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うちの兄姉の愛は少し重いようです
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午後12時37分、天気は快晴で昨日の大雨はどこかへ行ってしまい、昼なのにも関わらず鳥のさえずりがよく聞こえる。
そんな心地が良い昼に目を閉じていた2人の部屋に、扉を大げさに開けた千咲が入ってくる。
「起きなさーい!もう昼よ!何時だと思ってるの!!」
なぜかおかん口調の千咲はフライパンとお玉を叩き合わせて寝起きには聞きたくない騒音が勇の部屋中に響き渡る。
そんな事をされれば誰だって起きるところだろうが、中々起きようとしない勇と紗夜は掛け布団を被ったまま微動だに動かなかった。
「早く起きなさい!」
バンバンとフライパンを叩きながらベッドに近づいてくる千咲は掛け布団の上で更に音を大きくする。流石に耐えきれなかったのか、抱き合う腕の力を強くした勇と紗夜はお互いの体に耳を当てて騒音を下げようと努めだす。
「抱き合うほどの力あるならはよ起きろ!」
フライパンとお玉を置いた千咲は勢いよく掛け布団を勇と紗夜から没収すると、抱き合った2人がうねりを上げながら重い目を開ける。
「おはよ~」
「「…………」」
朝から金属を叩かれる音を聞かされれば当然目覚めも悪く、無言のままの勇と紗夜はもう一度目を閉じて寝ようとし始めた。
「ほんと早く起きな~。星澤さんは胸元丸見えだし、勇はほぼ上半身裸だよ~?」
そんな言葉を聞いた2人は慌てて相手から身を離し、見出しを整えるように服を見下ろしながら手で千咲に言われたことを探す。だが、紗夜の胸元は丸見えではなく、勇もちゃんと服を着ており、首を傾げる2人は千咲の方を見た。
「うっそぴょーん。これぐらいのこと言わないと2人とも、絶対相手のこと離さないと思ったからね~。じゃ、朝ごはんならぬ昼ごはんがもう出来てるからリビング行くよー」
「「………………」」
どこか不服気な2人はフライパンとお玉を取る千咲を睨みつけるが、これ以上寝れることも出来ず、心の中にあった幸せな感情をベッドに置いて重い腰を上げた。
寝起きとは思えないほどによく食べた2人は顔を洗い、歯を磨く。そして昨日畳んだ服を着た紗夜はとっくに着替えてある匠海と一緒に玄関の前に立った。
「今日も泊まって良いんだよー?」
「いや流石にそれはやめとく。またの機会があればお泊り会でもしような」
「お~いいねそれ。次は匠海の家でやる?」
「その辺はまた追々話し合うかー」
「そだねー」
次のお泊りの計画を立てようとする千咲と匠海。隣では紗夜と同じ白パーカーに着替えて来た勇が紗夜に話しかけていた。
「俺に素顔がバレたけど、学校ではどうするんだ?」
「いつも通り陰キャの私で行くよ。あなたは?」
「同じく陰キャの俺で行く。モテたくないし」
「モテたくないって自分の顔に自惚れすぎじゃない?」
ほんのり笑みを浮かべて言う紗夜に、苦笑を浮かべた匠海が呟く。
「姉さんも同じ理由じゃん」
「ちょっ!それ言ったらダメじゃん!」
ほーん、とニヤニヤと笑みを浮かべながら言う勇は紗夜のおでこを人差し指で突くと、頬を膨らませる紗夜に同じことを言い返す。
「モテたくないって自分の顔に自惚れすぎだろ」
「あなたが言うな!」
「お前が言って良いことでもないだろ」
「私はいいの」
「なんだよそれ」
あまりにも理不尽な理由に目を細める勇だったが、隣の千咲の「じゃあ」という言葉で細めた目は一瞬で消えてしまう。
(……なんか、寂しいと感じてる自分がいる。なんなんだ?こいつがいないのが普通のはずなのに)
どうやら、そんな感情を抱くのは勇だけではなかったようで、ほんの少し寂しげな目をする紗夜はそっと視線を下ろした。
「2人ともそんな顔してどうしたの。また学校でも会えるんだから良いじゃん。それに、仮のカップルなんでしょ?」
「知ってる。それじゃーなー」
仮のカップルという言葉に詰まった勇だが、冷静を装うためか、軽く手を上げて2人を見送ろうとする。
しかし、紗夜は勇とは違い、寂しげな目のまま勇を見て小さく手を上げた。
「だね。仮のカップルだし、また会えるしね」
「そだぞ。MINEでもしてくれたらいつでも返信するから」
「ん、ありがと」
(これで本当のカップルじゃないんだからどうかしてるよなぁーー!!!!)
