破滅の足音

hyui

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不変の愛

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私は花子。失恋真っ最中。ずっと付き合っていた彼氏が浮気していた。しかもそっちの女の方に行っちゃうなんて…。
「あーあ。ずっと私のことだけ愛してくれる人いないかな~?」
と、気づくと側に誰かがいる気配がする。
「どうも、私、悪魔です。」
「…なんですか。いきなり。」
休日、家でゆっくりしていた私のもとに、いきなり悪魔と名乗る男が現れた。
「あなた、結婚したいと思っていますね?」
「思ってますけど…。何なんですか?警察呼びますよ。」
「どうぞ。構いませんよ。」
即答したので、私は警察を呼んだ。突然男が現れたのに驚かない自分が怖い。
しばらくして警察が来た。
「大丈夫ですか。何かありましたか?」
「不法進入です。この男がいきなりやって来て…。」
「この男って、どの男?」
「え?だから目の前にいるじゃないですか。」
「私にはあなた以外見当たりませんが…。」
「うそ…。」
「あんまり、イタズラなんてしないでもらえますかね?こっちは暇じゃないんです。」
「だから、そこにいるじゃ…!」

バタン!
帰っちゃった…。

「どうして?見えなかったはずないじゃない!この距離で…!」
「私、悪魔ですので…。」
男が申し訳なさげに言う。
「ほ、ほんとに悪魔なの?何しにきたの?」
「あなたの望みを叶えに参りました。」
「望みって…、どんな?」
「始めに聞いたでしょう?結婚したいですか、と。」
「じゃあ、私の理想の旦那様を呼び出してくれるの!?」
「はい。そのために来ましたので。」
な、何というラッキー。棚からぼた餅、自室に悪魔。(何言ってんだろ私…。)
とにかくこんな好機は逃せない。
「どんな方がよいか、希望をお聞かせください。あなたの希望に沿った男性をご用意いたします。」
「そ、そうねえ…。まず身長が180センチのイケメンで、収入が年収一億。いつもそばにいてくれて、私に愛してるって言ってくれて、それからそれから…。」
私の要求は止まらなかった。私は常々思っていた理想の旦那様像を悪魔にぶつけまくった。
「…みたいな感じで、お願い。」
「かしこまりました。」
マジで!?
我ながら無茶苦茶な要求だと思うのに、目の前の悪魔は二つ返事で返した。
「では、こちらの彼はいかがでしょうか?」
悪魔が手をかざすと、突然一人の男性が現れた。身長は180センチ、かどうかはわからないけれど、かなり高身長。しかもイケメンだ。
「ば、バッチリだわ!本当にもらっていいの?」
「もちろんです。」
やった!こんな理想の旦那様をもらえるなんて、私はなんて幸せなのかしら!



それから、一年が経った。
私は彼を拓哉と呼んで、夫婦として過ごしていた。しかし、あれ程高まっていた私の感情は既に冷め切っていた。
確かに彼は私の理想通り。高身長、高収入、イケメンと文句なし。私を「愛してる」と言ってくれる…。でも…。

「拓哉、おはよう。」
「愛してる。」
「…ごはんにする?」
「愛してる。」
「パンでよかったよね…。」
「愛してる。」
…万事この調子なのだ。「愛してる」しか言わない。会話なんてものは成立しない、ただ「愛」を囁くだけの存在。それが仕事以外、常時側にいる…。気がどうにかなりそうだった。
確かに私が望んだこと。だけど度が過ぎるってもんだわ。

と、拓哉が立ち上がって玄関に向かって行った。
「…仕事の時間?」
「愛してる。」
「…頑張ってね。」
「愛してる。」
そう言って拓哉は出ていった。
この時間は拓哉の仕事の時間。夕方の五時まで仕事をして帰ってくる。…何の仕事かは教えてくれない。聞いても「愛してる」しか言わないし。
…正直、一人の時間が今一番の幸せ。贅沢な悩みかもしれないけど、彼といるのは今苦痛でしかない。でも、別れたくても彼は普通の人間じゃない。悪魔が造った「私の願い」なんだ。別れることはどうあがいてもできない…。


ピンポーン


突然、家のチャイムが鳴った。…誰だろう?
「はーい。」
玄関に向かって返事をしつつ、ドアの覗き穴を見た。警察が神妙な顔で扉の前に立っている。…何かあったのかしら。
戸惑いながら、私はドアを開けた。待機していた警察が手帳を見せながら挨拶してきた。
「どうも、奥さん。我々、警察の者です。失礼ですが、中を調べさせていただきます。」
「は!?え!?何!?どういうこと!?」
「おたくの旦那さんがつい先程逮捕されました。殺人、強盗の容疑がかけられています。家宅捜索の令状も出ています。悪しからず。」
そう言うと、警察官がゾロゾロと家に入っていった。
…思考がまとまらない。え?どういうこと?旦那が殺人?強盗?
「見つかりました!こっちです!」
家の奥から警察官が叫ぶ声がする。…見つかったって何が?

声の元へ行くと、鼻をつくような腐敗臭が辺りに漂っていた。警察官は無数の何かの肉の塊を部屋に撒き散らしていた。
「…ちょっと!何やってんのよ!」
「それは、こちらのセリフだ。何で『彼ら』がクローゼットの中にしまってあるんだね?」
…『彼ら』?
「これらは全て遺体だよ。あんたの旦那さんに殺されたね。ご丁寧に金になる部分、全部抜き取ってやがる…。頭髪、金歯、臓器…。」
「拓哉が…あたしの旦那がこんなことを?」
「知らなかったとは言わせんぞ。自宅内にこれだけ証拠が残ってるんだ。あんたの旦那は強盗目的で人を殺し、さらに解体して売りさばいていた。総額は一億円以上に上るそうだ。」
「そ、そんな…。」
「さあ、署まで来てもらおうか。」


…その後は散々だった。私は殺人教唆、幇助の罪で夫と共に死刑とされた。執行の日まで、私は夫と同じ牢獄に入れられた。
「どうして…どうしてこんなことに…。」
「愛してる。」
「うるさい!何が『愛してる』よ!いい加減にしてよ!」
「愛してる。」
「あんたの…、あんたのせいでこうなったのよ!どうしてくれるの!」
「愛してる。」
「ふざっけんな!テメェェェェ!」
私は彼を殴り、罵り、喚き続けた。
彼はその間も「愛してる」と言い続けた。無表情で語るそのセリフは、私を更にイラつかせた。

私は殴り続けた。彼が血みどろになっても、私の拳が折れても、殴り続けた。
「愛してる」という言葉が聞こえなくなるまで…。
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