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洗濯物
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静寂な部屋に洗面所から乾燥を終えた洗濯機が音をたて始める。やっと話題ができたことに多少の気まずさは緩和されたものの、数時間前のことを思い出すと口を開け閉めすることしかできない勇。
だが、このまま自分が話しかけないと絶対に会話は生まれないだろうなと悟った勇は意を決して紗夜に話しかける。
「洗濯、終わったから畳む、ぞ?」
ほんの数時間で話し方を忘れたのか、勇はぎこちない言葉を並べてじっとテレビに集中している紗夜に声をかける。
勇の気の所為か紗夜の肩が跳ねたようにも見えたが、なにもなかったように首だけを振り返る紗夜もぎごちない言葉を並べる。
「なら?いい、けど?」
紗夜の言葉を聞いた勇は本を閉じて立ち上がり、洗面所の方に向かい出す。紗夜も勇の後ろについていくようにテレビを消して立ち上がろうとするが、
「リビングに持って来るからそこで待ってていいぞ」
「あ、うん。わかった」
紗夜が立とうとする動作が見えた勇は首だけを振り向いてそう告げる。紗夜も特に逆らうつもりはないので素直に指示を聞き、テレビも付けることなくピシッと姿勢良くソファーに腰掛けた。
「あ、ソファーの前で畳みたいから机のけてもらえるか?」
ふと思い出したかのように扉の前で立ち止まった勇は振り返ることなく、紗夜に指示を出す。
もし、ここに気まずさがなかったら紗夜は『そのぐらい自分でやりなよ』と言っていたかもしれない。だがしかし、気まずさが残るこの部屋では本調子ではない紗夜がそんなことを言えるわけもなく、
「わかった」
と、素直に頷くしかなかった。
座って十秒も経っていないソファーから腰を上げた紗夜を確認した勇は戸を引いて洗面所に向かって行った。
ほどなくして、紗夜が机をのけ終わるのを見計らったようにカゴに洗濯物を入れた勇がリビングに戻ってきた。
ショッピングモールにあるカゴ買ってる人始めてみた~、なんてことを呑気に考える紗夜はカゴからはみだす見覚えのある布に視線が吸い込まれてしまった。
「ね、私が洗濯物畳むからあなたは座ってていいよ」
いきなりの発言に目を丸くした勇は首を傾げる。
「いや、俺も手伝うが」
「いやいい。私が、1人で、全部やる」
突然いつもの調子に戻った紗夜に、更に首を傾げる勇はとりあえずカゴを置くことにした。
紗夜が目にしたカゴから出る布というのは、言わずとも察しが付く通り、下着だ。決して派手ではないものの、羞恥心は兼ね備えている紗夜は自分の下着が見られたくないようで全部畳む、という提案をした。
「いや、俺もやる」
「いやいや、私が全部やるから」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
自分の方にカゴを引き寄せる紗夜と、それを阻止するために逆方向にカゴを引っ張る勇の気遣いのような、気遣いではない争いが勃発しだした。
「ほんと私がやるから!」
一瞬の隙きを見た紗夜はグイッとカゴを自分の更に後ろに引っ張り、小さな争いの勝者は紗夜となった。
思わずガッツポーズを決める紗夜を見た勇も本調子を取り戻し、いつもどおりの言葉を並べだした。
「なんだよ。俺からカゴが取れてそんな嬉しいかよ」
「うんもちろん!こんな筋肉野郎からカゴを奪い取れたことが誇らしいわ!」
「手加減してやったんだぞ?ちゃんと覚えとけ」
「勝ちは勝ちでーす」
「あーうざ」
不服そうな表情で後ろのソファーに座る勇をよそに、勝ち誇った笑みを浮かべる紗夜はカゴから1枚の服を取り出して畳み始める。
(最初から下着なんて畳んだら丸見えだもんね。途中で畳んでそっと私の服の間に挟めば大丈夫だよね)
手早く洗濯を畳みながらそんなことを考える紗夜。
一応失敗しないように近くで見ている勇だが、勇も勇で自分の下着を見られるのが恥ずかしいのかソワソワとしていた。
「やっぱり自分のやつは自分で畳む」
自分の下着が見えたところでソファーから立ち上がった勇はそそくさとカゴの前に座り、カゴの中に手を入れる。
