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セクハラな妹

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「匠海くん。お姉ちゃん怒りっぽいね」
「……そっすね」

 紗夜の頬が相当ご満悦だったのか、消えることのない笑みで匠海に話しかける勇。
(姉さんって、あんま怒らない方なんだけどなぁ……)
 心を開いたから怒りっぽくなったのか、はたまた勇が煽るから怒っているのか、あまり区別がつかない紗夜の怒り方に頭を悩ませる匠海。

「匠海くんの着替えも俺のでいい?」
「あ、はい。お願いします」
「りょうかーい」

 匠海の考えることなど知る由もない勇はソファーを立ち上がり、紗夜と匠海のパジャマ用の服を取りに行こうとリビングを出るのだった。


「着替えここ置いとくぞー」

 勇の声で肩を一瞬跳ねさせた紗夜だったが、すぐに冷静に戻ってツンとした口調で反応する。

「女子がお風呂入ってるのに洗面所に入らないで!」
「いやパジャマがなくて洗面所から出れないよりかはマシだろ」
「そ、そうだけど……。でも!ノックぐらいは――!」
「シャワー使ってるのに聞こえんのか?」
「………………私耳良いから聞こえるもん」
「おうそうか。ならすまんな」

 勇の言葉に一瞬押し黙る紗夜だが、苦し紛れの言い訳で珍しく勇は納得し、すぐに洗面所を後にする。
 そんな勇が気になった紗夜だが、先程の言葉を思い出して頭をブンブンと左右に振り出す。

「今のは勇が正しいかもね~」
「千咲ちゃんもあいつの味方するの!?」
「まぁ私お兄ちゃん大好きだし?」
「そっかぁ……」

 ブラコン発言には特に気にすることもなく、先に洗い終わってお湯に浸かる千咲から視線を離した紗夜は、昨日言われたシャンプーで髪を洗い出す。

「ねぇ星澤さん」
「どうしたの?」

 紗夜が髪を洗い始めるのを見計らったかのように突然話しかけた千咲はゆっくりとお湯から体を上げ、目を閉じる紗夜の後ろへと回る。
 流石に音だけではなにをしたいのか理解が及ばなかったのか、お湯を出して目を洗おうとしたが、

「胸触ってもいい?」
「はい?」

 昨日とは段違いのセクハラ発言にお湯を出そうとする手は止まり、腑抜けた声が思わず口から漏れてしまう。
(胸を触る?私の??昨日から思ってたけど、もしかして千咲さんってそっち系なの?いやいやいやいやいやいやいやいやいや、匠海がいるのにそんなわけないよね。ここは丁寧にお断りして――)
 心の中でそう決心した途端、紗夜の胸にはガシッと許可も出していないのに千咲の手が掴みだす。

「おぉ!これはすごい!やわらけ!すげ!やわらけ!」
「ちょっ!千咲さん!?やっ、私許可出して、ない!」
「おほほっ。なんか、我慢してる感じ、いいね。おほ」

 自然に出てしまう変な笑いとオタクによって、紗夜の手が危険を察知したのか慌てて千咲の手を止めようと手首を捕まえる。

「ストップ千咲さん!率直に言うと気持ち悪いよ!」
「あー率直すぎる。確かにキモかったけど、こんな堂々と言われたら心に来るなぁ」
「とりあえず!もう洗ったんだからお風呂から出て!」
「え~。そんなに警戒しなくても~」
「警戒するでしょ!無許可で胸を触るんだよ!?」
「それはごめん~」
「許すから早く出てって!!」

 千咲の訴えで紗夜の意思が変わるわけもなく、目を閉じたままの紗夜はドアの方を指さす。
「仕方ないなぁ」と軽く口にする千咲は立ち上がり、

「最後にひと揉み!」
「――っひゃ!」

 あまりにも不意打ちな展開に声を上げてしまった紗夜は慌てて口を閉じ、千咲もどうやら満足したようでお風呂場のドアを開けて外に出る。
 そしてタオルで顔を拭きながら、

「えっど。いやえっど!」

 バスタオルに叫ぶ千咲は手に残る感触をもう一度感じるように空気を握りだす。

「あのたわわな胸ってどうやったらつくんだ!?あの柔らかい胸はどうやったらゲットできるんだ!?遺伝か!?それとも睡眠か!?はたまたモテすぎて母性が働いたのか!?」

 ありとあらゆる可能性をタオルで口を押さえもせず地面に向かって叫ぶ千咲は「なぜ」と言う言葉と、自分の胸を物理的に撫で下ろしながら紡ぐ。

「私の胸はこんなに出てないんだ?遺伝か?睡眠か?それとも母性が働いてないからか?いや、遺伝以外全部当てはまってないのに、なにが悪いのかわからん……。ずるいぞ!その胸を私に――」

 お風呂場に振り返り、講義するように胸から手を話した千咲はそうだそうだと言わんばかりに手を上げて紗夜に文句を言いつけようとしたが、千咲が最後まで言い切る前に紗夜が扉をチラっと開けた。

「少し黙ってくれる?あいつに聞こえるんだけど。あと、私の胸が育ったのは母性じゃないのは確かだから」
「えっじゃあ育った理由はなに?」
「知らないわよ。私これからリンスするから早く体拭いてリビング行ってくれる?」
「はーーい」

