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第二章

第十六話「証明は大事」

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 俺は腰にくくりつけていた袋からハーフエプロンを取り出し、腰に巻きつけた。
 手が汚れないようにとビニールの手袋も付けて準備をしながら、サナの帰りを待つとしばらくして材料を抱えながら戻ってきたのだ。

 「お兄さん、ごめんなさい、これだけしか買えなかった……」

 俺のもとに来たサナは申し訳なさそうな顔をしながら、荷物を差し出してきた。
 その包みを開けると、卵、塩、牛乳、砂糖が入っていた。

 あとは水魔法が使える人間を探すのみだけど、そんなことをしていたら日が沈んでしまう。
 ここにいる中で氷魔法を使えるのは誰なのだろうか。
 俺は考えた。

 「私、手伝うって言ったよね……?」

 「まさか……、水魔法が使える、のか?」

 俺は静かに呟かれた言葉を聞いて、サナがいる方を見返すと静かにゆっくりと頷く彼女の姿がいた。
 俺はすかさずサナを抱きしめた。

 抱きしめられたサナは目を見開き動揺しながらもぎゅっと抱きしめ返してくれた。

 「さあ、ここにいる人をあっと言わせるぞ!琢磨!手伝ってくれるか?」

 俺はサナから離れてをそっと頭を撫でてから、琢磨の方を見つめた。
 まさか自分に話が振ってくると思わなかったのか、不抜けた顔でこちらを見つめる琢磨の顔があった。

 「俺がか?って、これだけで何を作るんだよ」

 何って?
 これだけあればアイスが作れる。
 それも結構体力のいる作り方になってしまうけど、それでもいいのなからと思いここの小さな鍋を貸してくれないかと頼み込むと、この店の女将さんだろうか?ちょっと小太りな女性が出てきて、俺の背中を強く叩いてきた。

 「もちろんだとも!あんたの噂は王都から常々聞いているよ!あの姫様たちの舌をうならせたってね!そんな人のデザートってのを食べれるなんてあたしゃ幸せだよ!」

 豪快に大きな声で笑いながらこちらに向かっていう女将さんの言葉を聞いて、頑張らないとという気持ちに駆られた。
 俺は拳を強く握ってから、ボールの中に砂糖と卵黄を各分量ずつ入れていった。
 それをサナと琢磨に渡して混ぜていってもらった。

 「そうそう、すり潰すようにな……。かき混ぜすぎずにザラザラするくらいでも構わないかな」

 俺はサナの手を取りながら丁寧に教えていった。
 そんな俺たちの様子を、店主はじっと構えながら見つめている。
 この店の娘のミリカちゃんも目を輝かせながらジッと見つめていた。

 静かな部屋の中で、俺はその間に小さな鍋に牛乳を入れて沸騰しないように温めていった。
 
 「おい、裕也こっちできたぞ!」

 琢磨の声を聞いて手招きし、近くまでよって来てもらい、砂糖と卵黄が混ざったものに牛乳を入れて混ぜていく。
 そしてザラザラ感がなくなるまで混ざったら、それをまた鍋に戻してヘラで混ぜていく。
 それがなく、木べらでも構わなかったのでそれを使って混ぜていった。

 「よしっ、あ、サラ、氷を出すことはできるか?」

 「できるけど、まだ弱いから小さい砕けたようなのしか出てこない……」

 今はそれで大丈夫だ!
 俺はぐっと親指を立てて、それで大丈夫とウインクしてから作業に戻った。

 サナにはさっきとは違う小さな鍋の中に大量の氷を作ってもらい、その中に塩を大量に入れてもらった。

 「よしっ、これで……。よしっと。きちっと封を閉じて……。琢磨!勢いよくこれを振るんだ!」

 俺は手本を見せるように鍋を上下に振り出した。
 もちろん、鍋の蓋をきっちりと閉めてそこをしっかりと持ちながら振ってもらった。

 「結構筋力いるなこれっ!」

 「だろ?デザート作りは結構大変なんだよ……。でも、それを30分も振り続ければ……、固まってくるから」

 俺は笑いながらテーブルに背中を預けて、疲れるまで振ってもらっていた。
 疲れたら交代するということで、それを繰り返した結果その液体が固まったのだ。

 それを皿に移すと、アイスを見た人々は歓喜のような声を上げた。

 「なんだいなんだいこれは!これが、冷たいデザートなのかい!?」

 女将さんは手を合わせながらまじまじと見つめてきた。
 俺はあとでパンの付け合せとして食べようと思っていた、ベリージャムも一緒に添えて差し出した。

 それを見た店主は本当に冷たいものが出てくるとは思いもしなかったので、唾を飲み込みながらそっと手にとったのだ。

 「これが、デザート……。ほ、本当に甘いんだろうな……?」

 俺はそんな言葉を聞いて、俺たちが作ったアイスを美味しそうに食べる人々の方に手をかざした。

 それを見て店主は恐る恐るそのアイスを口にしたのだ。
 すると、目を見開きながらすごい勢いで食べ進んでいく。

 「こんな冷たいもの食べたことがない!ずっと、夏は暑くて仕方が無かった……。そうそう魔法やスキルを使いこなせる人間がいるとは思いもしなかったし……。だけど、俺は今感動している!お前がパティシエだってこと信じてやろう。なんでも好きなものもっていきやがれ!」

 俺たちのデザートに感激したのか、涙を流しながら笑って木材を差し出してきた。
 これで風呂も宿も作れると、俺は感激したのだ。

 「琢磨、これで作れるぞ!」

 「本当に、あんたパティシエだったんだな……。わかった、俺に任せろ!すげー家作ってやるぜ!」

 そうして、新しい仲間を加えて新生活が始まったのだった。
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