「だ、だめだって!そう言って絶対私のやつ見ようとしてるじゃん!」
「してねーよ。お前だって俺の下着見ようとしてんじゃねーの?まぁ、こんなイケメンの下着を見たいのもわかるが」
なんとか勇の手を掴んで洗濯物に触らさないようにする紗夜と、どうにかして洗濯物を畳みたい勇の小さな争い第二回戦が開催された。
そんな2人の表情は至って平然を装っているが、内心はいつ、このむき出しになっている自分の下着が見つかるかと言うことにヒヤヒヤとしていた。
「ちがいますー。私はあなたみたいにエロくないからそんな事しませーん」
「どうせ口だけだろ?」
「本当ですー」
今はお互いがお互いの顔を見ていることによって見つかるのを長引かせていると思っている2人は長く持たないと勝手に勘違いし、勇と紗夜は空いている手で洗濯物の中を探り出す。
「あ!何勝手に手入れてんの!」
「そっちだって入れてるだろ!」
片手で自分の下着を探りながらも捕まえていた手を離した紗夜は勇のことを退けようと力強く体を押し出そうとする。勇もそれに負けじと、退けられないように体を紗夜の方に押し付けながら両手で下着を捜索し始める。
「両手使うなんてずるい!」
「知らねーよ!」
「なら私だって使う!!」
「勝手にしろ!!」
勇を押しのける手を退けた紗夜だったが、勇を退けることを諦めきれない気持ちがあったのか、次は体で押し出そうと勇の肩に力強く自分の肩を押し付け、勇と同じように自分の下着を捜索し始める。
なぜこんなにも自分の下着が掴めないのか、不思議に思うものも多いかもしれないから説明しておこう。小さな争いの勝者になりたい2人はカゴの中で下から洗濯物をすくい上げては相手を邪魔するかのように変な洗濯物を掴ませ合っていた。非常にしょうもないことだが、自分のプライドを守るためならしょうもない争いにも参戦するのがこの2人だ。
そして等々それらしきものを見つけだした2人は同時に洗濯物から手を抜き出し、慌てて自分の懐に入れてそのぶつを確認する。
この状況だけを見れば怪しいものを渡しあった怪しい奴らだが、ちゃんと説明すれば訝しげな顔はされるものの、納得はしてくれるだろう。
「「――っ!?」」
驚きを声に出せない2人は肩を跳ねさせ、勢いよく服の下に下着を入れてササッと押し合っていた体を離す。
だが、このまま自分が話しかけないと絶対に会話は生まれないだろうなと悟った勇は意を決して紗夜に話しかける。
「洗濯、終わったから畳む、ぞ?」
ほんの数時間で話し方を忘れたのか、勇はぎこちない言葉を並べてじっとテレビに集中している紗夜に声をかける。
勇の気の所為か紗夜の肩が跳ねたようにも見えたが、なにもなかったように首だけを振り返る紗夜もぎごちない言葉を並べる。
「なら?いい、けど?」
紗夜の言葉を聞いた勇は本を閉じて立ち上がり、洗面所の方に向かい出す。紗夜も勇の後ろについていくようにテレビを消して立ち上がろうとするが、
「リビングに持って来るからそこで待ってていいぞ」
「あ、うん。わかった」
紗夜が立とうとする動作が見えた勇は首だけを振り向いてそう告げる。紗夜も特に逆らうつもりはないので素直に指示を聞き、テレビも付けることなくピシッと姿勢良くソファーに腰掛けた。
「あ、ソファーの前で畳みたいから机のけてもらえるか?」
ふと思い出したかのように扉の前で立ち止まった勇は振り返ることなく、紗夜に指示を出す。
もし、ここに気まずさがなかったら紗夜は『そのぐらい自分でやりなよ』と言っていたかもしれない。だがしかし、気まずさが残るこの部屋では本調子ではない紗夜がそんなことを言えるわけもなく、
「わかった」
と、素直に頷くしかなかった。
座って十秒も経っていないソファーから腰を上げた紗夜を確認した勇は戸を引いて洗面所に向かって行った。
ほどなくして、紗夜が机をのけ終わるのを見計らったようにカゴに洗濯物を入れた勇がリビングに戻ってきた。
ショッピングモールにあるカゴ買ってる人始めてみた~、なんてことを呑気に考える紗夜はカゴからはみだす見覚えのある布に視線が吸い込まれてしまった。
「ね、私が洗濯物畳むからあなたは座ってていいよ」
いきなりの発言に目を丸くした勇は首を傾げる。