 紗夜がお風呂場よりも熱い空気を体から出すのは恥ずかしさなのか、それとも怒りなのかは分からなかったが、1つだけわかったことが千咲にはあった。
(私が叫んでほしくない理由が勇に聞こえるからか~。匠海とか私には別にバレても恥ずかしくないんだ~。勇だけには意識しちゃってるんだ~~~~?)
 ゆっくりと閉めた扉をニヤニヤと眺めながら千咲は再度自分の胸を揉む。

「うぇーん」

 バスタオルに顔を埋めながら悲しそうな声を上げ、自分のちっぽけさを確認した千咲は勇に慰めてもらおうと急いで服を来て洗面所を後にした。


 バタバタと廊下から聞こえる足音に、匠海にゲームでボコボコにされて項垂れていた勇はソファーから体を起こしてなにもなかったかのように平然と姿勢を正す。

「勇ぅー!」

 リビングの扉を勢いよく開いたかと思えば、名前を叫びながら勇にガバっと抱きつく千咲は胸にぐりぐりと顔を押し付けながら話し始める。

「星澤さんがね!」
「あ?あいつ千咲になにかしたのか?」
「そうなの!なんか――」
「――そうか、ちょっと行ってくる」

 千咲を優しく抱き上げて自分の体から離すと、強面な顔でソファーから立ち上がろうとする。
 当然、勇が怒ることなどなにもされていない千咲は慌てて勇の足を掴み、勢いよく顔を振りながら誤解を解くように説明をしだす。

「勇が怒ることはなにもしてないよ!?ただ星澤さんの胸が大きかっただけ」
「……はい?」

 突然の胸デカ宣言に、強面な顔から驚いた表情でぱちぱちとしきりにまばたきする勇。そんな反応をするのも無理はないと思っていたのか、謎に千咲も頷いて「そりゃそんな顔するよな」と呟く。

「どういうことだ?あいつのむ、胸が大きいから?」
「胸を良い慣れてないところも初心で良いね~」
「うるせ。早く説明してくれ」
「ん~簡潔に説明すると、私の胸が小さくて泣いたって話」

 千咲の説明を聞いた途端、目から光が消えて心配した自分がバカであると脳内で頬をビンタさせた勇は、千咲を見下ろす。

「…………そうだな。お前の胸は小さいよ。母さんとはほんと似ても似つかないよ」
「うわ!勇までバカにする!」
「いや別にあいつはバカにしてなかっただろ」
「あ、確かに。ちょっと自意識過剰だった?」
「ちょっとどころか、かなりだな」

 てへぺろ、と口で言いながら頭に手を乗せる千咲を、更に冷めた目で見つめる勇は匠海の方を見る。

「匠海くん。うちの妹がすみません」
「い、いえいえ!姉さんもそこまで怒ってないでしょうし、千咲も反省しているようですし……」

 どこか歯切れが悪い匠海はスッと勇と千咲から目線を外した。
(……千咲の胸、見えてんだよなぁ……)

「ふっ見せてんのよ」
「人の心を読むな!」

 チラっと首元をめくり、匠海に見せつけるようにする千咲は不敵な笑みを浮かべていた。いきなりのことで、一瞬だけ見えてしまった匠海は目を隠すように手で覆っていたが、小さい声ではあるものの、千咲と勇にはたしかに聞こえるような声で呟く。

「……確かにちっさいな」
「お?やるのか?やるってんのか!?」
「落ち着け。落ち着けって千咲」

 どおどおどおと、馬を落ち着かせるように歯茎を剥き出しにする千咲の体を捕まえて匠海には被害が行かないようにし、匠海も獣化した千咲から少しの距離を取って勇がなんとかすることを願うように両手を握る。

「おい匠海!まだ私を煽るってんのか!いいぞ!やってやるぞ!こっち来い!」
「まっさか。やるわけないじゃん。ただのノリってやつだよ」
「ノリにしては目がガチじゃねーか!あと小さいって言葉を取り消せ!!」
「ん~俺、今までは内緒にしてたけど、事実は取り消さないタイプなんだ」
「おいテメェ!!!」

 ブンブンと前のめりに手足を振り回す千咲をなんとか飛び出さないように必死に抱きしめる勇は宥めるようにそっと千咲の頭に手を置いた。

「まぁまぁそこまで怒らなくても。胸が小さいのが好きな人だっているかも知れないぞ?」

 勇の撫でる手と、優しい言葉で心が落ち着いたのか、前のめりになっていた体を勇の胸にだらけさせ、出ていた歯茎も戻してフニャっと頬を緩ませる。

「たしかにそうだよね。小さい方が好きな人もいるよね」
「いるいる」
「ちなみにだけど、勇はどっちが好き?」
「ん?大きい方かな?」

 相変わらずの優しい声で千咲の頭を撫でながらそう言うと、落ち着いていた千咲は忽ち暴れだし、勇の胸の中で再度手足をブンブンと振り回しだす。
 そのタイミングでお湯には浸からなかった紗夜がタオルを首に巻いてリビングの扉を開けた。

「――この、巨乳好きめ!」

 リビングに入ってきた紗夜は千咲の荒っぽい声で発せられた巨乳という言葉に反応し、目を見開いたかと思えばパタッとタオルを床に落としてしまう。
 瞬間、勇の耳には聞き馴染みのない悲鳴が上がった。
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