この尊さに心の中で悶え苦しむ千咲も手を上げ、横に手を振りながら口を開く。
「じゃ、気をつけて帰ってね~」
「ういーっす」
匠海も手を振りながら玄関を開ける。その後ろをついていくように紗夜も手を振りながら玄関をくぐる。
最後まで見送りの手を振り続ける勇と千咲はドアが閉まるのを確認すると、顔を見ることなく千咲が口を開いた。
「ねぇ勇」
「はい」
「今日の朝さ。寝たフリしてたよね」
「…………してない」
(あー……してたんだ。なら、起きていたにも関わらずずっと抱きついてたってことになるよね。……んー、相手が星澤さんで良かったかもしれない……)
一瞬考え込み、顔を見ずに答える勇だったが、その一瞬の考え込みが千咲の確信を得たようでわずかに頬を緩ませる。
「そんなに離れたくなかったんだ」
「……別に離れたくないわけじゃないけど……」
「じゃあなに?」
「ただ、離れるとなぜか寂しさが湧いてくるから引っ付いてただけ」
「え、今はともかく、昨日ってずっと一緒にいたよね」
勇の言葉に疑問を持った千咲は思ったことを素直に質問をすると、逆に首を傾げた勇がやっと千咲と目を合わせて言う。
「風呂の時離れたじゃん。あの時に感じた」
「いやほぼ離れてないじゃんそれ」
同じ屋根の下にいるのに、なぜそんなので寂しさを感じるのか分からない千咲はデコに親指を当て、
(いかん……うちの兄、愛が重いのかもしれない。ほんの数十m離れただけで寂しさを感じるとかどれだけ重たいんだよ……)
兄の愛の重さに若干引き気味の千咲は、一応忠告だけはしようと決め、勇の背中に手を当てながら冷めた目で言う。
「あんまり、相手を困らせるなよ」
「?おう」
なんのことか分かっていない勇は再度首を傾げて問い返そうとするが「片付け片付け~」と言いながらリビングへ向かう千咲はあっという間にリビングに入り、問いかけなんて受け付けないようにも見えた。
妹の忠告もあり、一応頭の端で覚える勇も千咲の後を追ってリビングに入る。
聡善家からの帰り道、紗夜と匠海は隣り合ってあまり車が通らない道を歩く。
「姉さん」
「ん?どしたの?」
突拍子もなく声をかけた匠海は紗夜の顔を見ることなく質問を問う。
「千咲から聞いたんだけど、朝、寝たフリしてたんだって?」
「……いーや?してないけど?」
途中途中に声が裏返ったことにより、紗夜の発言が嘘だとすぐに分かった匠海はからかうように笑みを浮かべた。
「寝たフリしながらお兄さんに抱きついてたんだ」
「し、してない……」
「今お兄さんがいるわけじゃないんだから言えばいいじゃんー」
「そうだけど……これ以上は黙秘権を行使します」
「まぁ俺は抱きついていようが抱きついてなかろうがどっちでもいいんだけどねー」
匠海に自分の悪行がバレたことにバツが悪くなったのか、顔を逸らした紗夜に手を頭に回した匠海がそう言った。
(こうは言ったものの。これ、お兄さんじゃなかったら襲われてるぞ?奇跡的に女経験のないお兄さんだからなんにもなかったんだと思うけど、ちょっと危なっかしいな)
横目で顔を逸らす姉を見る匠海だが、抱きつけて満足していると言わんばかりに頬を緩ませる紗夜に、続けて言葉を紡ぐ。
「姉さんって、あんなに人に心開くことってあったっけ?」
「ないかな?あいつが初めて」
「だよね。なんでお兄さんだけ?」
「なんか……一緒にいて安心するから?」
「安心ねぇ~。今は一緒にいないけどどうなのよ」
匠海の質問に一瞬押し黙る紗夜だったが、弟だからなのか素直に思ったことを口にする。
「寂しい……。というか、あいつがお風呂に入る距離でも寂しいと思った」
「え、風呂?ほんの数メートルじゃん」
「ずっと一緒にいたいって気持ちが湧き上がってきた。なんであいつに湧いたのかわからないけど」
(うーーーーーん……恋する姉さんはかなり愛が重いな……。お兄さん、頑張ってくださいね。うちの姉をどうぞよろしくおねがいします)
心の中で手を握る匠海は届くはずもない願いを勇に飛ばし、反応しないままでいた紗夜の言葉を返す。
「まぁ。自分への制御は頑張れよ?」
「制御?」
コテンっと小首を傾げる紗夜は匠海にどういう意味か訪ねようとしたが、ポケットからバイブが鳴り、意識はそっちに持っていかれてしまった。
こんな時間から通知が来るのは高校に入ってからは初めてなので、誰からなのか疑問を持ちながらスマホを取り出すと、
(MINEから通知?)