「いや、俺も手伝うが」
「いやいい。私が、1人で、全部やる」
突然いつもの調子に戻った紗夜に、更に首を傾げる勇はとりあえずカゴを置くことにした。
紗夜が目にしたカゴから出る布というのは、言わずとも察しが付く通り、下着だ。決して派手ではないものの、羞恥心は兼ね備えている紗夜は自分の下着が見られたくないようで全部畳む、という提案をした。
「いや、俺もやる」
「いやいや、私が全部やるから」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
自分の方にカゴを引き寄せる紗夜と、それを阻止するために逆方向にカゴを引っ張る勇の気遣いのような、気遣いではない争いが勃発しだした。
「ほんと私がやるから!」
一瞬の隙きを見た紗夜はグイッとカゴを自分の更に後ろに引っ張り、小さな争いの勝者は紗夜となった。
思わずガッツポーズを決める紗夜を見た勇も本調子を取り戻し、いつもどおりの言葉を並べだした。
「なんだよ。俺からカゴが取れてそんな嬉しいかよ」
「うんもちろん!こんな筋肉野郎からカゴを奪い取れたことが誇らしいわ!」
「手加減してやったんだぞ?ちゃんと覚えとけ」
「勝ちは勝ちでーす」
「あーうざ」
不服そうな表情で後ろのソファーに座る勇をよそに、勝ち誇った笑みを浮かべる紗夜はカゴから1枚の服を取り出して畳み始める。
(最初から下着なんて畳んだら丸見えだもんね。途中で畳んでそっと私の服の間に挟めば大丈夫だよね)
手早く洗濯を畳みながらそんなことを考える紗夜。
一応失敗しないように近くで見ている勇だが、勇も勇で自分の下着を見られるのが恥ずかしいのかソワソワとしていた。
「やっぱり自分のやつは自分で畳む」
自分の下着が見えたところでソファーから立ち上がった勇はそそくさとカゴの前に座り、カゴの中に手を入れる。
「だ、だめだって!そう言って絶対私のやつ見ようとしてるじゃん!」
「してねーよ。お前だって俺の下着見ようとしてんじゃねーの?まぁ、こんなイケメンの下着を見たいのもわかるが」
なんとか勇の手を掴んで洗濯物に触らさないようにする紗夜と、どうにかして洗濯物を畳みたい勇の小さな争い第二回戦が開催された。
そんな2人の表情は至って平然を装っているが、内心はいつ、このむき出しになっている自分の下着が見つかるかと言うことにヒヤヒヤとしていた。
「ちがいますー。私はあなたみたいにエロくないからそんな事しませーん」
「どうせ口だけだろ?」
「本当ですー」
今はお互いがお互いの顔を見ていることによって見つかるのを長引かせていると思っている2人は長く持たないと勝手に勘違いし、勇と紗夜は空いている手で洗濯物の中を探り出す。
「あ!何勝手に手入れてんの!」
「そっちだって入れてるだろ!」
片手で自分の下着を探りながらも捕まえていた手を離した紗夜は勇のことを退けようと力強く体を押し出そうとする。勇もそれに負けじと、退けられないように体を紗夜の方に押し付けながら両手で下着を捜索し始める。
「両手使うなんてずるい!」
「知らねーよ!」
「なら私だって使う!!」
「勝手にしろ!!」
勇を押しのける手を退けた紗夜だったが、勇を退けることを諦めきれない気持ちがあったのか、次は体で押し出そうと勇の肩に力強く自分の肩を押し付け、勇と同じように自分の下着を捜索し始める。
なぜこんなにも自分の下着が掴めないのか、不思議に思うものも多いかもしれないから説明しておこう。小さな争いの勝者になりたい2人はカゴの中で下から洗濯物をすくい上げては相手を邪魔するかのように変な洗濯物を掴ませ合っていた。非常にしょうもないことだが、自分のプライドを守るためならしょうもない争いにも参戦するのがこの2人だ。
そして等々それらしきものを見つけだした2人は同時に洗濯物から手を抜き出し、慌てて自分の懐に入れてそのぶつを確認する。
この状況だけを見れば怪しいものを渡しあった怪しい奴らだが、ちゃんと説明すれば訝しげな顔はされるものの、納得はしてくれるだろう。
「「――っ!?」」
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