だ……。
……自分の心臓の鼓動音が聞こえる。まだか?合図はまだなのか?もう遅いんじゃないか?……
高松の合図までの時間がまるで何分にも感じられた……。



「今だっ!!!」



掛け声と同時に、俺と秋山、高松が三人がかりで一番近くにいた黒服一人に襲いかかる。襲われた黒服はまさか三人がかりで来ると思っていなかったのか、一瞬反応が遅れた。そのため懐の拳銃を取り出す前に俺と高松のパンチを顔面にもろに喰らってしまった。怯んだところを秋山が飛び込んでその黒服をテーブルへと背負い投げで叩きつける。……この間、わずか2秒もなかった。
だが俺たちは攻撃の手を緩めない。次は呆気に取られていた近くの黒服に向けてこれまた三人で一斉射撃。反対に構えていた黒服にも振り向いて一斉射撃。これで計三人を撃破する。

残るは……6人。人数で不利なのは変わりないが、敵の始めの陣形は完全に崩れていた。
ここにきてようやく奴らも反撃に出る。懐から取り出した拳銃をこちらに向けて発砲する。だが俺たちはここで二手に分かれた。秋山は単身、俺と高松が二人組で左右に分かれてその反撃を躱す。それと同時に壁沿いに走り、また近くにいる黒服へと攻撃する。秋山は得意の体術で、俺と高松は銃でそれぞれ一人をまた倒す。

残るは4人。ここにきて一気に俺たちの形勢は逆転していた。
黒服たちを挟む形で攻める俺たち。黒服も応戦するが、俺たちの勢いは止まらない。瞬く間にまた二人を倒すと、残った二人の黒服は身を翻して退却していった。



「……ッシャアア!!」
思わず勝鬨かちどきを上げてしまった。それ程に興奮が覚めやらない感覚だった。俺たちはあの絶望的な窮地を脱したのだ。
「本当信じられねえ!こんなに上手くいくなんて!」
「ああ!これもナイスな作戦のおかげだ!全く大したもんだよ!なあ、高松!」
勝利に浮かれる俺と秋山だったが、高松はというと必死で何処かに連絡を取っていた。
「……高松……?」
連絡がとれなかったのか、高松は電話を切ると肩を落とし一言漏らした。
「……ちょいと疲れちまった。一服させてくれないか…?」
「あ、ああ。それはいいが……。高松、さっきの電話は、まさか……。」
俺が問いかけようとすると、秋山が遮るようにジッポを取り出した。
「……火、要るか?」
「……ああ。」
高松は秋山から火をもらうと、俺たちに背を向けタバコを吸い始めた。
「……佐助、祐介、みんな……。すまねえ……。」
そのまま高松はしばらく頭を垂れて肩を震わせながら煙を吐き出し続けていた……。
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