更に疑問が深まる紗夜はロックを開け、アプリを開くと、勇という名前とカレーライスのアイコンから連絡が一通来ていた。
『今度、服買いに行こ』
たった一文の短い連絡だったが、その文を解読すれば「今度、デートしませんか」という意味になる。相手の素顔を知らない紗夜なら罵詈雑言の嵐だっただろう。だが、今は相手の素顔を知り、相手の性格も分かっている。そんな紗夜は頬を緩ませ、画面を指でなぞり出す。
『仕方なしに行ってあげる』
内容はツンとしていたが、この文章を打っている本人は嬉しそうにスマホを胸に当てる。
誘った本人も許可が出たことに胸を撫で下ろすと、頬を緩ませながら洗い物を再開させた。
((わっかりやすいなぁー!!))
2人の様子でどんなやり取りをしていたのか察した千咲と匠海は同じことを心で叫び、相手からの返信を待つ2人を微笑ましそうに眺めるのだった。
そんな心地が良い昼に目を閉じていた2人の部屋に、扉を大げさに開けた千咲が入ってくる。
「起きなさーい!もう昼よ!何時だと思ってるの!!」
なぜかおかん口調の千咲はフライパンとお玉を叩き合わせて寝起きには聞きたくない騒音が勇の部屋中に響き渡る。
そんな事をされれば誰だって起きるところだろうが、中々起きようとしない勇と紗夜は掛け布団を被ったまま微動だに動かなかった。
「早く起きなさい!」
バンバンとフライパンを叩きながらベッドに近づいてくる千咲は掛け布団の上で更に音を大きくする。流石に耐えきれなかったのか、抱き合う腕の力を強くした勇と紗夜はお互いの体に耳を当てて騒音を下げようと努めだす。
「抱き合うほどの力あるならはよ起きろ!」
フライパンとお玉を置いた千咲は勢いよく掛け布団を勇と紗夜から没収すると、抱き合った2人がうねりを上げながら重い目を開ける。
「おはよ~」
「「…………」」
朝から金属を叩かれる音を聞かされれば当然目覚めも悪く、無言のままの勇と紗夜はもう一度目を閉じて寝ようとし始めた。
「ほんと早く起きな~。星澤さんは胸元丸見えだし、勇はほぼ上半身裸だよ~?」
そんな言葉を聞いた2人は慌てて相手から身を離し、見出しを整えるように服を見下ろしながら手で千咲に言われたことを探す。だが、紗夜の胸元は丸見えではなく、勇もちゃんと服を着ており、首を傾げる2人は千咲の方を見た。
「うっそぴょーん。これぐらいのこと言わないと2人とも、絶対相手のこと離さないと思ったからね~。じゃ、朝ごはんならぬ昼ごはんがもう出来てるからリビング行くよー」
「「………………」」
どこか不服気な2人はフライパンとお玉を取る千咲を睨みつけるが、これ以上寝れることも出来ず、心の中にあった幸せな感情をベッドに置いて重い腰を上げた。
寝起きとは思えないほどによく食べた2人は顔を洗い、歯を磨く。そして昨日畳んだ服を着た紗夜はとっくに着替えてある匠海と一緒に玄関の前に立った。
「今日も泊まって良いんだよー?」
「いや流石にそれはやめとく。またの機会があればお泊り会でもしような」
「お~いいねそれ。次は匠海の家でやる?」
「その辺はまた追々話し合うかー」
「そだねー」
次のお泊りの計画を立てようとする千咲と匠海。隣では紗夜と同じ白パーカーに着替えて来た勇が紗夜に話しかけていた。
「俺に素顔がバレたけど、学校ではどうするんだ?」
「いつも通り陰キャの私で行くよ。あなたは?」
「同じく陰キャの俺で行く。モテたくないし」
