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決して小悪魔では無い

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「――あなたが巻いてくれるなら、いいけど~?」

顔を上げたかと思えば、人差し指を下唇に当て、甘えるような上目遣いをする紗夜は小悪魔ムーブを勇に繰り出し始めた。
一瞬そんな誘惑に心が動かされる勇だったが、すぐに正気を戻すと冷めた目で鞘を見下ろす。

「なら巻かなくていいよ。その胸が垂れても知らんぞ」
「た、垂れるってなによ!」

勇の冷めた目と冷めた口調に頬を膨らませた紗夜の表情には小悪魔などおらず、どちらかといえば顔を赤くしたハムスターになっていた。

「そのまんまの意味だ。ほら、早く髪乾かせよ」
「私の胸は垂れない!」
「うんうん。垂れないな。お前の後に俺も乾かしたいからコンセントは挿しっぱなしでいいぞ」
「ちょっと!待ってよ!」

なに食わぬ顔で洗面所を後にしようとする勇の腕を慌てて掴み、頬を膨らませたままの紗夜は悔しそうに言葉を続ける。

「なんで私の完璧な小悪魔ムーブに反応しないのよ!」

そんな紗夜の発言に、あざ笑いながら鼻を鳴らすと、ドアノブを握りながら顔だけ振り返り、

「小悪魔じゃなくて、痴女だろ」
「――っち!痴女!?」

声が裏返りながら勇の言葉を復唱する紗夜はスルスルッと勇の腕から手が離れ、ゆっくりと地面に膝がつく。
(ち、痴女!?わ、私が!?痴女!?)
洗面所から姿を消した勇が扉の前で先程よりも冷めた視線を向けてくることに気づいた紗夜は弁解しようと慌てて立ち上がり、勇の方に向かおうとする。
だが、そんな紗夜のことなど知ったことではない勇はパタンと扉を閉め、紗夜が出てこれないように背中で叩かれる扉を抑える。

「違うから!!そんなんじゃ!違うから!!!!」

一生懸命に訴える紗夜だったが、なにも返事を返そうとしない勇。
(……あんなことされたら誰でもやりたくなるから……痴女という言い方は悪かったと思うが、それしか逃げ出す手段がなかったんだよ……。すまん……)
紗夜も勇の心境など知るわけもなく、未だに誤解を解こうと扉を激しく叩く紗夜の叫び声は数十分も収まることはなかった。
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