「モテたくないって自分の顔に自惚れすぎじゃない?」
ほんのり笑みを浮かべて言う紗夜に、苦笑を浮かべた匠海が呟く。
「姉さんも同じ理由じゃん」
「ちょっ!それ言ったらダメじゃん!」
ほーん、とニヤニヤと笑みを浮かべながら言う勇は紗夜のおでこを人差し指で突くと、頬を膨らませる紗夜に同じことを言い返す。
「モテたくないって自分の顔に自惚れすぎだろ」
「あなたが言うな!」
「お前が言って良いことでもないだろ」
「私はいいの」
「なんだよそれ」
あまりにも理不尽な理由に目を細める勇だったが、隣の千咲の「じゃあ」という言葉で細めた目は一瞬で消えてしまう。
(……なんか、寂しいと感じてる自分がいる。なんなんだ?こいつがいないのが普通のはずなのに)
どうやら、そんな感情を抱くのは勇だけではなかったようで、ほんの少し寂しげな目をする紗夜はそっと視線を下ろした。
「2人ともそんな顔してどうしたの。また学校でも会えるんだから良いじゃん。それに、仮のカップルなんでしょ?」
「知ってる。それじゃーなー」
仮のカップルという言葉に詰まった勇だが、冷静を装うためか、軽く手を上げて2人を見送ろうとする。
しかし、紗夜は勇とは違い、寂しげな目のまま勇を見て小さく手を上げた。
「だね。仮のカップルだし、また会えるしね」
「そだぞ。MINEでもしてくれたらいつでも返信するから」
「ん、ありがと」
(これで本当のカップルじゃないんだからどうかしてるよなぁーー!!!!)
この尊さに心の中で悶え苦しむ千咲も手を上げ、横に手を振りながら口を開く。
「じゃ、気をつけて帰ってね~」
「ういーっす」
匠海も手を振りながら玄関を開ける。その後ろをついていくように紗夜も手を振りながら玄関をくぐる。
最後まで見送りの手を振り続ける勇と千咲はドアが閉まるのを確認すると、顔を見ることなく千咲が口を開いた。
「ねぇ勇」
「はい」
「今日の朝さ。寝たフリしてたよね」
「…………してない」
(あー……してたんだ。なら、起きていたにも関わらずずっと抱きついてたってことになるよね。……んー、相手が星澤さんで良かったかもしれない……)
一瞬考え込み、顔を見ずに答える勇だったが、その一瞬の考え込みが千咲の確信を得たようでわずかに頬を緩ませる。
「そんなに離れたくなかったんだ」
「……別に離れたくないわけじゃないけど……」
「じゃあなに?」
「ただ、離れるとなぜか寂しさが湧いてくるから引っ付いてただけ」
「え、今はともかく、昨日ってずっと一緒にいたよね」
勇の言葉に疑問を持った千咲は思ったことを素直に質問をすると、逆に首を傾げた勇がやっと千咲と目を合わせて言う。
「風呂の時離れたじゃん。あの時に感じた」
「いやほぼ離れてないじゃんそれ」
同じ屋根の下にいるのに、なぜそんなので寂しさを感じるのか分からない千咲はデコに親指を当て、
(いかん……うちの兄、愛が重いのかもしれない。ほんの数十m離れただけで寂しさを感じるとかどれだけ重たいんだよ……)
兄の愛の重さに若干引き気味の千咲は、一応忠告だけはしようと決め、勇の背中に手を当てながら冷めた目で言う。
「あんまり、相手を困らせるなよ」
「?おう」
なんのことか分かっていない勇は再度首を傾げて問い返そうとするが「片付け片付け~」と言いながらリビングへ向かう千咲はあっという間にリビングに入り、問いかけなんて受け付けないようにも見えた。
妹の忠告もあり、一応頭の端で覚える勇も千咲の後を追ってリビングに入る。
聡善家からの帰り道、紗夜と匠海は隣り合ってあまり車が通らない道を歩く。
「姉さん」
「ん?どしたの?」
突拍子もなく声をかけた匠海は紗夜の顔を見ることなく質問を問う。
「千咲から聞いたんだけど、朝、寝たフリしてたんだって?」
「……いーや?してないけど?」
途中途中に声が裏返ったことにより、紗夜の発言が嘘だとすぐに分かった匠海はからかうように笑みを浮かべた。
「寝たフリしながらお兄さんに抱きついてたんだ」
「し、してない……」
「今お兄さんがいるわけじゃないんだから言えばいいじゃんー」
「そうだけど……これ以上は黙秘権を行使します」
「まぁ俺は抱きついていようが抱きついてなかろうがどっちでもいいんだけどねー」
匠海に自分の悪行がバレたことにバツが悪くなったのか、顔を逸らした紗夜に手を頭に回した匠海がそう言った。
(こうは言ったものの。これ、お兄さんじゃなかったら襲われてるぞ?奇跡的に女経験のないお兄さんだからなんにもなかったんだと思うけど、ちょっと危なっかしいな)
横目で顔を逸らす姉を見る匠海だが、抱きつけて満足していると言わんばかりに頬を緩ませる紗夜に、続けて言葉を紡ぐ。
「姉さんって、あんなに人に心開くことってあったっけ?」
「ないかな?あいつが初めて」
「だよね。なんでお兄さんだけ?」
「なんか……一緒にいて安心するから?」
「安心ねぇ~。今は一緒にいないけどどうなのよ」
匠海の質問に一瞬押し黙る紗夜だったが、弟だからなのか素直に思ったことを口にする。
「寂しい……。というか、あいつがお風呂に入る距離でも寂しいと思った」
「え、風呂?ほんの数メートルじゃん」
「ずっと一緒にいたいって気持ちが湧き上がってきた。なんであいつに湧いたのかわからないけど」
(うーーーーーん……恋する姉さんはかなり愛が重いな……。お兄さん、頑張ってくださいね。うちの姉をどうぞよろしくおねがいします)
心の中で手を握る匠海は届くはずもない願いを勇に飛ばし、反応しないままでいた紗夜の言葉を返す。
「まぁ。自分への制御は頑張れよ?」
「制御?」
コテンっと小首を傾げる紗夜は匠海にどういう意味か訪ねようとしたが、ポケットからバイブが鳴り、意識はそっちに持っていかれてしまった。
こんな時間から通知が来るのは高校に入ってからは初めてなので、誰からなのか疑問を持ちながらスマホを取り出すと、
(MINEから通知?)
更に疑問が深まる紗夜はロックを開け、アプリを開くと、勇という名前とカレーライスのアイコンから連絡が一通来ていた。
『今度、服買いに行こ』
たった一文の短い連絡だったが、その文を解読すれば「今度、デートしませんか」という意味になる。相手の素顔を知らない紗夜なら罵詈雑言の嵐だっただろう。だが、今は相手の素顔を知り、相手の性格も分かっている。そんな紗夜は頬を緩ませ、画面を指でなぞり出す。
『仕方なしに行ってあげる』
内容はツンとしていたが、この文章を打っている本人は嬉しそうにスマホを胸に当てる。
誘った本人も許可が出たことに胸を撫で下ろすと、頬を緩ませながら洗い物を再開させた。
((わっかりやすいなぁー!!))
2人の様子でどんなやり取りをしていたのか察した千咲と匠海は同じことを心で叫び、相手からの返信を待つ2人を微笑ましそうに眺めるのだった。
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